III.視覚障害者のための読書支援機器・情報検索支援機器の導入について

1.身体障害者のための支援機器の導入上の留意点

 身体障害者支援機器の中でもとりわけコンピュータを利用したものは大変重要な位置を占めつつあるといえるだろう。障害に応じた様々なコンピュータ関連機器があり、各種のキーボード・ポインティングデバイスをはじめ音声、呼気、まばたきなどで制御できるものもある。これらの機器は身体障害者のコミュニケーション・情報取得に関する環境を広げるとともに、ときには芸術的創作活動の道具として使われることもある。身体障害者が在籍する大学においても人的サービス体制の整備はもちろんであるが、積極的にこれらの支援機器を導入していく必要がある。
 これらの支援機器導入に際しては先ず身体障害者自身や支援者、また指導教官等と話し合いの場を持ち、彼らのニーズやすでに利用している機器類の環境を把握しておかなければならない。明らかに「大学における身体障害者の支援」は図書館だけの問題ではない。したがってこのような話し合いの場は学内関連部署合同で開催することが望ましい。この中で具体的な機器類の提案を聞くことにより、事務局との間で身体障害者支援における図書館の役割範囲やキャンパス内の機器配置等もある程度決めることができるであろう。
 また機器類の配置については、厳しい財政状況の中身体障害者の利用環境の整備等学内共同利用を図るなど、全学的な予算などを考慮し、限られた予算の中でいかに最大限の効果をあげるかということも念頭に入れておく必要もある。。
 いくつか購入する機器類の候補が決まったならば業者に出向いてもらいデモンストレーションをしてもらった方が良い。機器類の展示会場などでは限られた範囲のデモンストレーションしかできない場合が多いからである。また何より出向いてもらった方が身体障害者自身にも参加を願い、評価してもらいやすいということがあげられる。健常者だけで機器類を評価しようとすると、実際そのような機器類に関して知識が少ないということもあり、評価の観点が身体障害者のそれと異なってしまう危険性がある(少なくとも身体障害者支援用の機器なのであるから、我々が「身体障害者にとって便利そうだ」と思うのは当たり前なのである)。
 またパソコンを使用する支援機器類(あるいはソフト)の場合、通常のパソコン周辺機器同様、ハードウェア同士あるいはハードウェアとソフトウェア間の「相性」が存在する場合も多く、動作環境についてはよく確認しておかなければならない。研究室など学内ですでに支援機器類を導入しているところがあれば、操作の統一性やデータの互換性を考慮し同種の機器にした方がよい場合もある。
 機器類をいったん導入してからの問題点と考えられるのは、学内の身体障害者が卒業あるいは異動などでいなくなり、その後しばらく空白期間ができてしまう場合である。パソコンなどは他の用途に転用できるが、担当者も異動などがありえるのでわかりやすいマニュアルを整備しておくことが必要となる。また一つの考え方であるが、近隣の身体障害者支援団体の利用に供するということも考えられる。
 身体障害者用の支援機器類の開発は進んでおり、今後も様々な製品が市販化されてくると思われる。そのため機器類の導入後もその動向に注意を払い、一定期間後あらためて身体障害者や支援者から評価してもらい、さらに利用の実態に即した環境を整えていくことが大切である。

 ところで視覚障害者にとってもコンピュータは点字、あるいは墨字での文書作成、墨字資料の音声化や点字化、データベースの利用など多くの利便性を提供している。またパソコン通信は点字データの入手や、メール、情報入手の手段としてこれまでも活用されてきたが、さらにインターネットは現在様々な情報発信のための標準的手段となっており、従来のパソコン通信の範囲をさらに上回る世界を提供するものとなっている。このような背景から視覚障害者からもインターネット利用の要求は高まり、実際そのためのソフトウェアが製品化されてきている。本章では先ず、本調査研究班におけるこのような視覚障害者用支援機器類導入の事例報告を行う。
 一方、情報を発信する側も視覚障害者の利用を考慮する必要がある。図書館としても情報提供手段としてWWWの利用は不可欠になってきておりHTMLの記述のしかたや画面設計ににおいて考慮しなければならない点は種々あると思われる。このような観点から、本章では導入事例に次いで、視覚障害者のWWWへのアクセシビリティの改善のために、その背景と研究開発動向について紹介する。


2.事例報告

 ここでは本調査研究班のメンバー館(筑波大、東大、東京学芸大)が実際に導入した視覚障害者用支援機器類についての評価を記述する。なお、紹介する機器類については本調査研究班の立ち上がり時点では製品の選択肢が広いわけではなかったため、各大学で重複している(「ヨメール」・「スクリーン・リーダー/2」:筑波大・東大・東京学芸大、「OpenBook」:東大・東京学芸大、「ホームページ・リーダー」:筑波大・東京学芸大)。
 具体的には音声読書ソフトとして株式会社アメディアの「ヨメール」、米国Arkenstone社の「OpenBook」(これらのソフトと必要な機器類をあわせて、以降「音声読書システム」と記述する)、GUI画面読み上げソフトとして日本アイ・ビー・エムの「スクリーン・リーダー/2」およびWebブラウザの読み上げ・操作専用の「ホームページ・リーダー」について述べることとする。

 音声読書システムとスクリーン・リーダー/2、ホームページ・リーダーの概要についてであるが、音声読書システムは図書などの紙資料をスキャンし、OCR機能でテキストファイル化して、その内容をパソコン内蔵、あるいは外付けの音声合成装置で読み上げるためのソフト・機器類である。
 スクリーン・リーダー/2はアイコンやマウスなど視覚による操作を重視するグラフィックなインターフェイスのソフト(OS自体の操作も含む)を画面の音声朗読で視覚障害者にも利用できるようにするもので、インターネットを利用した情報検索用として導入してみたものである。
 一方ホームページ・リーダーは、それだけではOS(Windows95 )、その他のアプリケーション操作については音声化せず、あくまでWebの閲覧のためのソフトだという点でスクリーン・リーダー/2と異なる。このためWindows95の操作を音声によりガイドする95Readerと組み合わせて利用することが望ましい。

1)音声読書システム

 音声読書システムはスキャナの上に資料を置いてスキャンさせ、文字をいったん画像データとして取り込み、それを解析してMS-DOSのテキストファイルに変換してそのファイルを音声合成装置によって読み上げるものである。したがってあらかじめテキストファイル化されているデータであれば資料そのものをスキャンしなくとも読み上げることが可能である。

(1) 日本語音声読書システム「ヨメール」 Ver.1

開発・発売元:アメディア
動作環境:DOS/Vパソコン(PC-9801シリーズ用もあり)
OSはMicrosoft Windows95
スキャナはEPSON GTシリーズ(専用インターフェイスが必要)
特徴・評価:
  1. 操作性
  2. OCR機能
  3. 読み上げ機能 また、特に学術文献朗読の際の問題点としては、

(2) 英文音声読書システム「OpenBook」(東大 Ver. 2.2、東京学芸大 Ver. 3.0)

発売元:インターリンク 製造元:Arkenstone
動作環境:DOS/Vパソコン
OSはMicrosoft Windows3.1以上
専用音声合成装置
スキャナはHPのScanJetシリーズ
特徴・評価
  1. 操作性
  2. OCR機能
  3. 読み上げ機能

(3) 音声読書システムの総評

 文献等資料の概要を把握したいという場合には、操作も簡単であり有用なソフトである。ただし、すでに述べたように大学で使用するテキストや論文などはOCR機能の限界や専門用語の読み方等の問題により、内容を正確に朗読させることは難しい。正確に理解するには晴眼者の支援による読み取り結果の校閲・訂正が不可欠である。この点で双のソフトともテキストファイルを修正する機能は持っていないが、日本語音声読書ソフトの最近の傾向としてエディタ機能を有したりリンクする機能を取り込み、修正作業をそのソフトの中でできるようになってきている(「ヨメール」 Ver.2にはこの点が含まれている)。
 また、音声朗読の過程でテキストファイルが生成されるので、別途自動点訳ソフトや点字出力機器も備えておけば利用者は必要に応じ点字出力をすることも可能となる。
 なお、音声読書システムそのもではないが、利用環境として以下の指摘があった。

 これはパソコンとスキャナをあまり近接させて設置すると、資料をスキャナに置きにくい、また資料をどの方向に置いても読み取れるとはいえ、スキャナの読み取り範囲面がわかりにくく、資料をスキャナ面上に合わせにくいということである。

2)GUI画面読み上げソフト

 現在のパソコンOSおよび各種アプリケーションソフトの操作はアイコンやメニューをマウスでクリックするGUIのインターフェイスである。これにより晴眼者の場合は特にコマンド等を覚えることもなく簡単に操作できるようになったが、視覚障害者にとってはマウスなどのポインティングデバイスは使用することができない。幸いGUIのソフトでも操作がキーボードで可能である(ショートカットキー)ので、現在選択されているアイコンやメニューバーの項目及びそのショートカットキーなどを音声で読み上げるソフトを利用することで視覚障害者にも操作ができるようになる。
 本調査研究班では視覚障害者がOPAC検索などの情報検索が自分で行える環境を実現させることも検討課題としており、主にこの観点から評価を行っている。

(1) スクリーン・リーダー/2

開発・発売元:日本アイ・ビー・エム株式会社
動作環境:DOS/Vパソコン
      OSはOS/2 Warp Ver.3
特徴・評価
 OS/2上で動くソフト、しかもWarp Ver.3という一世代前のOS/2でしか動作しないことが問題点であり、インストール後の動作設定を行なう段階で障害が生じる可能性が高い。(しかしながら本調査研究班発足時においてWebブラウザまでサポートする視覚障害者用のGUI画面読み上げソフトはスクリーン・リーダー/2だけであった。)
 ここでは主にWebブラウザでOPAC検索などをした際の評価について記述する。
  1. 操作性
  2. 読み上げ機能

(2) ホームページ・リーダー

開発・発売元:日本アイ・ビー・エム株式会社
動作環境:DOS/Vパソコン
OSは日本語版Windows95またはWindowsNT4.0 Workstationの日本語版
Netscape3.0以上(Microsoft Internet Exploreは不可)
サウンドボード

特徴・評価
 スクリーン・リーダー/2はGUI画面の読み上げソフトであり、OS/2の操作全般を扱えるソフトである。その機能の一部としてWWWブラウザの内容も読み上げることができるものであった。一方ホームページ・リーダーはWWWブラウザの読み上げ、操作専用のソフトウェアである。そのためOS操作全般や、テキスト入力時のことを考慮するとWindows95対応画面読み上げソフトウェアである95Reader(株式会社システムソリューションセンターとちぎ発行)と組み合わせて利用することがのぞましい。
 なお、現状ではWeb OPACやWebcatにおける検索結果一覧表示ができないが、メーカー側に改善を要求している。またまだ評価を行っていないが、95Readerの方にには電子BOOK規格の辞書を音声で読み上げる機能やパソコン通信・メールを音声で読み上げる機能もある(対応ソフトは限定される)。

  1. 操作性
  2. 読み上げ機能

(3) GUI画面読み上げソフトの総評

 総じてスクリーン・リーダー/2によるWeb画面読み上げは、OPACのように条件を入力し、結果を受けさらに検索を行うという場合よりは、ドキュメント的な情報を読むという場合に向いている(その場合はほとんど問題はない)。これらの点からスクリーン・リーダー/2を利用したWeb OPACの利用方法としては、図書館職員やボランティアが代行検索を行い、その検索結果を朗読させて利用者に判断してもらう、というのが現実的であろう。
 これに対しホームページ・リーダーではスクリーン・リーダー/2であげた問題点がほぼ解決されている。リンク部分だけが別に抽出されるため、操作も容易になっている。なによりもスクリーン・リーダー/2との違いは、先に述べたとおり表示されているブラウザ画面をそのまま読み上げるのではなく、HTMLの記述・構造を解析したうえで表示・読み上げを行う点であろう。操作性もスクリーン・リーダー/2より簡単である。ソフトウェア上の問題でOPAC等の検索に不都合があるものの(Yahooなどの検索は可能)、この点が改善されれば、視覚障害者独力によるOPAC検索も十分可能となるものと思われる。
 本章の1.でも取り上げられているようにソフトウェアの個別的な問題点とは別にホームページの画面設計上(あるいはHTMLの記述の仕方)から生じる問題点もあげられる。例えば図1の場合、検索条件を入力する前に「検索」「条件クリア」が読み上げられ、検索条件入力後に「検索」ボタンの場所へ戻る必要がある。図3(Webcat)の場合は検索条件入力後、そのまま読み進ませて「検索開始」にたどりつくことができる。音声のみでウィンドウのイメージを伝える場合、後者の方がわかりやすい(ただし後者の場合検索項目を多くすると簡単に「検索ボタン」にたどり着けなくなる、あるいは画面をスクロールさせなければならないという問題が生じる)。
 またクリッカブルマップはClient Side Image Mapという方式によって記述すればLynxなどのテキスト型ブラウザでも利用できないことはないが、やはり多用せず、リンク先 はすべて通常の文字でも書いておくようにすべきである。
 画面をフレームで分割するのも視覚障害者にとってはあまり意味がない。ホームページ・リーダーにおいても各フレームはまったく別のページ同様に扱われる。
 画像やフレーム表示を使用しないテキストのみの、しかもフリーキーワード検索のみのような(特に視覚障害者用という必要はなく、初心者用としても使えるような)ページを別途作成しておくのも一つの方法であろう。
 なお東京学芸大学ではテキスト型ブラウザLynxをインストールしWeb OPAC表示・読み上げさせてみた。この結果、読み上げ・検索、ラジオボタンの状況・テキスト入力位置の判別についてWeb画面をそのままスクリーン・リーダー/2で読み上げさせるよりは改善がみられた。男声・女声によってリンク部分を判別する機能は効かなくなるが、Lynxはリンク部分に番号を割り振り、その番号を入力することでリンクをたどることができるので問題はない。またLynxはコマンドラインから起動させるので、MS-DOS用の画面読み上げソフトで対応が可能である。


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