第3部 技術専門職制度に関する調査報告(参考)
1 調査の目的
平成9年11月17日付で文部省訓令第33号「国立大学、国立短期大学及び国立高等専門学校の技術専門職員に関する訓令」(以下、「訓令33号」という。)が定められ、教育研究を専門的技術の側面から支える大学・高専等の技術職員の処遇改善が図られた。
本調査の目的は、訓令33号に至る経緯を検証し、あわせて現行の技術専門職員と図書館職員の処遇を比較検討し、図書館職員の処遇改善のための参考資料とすることにある。
2 現行技術専門職員制度成立に至る経緯
1)昭和52年11月:国大協「研究技術専門官制度問題小委員会」設置
- 当時の第1、第6常置委員会合同の小委員会として設置
- 設置の目的
「研究技術補助職員」の大学おける教育研究上、果たすべき役割の増大、近年の研究教育用、情報処理用等の機器の高度化・専門化に対応し、以下の問題を解決することにあった。
イ)処遇が不明確であること。
ロ)給与上いわゆる「頭打ち」が生じていること。
ハ)高度の技術者の確保(採用並びに転出の防止)が困難となりつつあること。
ニ)在職者の意欲の向上、活性化を図る必要のあること。
- 試案発表「研究技術専門官俸給表」の新設により、関係職員全員の処遇改善を提起。
- 試案への反響
イ)各大学への意向調査の結果:当時の国立大学87大学の79%が賛成
2)昭和53年11月から昭和57年11月:国大協要望書の作成
- 国大協総会:要望書成案を作成(昭和53年11月)
- 文部省:成案をうけてこの件を大臣要望事項の一項目に追加、以降毎年要望継続(昭和53年)
- 国大協総会:要望書の表現を「研究技術補助職員」から「研究教育関係職員」に修正、本問題は教職員の待遇改善を課題とする第4常置委員会が継続して担当することを決定(昭和57年11月)
3)昭和58年8月から昭和60年8月:二つ人事院勧告と文部省、国大協の対応
- 人事院勧告:「技術的な専門職種を中心とする一定の職種を対象とした俸給表」の新設を検討課題に別記(昭和58年8月)
- 文部省:別記を受けて、国大協と連携し、新しい俸給表適用について、本格的折衝を開始
- 人事院:折衝の過程で、新しい俸給表適用を高度の専門職に限るとの方針を打ち出し、以下の問題を指摘(昭和59年10月)
イ)教室系技術職員を専門職とそれ以外に分離すべきであること。
ロ)あるべき専門職の数を理論値として提示すべきであること。
ハ)その選考基準を制度的に確立すること。
- 人事院見解:文部省に対して「昭和60年勧告に盛り込む専門技術職俸給表の対象は、極めて高度の専門性をもち、職務が極めて均一であることを条件とするが、国立学校の状況をみると範囲が絞り込まれておらずひろがりすぎているので、若干の時間をかけて検討する必要がある。」との見解(昭和60年2月)
- 人事院勧告:「専門的な知識、技術等を必要とする特定分野の職員の処遇の適正化を図るため、これら職員を対象とする専門行政職俸給表」を明示したが、機関間の比較において職務の程度、内容に差違があり、機関間の同一と見られる官職に必要とされる学歴・資格等に共通性がない、配置されている職員の将来の昇進等について考え方に一律性がない等の理由により、適用を見送り(昭和60年8月)
4)昭和60年10月:文部省の中間試案
- 文部省は第4常置委員会に対して「技術職員待遇改善検討会の中間的検討状況について」(中間試案)を提示
イ)専門行政職移行官職とそれ以外の官職とに技官職を区分する。
ロ)移行しない者の処遇について、現行在職者は引き続き行政職、新規採用者は教務職員とする。
- 第4常置委員会は各大学長の意見集約を基に意見書作成
イ)専門行政職導入の厳しい条件から、区分の方向は止むを得ない。
ロ)「新規採用者は教務職員」には反対多数
5)昭和61年3月:文部省の第2次案
- 文部省は第4常置委員会に対して「技術職員待遇改善検討会における検討状況のまとめ」(第2次案)を提示
イ)教室系技術職員を各国立学校に共通するものとして大学(高専)技術官と実験実習官、いずれも仮称に区分する。
ロ)区分の基本的考え方は、学部又は学科とそれに対応して置かれる附属施設とにそれぞれ配置される官職の区分であり、職務内容は大学(高専)技術官は教員と協同して行う技術開発、加えて、開発された技術をもって行う情報の提供業務であり、実験実習官は教育及び研究にかかる実験及び実習の直接的な支援業務である。
ハ)大学(高専)技術官と実験実習官にそれぞれ、前者は主任官、官、及び官補に後者は指導官、主任官、官、及び官補に区分する官職(いずれも仮称)を設定する。
ニ)大学(高専)技術官は3,986名、実験実習官は2,376名である。
ホ)学歴資格等については、大学(高専)技術官は技術系U種区分の合格者をもって充て、実験実習官は技術系V種区分の合格者をもって充てる官職とする。
へ)大学(高専)技術官に区分される在職者については、必ずしも「U種」ではなく、「U種相当」の「認定」を所属する機関の長が行った上で移行することとなる。
ト)適用される俸給表は、大学(高専)技術官には専門行政職俸給表を適用要求し、実験実習官は行政職(一)俸給表である。
チ)級の格付けについては、大学(高専)技術官は専門行政職俸給表の6級(大学の事務局長と同格)を最高到達級とし、実験実習官は行政職(一)俸給表の7級(大学の課長と同格)を最高到達級とする。
6)昭和61年11月:第2次案に対する国大協の見解と試案
- 第4常置委員会は「第2次案で提示された技官の区分方式について各大学の合意形成をもとに国立大学協会としての意志を統一するこは、現時点においてきわめて至難ある。」との見解を今後の打開方策として複数の試案を含めて作成
- 第4常置委員会の見解は国大協総会の了承を受けて、文部省の技術職員待遇改善検討会へ
- 3つの試案
- A案:
第2次案の考え方に合致するような技官の官職整理には相当な期間が必要である旨述べているが、大学によっては比較的短期間で可能なところもあろうかと考えられる。組織化を含めてそのような専門行政職への移行条件の整った大学からおおむね第2次案にそった方式を逐次実施する考え方である。
- B案:
専門行政職に関する人事院の選定要件をほとんどの技官にあてはめるのは、大学の業務の特殊性から困難であるとの認識に立って、現行の専門行政職に適合する職のみを専門官群として組織化し、他の技術職員は技術部(室)等の技官による職階性の組織を新設して、この中で行政職として処遇する考え方である。
- C案:
将来的には、専門行政職制度を導入することを目標としつつ、それに向かっての中間的段階として、また、処遇面での改善をも目指し、現行の行政職俸給表体系の中で諸条件の整備を行いつつ官職及び組織の整理を実施する考え方である。(2段階方策)
7)昭和62年6月:国大協総会が報告「技術職員問題について」を了承
- 国大協総会は、第4常置委員会の61年11月見解のC案を打開策する「技術職員問題について」を了承し、路線選択
- 国大協は、打開策そのものと見解の中で示された諸施策、即ち、研修制度の確立、資格認定制度の導入、技術開発に関する予算的措置の実施を図るという方針について、各大学の学部レベル、全学レベルでの検討を要請
8)昭和62年11月:国大協総会が報告「再び技術職員問題について」を了承
- 第4常置委員会が、第1常置委員会との合同小委員会を中心にまとめた、「組織化のモデル」に関する検討状況を、「再び技術職員問題について」として、国大協総会に報告し、総会の了承を得る。
- 組織化の基本となる考え方
各大学の歴史、規模等の差違を強調せず、「基本的な部分は統一しておくが肝要」との考え方を示す。
- 組織の単位
イ)全学を単位とするもの
ロ)大学の地区を単位とするもの
ハ)各部局を単位とするもの
- 組織化の方法
イ)業務内容により組織化する方法・・分析測定集団、情報処理集団等の専門職種にて組織化
ロ)教育研究体制により組織化する方法・・学部、学科、複数の学科を系統で組織化
当面「ロ)」を導入し、職員の職務(職種)を特定することを進め、将来の専門行政職適用体系組織として、「イ)」を構想していく行程も考えられる。
- 組織における官職の設置と配置基準(組織の単位を全学を単位とするものをモデル)
技術主任・・・・・・技術職員3人以上に1人
技術班長・・・・・・技術職員7人以上に1人
技術長・・・・・・・技術職員15人以上に1人
技術専門職・・・・・技術主任相当の官職
先任技術専門職・・・技術班長又は技術長相当の官職
- 専門行政職との関係
専門行政職はその職務資格の標準を大卒U種としていることから、上記による官職及び組織の整理をした後、大卒U種およびそれに準ずる職員で構成される組織と認定されたものについては専門行政職へ移行されることになろう。ここで留意すべきは、組織化なり整理された実態によって移行の判断がなされるということである。
9)昭和62年11月:国大協が「教室系技術職員の組織化について」照会
- 国大協は「再び技術職員問題について」の「組織化の基本となる考え方」ほか4項目に関して、特に「組織化の方法」について、当面の組織として教育研究体制による組織化を導入し、職員の職務(職種)を特定することを進め、将来の専門行政職適用体系組織として、業務内容による組織化を構想することについて、各大学に意見の照会。
10)昭和63年6月:国大協が第4常置委員会の報告「「教室系技術職員の組織化について(照会)」に対する各大学の回答のまとめと提言」を了承
- まとめ
イ)技術職員の組織化については、大方の了承が得られたと考える。大学の規模別のモデルの提示を求める意見が多いので、それに対応して幾つかのモデルをしめした。
ロ)指摘の多かった研修及び資格認定の問題については、専門行政職俸給表を目指した制度措置を要するものと、各大学で自主的にできるものに分けて、今後の進め方についての考えをしめした。
ハ)国大協として、各大学に対し、組織化並びに技術研修についての検討はもちろん、学内措置及び概算要求などの具体的作業にはいることを要請して頂きたいと考える。
ニ)全国立大学等に共通に適用できる研修及び資格認定制度とそのための研修については、国大協として、第1、第4両常置委員会が文部省と国立大学共同利用機関の協力を得て成案を得ることを希望する。
ホ)各大学においても教官のより一層の理解・協力を求めつつ、自主的検討と具体的作業が推進されることを願う。
11) 平成元年6月:第4常置委員会「教室系技術職員の組織化と研修の現況に関するアンケート」実施
- アンケートの目的
組織化と研修の現況及び問題点を把握し、各大学での検討や具体的作業の参考とすること。
12)平成2年度:4大学で組織化
13)平成3年度:合計10大学で組織化
14)平成4年6月:第4常置委員会「教室系技術職員の組織化と研修の現況に関するアンケート」実施
- アンケート結果
98大学中21大学で組織化 25%
5583名中2948名を組織化 52.8%
研修については、全学研修・部局研修急増
15)平成6年6月:第4常置委員会「「教室系技術職員の組織化と研修の進行状況について照会)」に対する回答を踏まえての提言」を作成
- 提言の基本点
イ)組織としての機能をなお高めること。
ロ)職務の整理とその明確化を促進すること。
16)平成5年度:合計34大学で組織化
17)平成7年度:合計46大学で組織化
18)平成7年:科学技術基本法において、技術職員等支援職員の処遇の確保の必要性明確化
19)平成9年11月:文部省訓令第33号
- 国立大学、国立短期大学及び国立高等専門学校の技術専門官及び技術専門職員に関する訓令を定める。(別紙1参照)
20)平成9年12月:文人給178号
- 「国立大学、国立短期大学及び国立高等専門学校に置かれる技術専門官及び技術専門職員の定数等について(通知)」を送付(別紙2参照)
21)平成10年4月:技術専門官及び技術専門職員配置開始
3 経緯の検証から判明した実態
- 当時の教室系技術職員は、図書館職員とは較べようもないほど劣悪な処遇条件であったこと、各大学関係者の多数が問題視していたこと、等の特徴を持っていた。
- 現在も「専門行政職俸給表」の適用を受けているわけではなく、「行政職(T)俸給表」の枠内で、6級以上は技術専門官、4級以上は技術専門職として配置されているものである。
- 将来、技術専門職員は「専門行政職俸給表」の適用をめざしている点で、図書館職員よりは処遇改善に関する明確な方向性を持っている。
- 現行の技術専門職員制度は「機関間の比較において職務の程度、内容に差違があり、機関間の同一と見られる官職に必要とされる学歴・資格等に共通性がない、配置されている職員の将来の昇進等について考え方に一律性がない」等の理由により、昭和60年8月の人事院勧告「専門行政職俸給表」適用見送りの実態は継続しており、その点では図書館職員のほうが同一性、一律性を示しやすい。
- 技術専門職員制度は、各大学で選考基準等を定めて運用されている。
4 現行技術専門職と図書館職員の処遇の比較
- 比較の概要
- 「1999年度国立学校特別会計級別定数一覧」の数値を基礎に、級別の職員数とその率を示し、訓令33号により定められた技術専門職、図書館職員、事務職員の処遇の比較を行う。
- 「平成11年度級別定数配付時の対象職員区分表」による技術専門職と図書館職員の昇格基準を比較する。
- 「1999年度国立学校特別会計級別定数一覧」による比較
|
技術専門職 |
技術職員 |
技術系合計 |
図書館職員 |
事務系職員 |
8級 |
|
|
|
|
4 |
8級/G |
|
|
|
|
0.2% |
7級 |
128 |
|
128 |
|
705 |
7級/G |
2.9% |
|
1.4% |
|
2.9% |
6級 |
458 |
153 |
611 |
273 |
2618 |
6級/G |
10.4% |
3.3% |
6.7% |
14.0% |
10.9% |
小計(S) |
586 |
153 |
739 |
273 |
3327 |
S/G |
13.2% |
3.2% |
8.1% |
13.9% |
13.9% |
5級 |
1541 |
445 |
739 |
273 |
3327 |
5級/G |
34.9% |
9.6% |
21.9% |
28.5% |
16.1% |
4級 |
2290 |
451 |
2741 |
493 |
8153 |
4級/G |
51.8% |
9.7% |
30.2% |
25.3% |
34.1% |
3級 |
|
2083 |
2083 |
337 |
6036 |
3級/G |
|
44.8% |
23.0% |
17.3% |
25.2% |
2級 |
|
892 |
892 |
219 |
2291 |
2級/G |
|
19.2% |
9.8% |
11.2% |
9.6% |
1級 |
|
625 |
625 |
73 |
238 |
1級/G |
|
13.4% |
6.9% |
3.7% |
1.0% |
合計(G) |
4417 |
4649 |
9066 |
1952 |
23894 |
- 技術専門職欄が訓令33号で定められた技術専門職を示す。
- 図書館職員欄は、図書館専門員、図書系係長及び図書系職員の総数である。
- 事務系職員は、補佐、係長、主任、専門職、一般職員の合計を示す。
- S/Gは全体の中で8〜6級の格付けのパーセンテージを示す。
- 図書館の事務部長、課長、事務長、補佐、総務系の係長・係員は、図書館職員欄には含まれていない。
- 平成11年度級別定数配付時の「対象職員区分表」よる比較
|
技術系職員 |
図書館職員 |
最高級数 |
技術専門官:8級 |
6級 ただし7級図書館専門員は協議 |
6級昇格基準 |
5級11号俸以上 |
45才以上で5級11号俸以上(4万冊以上)
50才以上で5級14号俸以上(3万冊以上) |
5級昇格基準 |
係長級:4級13号俸以上
事務局等職員:4級20号俸以上 |
4級14号俸以上 |
4級昇格基準 |
係長級:3級10号俸以上
事務局等職員:3級10号俸以上 |
3級10号俸以上 |
注)各級への実際の昇格にあたっては在級年数が加味される。
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