大学図書館におけるWWWの利用意義は今日ますます大きなものとなってきている。それは、まず情報を提供する側の図書館からみれば、比較的簡単な手段で学内および学外の利用者に対して、必要とあれば各々区別して、情報を提供できること、コンテンツを随時更新することで常に最新の情報を24時間提供できること等が挙げられる。又、今日大学図書館がWWWによって提供できる有用な情報は、OPACによる所蔵目録情報のみにとどまらない。開館日時、入館手続き等を含めた利用案内はもちろん、概要上の統計データ、館報掲載のニュース等から数々のデータベースへのリンク情報およびデータベースそのものに至るまで、まさに大学図書館に求められるあらゆる情報が用意され、蓄積され、利用されうる。又、WWWでは一方的に情報を発信するだけでなく、Webページ内にフォーム等を設けることにより、ページ上でのOPACやデータベース等の検索と結果表示を行うことができるが、その他に、利用者からの文献複写、参考調査、希望図書購入等の諸々の申込みの受付にも、WWWインタフェースによって対応することが可能であり、利用者からの要求や働きかけにも対応する装置として機能する。すなわち、利用者側からみても、単に最新情報を何時でも取得できること以外の大きなメリットがある。
しかし、このように便利なWWWも現状では作成されるページも、閲覧用ソフトであるブラウザもGUIを前提にしたものがほとんどであり、障害者、とりわけ視覚障害者にとっては、その利用が著しく困難なものになっている。そもそもWWWのページ記述言語であるHTMLは、文章の構造と内容を定義、識別し、利用するための国際標準システムであるSGML(ISO8879)(1986年)のWWW専用のアプリケーションである。SGMLは文書記述標準として、何千という多様な文書型(document type)を記述するための規定をもっており、HTMLは、WWWで使用される特定のタグ形式をもったSGMLの文書型、すなわち見出しや段落、項目の列挙、イラスト等を含んだ一般的な報告書や、マルチメディアやハイパーテキストを提供するとき等に使用できる一つの文書型である。従って元来の目的からいえば、HTMLで記述されたWebページは、文書の構造をタグで明記できるように設計されているため、視覚的にはもちろんのこと、目の不自由な利用者には音声化によって、文書の論理的構造が明快で分かりやすく表現されているはずであった。しかし現実に目を向けると、文書の見出しや章立て等の重要な構造的情報が全く欠落しているか、あるいは、論理的関連や必然性を認めることが難しいような構造とレイアウトをもったページが世界中のWebサイトに氾濫している。又、一般の利用者にとってもデータ量の大きな絵や写真等の画像データ中心のページを閲覧するには特定のブラウザやハードウェアがないと不可能な場合があったり、高速にデータ通信を行なえるネットワーク環境にないと快適にアクセスできないようなページもあるが、もとより視覚的効果のみを狙った、画像を多用した多くのページは、視覚障害者のアクセスを根本的に想定していない性質のものである。障害者によるWWWを利用しての情報アクセスは困難を伴うものがあると言える。
障害者のWWWへのアクセシビリティ向上への要請は、情報処理機器や電子通信機器へのアクセスを容易にするように定められた法律や指針の中にも読み取ることができる。この分野での米国における近年の動きは次のとおりである。
日本では1990年に通産省の「障害者等情報処理機器アクセシビリティ指針」(1995年見直し)が公表されているが、情報通信へのアクセシビリティに関する全般的なガイドラインについては未整備の状態であることが、郵政省の「高齢者・障害者の情報通信の利活用の推進に関する調査研究会」の報告書の中で指摘されている。(1997年5月)
障害者のWWW利用を支援する技術の研究開発は、最近は世界的に非常に盛んに行われるようになってきている。特に1997年は以下に記すように、世界中の研究者、研究団体からのWWWの標準化組織への障害者のWWW利用に関する活発な研究発表や意見交換による働きかけと、それに呼応するかのようにWWW本拠からの革新的かつ重要な、幾つかのWWWのアクセシビリティに関する仕様の提案が行われ、技術開発の面では非常に充実した内容の1年であった。
最新技術の展示や発表が集中して行われるインターネット関連の国際会議の中では今や最も大きなものの一つとなった国際WWW会議は、第1回が1994年にWWW発祥の地スイスのCERNで開かれ、その後米国と欧州とで交互に開催されて、第6回は米国カリフォルニア州のサンタクララでスタンフォード大学等の幹事により1997年4月7日〜11日に開かれた。第6回会議のテーマは「アクセシビリティ」であり、WWW上の情報やサービスにアクセスすることが困難な障害者のニーズに応えようとするような多くの展示や論文提出があった。
WWWが発明されたスイスのCERN (ヨーロッパ素粒子物理学研究所)は、1989年以来WWWに関する研究開発や仕様書の作成なども行ってきたが、元来は原子力研究の機関であり、WWWが世界的に広く利用されるようになるにつれ、本来の業務以外にWWW関係の仕事を行っていくには態勢的に次第に不可能になってきた。又、折りからWWW全般に関する、利害関係において中立的な国際的専門組織の必要性も叫ばれていたこともあり、1994年にMITと共同でW3Cを開設した。その後、CERNはW3Cから撤退し、任務をINRIA (フランス国立情報処理自動化研究所)に譲っている。現在は、MIT、INRIA、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの三者がW3Cの運営にあたり、WWW技術を推進する非営利組織として、各種仕様の取りまとめ等を行っている。
W3Cが運営する、障害者対応のWWW整備プロジェクトであるWAIは、1997年4月に発足し、第6回国際WWW会議で最初の会合を開いた。WWWの技術開発やガイドライン作成、等のワーキンググループを組織して、W3Cに障害者のWWWアクセシビリティに関する諸々の標準化作業についての働き掛けを行ったり、開発者側に障害者用の新しいアクセス機能を定着させるように促していく等の方針を決めている。米国政府はWAIへの全面的強力を表明しており、障害者雇用促進月間である1997年10月には、NSF (米国科学財団)が今後3年間で約 100万ドルの資金をWAIに援助することを決定した。次項以降に述べるW3CによるWWWのインターフェースに関わる仕様書の策定についても、1997年のWAIによる活動が各々に深く関わっている。
A.WAI Accessibility Guidelines: Page AuthoringWAIが作成中のアクセシビリティ向上のためのガイドラインには、その対象者によって分けるとページ作成者用、ブラウザ開発者用、およびオーサリングツール開発者用の3つがある。これらの中、ページ作成者用のガイドラインについては、1998年2月に詳細な草案が公表された。基本的には、モニターに送られるキャラクターを音声で読み上げるスクリーンリーダー、HTMLを解釈して読み上げる音声ブラウザ、およびテキストベースのブラウザ等の利用者を想定したアクセシビリティ向上のためのオーサリング方法を定めている。このガイドラインの原型となったものはTrace R&D CenterのVanderheiden等による"Design of HTML pages to increase their accessibility to users with disabilities"であるが、発表された草案は2か月前に提出されたW3CによるHTML4.0勧告を踏まえて、HTML4.0の新しい特徴を所々応用したものとなっている。例えば文書の構造とレイアウトを明確に分離できるスタイルシートにHTMLが対応したこと等である。全体の枠組としては、HTML文書の構造化、キーボード操作によるナビゲーション、代替的形式でのコンテンツの提供、の3つがあり、これらの枠組を前提にしてスタイルシート、画像、等の10項目を挙げ、各項目内でさらにアクセシビリティ向上のために重要な複数の機能を、重要度によって「必須」、「推奨」の2段階に分けて記述している。
WWWの文書記述言語であるHTMLの最新版であるHTML4.0は、1997年7月に暫定仕様が公開され、同年11月に勧告提案として最終的な校閲を受けた後、翌12月に正式なW3Cの勧告となった。これまでの版に比べて、全面的にアクセシビリティが考慮された内容になっており、障害者のWWW利用時の障碍解決に向けて大きな前進を果たしている。現在のスクリーンリーダー、音声ブラウザ、それにテキストベースのブラウザの利用者が閲覧に障害となるような問題を抱えているページには、構造化されていないページ、逆に構造化のためのHTML要素をレイアウトや視覚的効果のために利用しているページ、画像情報(イラスト、写真、クリッカブルマップ、テーブル、フレーム、動画、等)を代替的テキストなしに多用したページ等がある。こうした障害者にとってアクセスの困難なページの作成を、ページ作成者側が自身の創造性を犠牲にすることなくなおかつページの管理も容易に出来るようにした上で回避することができるようにした。HTML4.0でのアクセシビリティ改善に関する具体的なポイントは次のようなものである。
<ABBR title="World Wide Web">WWW</ABBR> <ABBR lang="fr" title="Société Nationale des Chemins de Fer"> SNCF </ABBR> <ABBR lang="es" title="Doña">Doña</ABBR> <ABBR title="Abbreviation">abbr.</ABBR> Q要素は文章内での引用句を示し、従来からあるBLOCKQUOTE要素を補完する。 Q要素の入れ子の例は、以下のようになる。 John said, <Q lang="en">I saw Lucy at lunch, she says <Q lang="en">Mary wants you to get some ice cream on your way home.</Q> I think I will get some at Ben and Jerry's, on Gloucester Road.</Q> 二つの引用の言語は英語なので、内の引用符はシングル引用符、外の引用符はダブル引用符で表示する。 John said, "I saw Lucy at lunch, she told me 'Mary wants you to get some ice cream on your way home.' I think I will get some at Ben and Jerry's, on Gloucester Road." また、構造化されたフォームを作るための要素として、FIELDSETやLEGEND要素はフォームコントロ ールをグループ化し、フォーム入力時のアクセシビリティを向上させるために役立つ。 <FORM METHOD=POST ACTION="cgi-bin/xxx.cgi"> <FIELDSET> <LEGEND>個人情報</LEGEND> 名前:<INPUT TYPE=text NAME=name> 年齢:<INPUT TYPE=text NAME=age> </FIELDSET> <FIELDSET> <LEGEND>個人環境</LEGEND> OS:<INPUT TYPE=text NAME=os> ブラウザ:<INPUT TYPE=text NAME=browser> </FIELDSET> <INPUT TYPE=submit VALUE="OK"> </FORM> 同様にOPTGROUP要素はメニューのグループ化を行い、長大な選択肢のリストを眺めずに済むように させる。 次に、テーブルの行と列をグループ分けするための要素として、THEAD、TBODY、TFOOT、COLGROUP COLの新しい要素が加えられた。また、scope、headers、axesなどの新しい属性によってテーブルの セルにラベルを付けることで、音声ブラウザなどでテーブルを線的に閲覧することが可能となる。例 えば次の例は、headers属性を用いたテーブルである。 <TABLE border="1" summary="This table charts the number of cups of coffee consumed by each senator, the type of coffee (decaf or regular), and whether taken with sugar."> <CAPTION>Cups of coffee consumed by each senator</CAPTION> <TR> <TH id="t1">Name</TH> <TH id="t2">Cups</TH> <TH id="t3" abbr="Type">Type of Coffee</TH> <TH id="t4">Sugar?</TH> <TR> <TD headers="t1">T. Sexton</TD> <TD headers="t2">10</TD> <TD headers="t3">Espresso</TD> <TD headers="t4">No</TD> <TR> <TD headers="t1">J. Dinnen</TD> <TD headers="t2">5</TD> <TD headers="t3">Decaf</TD> <TD headers="t4">Yes</TD> </TABLE> 上の例は音声ブラウザによって次のように出力されうる。 Caption: Cups of coffee consumed by each senator Summary: This table charts the number of cups of coffee consumed by each senator, the type of coffee (decaf or regular), and whether taken with sugar. Name: T. Sexton, Cups: 10, Type: Espresso, Sugar: No Name: J. Dinnen, Cups: 5, Type: Decaf, Sugar: Yes上の例ではabbr属性の効果的な使用もされている。
あああああ <BR><SPAN STYLE="margin-left:30px; display:inline"> いいいいい <BR></SPAN><BR> ううううう ↓ あああああ いいいいい ううううう
<LINK rel="stylesheet" media="aural" href="corporate-aural.css" type="text/css"> <LINK rel="stylesheet" media="screen" href="corporate-screen.css" type="text/css"> <LINK rel="stylesheet" media="print" href="corporate-print.css" type="text/css">
<BODY> <P> <IMG src="sitemap.gif" alt="HP Labs Site Map" longdesc="sitemap.html"> </BODY>
<TABLE summary="This table charts the number of cups of coffee consumed by each senator, the type of coffee (decaf or regular), and whether taken with sugar."> <CAPTION>Cups of coffee consumed by each senator</CAPTION> <TR> ...A header row... <TR> ...First row of data... <TR> ...Second row of data... ...the rest of the table... </TABLE>
<SCRIPT type="text/tcl"> ...some Tcl script to insert data... </SCRIPT> <NOSCRIPT> <P>Access the <A href="http://someplace.com/data">data.</A> </NOSCRIPT>
<OBJECT data="navbar.png" type="image/png" usemap="#map1"> <OBJECT data="navbar.gif" type="image/gif" usemap="#map1"> <MAP name="map1"> <P>Navigate the site: <A href="guide.html" shape="rect" coords="0,0,118,28">Access Guide</a> | <A href="shortcut.html" shape="rect" coords="118,0,184,28">Go</A> | <A href="search.html" shape="circle" coords="184,200,60">Search</A> | <A href="top10.html" shape="poly" coords="276,0,373,28,50,50,276,0">Top Ten</A> </MAP> </OBJECT> </OBJECT>
<A accesskey="C" rel="contents" href="http://someplace.com/specification/contents.html"> Table of Contents</A>
<!DOCTYPE HTML PUBLIC "-//W3C//DTD HTML 4.0//EN" "http://www.w3.org/TR/REC-html40/strict.dtd"> <HTML> <HEAD> <TITLE>A document with FORM</TITLE> </HEAD> <BODY> ...some text... <P>Go to the <A tabindex="10" href="http://www.w3.org/">W3C Web site.</A> ...some more... <BUTTON type="button" name="get-database" tabindex="1" onclick="get-database"> Get the current database. </BUTTON> ...some more... <FORM action="..." method="post"> <P> <INPUT tabindex="1" type="text" name="field1"> <INPUT tabindex="2" type="text" name="field2"> <INPUT tabindex="3" type="submit" name="submit"> </P> </FORM> </BODY> </HTML>
CSS開発の作業は1994年にCERNで開始され、1996年12月にW3Cはスタイルシートの標準的仕様としてCSS1を勧告した。その後幾つかの機能を拡張して1997年11月にW3CはCSS2の最初の草案を発表した。CSS2ではCSS1に比べて視覚的表現に関しては表示位置指定の表現力が印刷時を含めて強化されるなどレイアウトの調整に改良が施されており、定義されたフォントがローカル側に存在しない場合はネットワーク上の指定された場所からフォントをダウンロードしてきて使用する機能も追加された。また、アクセシビリティに関する機能については、聴覚的な表現上のスタイルをHTML文書に対して外側から定義できるAural style sheetsの機能を盛り込んでいる。これはT.V. Ramanが発表したCascading Speech Style Sheetsを全面的にベースにしているが、スタイルシートの概念としてはRamanと同様にCSS1の特徴である、上位要素から下位要素へのスタイル属性の継承(cascade)が行われるという点を引き継いでいる。又、スタイル定義等の構文もCSS1にならっている。
一般に、スクリーンリーダーを使用してWebページを閲覧する場合、スクリーン上のテキストの修飾やスタイル等の表現までは利用者に伝えることが出来ない。仮にページの文書構造が本来のままの形で伝えられたとしても、表現的な効果はGUIによるブラウザを通して閲覧する場合に比べると小さくならざるをえない。しかし、構造化された文書そのもの(HTML)と視覚的効果(スタイルシート)とを分離することで、他の媒体の表現上の効果をも別のスタイルシートを作成することによって、文書本体に与えることが可能となった。聴覚的表現のためのスタイルシートは視覚的表現用のスタイルシートと一緒に用いることもでき、又、他のメディア上の表現についてのスタイルシートについても同様である。CSS2のAural Style Sheetsで定義されているのは、音量、会話、一時休止、音源の空間的配置等の一連の属性(properties)である。これらを用いることで、例えば見出しの部分を音量を上げてゆっくり発声させる、引用部分の声色を変化させる、等といったような表現上の効果を付与することができ、ページ閲覧時の内容の把握もよりしやすくなり、アクセシビリティの向上につながる。
次の例は、見出しの各々の前後に置く一時休止時間の設定である。
H1 { pause: 20ms } /* pause-before: 20ms; pause-after: 20ms */ H2 { pause: 30ms 40ms } /* pause-before: 30ms; pause-after: 40ms */ H3 { pause-after: 10ms } /* pause-before: ?; pause-after: 10ms */C.SMIL (Synchronized Multimedia Integration Language)
1997年11月、W3CはWeb用のマルチメディアコンテンツの簡易な作成の実現を目指した新しい言語であるSMILの最初の草案を発表した。SMILはWWWにTV番組のようなコンテンツを組み込むことができるが、ネットワークの帯域幅が対処できないほどのデータ量の伝送を必要とせず、ページ作成もごく少ない簡単なタグを使って、単純なメディア・オブジェクトを、オーディオ、画像、テキスト、ストリーミング・オーディオ/ビデオなど様々なフォーマットに編成できるようになるという。SMILではHTMLのリンク機能に加え、時間軸に沿ったメディア制御ができるようになる。各メディアの同期のほか、音声トラックでの言語の選択や、回線に合わせて音声やビデオのバージョンを選ぶ機能などが提供される。
又、SMILは単純な記述言語で,文章とそれを読み上げる音声のような複数の要素が同調したページを、難解なスクリプトなしに制作することが可能である。たとえば,SMILによってWeb制作者は音声ファイルAを再生,並行して動画ファイルBを再生したり、音声ファイルAの再生が終了したら画像Cを表示したりするようなことが可能になる。
SMILはSGMLをベースとしたメタ言語であるXML (Extensible Markup Language) に基づいており、SMILはXMLの構文規則に従う。例えば文書の時間的進行を司るためには、parallelやsequentialタグで記述する。一連の画像および音声を同期させてスライドショーをつくるためには、複数枚の画像と音声をparallelタグで括ればいい。これまでと同様にシンプルなテキストエディタでWebページを制作できるということがSMILを使いやすいものにとどめる特徴になっている。次のSMILは、6秒後に音声をスタートさせ、その4秒後に画像を並行して表示させるというparallelタグの記述例である。
<par> <audio id="a" begin="6s" ... /> <img begin="id(a)(4s)" ... /> </par> par |-----------------| 6s a <---->|-----------| 4s <--> img |-------|
SMILでは一つの情報の異なるメディアによる表現を同時にしかも同期をとって利用者に届けることが可能なため、視覚障害者だけでなく聴覚障害者のWeb利用にも有効であり、WAIによるガイドラインAccessibility Guidelines: Page Authoringでもビデオと音声の同期に関する項目において言及している。
DAISY (Digital Audio Information System)と呼ばれる音声データの組織方法に基づいた、新しい録音図書の仕様は1993年にスウェーデンの国立録音点字図書館で開発されてから、国際共同開発組織であるDAISY Consortium等の活動によって従来のカセットテープによる録音図書に代わる新しい録音図書の国際的標準として次第に成長してきている。DAISYのファイル形式であるDTB形式は音声のフレーズレベルまでの索引付けを行うことによって、目次や索引により図書全体の中の目的の部分やページを瞬時に呼び出すことができる。1997年8月にデンマークのコペンハーゲンで行われたIFLA盲人図書館専門家会議のテーマは「代替的形式による資料をもつ仮想図書館へ向けての障碍の克服」であり、電子的資料あるいは資料の電子化に関する多くの発表が行われたが、DAISYに関する数々の発表や展示も大きな部分を占めていた。また、その1か月後にアメリカのワシントンで開かれたNISOの標準化会議でも新世代の録音図書は電子図書館の発展と決して無縁ではないことが確認された。このDAISY形式によるデジタル録音図書の技術とWWWのHTMLやマルチメディアに関する仕様とに非常に重要な関連性を見い出したRFB &D (Recording for the Blind and Dyslexic) とDAISYは新しい録音図書の技術もWWWをベースにして開発していくことが重要であるとの認識に達した。この2つのグループに、pwWebSpeakという音声ブラウザの開発元であるアメリカのProductivity Works社が加わり、W3Cで開発中のマルチメディア言語(SMIL)に対応するようなWWWでのデジタル録音図書技術の研究開発を1997年の7〜8月から開始した。その過程でRFB&DとProductivity WorksはW3Cのマルチメディア言語のワーキンググループに加わり、主にデジタル音声技術と音声とテキストとの同期処理技術についてW3Cに働きかけを行っている。DAISY形式の仕様もそしてSMIL言語自体もこれからの発展や成長が予測されるが、WWWのアクセシビリティに密接に関わって進展していくことは間違いないと思われる。
複雑な数式を含んだLaTeX文書を音声で読み上げるシステムAsTeRの発明等、音声化の分野でのパイオニアとされるAdobe社の研究員T.V. RamanはUNIXのエディタであるEmacs上で走らせるプログラムを音声化するシステムEmacspeakを開発した。Emacsはエディタであると同時にほとんどシステムのシェルや「環境」に近い使用が可能であり、しかも全ての操作をキーボードのみで行なえる。この上で動くプログラムの入出力を音声化するようにしたシステムがEmacspeakで、専用のWebブラウザを用いることでページの文書構造を解析してそれを特別な音や声で区別して分かりやすい音声に(例えば、見出しはバリトン、脚注はソプラノというように)変換することができる。従来のスクリーンリーダーが画面上の文字情報を読み上げるのにとどまるのに対し、HTMLを解釈して文書の論理構造をもとに音声化する音声ブラウザとしてもっとも優れたものの一つとして定評がある。また、RamanはWebページの聴覚的表現に関するスタイルシートであるAural Cascading Style Sheets (Cascading Speech Style Sheets)を提唱し、W3CのCSS2にその機能が取り込まれる等、WWWのアクセシビリティ向上に果たした役割は非常に大きいと言える。
日本での注目を浴びている研究として、千葉大学工学部情報工学科の市川研究室で行われている「表および数式の音声化の検討」と「視覚障害者用WWWブラウザのUI設計」がある。特に後者についていえば、ナビゲーション操作からメニューの選択、文字の入力まで一連の操作を全て一貫したインタフェースによりアクセスでき、テンキーによる論理的アクセスを行い、ページ情報を文章構造に分解して音声でアナウンスできる。この設計に基づいたブラウザの日立製作所との共同開発による試作品が1997年11月のCOM Japan97で展示公開され、非常に大きな関心を呼んでいる。