北海道大学「システマティックレビュー作成支援事業」

 北海道大学附属図書館研究支援課医系グループ医学系図書担当(保健科学研究院)の根本萌さん、医系グループ医学系図書担当(医学部図書館)の姉帯梨々花さんに、図書館職員がシステマティックレビュー作成のための文献の検索を担う「システマティックレビュー作成支援事業」の取り組みについてお話を伺いました。

 

医系グループ医学系図書担当_写真

医系グループ医学系図書担当
(LtoR:姉帯梨々花さん、根本萌さん、佐々木美由紀さん、水野奈緒さん)

 

システマティックレビュー(以下、「SR」という。)について

 SRとは、あるトピックに関する既存の研究成果をもれなく収集・評価し、一定の結論を出す研究手法で、その成果は学術論文、診療ガイドライン、医療政策策定などの根拠に用いられています。当該事業においては、図書館職員がSR作成のための研究チームにエンベディッドして文献の検索を担うことで、質の高いSR作成と研究者の負担削減に貢献しています。また、当該事業は令和3(2021)年度 国立大学図書館協会賞を受賞しています。

 

Q: SR作成支援事業始動のきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

根本: 2013年に利用者アンケートを実施した際に、医学研究院の教員から文献検索のサポートに関する質問がありました。医学部図書館のスタッフらが詳しくお伺いしたところ、海外留学先で執筆のための文献検索を図書館職員に依頼した経験があり、帰国後も同様の支援を受けられるとありがたいとのことでした。当時そのようなサービスは当館になかったので、ご要望に対応するためのスキルを習得していくことになりました。

 

Q: SR作成支援事業が実際に始動するまでに、どのような道筋・動きで進めていったのでしょうか?

根本: PubMedや医中誌Web等の文献データベースを網羅的・系統的に検索するスキルやSRに関する知識を身につけるために、日本医学図書館協会(JMLA)の研修会や講習会で研鑽を積んだり、他大学の図書館員に教えを乞うなどしました。サービスを開始したのは2016年のことです。

 

現在(いま)

Q: SR作成支援事業において、図書館員の役割はどのようなものでしょうか?

根本: 当初は医学部図書館の取り組みの一つでしたが、2018年の組織改編で医系グループができてからは、3図書室から数名で小さいチームを組んでサービスに当たっています。なお、協会賞をいただいたのはSR作成支援事業ですが、医系グループのサービスそのものは「文献検索相談・代行サービス」という名称で展開しています。

姉帯: 本学にはメインの図書館である本館と北図書館のほかに20ほどの部局図書室があります。部局図書室はより細やかな研究・学習支援を行うことを期待されているため、医系グループとして専門的なサポートを活発に行っているという現在の状況は、求められている役割を果たすと同時に、学内における図書館のプレゼンス向上といった利点ももたらしていると思います。

 

Q: 支援事業の以前と以後で、利用者である教員や院生には変化がありましたか?

根本: 事業が定着する前は検索とは各自が自力でなんとかするものという認識が強かったように思いますが、現在は検索で迷ったときに図書室に質問に来てくれる方が増えました。先生から「図書館に聞いてみて」とアドバイスを受けて来たという学生も多く、図書館が頼りにしてよい存在と認識されていることを実感しています。

姉帯: 系統的な検索が行われることで、文献収集も活発に行われるようになります。SR作成支援事業利用後には、利用者である教員や学生は電子ジャーナルの利用やILL申込等、他の図書館サービスについてもこれまでより活用してくれるようになる印象です。文献の発見から入手に至るまでワンストップで図書館が対応可能であることを体感してもらうことができ、図書館サービスの利用促進という観点からもとても良いことだと思います。

 

Q: 支援事業の開始以前と以後で、図書館の職員には変化がありましたでしょうか?

根本: 現在の部署に異動するまでは医学分野の知識が全くなく、自信もありませんでしたが、日々研鑽を重ねサービスを提供できるようになるにつれ、それまで以上に業務に対する責任感と緊張感が芽生えました。日常的に研究支援に関われている充実感はとても大きく、教員や学生の期待にもっとお応えしたいという気持ちが常にあります。

姉帯: 私は医系グループに配属されてからは、特に「相手の時間を節約する」という点に気を配るようになったと感じています。
私が勤務する医学部図書館の利用者の中には、学生に加えて、臨床現場で働く傍らで研究も行っている方も多くいます。SR作成支援事業で関わっていると、みなさん非常に忙しい中で研究や論文執筆を進めているのだということを痛感させられるため、利用者の時間をなるべく奪わずに、ニーズに的確に応えたいという意識が一層強くなりました。

 

Q: 利用者・図書館・職員が関係する場としての存在意義はどのように考えていらっしゃいますでしょうか?

姉帯: SR作成支援事業のもつ「一つの研究に対する支援を研究チームと密に連携しながら長期間を通して行う」という性質上、このサービス自体を「場」として捉えるのであれば、研究者に対して図書館の役割や存在感を示すという面でも意義があると思っています。そのためサービスを行う側としては、一件の依頼に対して、可能な限り寄り添った対応をできるよう心がけています。

SR作成支援事業打合せの様子_写真

SR作成支援事業打合せの様子

Q: 単に専門分野の知識だけではなく、教員やサービスを受ける人たちとの信頼関係も重要に思われます。そこで、学内・学外問わず人事異動は避けて通れないと思いますが、これまではどのように事業のノウハウ等を継承されてきたのでしょうか。併せて専門知識の習得はどのようにされているのでしょうか。

根本: 総合大学のため人事異動があり、2・3年でほとんどは医系とは別の部署に異動します。実際この一年以内に5名中3名が入れ替わっています。そういった中でも今日まで継続できたのは、創設時のスタッフが、サービスを組織的に持続させるための環境を整えてくれたおかげです(詳細は「北海道大学附属図書館におけるシステマティックレビュー執筆支援」をご参照ください)。また、スキル習得にはOJTが重要なのですが、ほぼ途切れなくサービスへの申し込みを頂いているので、新任スタッフも一年目から研究者との打ち合わせに参加し、検索式作成の経験を積むことができています。

姉帯: 私は医系グループに所属して、今年で2年目です。配属前から医系グループの研究支援業務は専門性が非常に高いというイメージがあったので、当初はついていけるか不安でした。ただ、実際にメンバーに加わってみると、JMLA主催の研修を受講させていただけるなど、実際にサービスに取り組む前からも自己研鑽する機会を多くいただくことができました。加えて、依頼を受けて先輩とチームを組んで取り組む中で、研修で得た知識を応用しつつ試行錯誤を繰り返すことで、徐々に力がついてきていると感じています。

 

未来(これから)

Q: 支援事業は、今後、どのようなことをしていきたいと考えていますか?

姉帯: SR作成支援事業に加えてもう一つ重要な業務として、講習会の実施があります。従来は主に教員から依頼があり院生や学部生向けに行ってきましたが、今年は大学病院の薬剤部からも依頼をいただきました。入職二年目の薬剤師がこれから臨床研究を始めていく時期にあり、そのための論文検索法や文献管理方法を教えてほしいというリクエストでした。それが個人的にはすごくいい機会を頂いたなと思っています。学部や大学院に限らず病院や大学附属施設との連携も強化して、論文数の増加や研究の活性化につなげられるよう、より活発に研究支援を行っていければと思います。

根本: ご依頼の中には半年以上継続的に関わる案件もあり、検索式の作成だけではなく、検索結果のデータの整理や、投稿前の論文のメソッド部分の執筆などにも携わることがあります。 検索以外の工程で図書館員がさらに何かお手伝いできないか、医学の専門家ではないので携われる範囲に限界はあるのですが、論文執筆の効率化のために新たに貢献できることがないか、模索していきたいと考えています。

 

システマティックレビュー作成支援事業担当窓口および連絡先:
北海道大学附属図書館 研究支援課 医系グループ
literacy02@ml.hokudai.ac.jp
(@を半角にして送信してください)

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「ビジョン2025重点領域2企画」担当者チーム
電気通信大学学術情報課 上野 友稔(取材・文責)

取材日:2023年10月27日(金)