はじめに

 今日の大学環境における学術情報の流通体制の改善は,主として昭和55年1月の学術審議会答申「今後における学術情報システムの在り方について」に基づいて,包括的に整備が続けられてきたと言える。大学図書館については,学術情報センター(平成12年度に国立情報学研究所に改組)が学術情報システムの中枢機関として設置され,学術情報ネットワークの上に学術情報センターが開発したオンライン共同目録システム(NACSIS−CAT)やオンラインILLシステム(NACSIS−ILL)が運用されてきたことによって,本格的な大学間のリソース・シェアリング(資源共有)を実現することができた。

 このようにデジタル・ネットワークを介した情報交換は,学術情報センターの高度な情報システムと大学側が用意した学内システムとの結合によって急速に普及した。これによって,学外の蔵書に対するスムースな文献検索や資料あるいは複写物の取り寄せは日常的な図書館活動として定着して,研究者等から情報入手の有力な手段として歓迎されてきた。このようなシステムサイドの発達の一方で,コンテンツともいうべき情報あるいは資料そのものの体系的な整備については,既に昭和52年度から発足していた外国雑誌センター館制度の充実が図られたほかには,全国的には顕著な体系的な展開は見られなかった。国立大学では,この間に進行してきた国家財政の悪化から,図書館資料の購入費についても長期的に減額傾向が続いており,他方での資料単価の高騰傾向とも相俟って個々の大学単位での努力による資料整備は既に破綻しているとも言える。このような危機的状態に対応するためには,国内での一次情報の収集,保存,提供の全体システムの実現が緊急のものとなってきた。

 国立大学図書館協議会(以下,「協議会」という)は,平成4年度から5年度にかけて,「保存図書館に関する調査研究班」(主査館:筑波大学)を設置して,資料の保存施設の在り方について多角的に調査・研究を行い,報告書を平成6年3月に作成して,同年6月の協議会総会で承認している。そこでは,一部で分担収集について触れながら,個々の大学レベル,地域・館種等による大学群のレベル,全国レベルでの資料保存施設の在り方および保存資料の利用の在り方が調査研究された。そして,全国レベルでの共同保存図書館構想の試案を示した。また,調査研究の過程で得られたデータや海外の保存図書館の事例が豊富に収録されている。

 協議会は,平成10年度には「情報資源共用・保存特別委員会」(主査館:東京工業大学)を設置して,総合的に展開すべき一次資料の分担収集,一次情報の保存・提供センター機能ならびにこれらに関する国立国会図書館,JSTなど他機関との役割分担の3点について検討することとした。この報告書は,3年間にわたる検討結果をまとめたものである。

 報告では,分担収集と資料保存施設を実現するに際してのボトルネックを取り上げ,早期実現のための実際的な提案に焦点を当てた。これは,平成12年6月刊行の中間報告での議論も含め全体としての検討結果をまとめた最終報告である。

平成13年6月
国立大学図書館協議会
情報資源共用・保存特別委員会


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