大学図書館機能の強化・高度化の推進について(報告)(平成5.12.16)

大学図書館機能の強化・高度化の推進について(報告)

平成5年12月16日
学術審議会学術情報資料分科会学術情報部会

 大学図書館は、従来より一次情報の収集提供等により、情報サービスを行う機関として学術情報流通に重要な役割を果たしてきているが、今日、全国的な学術研究情報ネットワークやキャンパス情報ネットワーク(学内LAN)など、大学における情報基盤の整備が急速に進展する中で、大学図書館の広範な情報資源の有効利用のための機能の強化・高度化を図ることが特に必要となっている。さらに、大学の国際化や生涯学習の進展などの新たな状況への適切な対応も求められている。
 このような状況にかんがみ、本部会において、平成4年7月の学術審議会答申「21世紀を展望した学術研究の総合的推進方策について」の中で大学図書館等の機能強化について提言された事項や、さらに検討が必要とされた事項を中心に審議を行ってきたが、このたび、大学図書館機能の強化・高度化を推進していく上での課題や課題解決のための方策等について、審議の結果を別紙のとおりまとめたので報告する。


1.はじめに

 現在、大学図書館は、学術研究情報ネットワークやキャンパス情報ネットワーク(学内LAN)など、大学の情報基盤の整備が進展する中で、大学の学術研究・教育を支える重要な基盤として、その機能の一層の強化・高度化が強く求められているとともに、大学の国際化や生涯学習社会の進展などの新たな状況への適切な対応が求められている。
 本部会では、このような最近の大学図書館をめぐる状況の変化を踏まえ、平成4年7月の学術審議会答申の中で、学術研究情報流通体制の整備の一環として、大学図書館等の機能強化について提言された事項や、さらに検討が必要とされた事項を中心に、大学図書館機能の強化・高度化を推進していく上での課題や課題解決のための方策等について審議を行った。
 本報告では、これからの大学図書館の充実のために取り組むべき様々な課題を提示しているが、それらの中には、行政的な対応が必要であるもの、各大学がそれぞれ努力しまた相互に協力しながら取り組むべきもの、さらには、各大学図書館及び大学図書館関係者が対処していくべきものがあり、また、現状において重点的対応が必要と考えられる課題とともに、一方で比較的中・長期的な視点に立って対処すべき課題もある。これらについて、それぞれの立場において適切な対応が行われ、大学図書館の機能の強化・高度化と一層の活性化が促進されることを期待したい。
 特に、図書館資料の形態や利用方法の多様化に対応できる基盤整備と、高度なサービスを実現するための機能強化が当面の緊急課題であり、その重点的推進が必要と考えられる。
 なお、学術情報システムにおける大学図書館の果たすべき役割や情報処理センターなど他の情報関係機関との連携協力及び学術情報システムを利用した大学図書館間協力の一層の推進の在り方に関しては、今後の学術情報システム全体の整備を推進していく中で、著作権に関わる問題との関連等も考慮しつつ、引き続き具体的な検討が行われることが望ましい。


2.学術情報システムにおける大学図書館の役割

 大学図書館は、大学における学術研究・教育を支える重要な基盤であり、一次情報の収集・提供等による情報サービスを行う機関として重要な役割を果たしてきたが、現在、大学の学術研究基盤として、全国的・総合的な学術情報システムの整備が進められており、大学図書館は、こうした情報化等の急速な進展や新しいニーズの高まりに的確に対応しなければならない重要な転換期にある。
 また、各大学においては、大学審議会の答申等を踏まえて自己点検・評価を行いつつ、教育研究体制の充実改善に努めるなど大学改革への様々な取組が進められており、こうした大学改革の動向の中で、学術研究等の急速な進展や多様な学習ニーズに対応するため、大学図書館の一層の活性化が期待されている。
 したがって、今後大学図書館は、下記の3つの視点のもとに、学術情報システムの主要な構成機関として、広範な情報資源の有効利用を進めるための機能を強化・高度化していく必要がある。各大学においては、これらの視点から大学図書館の自己点検・評価を適切に実施し、その結果を活用することが期待される。
 さらに、これらを実現するためには、大学図書館における情報資源の確保と、その有効活用のための基盤的条件の一つである大学図書館員の育成・確保が重要である。

1)大学図書館と学内及び学外との連携協力
 最近の学内LANや全国的な学術情報ネットワークの整備の進展によって、大学における情報流通の量的増大と質的多様化が従来に増して進み、情報流通の形態も大きく変化していくと考えられる。
 大学図書館はこのような状況の中で、学術研究情報ネットワークに積極的に参加するとともに、学内の情報システムにおける情報流通の拠点として大きな役割を果たすことが期待されている。さらに、全国的な学術研究情報ネットワークを介した図書館間協力を促進し、各大学図書館が所有する情報資源の有効な活用システムを整備するとともに、大学以外の学術研究機関等の図書館との連携協力により、これらに属する研究者への支援にも配慮することが期待される。

2)ネットワークと電子化情報の活用
 電子化された情報は今後さらに増加すると考えられ、従来の印刷媒体以外の新しい媒体による資料を、大学図書館が体系的に収集・保存・提供することが必要となっている。目録所在情報データベースの形成や大学図書館間相互協力などの業務のオンライン化が進むとともに、学内LANや大学間ネットワークによる利用など、学術研究活動における電子化情報の持つ意味は大きくなってきており、その活用を推進する必要がある。

3)新しいニーズへの対応
 近年、留学生や外国人研究者、社会人学生が増加しており、教育研究活動の基盤としての大学図書館の機能の充実が求められている。また、生涯学習社会の進展の中で、地域の文化的な中心として、大学がその教育研究機能の活用を通して地域社会等へ貢献することが期待されており、大学図書館の社会への開放に対する要請が高まっている。このような新しいニーズに対応するため、大学図書館のサービス機能を強化・活用する必要がある。


3.学術研究情報ネットワークを活用した大学図書館機能の充実と大学間協力等の促進

(1)学内情報システムにおける大学図書館の役割
 大学において、図書館は一次情報の最も重要な蓄積場所であり、学内の需要に応じて情報資源の拡充に努めることが必要である。
 また、学内LANによって学内の情報資源の相互利用が格段に高速化し便利になる中で、大学図書館の持つ情報資源と大学内の他の情報資源との統合化を図る動きが見られ、特定の分野では画像情報の利用も増加してきている。
 大学図書館は、こうした学内の情報資源の効率的な利用のための拠点としての役割を担うことが期待されており、学内LANを積極的に活用して、大学図書館の機能の高度化やサービスの充実を図ることが必要である。
 なお、全学的な図書館活動が一体的に管理・運営される必要性については言うまでもないが、大学の状況によって機構上、本館(中央館)と分館や部局図書館等(以下、「分館等」という。)に分かれている場合も、学内LANを活用することにより、従来に増して総合的・有機的な管理・運営を行うことが可能となっている。
 このような現状にかんがみ、大学図書館活動の総合的管理及び連絡調整に当たる本館(中央館)の機能を一層高めることが望まれる。

(2)ILLシステムの利用拡大に伴う本館・分館等の役割
 学内LANの整備や大学図書館間相互貸借(ILL)システム(共同分担目録システムで作成された目録所在情報データベースを用いて、オンラインで図書館間相互貸借に必要なメッセージのやりとりを行うシステム。)の活用により、学内及び学外の利用者が本館(中央館)はもとより分館等と直接交信することが可能になっている。したがって、分館等も、その所蔵する図書館資料に対する利用要求にできるだけ迅速に応えられるように、原則的に相互貸借の窓口となることが望まれる。なお、規模等により体制の整わない分館等は、本館(中央館)を介して相互貸借システムに参加することがあり得る。

(3)図書館と情報処理センター等との協力
 現在、大学の情報処理センター等は、ハードウェアの整備とその利用のためのソフトウェアの提供が中心的な業務であり、データベースの構築・利用支援を行っているセンターは少数にとどまっている。大学図書館の資料は、従来の図書・雑誌に加え様々な形態のものが増えており、大学における情報資源の効果的な蓄積・利用の拡充のためには、図書館と情報処理センター等との協力が不可欠となってきている。特に、マルチメディア化の進展や資料保存の問題などへの対応のために、両者の緊密な協力が必要である。

(4)大学図書館間の連携協力
 大学図書館間の連携協力は、学術情報センターが実施している共同分担目録システム及びILLシステムの運用によって、一層有効に機能することが期待される。連携協力をさらに推進するためには、共同分担目録システムへのより多くの大学の参加と遡及入力の促進が不可欠であるとともに、総合目録データベースのより高度な品質管理が必要である。ILLシステムについては、参加(利用)機関の拡大とともに、大学図書館における相互貸借担当要員の確保及び資料の適切な学内配置と迅速な文献提供のための体制の整備充実が必要である。また、図書館間相互貸借に関する料金処理方法の簡便化も望まれる。

(5)大学以外の学術研究機関及び公共図書館との連携協力
 学術情報の流通促進のため、情報資源の共有・相互利用を一層進める観点から、従来学術情報システムの構成機関とは考えられていなかった大学以外の学術研究機関や、都道府県立等の公共図書館との連携協力が重要となっており、これらの機関の学術情報システムへの参加希望や利用に積極的に対応する必要がある。
 学術研究機関の図書館と大学図書館との連携のシステムとしては、従来から各専門分野別に大学図書館を中心とする図書館協力組織が活動しており、こうした組織や関係学協会を通じて連携協力を進めることも考えられる。
 公共図書館に関しては、その情報資源の整備の状況などを勘案し、当面、個々の要請に対応し、可能な範囲で連携を進めていくことが適当である。なお、今後、公共図書館の広域ネットワークが形成された場合には、学術情報ネットワークと相互接続を行うことが考えられる。

(6)国際的連携協力
 学術情報システムは、米国や英国との情報ネットワークの接続により、国際的な広がりを見せているが、現在のところ、協力内容はデータベースや電子メールによる情報提供が主であり、図書館資料(図書、雑誌、マイクロ資料、電子媒体資料、グレイ・リテラチャー等を含む。)そのものの我が国からの提供はあまり行われていない。
 我が国では、従来諸外国の関係機関を通じて図書館資料の複写サービスにより情報を入手してきたが、我が国の学術研究体制を広く世界に開かれたものとする観点から、今後は電子的な手段の活用も含め、外国からの情報提供の要望に応えうる体制を整備するとともに、学術情報ネットワークの一層の国際化を促進する必要がある。

(7)電子図書館的機能の整備充実
 情報処理技術の発達により、情報流通の形態も大きく変化してきており、今後ますます図書館資料の電子化が進むと考えられる。大学図書館としても、印刷媒体以外の電子媒体資料の収集・利用に積極的に取り組み、CD-ROMやオンラインデータベース等電子化情報の提供を拡大していくことが必要となっている。例えば、CD-ROMの利用に関しては、一部の大学では、学内の情報ネットワークを通じて分館等や研究室への検索・閲覧サービスを行うなど、既に実用の段階に入っている。
 従来の図書・雑誌の整備に加え、新たな情報資源として、こうした電子媒体資料の整備や関連機器の導入を積極的に進めることが必要である。このことは、今後の学術情報の国際交流の促進を図る上からも有意義である。
 伝統的な資料形態から光ファイルなどの電子媒体への変換システムの発達により、図書館資料の電子化が容易になるとともに、執筆から出版・購読までを電子的に処理する電子出版システムなども実用化の方向にある。現時点でのこれらの図書館での利用については様々な解決すべき問題もあり、当面、先進的な図書館における電子媒体の利用についての実践成果を踏まえながら、電子図書館的機能の整備充実を促進していくことが望まれる。


4.図書館資料の計画的収集、重点的収集

(1)図書館資料の収集の基本的考え方
 図書館資料の収集に当たっては、大学全体としての財政的支援体制の確立とともに、本館(中央館)が大学全体の収集計画策定の中心的機能と全学的調整機能を果たすことが必要である。また、大学内での図書館資料収集の不必要な重複や脱漏を極力なくし、学内の本館・分館等における計画的な収集体制を確立することにより、教育研究に直接必要な図書館資料と、学生用図書、基本参考図書、大型二次資料などの共同利用的図書・雑誌(マイクロ資料、電子媒体資料を含む。)を学内に適切に配置する必要がある。
 一方、出版量の増大、図書・雑誌等の価格の高騰、情報媒体の多様化など図書館資料の収集をめぐる状況の変化は著しく、個々の大学図書館が独自に十分なコレクションを形成することは不可能になっており、主題分野別、地域別等により、分担収集体制を整備する必要性が高まっている。
 なお、大学図書館の相互協力は、大学設置基準で規定され、また学術審議会答申等においても強調されており、図書館資料の収集面においても極めて重要になってきている。

(2)大学の特色に応じた重点的収集
 我が国の大学図書館では、図書館資料の収集やコレクションの形成について、当面の必要性が重視され長期的展望を持つことが困難であったため、欧米の大学図書館と比較して、体系的で特色あるコレクション形成の遅れが指摘されている。
 各大学図書館が、大学の沿革、学部学科等の構成、地域性などを反映した特色あるコレクションを形成するためには、コレクション形成方針を明確化し、それに基づいて収集することが必要である。同時に、実効性あるコレクションとするための組織的な選書体制を持つことが望まれる。
 各大学図書館のコレクションが特色を持つことにより、図書館間相互貸借における特定の大学図書館への負担の集中化も避けられるものと考えられる。

(3)大学間の連携協力による計画的、重点的収集
 外国雑誌については、9国立大学図書館に置かれている外国雑誌センターで、分野別に体系的・網羅的な収集が行われている。現在、外国雑誌センターは自然科学系の3分野(理工学、医学・生物学、農学)及び人文・社会科学系が指定されているが、全国的な利用の進展に対応できる体制整備をより一層進めるとともに、研究分野の状況等によっては、新たな分野の指定についても考慮する必要がある。
 なお、国内雑誌については、現在、こうした特別な収集は行われていないが、外国雑誌センターと同様に体系的収集を行い、広く全国の利用に供する館を形成していくことが望まれる。
 図書については、欧米諸国のような地域、分野などを考慮した分担収集は行われていないが、共同分担目録システムを活用した収集の実施が考えられる。そのためには、既存の文献資料センター、データ資料センター等を中心とした専門分野のネットワークの整備・活用とともに、例えば、いくつかの大学図書館が、特定主題の図書を分担して収集・保存する拠点図書館の役割を担うことも考えられる。
 なお、大型コレクション等の共同利用を前提として購入される図書館資料は、公開はもとより、文献提供機能を積極的に推進し得る大学図書館に重点的に配置することが効果的である。
 また、大学共同利用機関は、当該分野における学術研究推進の全国的な拠点であり、当該分野の研究者の希望や意見を取り入れながら、大学図書館で整えることが困難な図書や資料の収集を積極的に行い、広く利用に供することが望まれる。

(4)図書館間相互貸借の効果的実施
 各大学図書館が相互協力の理念の下に、図書館間相互貸借を迅速かつ的確に行うためには、図書館資料の目録所在情報の形成とともに、本館(中央館)と分館等との連携強化による学内の図書館資料の一層の流通促進が必要である。
 外国雑誌については、外国雑誌センター方式が定着し、9国立大学図書館で国立大学の全文献複写受付件数の約30%を処理している。今後は、これらの中で比較的利用の少ない図書館の利用を促進することなどにより、特定館へ集中している文献複写依頼を分散化するとともに、図書館間相互貸借に積極的に対応している大学図書館に対する支援の充実が望まれる。
 図書についても今後相互貸借が増加すると考えられ、共同分担目録システムの活用による図書の効果的収集と有効利用を図ることが必要である。また、図書の相互貸借は雑誌に比べて現物貸借への依存が強いので、分館等も相互貸借の直接の窓口となることなどにより、効率的なサービス体制を整える必要がある。


5.図書館資料の効果的な保存と利用

(1)図書館資料の保存と廃棄
 必要な図書館資料を一定の基準に従って確実に保存するとともに、適切な廃棄を行うことは、スペースの効率的利用や、資料の有効利用を図る上で極めて重要である。また、最近は印刷資料やマイクロ資料に加えてCD-ROMなどの電子媒体資料も増えつつあり、オンラインで各大学の印刷資料の目録情報が検索できるなど、大学図書館の相互の連絡や調整を図るための条件整備が進んでいる。
 こうした状況を踏まえ、各大学図書館の相互の連絡・調整の下に、全国的観点から貴重資料が不用意に廃棄されることのないようなシステムの確立を図るとともに、利用の便宜や資料形態等を総合的に判断して資料の適切な保存と廃棄を行う必要がある。
 図書館資料の保存と廃棄の基準は、学術的価値や利用頻度を中心として考えられるべきものであり、具体的な保存または廃棄の判断は、各大学が研究・教育における利用及び保存の実情等に即して、学内の合意を得て行うこととなる。また、各大学において、保存または廃棄の決定と実行を的確に行えるように、その手続きは合理的で簡便なものとする必要がある。さらに、これまで我が国の大学図書館では、資料の管理換えや廃棄等を積極的には行ってこなかったが、国公私立大学間での管理換えなどを容易にできるようにすることや、各大学で不用になった資料を国内外の大学・研究機関等に提供すること等により、資料の有効利用を図ることも必要である。

(2)大学内での保存と利用
 増え続ける図書館資料のための保存スペースの確保は、常に重要な課題である。古くなった資料は一般的に利用が減少するので、古い資料を確実に保存し収蔵効率を高めながら、よく利用される資料を使いやすく配架するために、例えば、電動式集密書架等の導入を促進するとともに、学内で保存機能を明確に位置づけ集中管理することが効率的である。また、貴重資料や古い資料のマイクロ化等も、資料の効率的な保存利用のための方法の一つとして重要である。
 特に、複数の図書館を持つ大学では、本館(中央館)、分館等での資料の配置と保存及び利用の役割を明確にした図書館システムの構築を図り、各館で研究・教育、保存等の機能を適正に位置づける必要がある。また、研究室等に分置されている資料の管理とサービスの在り方を見直し、外部からの利用にも対応できるようにすることが必要である。

(3)分担保存と共同保存図書館
 大学内での図書館資料の保存スペースの確保には自ずと限界があるため、各大学で行う保存のほかに、地域や分野別の大学群における分担保存を考えることが必要となるが、当面、地域や分野別に中核的役割を果たし得る大学図書館が、保存図書館機能を果たすことが望まれる。
 また、今後、分担収集が進んでいく場合、分担を受け持つ各大学図書館を共同保存のためのセンター館として位置付け、保存機能の強化を図ることが適当と考えられる。
 なお、将来的には、例えば、保存資料の検索・参考業務や各大学での資料収集の間隙を埋める収集機能など、共同で行うのが合理的と考えられる付加的サービス機能を備えた全国的規模の共同保存図書館の設置を視野に置く必要がある。


6.学習活動の場としての図書館機能の強化

(1)学習図書館機能の強化
 大学図書館の主要な機能の一つに学習図書館機能がある。図書館施設の利用者の多くは学生であり、学習の場として極めて重要な役割を果たしている。
 大学図書館では、学生がその関心や能力に応じて、学内外の学術情報(図書資料、マイクロ資料、電子化情報等)に容易にアクセスできなければならない。そのために、利用者教育及び情報へのアクセスに関わるオリエンテーションや指導を積極的に行うとともに、カリキュラムに対応した学習用図書や指定図書の充実、館内資料を用いた授業やゼミ等のための環境整備、情報化に対応した教材の作成支援、さらに、学生生活に関わる多様な情報の提供などに努めることが必要である。
 なお、学習図書館の機能については来館利用が主であるので、館内での様々な活動のために必要な学習・研究スペースの確保や、新しい電子媒体資料等を有効に活用するための施設・設備の整備など、大学図書館の施設・設備の一層の充実を図るとともに、機能性及び快適性の向上にも努める必要がある。また、開館時間の延長や土曜・休日開館等を各大学が積極的に推進できるように、設備の整備及び要員確保のための適切な措置が望まれる。

(2)留学生や社会人学生のためのサービスの充実
 近年、増加している留学生や社会人学生にとっても、図書館は重要な学習の基盤であり、その図書館利用は極めて活発である。
 さらに、留学生にとって、大学図書館は、日本の生活を送る上での重要な情報源の一つであり、留学生に対して、大学内の関係者の協力の下でのオリエンテーションの実施、日本語学習資料の収集・提供、母国の新聞・雑誌等の情報の提供、などを積極的に行うことが望まれる。
 また、社会人学生にとっては、特に(1)のように、落ち着いて学習に専念できるスペースの確保や夜間利用のための開館時間の延長、土曜・休日開館が重要である。

(3)大学図書館の地域社会・市民への公開
 社会における生涯学習ニーズが高まる中で、大学の地域社会への協力や、生涯学習における大学の教育研究機能の活用が求められている。大学図書館についても、公共図書館では提供し得ない高度な学術情報を地域社会や市民へ積極的に公開し、生涯学習活動を支援することが期待されている。各大学図書館が、大学及び地域の実情を勘案し、大学における教育研究機能に支障を来さないように配慮しつつ、こうした新たな課題に積極的に対応することが望まれる。
 このような観点から、地域の教育・研究・文化の中心としての大学図書館の機能を充実するため、既存の施設・設備の充実とともに、例えば、入退館システムの導入など、社会人の円滑な受入れとサービス機能の充実につながる施設・設備の整備も進める必要がある。
 大学図書館が地域における図書館ネットワークの形成に積極的に協力し、市民が直接利用する公共図書館や地方公共団体との相互協力関係の下に、こうした地域社会や市民へのサービスを提供することも考えられる。


7.大学図書館員の育成・確保

(1)大学図書館員に必要とされる知識、技能、資質
 情報化等の進展や新しいニーズの高まりに伴い、大学図書館員に必要とされる知識、技能、資質についても変化が生じてきていると考えられる。具体的には、専門分野に関する主題知識はもとより、情報処理技術や新しいメディアに関する知識、情報サービスや利用指導等における利用者とのコミュニケーションを効果的に進める技術と資質、著作権など大学図書館業務の関連法制についての最新の知識などが必要である。
 現在の司書資格は、図書館員としての基本的な知識、技能を修得する点で大学図書館員にとっても有用であるが、本来は公共図書館員の養成制度であり、大学図書館員に要請される資質や能力を修得する仕組みとしては不十分な面がある。大学図書館が必要とする有為な人材の育成・確保のためには、司書資格とは別に、大学図書館の専門的職員として必要な高度の知識・技能を修得するシステムの整備が望まれるが、大学図書館関係団体でそのための調査研究を行うことが期待される。

(2)大学図書館員の専門性の充実・強化
 高度で多様な情報サービス機能を提供する大学図書館の業務に必要な知識、技能、資質のすべてを、一人の図書館員に求めることはできない。したがって、基本的な知識、技能の上に、さらに各人の業務遂行のため必要となる特定の知識や技術、例えば、情報処理技術や特定専門分野の主題知識などに関する専門性の育成に努めていくことが望まれる。
 また、必要に応じて、司書以外の専門分野の人材の導入を図ることが望ましく、例えば、学内外の情報関係機関との人事交流や専門分野の学部・学科等との連携等を促進する必要がある。大学図書館が研究・開発機能を持つことは、情報技術の急速な進展や利用者のニーズの多様化等への対応からも重要であり、調査研究活動への積極的参加などを通し、大学図書館員の研究・開発能力の育成を図るとともに、研究者とのより緊密な連携を進めることが必要である。

(3)研修機会の充実
 研修機会の充実は、大学図書館員としての資質の向上のため極めて重要である。研修計画は、大学図書館員に求められる知識・技能に基づいて系統的に立てられるべきであり、研修参加機会の少ない地域等への配慮も必要である。このため、情報技術の応用による多様な学習機会の開発と研修担当者の教育の充実により、研修機会の増加と分散化を図ることが必要である。学術情報センターが実施している学術情報システムにおける各種の図書館サービスに関する実務研修及び図書館情報大学で実施している大学図書館に関するより広範で体系的な長期研修等は、それぞれ重要な役割を果たしており、その一層の拡充と、それに必要な体制整備が期待される。


8.大学図書館における自己点検・評価

(1)自己点検・評価の目的
 大学における様々な課題を解決し、社会的責任を果たしていくために、不断に教育研究活動等の現状を把握し、点検・評価し、それに基づいて大学の教育研究の改善、改革を行うことが必要である。大学図書館はその大学の進むべき方向と理念を見定め、従来の運営方針との調整を図りながら、新たな改革への具体的指針を得るための自己点検・評価を実施し、その結果を大学図書館の運営改善のために活用する必要がある。

(2)自己点検・評価の項目
 点検・評価の視点や方法は、個々の大学図書館の環境の相違もあり、各大学図書館が自主的に決定すべきものであるが、大学図書館としての基本的な機能・役割及び学術情報システムの構成機関としての機能・役割を考えると、自己点検・評価項目に一定の共通性も求められる。
 例えば、「国立大学図書館における自己点検・評価について」(国立大学図書館協議会自己評価基準検討委員会 平成5年3月)等を参考として具体的な項目を選び、点検・評価を行うことが考えられる。また、上記7までの各事項のうち、個々の大学図書館の活動や運営に係わる記述も参考となるものと考えられる。

(3)学術情報システムの視点からの自己点検・評価
 大学図書館は、学術情報システムの構成機関として重要な役割を果たしており、その発展に多大な影響を与えるものである。このため、学術情報システムの効果的活用という視点から、大学図書館と学内の他の情報関連機関との連携、学内LANを利用したサービスの実施、学外の図書館その他関連機関との協力等の課題に関して点検・評価を行うことも重要である。

(4)自己点検・評価の実施と結果の活用
 大学図書館の自己点検・評価は、各大学の管理運営の態様に応じて、各大学図書館独自あるいは大学全体の点検・評価の組織によって行われることとなろう。このとき、大学図書館の外部からの評価についても十分考慮する必要がある。
 実施された自己点検・評価の結果は、各大学図書館の運営計画の見直しに反映し、図書館活動全般の改善に役立てるとともに、大学全体の理解を得ることが必要である。なお、大学においては、自己点検・評価の結果を活かした改革を推進するために必要な財政的基盤の整備を行うことが望まれる。


第13期学術審議会学術情報資料分科会学術情報部会名簿
(任 期:平成4年2月16日~平成6年2月15日)
[委     員]    
(部会長)◎ 市川惇信 国立環境研究所長
  有馬朗人 理化学研究所理事長
  石井紫郎 東京大学教授(法学部)
  猪瀬博 学術情報センター所長
  長倉三郎 総合研究大学院大学長
  中根千枝 東京大学名誉教授
[専 門 委 員]    
  池本勲 東京都立大学教授(理学部)・前付属図書館長
井上如 学術情報センター教授
上田修一 慶應義塾大学教授(文学部)
  黒田晴雄 東京理科大学教授(総合研究所)
  清水忠雄 東京大学教授(理学部)・東京大学附属図書館長
冨江伸治 筑波大学教授(芸術学系)
  野口洋二 早稲田大学教授(文学部)・早稲田大学附属図書館長
原田勝 図書館情報大学教授(図書館情報学部)
松村多美子 図書館情報大学教授(図書館情報学部)
  ◎印は、大学図書館ワーキンググループ主査
  ○印は、大学図書館ワーキンググループ専門委員
〔大学図書館ワーキンググループ協力者〕
   淺野次郎 東京大学附属図書館事務部長

 


 

参考資料

  1. 大学図書館の概要
  2. 大学図書館の蔵書数の推移
  3. 大学経費全体に占める図書館経費の構成比の推移
  4. 大学図書館における電算化の推移
  5. 学術情報ネットワークの概要
  6. キャンパス情報ネットワークの整備状況
  7. 図書館間相互利用の現状
  8. 目録所在情報データベースの形成
  9. 大学図書館におけるCD-ROMの整備状況
  10. 外国雑誌センターの現状
  11. 時間外開館・休日開館の現状
  12. 大学図書館の公開状況
  13. 留学生受入れの現状
  14. 生涯学習ニーズへの対応状況
  15. 大学図書館員の現状
  16. 大学図書館関係研修一覧