II.身体障害者のための体制、サービス、施設・設備等について

3 施設・設備

1)施設整備の基準

 平成6年(1994年)に「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」(いわゆる「ハートビル法」)が制定されたが、同法では、病院や図書館等の不特定かつ多数の者が利用する建築物を建築する場合に、高齢者や身体障害者等が円滑に利用できるようにするための措置を講ずるよう努めなければならない施設を定めている。これらは、具体的には同法の施行規則(建設省令第26号、1994年)で定められている次のような施設である。

1)出入口、2)廊下その他これに類するもの、3)階段(その踊場を含む)、4)昇降機、5)便所、6)駐車場、7)敷地内の通路

 これらの施設については、「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律の規定に基づき、特定施設を高齢者、身体障害者等が円滑に利用できるようにするための措置に関し特定建築主の判断の基準となるべき事項を定める件」(建設省告示第1987号、1994年)により判断の基準が示されており、また『東京都福祉のまちづくり条例─施設整備マニュアル』(東京都、1996年)等、地方自治体が発行した出版物にも具体的な施設整備の基準が示されている。
 また、車いすの寸法は、JIS T9201 (手動車いす)、JIS T9203 (電動車いす)に規定されておりJIS T9203 には登坂力、段差乗越、回転性能等も規定されているので、建設省告示で示された「ハートビル法」の判断の基準とともに、大学図書館においても、建築・施設整備の参考とすべき基準である。
 さらに、アメリカにおいては1990年に「障害をもつアメリカ人に関する法律(Americans with Disabilities Act of 1990 )」、すなわちADA が成立し、これを受けて1991年に「ADA アクセスガイドライン(ADAAG : ADA Accessibility Guidelines)」が発表されている。また、ADA 成立の背景には バークレーで始まった自立生活運動があるといわれているが、カリフォルニア大学バークレー校(UCB )の障害学生プログラム(DSP : DisabledStudents' Program )のトップページ(http://dsp.berkeley.edu/)にはDSP のサービスに関連する情報がまとめられており、ADA 、ADAAG とともに、日本の大学においても参考となる部分が多い。なお、DSP や、障害をもつ人々にアクセスを保障する条項を盛り込んでいるカリフォルニア州の州法に関する事項については、『先端のバリアフリー環境−カリフォルニアにみるまちづくり』(小川信子ほか編、中央法規出版、1996年)に詳しく紹介されている。

2)図書館へのアプローチと図書館内での移動

 ハートビル法の施行規則で定められている施設を、利用者の動線に沿って、図書館へのアプローチと図書館内での移動に関係の深い施設という観点で順番をいれかえると次のようになる。

1)駐車場、2)敷地内の通路、3)出入口、4)廊下その他これに類するもの、5)階段(その踊場を含む)、6)昇降機

 ここではこの順に、建設省告示や東京都等地方自治体の施設整備関係資料等を参考に、具体的に検討する。また施設・設備の特性から、各障害別の検討ではなく、施設ごとの具体的な整備基準の中で個々の障害に関する注意事項をあわせて考えていくこととしたい。
 なお、便所については、カウンターや公衆電話等と同様、施設としての考慮は必要であるが、アプローチ・移動のための施設ではないので、別項で検討する。

 まず、個々の施設の検討の前提条件として、これらの施設の出入口等の幅の問題を考える。
 『東京都福祉のまちづくり条例─施設整備マニュアル』では、出入口等の幅について「車いすが支障なく通行できる」ことを目的とした基準寸法の考え方を示している。幅の問題で車いすを対象とした理由は、車いすが動作のための必要空間に最も厳しい要求を持っているためであり、車いすを基準とした整備を行えば杖利用者等も容易に利用できるようになるからである。
 この基準寸法は以下のようなものである。なお、説明部分は省略・加筆したところもある。

●車いすの幅・65cm
JIS では、大型手動車いすの最大幅を65cmとしている。

 この基準寸法に基づき、『東京都福祉のまちづくり条例─施設整備マニュアル』では通路、階段、出入口等の幅について、次のような表を掲載している。


通路、階段、出入口等の幅の適用(単位:cm)

┌──────────┬───┬───┬───┬───┬───┬───┬───┐

│          │80 │85 │90 │100│120│135│140│

├──────────┼───┼───┼───┼───┼───┼───┼───┤

│敷地内の通路    │   │   │   │   │   │ ○ │   │

├──────────┼───┼───┼───┼───┼───┼───┼───┤

│駐車施設からの通路 │   │   │   │   │ ○ │   │   │

├──────────┼───┼───┼───┼───┼───┼───┼───┤

│主要な出入口    │   │   │   │ ○ │   │   │   │

├──────────┼───┼───┼───┼───┼───┼───┼───┤

│その他の出入口   │   │ ○ │   │   │   │   │   │

├──────────┼───┼───┼───┼───┼───┼───┼───┤

│廊下の幅      │   │   │   │   │   │   │ ○ │

├──────────┼───┼───┼───┼───┼───┼───┼───┤

│エレベーターの出入口│ ○ │   │   │   │   │   │   │

├──────────┼───┼───┼───┼───┼───┼───┼───┤

│車いす用便房の出入口│   │ ○ │   │   │   │   │   │

├──────────┼───┼───┼───┼───┼───┼───┼───┤

│傾斜路の幅(屋内) │   │   │   │   │ ○ │   │   │

├──────────┼───┼───┼───┼───┼───┼───┼───┤

│傾斜路の幅(屋外) │   │   │   │   │   │ ○ │   │

├──────────┼───┼───┼───┼───┼───┼───┼───┤

│傾斜路の幅(段併設)│   │   │ ○ │   │   │   │   │

└──────────┴───┴───┴───┴───┴───┴───┴───┘

(注:表は一部省略している。)

 この表を含む東京都等の例を参考に、個々の施設の整備に関する主要な注意事項及び整 備の基準について、大学図書館としての観点から集約し、以下に具体的に記述する。

(1)駐車場

(2)敷地内の通路

(3)出入口

(4)廊下その他これに類するもの

(5)階段(その踊場を含む)

(6)昇降機(エレベーター)

3)館内施設及び付帯設備

 アプローチと移動に関する施設以外では、次のような施設・設備の整備が必要である。

1)標示・誘導、2)便所、3)カウンター、4)公衆電話、5)コンセント・スイッチ類、6)書架(書架間スペース)、7)閲覧机、8)端末台

 これらについても、前項同様、東京都等の例を参考に、個々の施設の整備に関する主要な注意事項及び整備の基準について、具体的に記述する。なお、防災設備については、「4.災害時の対応」の中で別途検討する。
 ここで検討する施設・設備には、ハートビル法等で具体的な基準が示されている施設・設備以外のものも含まれているが、「アクセス・フォア・オール(誰にとっても使えるものを)」といわれるバリアフリーの新たな概念に基づく「ユニバーサルデザイン」の考え方から、たとえば電話の操作ボタン等を大きくして障害者のみならず子どもや高齢者にも使いやすいようにする、という例もあり(『バリアフリーの時代』古瀬敏著、都市文化社、1997年)、障害者用と固定して考えるより、だれでも利用できる施設・設備を整備する、という考え方を基本とすべきである。
 また、アメリカではADA401条で「聴覚障害および言語障害をもつ個人のための電気通信リレー・サービス」を規定しているが、その中でTDD(Telecommunications Device for the Deaf) と電気通信リレー・サービスを次のように定義している。すなわち、TDD とは「聾者用電気通信装置」を意味し、「有線または無線の通信システムを通じてコード化された信号を送信するのにグラフィック通信を使用する機器」であり、また、電気通信リレー・サービスとは「電気送信のサービスであって、有線または無線による音声通信を使って、聴覚障害または言語障害をもたない個人の能力に等しい通信能力を聴覚障害または言語障害をもつ個人に与えるもの」をいい、「TDD または他の非音声端末装置を使用する個人とかかる装置を使用しない個人との間で、双方の通信を可能にする装置を含む」ものである(『障害をもつアメリカ人に関する法律』中野善達ほか編、湘南出版社、1991年)。そしてADA401条では、電気通信リレー・サービスを義務づけているので、公衆電話の中にもTDD (電話機とタイプライターの合体した機械でテキスト電話とよばれることもある)を備えたものが多くみられるようになり、TDD と一般電話の通話も日常的に可能になっている(『先端のバリアフリー環境』)。こうした状況を考えると、日本でも聴覚障害および言語障害をもつ個人のための通信装置の設置が増えていく可能性もあり、現状でも整備可能なものとしては、公衆FAX の設置がある。

(1)標示・誘導

(2)便所

(3)カウンター

(4)公衆電話

5)コンセント・スイッチ類

(6)書架(書架間スペース)

(7)閲覧机

(8)端末台

参考図


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