第2章 学術情報資料の保存対策と利用

第1節 効果的資料収集の方策

1.図書の分担収集

 国立大学における図書の収集は,人文・社会科学系文献資料センター及び自然科学系データ資料センター等での専門分野の資料収集を除き,各大学がそれぞれ独自に行ってきており,組織的な分担収集は行われていない。
 一方,図書購入費の減少や価格の高騰等により必要な図書が十分購入できない状況を考慮すると,まずは学内における収集体制を見直し,重複(特に,高額継続図書の重複)を極力なくすとともに,図書館への集中化と共同利用を図ることが重要である。次に,全国レベルの分担収集については,各大学等において引き続き特色ある研究分野の資料の充実と全国共同利用を図る一方,分野別拠点館方式等の可能性についても追求していく必要がある。

2.逐次刊行物の分担収集

 逐次刊行物の分担収集の代表例として,外国雑誌センター館制度を挙げることができる。国内未収集の外国雑誌を体系的・網羅的に収集するというこの制度は,昭和52年度の発足以来,学術情報システムの中で大きな役割を果たしてきた。今日,外国雑誌センター館は,図書の場合と同様に,雑誌購入費の伸び悩み,為替レートの変動,原価の高騰等のため網羅的な収集は困難となってきている。このため,外国雑誌センター館では収集方針の見直しや,国内他機関との連携・協力・機能分担についての検討を行っている。
 これまで,外国雑誌センター館の雑誌は研究組織を背景にして体系的に収集されてきたものであり,今後,収集方針に若干の変更があったとしても,外国雑誌センター館制度の意義は失われないものと考える。
 なお,多くの学術雑誌がオンラインで提供されるようになってきており,現在は各大学が個別に契約し提供しているが,コストパフォーマンス上からコンソーシアム方式による提供や学術情報センターによる提供への切り替えが期待される。

第2節 効果的資料保存の方策

1.資料保存施設

 今回実施したアンケート調査結果にも現れているように,多くの図書館が施設の狭隘化という問題を抱えており,共同保存図書館ができた場合には約130万冊の資料を直ちに移管したいとしている。こうした状況を受けて国大図協においても「資料共同利用センター(仮称)」の整備を文部大臣等へ要望しているところであり,資料保存施設の整備は喫緊の課題となっている。
 資料保存施設の設置形態としては,全国共同利用の施設として新たに設置する方法,図書館に附属する施設として設置する方法等が考えられるが,今日の行財政事情等を考慮すると,後者の方法がより実現性が高いと考えられるが,次の条件をクリアすることが前提となる。

 次に,資料保存施設の機能としては,資料のデリバリー機能(電子的デリバリを含む),劣化資料等の保存機能,不要資料を再利用(管理換,譲渡等)するための窓口機能等が整備される必要がある。

2.保存資料の範囲と選定方法

 資料保存施設に収容される資料は,コレクションとして形成され,将来にわたって活用される必要がある。従って,資料保存施設の位置付けと基本的方針を明確にした上で,保存施設を設置する大学において,核となるコレクションを形成するための学内的な資料配置の調整に努める一方,他大学等からの移管資料を蓄積していくことになろう。
 保存資料の範囲は,当面,図書及び雑誌バックナンバーに限定するのが現実的と思われる。また,学問分野の特殊性に配慮しつつ,一定年代以前の外国雑誌センター館の雑誌を移管することも考えられる。
 なお,資料保存施設に所蔵されている資料と重複する資料については,各大学において簡略な手続きで処分可能となるよう,物品管理面での法的規制緩和が求められる。

3.資料保存に関する規程の整備

 全国共同利用に供される資料保存施設の運営方法については,当該大学と国大図協との間で十分協議し,保存対象資料,移管手続き,保存部数,利用方法等に関する規程を整備する必要がある。
 また,資料保存施設が限られた職員により運営されることを想定すると,資料の移管を希望する大学側の負担,例えば学術情報センターへの目録データの入力等についてもルール作りが必要と考えられる。

4.資料のメディア変換

 資料保存施設の資料は将来にわたって保存される必要があること,収容力には自ずと限界があること,迅速な文献提供が必要になること等を考慮すると,資料保存施設において,資料のタイプや利用実態に応じてディジタルメディアへの変換を積極的に実施していく必要がある。

第3節 資料保存施設のサービス

1.ILLの充実

 資料保存施設においてもILLの高度化及びドキュメント・デリバリー・サービスの確立は当然のこととして追求していかねばならない。
 文献複写の物流は郵送が基本となろうが,Faxや電子による複写伝送方式の採用は検討に値する。また,現物貸借については,宅配業者との提携による合理化を図り迅速なデリバリー・サービスを実現する。複写料金の決済は,現行の国立大学間の決済方式を維持するほか,国立大学と公私立大学の間の複写料金決済を国立大学間のそれに近い迅速な処理システムを考え,大幅な簡便化を図る必要がある。

2.電子ジャーナル

 資料保存施設といえども,資源の共用という意味では電子ジャーナルのサービスも考える必要がある。しかし,学術情報センターとの機能分担,あるいはナショナルサイトライセンス等の問題が考えられることから,各国立大学附属図書館が個別に,あるいはコンソーシアムなどにより積極的な取り組みを行うと同時に,資料保存施設はパッケージ化された電子ジャーナルの保存提供を重点に行うことが望ましい。
 なお,学術情報の恒久的保存という観点から,印刷物の有無にかかわらず電子情報が発行者側(出版者側)で永久に保存される保証はないとするなら,バックナンバーの保存は資料保存施設の重要な機能として検討されるべきである。

3.視聴覚資料・電子出版物等

 当面は図書・雑誌に重点を置いた収集・サービスを展開することとし,視聴覚資料等の収集と利用は将来的課題とする。情報技術の進歩に伴い記録媒体も次々と進化しており,マイクロ資料,ビデオテープ,カセットテープ,レコード,フィルム,スライド,CD,DVD等々,その時々の技術により多種多様な媒体が存在している。従って専用の保管機器の設置及び情報を読みとる装置の整備をも考慮した保存計画を立てる必要がある。

4.資料の劣化対策

 資料保存施設は酸性紙等を含む劣化資料に対応した環境設備(恒温恒湿の保存庫)を保有したものであることが望ましい。さらに,資料保存施設で独自に対応するためには,酸性紙の劣化を遅らせる延命装置の設備費やその装置を操作する要員が必要となるが,設備費,人件費等に相当多額の経費を要するため,当面は然るべき業者へ外注する方法で対処し,効率的な運用を図る必要があると思われる。

5.一般閲覧希望者へのサービス

 資料保存施設は大学図書館に受入れられた資料の最後の砦としての役割を担うこととなり,外国雑誌センター館や大学共同利用機関と同様,情報提供サービスを果たさなければならない。また,幅広く国内資料を収集・提供・保存し,ILLシステムにも参画している国立国会図書館との連携・協力は,資料保存のみならず情報提供サービスという視点においても重要な事柄の一つである。資料保存施設は,単独の施設であっても,大学図書館に付置される場合であっても,大学図書館同様に,研究者,学生,一般を問わず,直接来館の利用者に通常の図書館サービスを提供する。特に地域しての一翼を担うものとする。


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