II.身体障害者のための体制、サービス、施設・設備等について

1.身体障害者サービスの体制

1)図書館内の体制の整備

昨年度に本調査研究班が行ったアンケート調査では、大部分の国立大学(97校中90校)に身体障害者が在学・在職していることが分かったが、図書館として身体障害者への対応方針があると回答した図書館は21館(20%)、対応方針を成文化していると回答した図書館は1館もなかった。また、図書館の施設・設備等の障害者へ配慮については本館で82館(85%)が配慮して整備していると回答しているが、様々な支援サービス、マニュアル化、ボランティアとの協力、オリエンテーション、広報、職員研修、図書館間協力等については一部の図書館を除きほとんど行われていない状況であった。
これは国立大学の学生・教職員の総数に占める身体障害者の比率がそれぞれ0.05%・0.4%と極めて少ないためと思われる。しかし、近年における生涯学習の進展や大学の公開に伴い、大学図書館では放送大学の学生や一般市民の受け入れなど利用者は多様化しており、また総人口に占める身体障害者の比率が約2.8%であることを考えると、今後利用者に占める身体障害者の割合は高くなることが予想される。それに伴い、身体障害者サービスの在り方は今後の重要な課題となるであろう。
その際、身体障害者サービスを特別なサービスとして位置づけるのではなく、身体障害者が健常者と同じサービスが受けられるよう利用の障害となるバリアーを取り除いて行くこと、つまり大学図書館における身体障害者サービスを展開して行くうえで、障害者のための施設・設備の整備あるいはサービスの提供は同時に誰もが同じように利便を享受できるという理念を基本に位置づける必要があると考える。

大学図書館における身体障害者サービスを日常業務の一つとして確立するためには、サービスの内容や対応方針を成文化し図書館内の支援体制を整備しておくことが肝要である。サービス内容や対応方針が成文化されていれば、身体障害者は図書館の身体障害者サービスについて理解しやすい。図書館職員を対象とした研修等を行うことも重要で、職員相互の共通理解による支援・協力体制を整備することが大切である。
大学図書館において必要な情報を充分に収集することが困難な身体障害者は、一般の利用者以うえにオリエンテーションや広報が重要となる。通常受けられるサービスや身体障害者が特別に受けられるサービスを常に明らかにするとともに、入学時あるいは必要に応じ、障害の種類別にオリエンテーションを開催する必要がある。新しいサービスが追加された場合などにも、まず、学内広報紙や掲示など、一般的な手段で広報したうえで、把握できる範囲の身体障害者に個別に知らせるなどの工夫が必要である。また広報手段への配慮も必要で、例えば電子メールやWWW等電子的な手段が有効であるかもしれない。身体障害者との懇談会を開いて個人個人の要望を聞き、可能な限りそれらに対応して行くという図書館の姿勢も必要である。
オリエンテーションの内容については、健常者向けの基本的な図書館サービスのほかに身体障害者向けのサービス内容を盛り込みたい。利用者からの聞き取り調査では情報検索などパソコンを利用するものについての要望が多かった。機器の利用も含めた情報検索及び情報収集の方法については図書館利用の基本的な部分であり、充分に指導を行い、障害者が自力でも可能になるよう支援する必要がある。
次にカウンターでは身体障害者が援助を求めやすい環境、申し出に対応する体制を作っておくことが重要である。利用者によってはコミュニケーションが取り難い場合が多々あるので、利用者と図書館職員の双方がコミュニケーションの手段に工夫する必要がある。例えば聴覚障害者とのコミュニケーションには手話が有効である場合が多いが、手話のできる職員がいない場合には筆談で丁寧に対応できる体制があればそれでもよい。その場合は筆談に応じる旨をあらかじめ利用者に周知しておくとよい。通常の図書館サービス以上に、利用者の求めに柔軟に対応する必要がある。
身体障害者サービスを展開するためには、図書館職員、あるいは少なくともサービス業務に携わる職員を対象とした研修を行うことも大切である。図書館職員の役割が利用者と図書館資料とを結び付けるものだとしたら、図書館職員は身体障害者の障害を知り、それらが図書館を利用するうえでどのような障害になって現れるのかを認識しておく必要があると思われる。
研修に当たっては以下の点に留意する。

2)図書館外との連携

 大学図書館において身体障害者サービスを展開しようとする場合、図書館外の組織や機関との連携が不可欠である。
身体障害者が入学・就職してきた場合、その実態を把握するために、まず学生部や庶務部などとの連携が必要である。障害者サポートセンターなど、学内で連携して身体障害者を支援できる体制があれば、身体障害者のニーズに合わせた多角的な支援サービスが期待できる。
図書館利用においては身体障害者が必要としている様々な支援サービスは人手に頼る部分が多いことから、図書館職員だけでは利用者からの要求に十分に対応できないこともある。身体障害者の支援を行うために、市民ボランティアが活発に活動を行っているが、これらのボランティアや社会福祉協議会との連携が大切である。なお、最近大学図書館がボランティアを導入し、身体障害者の支援などを行っているところもある。
 大学図書館では専門的な資料の利用について、利用者自身の目的に応じてサービスを行うが、個々の利用者の障害のタイプに応じたサービスを行うためには、サービスの方法・形態等に、障害に応じた専門知識・技術が必要となる。そのために、職員研修はもちろんのこと、身体障害者サービスを既に実施している、大学図書館以外の図書館や、専門の機関との密接な連携が不可欠である。
 過去に障害をもつ学生・教職員が在籍したことがない大学、継続的な在籍がなく過去の対応の経験が継承されていない大学にとっては、この連携をすすめることにより、障害者のための専門の組織からサービスのあり方を学ぶ手立てにもなると思われる。


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