大阪大学「大学図書館と市立図書館の一体的運営による社会連携の取り組み」

 大阪大学は、2021年度から箕面市の整備する船場図書館船場生涯学習センターの指定管理者となりました。箕面市立船場図書館は大阪大学外国学図書館の機能を兼ね備え、箕面市と大阪大学の蔵書を所蔵しているため、市民は大学の蔵書も容易に利用できるようになりました。今回のインタビューでは、実際にその運営を担当する大阪大学附属図書館箕面図書館課外国学図書館班の皆さまに、大学図書館と市立図書館の一体的運営による社会連携の取り組みについて、お話を伺いました。

3人の写真

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大阪大学附属図書館箕面図書館課 前川敦子課長(左)
大阪大学附属図書館箕面図書館課 徳永智子課長補佐(中)
大阪大学附属図書館箕面図書館課外国学図書館班市民連携主担当 日髙正太郎専門職員(右)

 

箕面図書館課外国学図書館班について

徳永: 大阪大学には、総合図書館、生命科学図書館、理工学図書館、外国学図書館の4つの図書館があります。そのうち外国学図書館は、大阪大学と統合された大阪外国語大学を前身とする図書館で、箕面キャンパスの移転にともなって箕面市立船場図書館と一体化しました。その図書館を運営しているのが、箕面図書館課外国学図書館班になります。現在は、大学蔵書の受入・目録を担当する管理・学術情報整備担当、おもに大学サービスを担当する利用支援担当、おもに市民サービスを担当する市民連携担当の3つの担当がありまして、これに課長と課長補佐を加えて、16名の体制となっています。市民連携担当ができたのは、移転にともなって新しい図書館ができた2021年4月からになります。新しい図書館ができるまでの準備等については、大学図書館全体、特に外国学図書館の職員が担当しました。

日髙: 現在、私が市民連携担当の専門職員です。移転前の外国学図書館で新しい図書館の準備に携わり、移転と同時に市民サービスを担う専門職員になりました。

船場図書館外観_青空

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


箕面市立船場図書館外観

 

大学図書館と市立図書館を一体的に運営することとなった経緯について

前川: 大阪大学の旧箕面キャンパスは、前身となる大阪外国語大学のキャンパスでした。2007年10月に大阪外国語大学と大阪大学が統合したため、単独の大学であれば必要であった諸々の施設等が不要となり、維持管理コストという課題を抱えていました。そのような状況で、箕面市より、北大阪急行線延伸にともなう箕面船場駅前整備構想の核として、箕面船場駅の駅前に箕面キャンパスを移転する案が提示されました。キャンパス移転は、箕面市、大阪大学双方にメリットがあり、2015年6月に「大阪大学箕面キャンパス移転に係る覚書」が交わされました。大学図書館と市立図書館の一体的運営は、キャンパス移転という大きな合意の中に付随するものになります。

日高: 新しい図書館では、市立の部分、大学の部分、ともに自分たちで運営することになるので、市民にとって、大学構成員にとって、という複数の利用者の視点からの使いやすさを意識して、館内のエリア分けにも携わりました。
 

一体的運営の実際について

市立図書館の業務

徳永: 市立図書館の業務も自分たちで担当するとなったときに、一番の不安材料は児童サービスではないかと考えていました。ただ、幸いなことに、箕面市立船場図書館の前身となる図書館で勤務されていた方が気にかけてくださっていて、ボランティアとして業務に関わってくれることになりました。その方に手伝ってもらい、教えてもらいながら、児童サービスにも対応できるようになったと思っています。

日髙: そのボランティアの方が、移転前から新しい図書館にも関わりたいとおっしゃってくださっていたので、それが心の支えになりました。現に今も助けられていて、本当にありがたい存在だと思っています。
 

大学における評価

前川: 大阪大学では、新箕面キャンパスをOU (Osaka University) グローバルキャンパスと位置づけて、どのように構築していくかという観点から、関係部局が構成員となるOUグローバルキャンパス運営会議が設置されています。その中で図書館は、地域連携、社会貢献の活動を担う組織として重要視されています。本学の大学運営に貢献をしたと評価され、令和5年度の大阪大学賞にも選ばれました。

 

職員の意識

日髙: 市立図書館としての業務は、基本的には市民連携担当で対応するのですが、例えば図書の展示など、市立図書館のみの業務として切り離せないものについては、他の担当とも分担して対応しています。カウンター業務についても同様で、市民サービスと大学サービスで担当は分かれているものの、状況に応じて皆どちらの業務もこなすというのが実情ですので、外国学図書館班全体として、業務の幅が広がって、成長しているように思います。

徳永: 職員は市民サービス担当と大学サービス担当とでわかれているのですが、カウンターは一つで、利用者にとってはどちらも同じに見えますから、ある程度はどちらの担当の仕事でもするという運用になっています。ただ、市立図書館と大学図書館とで、使用する図書館システムは異なるので、どちらかの担当にしかわからないというようなところについては、お互いにフォローしあうようにしています。
また、土日祝日については、通常の図書館業務は業務委託しているのですが、現場の責任者として、事務部長を始めとする他キャンパス図書館の課長補佐以上の管理職と外国学図書館班の係長級以上の職員が交代制で勤務するようにしています。外国学図書館以外の管理職にも、実際の運用について知ってもらう、よい機会になっているように思います。
 

学生の変化

日髙: 学生の学習・研究活動という観点から言えば、それほど変化はないように思います。以前と変わらず静かに学習している印象です。ただ、市立図書館と一体化したことで、大学図書館には置いていないような本が手に取れるようになったことはメリットに感じているようで、市立図書館の貸出券をつくる学生が増えています。大学構成員に限った入館者数はわからないのですが、来館する学生数も増えているように思います。

 

市民向けのイベントの実施について

徳永: 大学の知見を活かしたイベントの実施については、箕面市に提出している事業計画にも含まれています。イベントは、図書館で企画するものもありますが、先生からご提案いただくこともありまして、例えば2021年には「ハンガリーのクリスマス」というイベントを実施しました。これは、コロナ禍で留学できなかった外国語学部ハンガリー語専攻の学生たちのモチベーション向上も目的としたもので、クリスマスのイベントということもあって、大勢の参加者に恵まれました。ただ、他のイベントでは、他の行事と被ったからか、参加者が少なかったため、来館していた人に声掛けをしたこともありました。それ以来、さらに多様な方法で集客するよう心がけています。この図書館は、外国語・外国文学に関する大学の資料を多く所蔵する図書館でもあるので、ここにくれば国際関係のイベントを実施しているということが根づいていけばよいなと思っています。

event
「あそぼう!ハンガリーのカーニバル」(2022年度)の一幕。本文で触れた2021年度のイベントに続き、翌年度も外国語学部ハンガリー語専攻の提案によるイベントを実施した。

 

一体的運営の担当者としての感想について

徳永: 大学と市、それぞれの本を活用できるようになったということが、一番よかったと思っています。特に、大学構成員が大阪府内の公共図書館のネットワークを介して無料で本を取り寄せられるようになったことで、ILLの幅が広がったように思います。

日髙: 大学図書館と市立図書館とでは、それぞれのスピード感のようなものがあり、求められる業務も異なります。だからこそ、大学図書館としての課題を追求しつつ、市立図書館のスピード感や新たな業務で鍛えられるというのは、言わば両得のようで、本当に得難い経験だと思っています。

 

今後の展望について

前川: 大阪大学箕面キャンパスの各組織や、箕面市国際交流協会(MAFGA)箕面船場まちづくり協議会といった地域団体との人的つながりを強くすることで、地域との連携を深めて、社会連携の幅をさらに広げていけるのではないかと思います。

徳永: 箕面キャンパスは、多文化多言語を前面に押し出しているキャンパスでもありますので、今後はMAFGAとも連携して、外国ルーツの方への支援や、そういった方と学生との交流の場を設けること、また日本語のわからないお子さんに向けた本の提供など、様々な支援を実施したいと考えています。

日髙: 大学図書館で培ってきたリテラシー教育のスキルを活かして、市民向けの図書館の活用に関する生涯学習講座を実施しています。今回、直前に実施した講座のアンケートで、図書館の活用方法がよく理解できた、大学図書館が市立図書館を運営することのよさが理解できた、というコメントをいただきまして、大変うれしく思いました。今後も、大学図書館が市立図書館を運営することのよさというものを、どんどん拡大していきたいと思っています。


(参考文献)

野原亜希,日髙正太郎. 箕面市立船場図書館の開館:指定管理者としての取り組みから. カレントアウェアネス-E. 2021. no421, E2427.
https://current.ndl.go.jp/e2427

坂田絵理子. 新しい外国学図書館のご紹介. 大阪大学図書館報. 2022, vol. 55, no.1,
https://www.library.osaka-u.ac.jp/pr/publish/kanpou_198/article_01

日髙正太郎. 子どもの本を展示する-船場図書館2年目の児童サービス-. 大阪大学図書館報. 2023, vol. 56, no.1,
https://www.library.osaka-u.ac.jp/pr/publish/kanpou_199/article_03/

徳永智子. 箕面市立船場図書館: 大阪大学外国学図書館との一体的運営による新しい図書館. 大学図書館研究. 2024, vol. 125,
https://doi.org/10.20722/jcul.2163

 

 

大学図書館と市立図書館の一体的運営による社会連携の取り組み担当窓口および連絡先:
大阪大学附属図書館 外国学図書館
tosyo-minoh-inq@ml.office.osaka-u.ac.jp
(@を半角にして送信してください)

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「ビジョン2025重点領域2企画」担当者チーム
九州大学附属図書館 大村 武史(取材・文責)

取材日:2023年12月15日(金)