II.身体障害者のための体制、サービス、施設・設備等について
4.災害時の対応
災害時の対応の問題としては、設備面の問題と避難・誘導体制の整備(マニュアル化)の問題が考えられる。
防災設備については、「3 施設・設備」での検討と同様に、東京都等の例を参考に、個々の施設の整備に関する主要な注意事項及び整備の基準について、具体的に記述する。
また、避難・誘導については、昨年度の報告書と、本調査研究班の構成館のうちの一館(筑波大学)で身体障害者の避難を含む想定で防災訓練を行った時の体験をふまえ、マニュアル化に際し考慮すべき問題について記述する。
1)防災設備
(1)非常放送・警報装置
- 火災等を感知すると、自動的に火災発生場所の情報を含む放送が行われるような非常放送設備を設置する。
- 警報装置には、サイレン等の音とともに、閃光装置を併設して、聴覚障害者に対して火災、非常時であることを知らせることができるよう配慮する。また、事態の状況を文字により知らせる文字標示装置が設置できれば、的確な情報伝達を行うことができ、聴覚障害者に限らず多くの利用者に有効である。
(2)非常口・避難路
- 避難路は明確かつ最短の経路となるよう設定するとともに、点滅型誘導灯や誘導音装置付誘導灯を設置することが望ましい。
- 非常口扉や防火扉の有効幅は90cm以上とし、通行の支障となる下枠や段差は設けない。
- 非常口・避難路には障害物をおかない。
- 避難路には、車いす使用者等が、他の避難者の流れに巻き込まれずに、安全に一時待避できる場所を確保することが望ましい。
(3)誘導標示・避難器具
- 避難路への誘導のため、点滅型誘導灯等を設置するとともに、点字による標示や音声(テープ)による案内を整備する。
- 適切な介助があれば脱出用シューターは利用可能である。
2)避難・誘導体制の整備
(1)避難・誘導経路
- 防災訓練を行い、職員一人一人が避難・誘導経路を確実に把握する。
- 避難・誘導経路がはっきりとわかるように、必要に応じて触知図、点字標示板を設置する。また、避難・誘導経路を示すサインや誘導灯等を適宜設置する。
- 避難・誘導経路として非常階段を使用する場合は、安全に避難できるよう一時待避できる場所を確保する等の配慮をするとともに、誘導担当者以外の職員が介助(救助)を行うことが望ましい。
(2)誘導体制・方法
- 身体障害者は避難の時に取り残されてしまう可能性があるので、放送で、あるいは誘導者が直接利用者に呼びかけて避難の援助を頼む必要がある。また、図書館側で残留者の有無を十分確認する必要がある。
- 特に夜間等職員が手薄になった時間帯の対応・誘導体制を確立しておく。夜間等の担当者にも以下のような事項が徹底されている必要がある。
- だれがどこに誘導するか。
- 緊急時の連絡網が周知されているか。
- 非常放送設備や消火器等を扱えるか。
- 身体障害者の避難・誘導のしかたが周知されているか。
- 視覚障害者、特に介助者がつくことが少ない弱視者の場合、次のような注意が必要である。
- すべての誘導者が移動しながら誘導していると、避難経路の方角がわからなくなるので、誘導者のうち少なくとも一人は非常口付近にいて、移動せずに避難者を誘導するとよい。
- 非常口の場所が明らかになるような音声のガイド(非常放送や誘導音装置付誘導灯等)があることが望ましい。
- エレベーターが利用できず非常階段を利用する場合の車いす使用者の避難方法としては、次のようなものがある。
- (1)背負う
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- 器具を準備することなく1人で運ぶことができる。
- 階段の状況に応じて臨機応変の対応ができる。
- 運ばれる側にも安心感がある。
- (2)車いすから担架に移動して階段をおろす
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- すぐに利用できる場所に担架を用意しておく必要がある。
- 2人でも運べないことはないが、負担が大きいので4人で運ぶことになる。
- 車いす使用者を担架に移動させる時に、慎重に移動させないと危険である。
- 階段を降りる時に担架を水平に保持しないと、担架に乗っている車いす使用者が落ちてしまうおそれがある。ただし、車いす使用者にとっては車いすごと持ち上げられるよりも担架によって運ばれる方が安心感がある。
- 担架の大きさにもよるが、非常階段にカーブ・角があると曲がりにくい場合がある。
- (3)車いすごと持ち上げて階段をおろす
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- 車いす自体の重さ(手動の場合で20kg前後)に車いす使用者の体重が加わるので、最低4人で持ち上げることになるが、重量が大きく救助者に大きな負担がかかる。また、慎重に運搬する必要があるが一般避難者で混雑する非常階段ではその余裕がなくなる可能性もある。
- 車いすを水平に保持しないと、車いす使用者が車いすから落ちてしまうおそれがある。車いす使用者も高い位置に持ち上げられて階段を降りることは、転落してしまうかもしれないという不安を感じる。
- この中では 1の背負って運ぶ方法が最も確実・安全である。
(3)利用者への周知
- 避難・誘導経路を利用者に周知するためには、サインや誘導灯等の設置の他に、利用案内に避難・誘導経路を明記することやオリエンテーション時に徹底するなどの方法がある。中でも利用者を交えた防災訓練の実施は、職員・利用者とも避難・誘導経路を確認しながら避難方法を体験できるので非常に効果的である。
- 防災設備や避難方法等について、特に身体障害者に周知すべき事項(非常口の場所や非常階段の一時待避場所の位置等)がある場合は、一般的な広報手段による広報の他に、身体障害者に対し個別に直接その内容を伝達することが望ましい。
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