東京藝術大学「退館のお知らせは生演奏!」

 東京藝術大学附属図書館では、退館チャイムに代わって、器楽や声楽、合奏や独奏など、学生さんによる生演奏が流れる日があります。図書館という場と演奏を介して、学生さんと繰り広げられるコラボレーション。この藝大ならではの取り組み、「退館のお知らせは生演奏!」に関わっている東京藝術大学附属図書館資料サービス係長の西山朋代さんに、お話を伺いました。

演奏者と打ち合わせ中の西山朋代さん

演奏者と打ち合わせ中の西山朋代さん

 

【はじまりは、学生さんからのリクエスト】

Q:学生さんから「音がよく響く図書館内で演奏してみたい」という声があったとのことですが。

 カウンターアルバイトの学生さんと一緒に閉館作業をしていた際の一言が、企画を考えるきっかけです。とはいえ、館内には集中して勉強している学生さんもいますから、いつなら実現できるかを考えた結果、閉館間際の時間になったわけです。また、職員がサポートできる時間帯ということで、17時で閉館する夏と春の休業期間中に、演奏者を募集して行っています。始めたのが、ちょうどコロナ禍の最中で、発表の場を失っていた学生さんたちからは、「演奏ができることがとてもうれしい」という声がありました。それに、ハープのような大型楽器はなかなか人前で演奏できる機会がないそうです。私たちにとっても、演奏している学生さんが楽しそうなのは、やりがいです。

 

Q:企画にあたって、図書館員がしていることを教えてください。

 企画は、おもに2名で担当しています。演奏者の募集や演奏プログラムはtumblr、Facebook、Instagram、Xなどの図書館で運用しているSNSと館内の掲示で周知をします。先着順で受付をしていて、選考はしていませんが、応募者と日程が合わずに実現しなかったことはあります。日程調整をして、希望があれば開館前の時間帯に職員が立ち会ってリハーサルをしますが、当日は椅子と譜面台を貸すくらいで、演奏のセッティングなどは学生さんにお任せしています。演奏の様子は動画で撮影して、著作権に問題がなく、学生さんの同意を得られたものは、演奏前後をカットする程度の簡単な編集のみをして、Facebookで公開しています。ぜひアクセスしてみてください。

様々な「生演奏!」

様々な「生演奏!」

 

【「退館のお知らせは生演奏!」から生まれたもの】

Q:初回は、2021年12月ですね。続けてみての反応はどうですか。

 いろいろなところで取り上げられて、図書館が新しいことをやっていると注目されました。街歩き番組の取材が入ったこともあるんですよ。
 コロナ禍が明けて他所での演奏の機会が増えたこともあると思いますが、応募は少し減ってきているかもしれません。演奏したい学生さんには、もっとアピールできたらと考えています。今のところ、教員からの大きな反応はありませんが、参加者がSNSのフォロワーになってくれたり、演奏者の友だちが聴きに図書館に来てくれたりします。藝大の学生さんは意外とクールで、演奏をやっていても見に来てくれる人はちょっと少なめですが、演奏がうるさいといった苦情もありません。

 

Q:これからの展開はいかがでしょう。

 藝大には、作曲を学ぶ学生さんもいます。楽理を学んだり、楽譜を借りたりするので、図書館をよく使うのですが、そうした人たちを対象にした企画を考えています。実はいま、試行で「退館のお知らせはオリジナル作品!」として、アルバイト学生さんの作曲した作品を退館チャイム代わりに流しているんですが、いずれ公募する企画も温めています。退館チャイムにしては前衛的な曲ばかりになってしまうかもしれませんが・・・。
 当館では2017年度から学園祭にあわせて図書館独自のイベントを開催して、学生さんとのコラボもしてきましたが、これは教員主導のコラボレーションでした。「退館のお知らせは生演奏!」は、学生さんを巻き込んで行う、図書館員が主体となって立案したはじめての企画なんです。この企画は「生演奏」という点は藝大ならではですが、5分間という短い尺なので参加者が気負わないで準備できるのだと思います。他にも、準備や、利用者に影響のない時間帯で行うといった運営のノウハウなどは、意外と他の大学図書館にも参考になる部分があるのではないでしょうか。

「生演奏!」に集う

「生演奏!」に集う

 

【図書館の「人」と「場」を創る】

Q:「退館のお知らせは生演奏!」のような企画を実現するにあたって、難しいことはありませんか?

 企画を思いついたら、どんな内容であれ、とりあえず口に出してみます。反応が良かったら同僚と相談しながらブラッシュアップしていき、まとまったら上司に相談するようにしています。具体的には、係で企画書にして、上司から館長先生に上げる流れですね。そうすると、先生も一層、図書館に関心を持ってくださると感じます。
 「生演奏!」企画は、反対されることはありませんでした。入職した頃は、新しいことをしようとしても、上からはまずダメ出しが来て、やりたい気持ちが潰れてしまうことが多かったのですが 、今は「あぁ、おもしろそうだね」と言ってくれる人が増えました。仕事で新しいことに取り組むにあたっては、周りの理解や協力が欠かせません。ですから、人を育てるためにも、自分自身、否定ではなく、「おもしろそうだね」と肯定から入るようにしようと思っています。

 

Q:これからどんな企画を考えていますか?

 人のいない図書館の中心で何かを叫んでみるとか、大閲覧室で紙飛行機を飛ばしてみるとか(笑)。とにかく、図書館には楽しいリソースがたくさんありますよね。
 そして現在、図書館は、今までどおり大人しくルーティンの仕事をしていればよい時代ではなくなっています。存在感を出していかないといけません。
 図書館は大学の学部に属していない部局です。特に藝大では、音楽と美術の専攻は独立性が高く、それぞれのカラーがあります。だからこそ、図書館の立ち位置やどこにも属さないという特徴を活かして、もっと学内外に対して発信したり、いろんな人を呼びよせたりする中心としての「場」になれると考えているんです。

 

「退館のお知らせは生演奏!」に関する担当窓口および連絡先:
資料サービス係
applylib@ml.geidai.ac.jp
(@を半角にして送信してください)
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※本事例は、募集時に会員館所属職員による「他館の取り組みの推薦」があったものです。インタビューの質問は、他薦者と協働して準備しています。

「ビジョン2025重点領域2企画」担当者チーム
京都大学附属図書館 赤澤 久弥(取材・文責)

取材日:2023年12月13日(水)