第2章 資料保存施設

 資料保存施設のことは,既に「保存図書館報告書」16)において詳細に分析されたうえで対策として保存図書館設置の構想も示されており,改めて論述するに値する論点はほとんどないと言える。そのため,ここでは最近のデータで実情を補足することと,早急に対策を講ずる必要性が迫っているという認識の下に,当面の実効策を提言することに専念した。

2.1.緊急性

 全国の国立大学附属図書館では,図書館資料の収蔵スペースが極めて不足するという深刻な事態に陥っており,その根本的な解決は,各大学に共通した緊急課題といえる。

 文部省の「平成11年度実態調査報告」によれば,国立大学の蔵書冊数は8,698万冊であるのに対し,収容可能冊数は8,030万冊に過ぎず17),既に668万冊も超過している。加えて,国立大学全体で1年間に新たに受け入れられる約193万冊(平成6年度から10年度までの「実態調査報告」の図書受入数の平均)が毎年溢れている勘定になる。

 また,「保存図書館報告書」18)によれば,書架の収容状況では,「既に満杯状態」が49館(28.5%),「1〜2年程度で満杯」が39館(22.7%),「3〜5年程度で満杯」が57館(33.1%),「6年以上余裕がある」のは27館(15.7%)となっていることから,現時点では,その後に新増築が一部の大学にあったものの80%以上の図書館で満杯状態になっていると推測され,危機的状況は年々拡大し続けている。これは,研究室等への長期にわたる貸出等によって,かろうじて凌いできたのが実態である。(そのことは,大学蔵書の私物化にもなりかねず,現に一部では共同利用を阻害しかねない事態にもなっている。)しかし最近になって,教官の退官や研究室の狭隘化にともない研究室から図書館に還流してくる資料も増加してきており,大学内で蔵書排架スペースの不足を加速させる大きな要因となってきている。

 さて,現有面積と資格面積とを比較してみると,国立大学附属図書館のほとんどは,文部科学省の定めた大学図書館の基準面積を大幅に下回っている状態にあると言える。国立大学附属図書館全体の基準面積は,1,083,881u(本委員会試算)に対して,国立大学附属図書館の現有総面積は,「平成11年度実態調査報告」によれば871,463uであり19),調査時点の平成11年5月1日現在ですら必要整備面積は,実に212,418uに及んでおり,それは資格面積に対して80%程度の面積しか有していないことを意味している。

 文部省(当時)においても,学術審議会答申『科学技術創造立国を目指す我が国の学術研究の総合的推進について−「知的存在感のある国」を目指して−』(平成11年6月)20)の中でこの間の事情を承知しており,

「図書館資料の保存スペースの不足が深刻であり,迅速なドキュメントデリバリ ー機能を備えた保存図書館(集中文献管理センター)を設置し,利用頻度が極 端に少なくなった重複図書の廃棄について具体的な検討を行う必要がある。」
と全国的な対策を提言している。

 国立大学は,空きスペースを生むための手段の一つとして,上記のように不要となった資料や重複資料の廃棄にも注目してきたが,今だに実施困難な状況にある。これが資料保存に対する明確なシステムが存在していないことに依ることに原因の一端があることは,「保存図書館報告書」の第T章本編で詳細に分析されているとおりである。21)会計制度の見直しも含めて,資料の有効活用あるいはリサイクルと実用的な処分制度の整備との合理的な両立が望まれよう。

 実際にも平成11年5月に当委員会が実施したアンケート調査22)によれば,資料保存施設ができた場合70%の大学が直ちに若しくは近い将来に重複図書資料等を資料保存施設へ移管したいとしており,直ちに移管したいとしている資料は,総計130万冊にも上っている。

 このような事情から,共同保存図書館の整備についてはかねてより国立大学協会および当協議会から文部大臣(当時)等へ強く要望してきたところでもある。

 なお,資料保存施設が整備され機能することになれば,各大学はこの資料移管・廃棄によって生じた空きスペースを転用して,改めて学内蔵書の有効な再配置を実施することや,多様なメディア利用環境の整備,アメニティ環境の改善など新しい図書館機能の充実を進展させることの選択が可能にもなり,大学のニーズに応じた図書館サービスの開発や提供に道を開くという副次的な効果も期待されることを指摘しておきたい。

 また米国では,有力な大学図書館で構成されているAssociation of Research Libraries(加盟館122大学)の1999年の調査によれば,回答58大学のうち49大学が二次的保存施設(保存書庫,別館等)を使用しているか,建設中である。また,別のデータによれば80近くの加盟大学が,二次的保存施設を使用しているとされている。また,電子媒体への移行によって印刷物が減少することは,当面期待できないとも考えられている。23)

2.2.資料保存システムの考え方

 この全体像は,図6と図7に示すとおり,既に「保存図書館報告書」の第T章本編第3節「資料保存システムの考え方」で学術情報システムの中に位置付けた上で詳細に分析・構成されている24)ところであり,特に付け加えることはない。大学側のニーズと現下の財政事情等に鑑み,そこで述べられている資料保存システムの理想像に向かって着実に具体化していくことが必要であろう。

2.3.設置形態

 「保存図書館報告書」の第U章構想編では,ひとつのモデル案を提示するとしながらも,共同保存図書館を構想するものとして,次のような道筋が示されている。

「複数の大学による共同利用の形態としては,先ず,現在の外国雑誌センター と同様に特定の附属図書館を指定してそこに併置することが考えられる(Aタ イプ)。このタイプでは,特定の大学から施設スペースの提供と人的支援を受け て運用される。ここでは,各大学から保存図書館に提供される重複資料の調整・ 廃棄等が主な仕事となろう。また,保存図書館に指定された大学の所蔵資料も 共同利用して併せて活用でき,より有効な図書館サービスが期待できる。  次に,保存資料の増加に伴い,特定の大学に付設して,地域別あるいは主題 別に共同保存図書館をいくつか設置していくことが考えられる(Bタイプ)。こ の場合,既設の大学図書館から,施設・機能を組織的にも分離することによっ て,保存図書館が参加館による共同経営としてより機能的に運用できるととも に,このような保存図書館を複数設置することにより,万一の災害から資料を 保護する効果もある。この場合,資料の種別や配送の便等を考え,先ず地域別 による分担保存・収集が優先されよう。また,このような分担保存・収集資料 の主題等を専門主題別にすることによって,対象となる保存資料の明確化及び その収蔵効率を一層高める効果もでてこよう。  さて,最終段階としては,全国の大学図書館が相当多数参加して,大規模で しかも国家的レベルでの共同保存・共同収集の機能を持った独立機関が考えら れよう(Cタイプ)。共同利用機能を一元化することによって運営経費の節減が 図られ,また,参加館の分担金等は,資料の保存経費等に回すことによって, 官庁刊行物を含む多数の貴重な学術文献を収集するとともに未来へ確実に保存 することができ,また,劣化資料の修復・保存等の事業も全国的なレベルで一 層充実して行うことが期待できる。」25)
 これら3案のうち,どのタイプから資料保存施設を出発させるのが適当であろうか。学術情報システムの中枢機関である国立情報学研究所が,東京大学の学内共同教育研究施設であった情報図書館学研究センターを一度全国共同利用施設の文献情報センターへと転換した後,更に国立大学共同利用機関(当時)の学術情報センターとして当初発足させるという複雑な過程を経ざるをえなかったことを考慮すると,現段階で実効性のある案として,Aタイプの設置形態を採用し特定の大学図書館に附属する性格の全国共同利用の性格を持つ施設として設置発足することが適当ではないかと思われる。以下,この判断に立って検討を進めたい。なお,設置後の整備については,2.9.整備計画で言及することとする。

 なお,Aタイプの優れている点は,最も経済的にスタートできる点にあり,

「このタイプでは,特定の大学から施設スペースの提供と人的支援を受けて運用される。ここでは,各大学から保存図書館に提供される重複資料の調整・廃棄等が主な仕事となろう。また,保存図書館に指定された大学の所蔵資料も共同利用して併せて活用でき,より有効な図書館サービスが期待できる。」26)
ことにある。

 難点としては,資料保存施設を設置する大学図書館に多大な負担がかかること,全体の利益ではなく当該大学の利害や運営ルールが優先されるおそれが無いとは言えないことである。ただし,これは最先端の資料保存設備を導入することにより当該大学の図書館運営全体にも画期的な革新をあたえるであろうし,共同利用の性格を持つ当該資料保存施設の運営に全国の関係機関の意見を反映させていくことにより,解決できると考えられる。

2.4.立地条件

 「保存図書館報告書」の第U章構想編では,

 「共同保存図書館が果たすべき役割の中には,現物貸借及び文献複写サービス をはじめとする利用者に対する種々のサービス提供が含まれ,これらのサー ビスは迅速な対応が求められる。このため立地条件としては,
・交通の便がよいこと
・施設の拡張も必要となってくるため敷地にゆとりがあること
・人的資源が得やすいこと
・災害等の恐れが少なく,有効な防護手段が講じやすいところ
などが挙げられる。
 これらの条件を総合的に勘案すると,共同保存図書館を設置する場所は, 多くの都市機能が存在する都市に比較的近い地域での設置が望ましいと 考えられる。」27)
とされている。

 しかし,資料保存施設は,利用についてはドキュメント・デリバリー・サービスを主たるサービスとするのであるから,請求のあった資料を少なくとも「36時間以内」程度で依頼館へ届ける条件を備えていれば,「都市に比較的近い地域での設置」にそれほどこだわらなくてもよいであろう。ただし,収蔵資料の内容によっては,閲覧等のために来館を希望する利用者の便宜を考慮することが必要になる。

2.5.施設の規模と設備等

 全国の国立大学が年間に受け入れる図書は,約193万冊である。各大学の収蔵スペースを見る限り既にオーバーフローする状態であるため,この分だけ資料保存施設が重複資料等の移管を受けることにもなりかねない。ただし,蔵書重複度を考慮する必要がある。国立情報学研究所の総合目録データベースで試算してみると,図書の所蔵登録件数5,054万件に対し,図書書誌件数は490万件(平成13年1月6日現在)であり,単純計算すると1書誌当たり約10件の所蔵という重複度になる。資料保存施設の保存部数を仮に3部(永久保存用1部,文献複写用1部,現物貸借用1部)とすると,資料の10分の7が廃棄できることになる。これを基に資料保存施設の規模を単純に計算すると1,000万冊規模の資料保存施設が全国に1つ存在すればよいことになる。「保存図書館報告書」では,資料保存施設の規模は,500万冊とされていた28)。しかし,当初のスタート時点では,250万冊規模のキャパシティで設置することが適当かと思われる。その理由は,@逐次刊行物を主たる対象としてスタートさせること,A供出する大学側の準備や資料保存施設運営上のノウハウの修得に時間を要すると思われることから,大規模なスタートは避けたいこと,B当初の受け入れ態勢が最初から十分に整備されるとは思えないことなどが挙げられる。あらゆる条件が,小規模でスタートするという前提としたからである。

 なお,今後の各大学の蔵書量の増加ペースならびに収蔵スペース増設の困難さとの兼ね合いで推測すると,資料保存施設の必要規模は拡大することはあっても縮小することはないと考えるべきであろう。このため,段階的な拡張が求められることが十分に予想されることから,スペースと機能の拡張性が敷地や財政面を含めて確保されている必要があろう。

 資料保存施設の設置当初は書庫スペースが主体となり,まずはそれに加えて最小限の管理スペース及び閲覧スペースと資料提供サービス機能とで構成することが適当であろう。

 逐次刊行物(2.6.で述べるように,当初は逐次刊行物を主体とする。)を効率的・経済的に収納できるように当初の書庫は全面的に自動書庫とし,運営・業務システムと連動させて,書庫内検索や搬送の全面的な自動化・省力化を図る。この方式で我が国は最先端のシステムを持っており,すでに国際基督教大学に導入され,実績を上げている。

 保存資料にはICタグを装着するなど,最新の技術を導入して貸出及び自動書庫運営の一層高次の自動化・省力化を図り今後の蔵書管理方式のモデルとなることが望ましい。

2.6.集中保存する資料の種類と形態

 保存資料の範囲は,当面,図書及び雑誌等逐次刊行物のバックナンバーに限定するのが現実的と思われる。特に逐次刊行物のバックナンバーを優先させたい。それは,大学側での資料選定作業と空きスペースの算出や所在データ変更処理が比較的容易であることが挙げられる一方で,複写サービスが迅速に実施されれば,供出大学側研究者の満足が十分に得られることが,京都大学や名古屋大学での学内のバックナンバー・センターで例証されているからである。つまり,費用対効果がかなり高いと言える。更には,(外国雑誌センター館での検討を待つことになるが)外国雑誌センター館の雑誌等のうち発行後一定年数を経過したものについて資料保存施設へ移管する方法が考えられる。その場合に,外国雑誌センター館としての購入誌以外の学内経費での購入等による雑誌等についても利用の低いものを主体に同様に移すなど外国雑誌センター館所蔵外国雑誌等の取り扱いを優先できれば,重複調査対象資料の網羅性が高まることから各大学からのバックナンバーの移管等 に際してその作業能率が大幅に向上すると考えられるからである。

 他方,国内出版物(図書,雑誌等ともに)については,国立国会図書館が日本の納本図書館であることを念頭におくと,例えば国立国会図書館未収集資料については当委員会で検討している資料保存施設よりも優先的な移管候補先として国立国会図書館を位置付けることが考えられる。国立国会図書館関西館の保存機能整備時期とも関連すると思われるが,双方の準備が整った段階で国立国会図書館との協議を開始することを提案したい。

 なお,資料保存施設に供出する資料の選択は,基本的に供出する大学側で行うべきであるが,雑誌については,外部への供出の学内合意は上述の理由から困難とはならないと考えられるものの,その次の段階に予定される図書等については,供出する資料の選択を誰がどう担当して実施するのかという大きな課題が残されている。この点が,逐次刊行物を優先することの大きな理由の一つでもある。分担収集を論ずる際に言及したように,現在の図書館員には,研究動向の把握ならびに収集の選択眼を含めてノウハウが蓄積されていないと思われるが,それはここで扱う供出資料の選択に際しても,蔵書の吟味=評価能力という点では同様な問題となる(供出資料の選択は,「マイナスの選書」とも言える)。また,学内でそのような大学横断的な蔵書評価組織を有効に機能させている大学がどれほど存在していようか。逐次刊行物と異なり,図書の場合には全集・叢書類を除けば極言すれば図書1点1点の評価が必要となり,それは膨大な作業量となるためである。大学の教育 研究を効果的に展開していくためには,どういう資料を学内の手近な場所に置いて使用しやすくしておき,逆にどういう資料は遠くの場所にあっても日常の研究等での不便さが最小限で済ませられるかを判断できることが必要である。各大学の実情に応じた効果的な方式を学内で早急に用意しておくべきであることを指摘しておきたい。

 このように見てくると,初期の資料保存施設の性格は,全国で利用が低下しかつ重複する逐次刊行物を集約的に保存する10番目の外国雑誌センター館あるいは逐次刊行物センターとも位置付けられよう。

 とともに,かかる施設実現の時期が来れば,より正確な供出資料の全体像の把握が改めて求められる。運営方針が示されると,直ちに各大学は当初の供出作業に取りかかるつもりで,学内で準備しておく案件が多いこと,そしてそれらは従来等閑視されてきたことに留意すべきである。

 また,将来的には資料保存施設側のイニシアティブで計画的かつ体系的に範囲を指定して保存対象とする資料を収集・集約する方式も検討されるべきであろう。

2.7.運 営

 資料保存施設の運営については,資料保存施設と当協議会との間で協議する場を設け,保存対象資料,移管手続き,保存部数,利用方法等運用体制に関する規程類を整備することにより,運営の姿が大学側に明確に伝わることが望ましい。また,資料保存施設には,企画・連絡調整機能,研究開発機能を担い全国の資料保存のクリアリングハウスとしての役割も期待されていることから,関係機関も参加した運営委員会や研究機関と連携した研究開発のための委員会を比較的早期に設置して,長期的な視点からも協議を重ねておくことも必要であろう。

 資料保存施設の運営が,経済的に,効率的に,合理的に,効果的に行われるべきことは当然である。このため,文献複写,現物貸借,資料移管,資料の電子化,搬送などの業務では,外部委託方式を積極的に導入することが望ましいであろう。その運営には施設管理も含めて先進的な情報システムを導入して,高度なインテリジェント化を実現したいので,これには大学図書館のシステム開発・運用部門の全面的な支援と協力が欠かせない。

 資料自体は,管理換後は資料保存施設で一元的に管理することを原則とする。

 また,移管資料には書誌データの新規作成あるいは移管等にともなう所蔵データの更新など正確な所在変更内容を明示して蔵書内容の早期公開を可能として,所在検索効率の向上と資料保存施設の業務処理の省力化によって充実したサービス実現に協力することも必要になる。同様に,大学側でも対応した蔵書データの消去作業を実施して, NACSIS-CAT内の整合性を取る義務がある。

2.8.サービス

 資料保存施設には,各大学から移された収蔵資料が学術研究に有効に利用されるよう,必要となるサービスを実施する義務が生ずる。それでこそ,共同利用という本来の目的が達成されることになる。ここでは,最小限設置当初から必要となると思われるサービスについて述べるとともに,計画的に整備すべき優先順位を施設の整備計画に沿って検討したい。

(1)図書館へのサービス
 設置当初に重視されるべきサービスは,国内外の図書館を対象とした複写物の提供サービスである。これは,逐次刊行物(ほとんどが,雑誌であろう)が蔵書の主体になるからである。図書館からの申し込みから36時間以内には,依頼館に複写物が到着するスピードを実現することが望ましい。また,利用者のストレス緩和のためにもILLサービスの処理状況(例えば,いつ発送予定かとかの処理段階等)を,利用者自身がイン ターネットで検索して把握できるようにすることが望ましい。
 このためには,国立大学附属図書館の業務環境に対応して,国立情報学研究所のNACSIS-CAT,NASCIS-ILLを使用する環境を用意するのは当然の前提となる。
(2)個人ユーザへの直接サービス
 個人ユーザへの直接サービスも早期に実現できることが望ましいため,円滑で省力化につながる料金精算のためにデポジット制度の実現など,会計面の規制緩和を期待したい。

2.9.整備計画

 資料保存施設は,財政措置や発展段階に応じて整備充実を図っていくことが現実的であろう。例えば,下記の考え方により,(表1)のような大まかな年次計画も必要である。

第一段階は,資料保存施設の核となり最優先されるべきサービスである。
保存希望資料の受入と,ドキュメント・デリバリー・サービスを整備・実施していく。
第二段階では,複写物の電子送信を実現したい。料金精算方式の用意も重要である。
この段階での文献複写物送付の方法は,既に米国で広く普及していることもあり,著作権処理方式を確定してインターネットを利用したドキュメント・デリバリー・システムを援用できることを期待したい。
第三段階では,来館者や高次の附帯サービスの実現へと拡張する。
また,すべてにわたって国際的な事業展開も双方向に実現することを目標としたい。

2.10.概算要求されている保存図書館構想等

 東京大学および京都大学が,大学共同利用の性格を持った保存図書館の建設についてそれぞれ平成13年度概算要求を行った。残念ながらいずれも実現に至らなかったが,引き続き要求を続けるとのことであり,当特別委員会の検討課題の具体化に直接係わるため,両大学の概算要求の内容について検討した。

 東京大学の場合は,柏キャンパスに必要な図書館として「柏分館(仮称)」の概算要求を文部省(当時)に提出し,その附帯機能として全国共同利用の資料保存とドキュメント・デリバリー機能を有した保存図書館を提案しているものである。また,柏地区の分館新設構想とも連動しているために,人員,敷地などかなり具体的な内容となっている。柏キャンパスには既に全国を対象とした大規模な保存図書館の建設が可能な図書館建設用敷地が確保されているようであること,今後交通アクセスも改善される見込みであることから,全国への迅速かつ均質な資料サービスを提供するための立地条件をも備えていると言えよう。

 京都大学の計画も,同様に練られた内容となっている。京都市内の宇治地区に設置が予定されており,アクセスも良好である。

 いずれも「保存図書館報告書」を参考として構想されており,甲乙つけがたい。また,災害対策を考慮すると,予算さえ許せば全国複数箇所に保存図書館を運営することが望ましいことが言えよう。いずれにせよ将来的な保存と円滑な利用とに十分に安心できる措置さえ講ぜられれば,各大学も当面不要となる資料の保存図書館への提供や重複資料の廃棄・整理を更に促進でき,2.1で述べたように狭隘の解消及び空いたスペースを新たな学習環境の整備に充てるなど,資料の面でも空間の面でも再開発による有効利用が拡大すると思われる。2.9で述べた第一段階のスタートは急がれており,当協議会から文部科学省への要望書に盛り込むとともに,強力な推進方策を講ずべきである。

 なお,財政難と大学図書館側のスペース難とを考慮すると,当報告書に盛り込んだ内容も含めて,最小限のサービスの実施を実現できる施設設置からでも早期の運用開始を期待したいので,取りあえず財政事情等によってどちらかが優先されてもやむを得ないと思われる。

 また,保存図書館が運営されるのであれば,これら機関以外にも積極的に参画したい機関が存在すると思われる。運用する資料について,ナショナル・プランを調整あるいは協議する場が必要になるであろう。

(表1) 年次整備計画
区   分第一段階(5年間)第二段階(5年間)第三段階(5年間)
図書館へのサービス・保存希望資料の受入
・NACSIS-CATによる所蔵情報の提供
・OPAC検索
・ILLサービス(文献複写,現物貸借)
・ILLサービスでの複写物の電子送信
・所蔵資料に関する参考業務

外国図書館へのサービス(国際対応)・NACSIS-CATによる所蔵情報の提供
・OPAC検索
・国際ILLサービス(文献複写,現物貸借)
・ILLサービスでの複写物の電子送信
・所蔵資料に関する参考業務

個人へのサービス・NACSIS-CATによる所蔵情報の提供
・OPAC検索
・複写物の直接提供サービス
・館内閲覧,館外貸出
・所蔵資料に関する参考業務

インターネット利用者へのサービス・NACSI-CATによる所蔵情報の提供
・OPAC検索
・所蔵資料に関する参考業務
高度なサービス

・資料保管サービス
・資料補修サービス
・電子図書館サービス
・学術資源のリサイクルサービス
・資料保存クリアリングセンターとしての相談サービス


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