現在の国立大学図書館の蔵書量は,今回のアンケート調査(注1)によると,
・ | 図書 | 和書 | 36,710千冊 |
洋書 | 18,673千冊 |
計 | 55,383千冊 |
・ | 雑誌(製本) | 和雑誌 | 3,295千冊 |
洋雑誌 | 3,600千冊 |
計 | 7,251千冊 |
となっている。この中には書架に収容しきれずに書庫に眠っているもの,破損したもの,劣化したもの,重複図書等が含まれている。これらの図書を簡潔な手続きで処理(管理換,廃棄等)できるようにすることが,書架スペースの確保のためには効果的な方策の一つと考えられる。
また,文部省の平成10年度大学図書館実態調査結果報告(以下「10年度実態調査」という。)によれば,国立大学の蔵書量は85,115千冊となっており,膨大な図書資料 を管理していることが見て取れる。
一方,平成6年報告書によれば,書架の収容状況では,既に満杯状態が49館(28.6%),1〜2年で満杯が39館(22.7%),3〜5年で満杯が57館(33.1%),6年以上余裕があるのは27館(15.7%)となっていることから,現時点では80%以上の図書館で満杯状態になっていると推測され,危機的状態にあるといえる。
アンケート調査によれば,過去5年間の年間平均受入冊数は,
・ | 図書 | 1,179千冊 |
・ | 製本雑誌 | 410千冊 |
となっており,また,10年度実態調査によれば平成5年度から平成9年度までの5年間の平均で,図書受入数は1,949千冊,雑誌受入種類数は586千種類となっており,厳しい図書資料費の中でも,横這いの状態で推移している。
上記の蔵書量で述べた,既に満杯状態の館及び5年以内に満杯になると回答している館合わせて145館(84%)にあっては,書架増設,重複資料の廃棄,資料の管理換等で対応しているものと思われる。
3.主題・分野別収集,分担収集
資料の収集方法として,館種別,分野別,地域別等複数の図書館が相互に協力しあい,全体として無駄な重複を避けて収集する例がある。アンケート調査では,医学系の図書館では,国・公・私立大学との連携や地域との連携協力体制が出来ておりそれぞれ分担収集が行われている。従来,国立大学では専門分野の図書収集機関として人文・社会科学文献資料センター,自然科学系データ資料センターが設置されているが,現在の情報要求に応えられる規模・組織力を持つほど充実したものとはなっていない。
一方,学術雑誌の収集では昭和48年10月の学術審議会答申「学術振興に関する基本的な施策について」を受けて,昭和52年から外国雑誌センター館が設置されている。昭和55年4月の学術審議会答申「今後における学術情報システムの在り方について」では,その目的は「国内に欠落している学術雑誌を全国的見地から体系的・効率的に収集し,研究者に提供する」とされているが,各分野の悉皆調査の結果,収集対象を極めて利用頻度の低い資料にまで拡張したため,雑誌価格の高騰や財政事情の悪化に応じてタイトルの見直しを実施せざる
を得ない状態に陥り,各センター館では,個別大学で継続購入が困難になった準コアジャーナル収集へのシフトやその他の視点での見直しの必要に迫られている。
なお,現在,外国雑誌センター館の全分野の雑誌について重複調整を実施している。
4.視聴覚資料及び多様な情報メディアの収集
語学テープ・ビデオ,マイクロフィルム・マイクロフイッシュ,レコード,CD-ROM,レーザーディスク等々のメディアで学術資料として収集すべきものが増加している。今後のデジタル化された資料,MO等に収集対象を拡大するときに生じる問題について整理しておく必要がある。
アンケート調査では,回答100館の書棚の空き状況は15.8%であった。これは過去5年間の年間平均受入册数から試算すると図書が7年,雑誌が3年で収容限界に達する。
しかし,この空きスペースは分類配架等を行い運用していくために必要な最低限の空きスペース20%に充たないために,大半の図書館では年々増加する図書の配架に対処するために定期又は不定期に図書の異動を行っている。
一方,10年度実態調査によれば国立大学図書館全体での収納可能册数78,655千册に対して蔵書数85,115千册あり既に6,460千册オーバーフローしている状況にもかかわらず収納できているのは,研究用図書を研究室等へ貸し出して分散管理しているためである。
図書館サービス向上のために図書・雑誌の図書館への集中配架を計画しても実行できないネックの一つになっている。
このような書棚の不足にこれまでどのような対策を行ったかのアンケート調査では,施設上の方策では
・ | 新営・増築(10年以内) | 20館 |
・ | 館内に書架増設 | 73館 |
・ | 他施設の利用 | 10館 |
等で対処している。
2.資料の重複
(1) 各大学内での重複
学習用としてあるいは教育・研究上の必要に応じて重複資料は購入されている。しかし,これらの資料の大半は経年とともに複数保存の必要性は半減し,書棚の利用効率を低下させている。近年は予算不足を補うために学術雑誌購入にあたっては重複調整が見受けられる。
平成6年報告書にはサンプル調査ではあるが学部数の多い総合大学では20%台と高く,単科大学では概ね10%以下という調査結果がある。
重複資料を中心に利用頻度の低下した資料の取り扱いについて,アンケート調査では次のようになっている。
・ | 館外に施設を確保 | 5館 |
その収納可能册数 | 175千册 |
・ | 館内に専用コーナを設置 | 25館 |
その収納可能册数 | 1,692千册 |
(2) 各大学間での重複
これは一つの目安であるが,学術情報センターの総合目録データベース(平成11年12月17日現在)を例に取ると,図書の所蔵登録件数43,131千件に対して図書書誌件数は4,438千件で,1書誌当たり約10件の所蔵がある。
アンケート調査での共同保存図書館ができた場合の対応として,重複資料及び利用頻度の低下した資料の移管については
・ | 直ちに | 31館 |
・ | 近い将来 | 40館 |
となっており,殆どの大学図書館が重複資料を抱えていることが窺われる。また,地域分野別等の分担収集・保存については,分担収集・保存のための組織に参加している館が全体で16館(本館11館,分館5館)で,日本医学図書館協会加盟館が各地区単位で保存協定を結んで実施している例等が見受けられる。
3.管理換・廃棄
アンケート調査で図書館資料の効果的収納方策で,今後の方策については,重複資料(学内で調整後又は管理換調整後)の廃棄を挙げた館が80館と群を抜いて第1位であり,ここでも殆どの大学図書館が重複資料を抱えていることが窺われる。
このように計画はあるがあまり実行されていない要因は幾つか考えられるが,主なものとして
4.資料共用の実態
資料の共用と言えば,代表的なものとしてILLを上げることが出来る。外国雑誌の価格高騰や為替レートの変動等の影響により,大幅な購読タイトルの削減を余儀なくされている現状を反映し,その処理件数と事務処理量は大幅な増加をたどっている。
アンケート調査によるILL業務の実状とその集約化の可能性について見てみると,
・ここ5年間のILL受付件数
急激に増加している | 49館 |
徐々に増加している | 46館 |
と9割以上の館で増加
・ILLの処理は限界か
余裕がない | 69館 |
となっており,この結果から分かるように各図書館ではILL業務に大きな労力を費やしていることが窺える。
さらに,学術情報センターの5年間(平成6年〜同10年)の統計を見ると,次表のようになっている。
468,218件 | 19,392件 | ||
535,239 | 26,459 | ||
637,860 | 35,113 | ||
768,600 | 46,319 | ||
881,786 | 59,889 |
この統計を見ても複写については,この5年間で毎年ほぼ10万件ずつ増加している。
各大学においては,重複資料の見直し,ILLの積極的な利用に合わせて電子ジャーナルのコンソーシアムによる共同利用が少しずつ見られてきている。
5.資料の劣化
国大図協は平成3年富山総会において「資料の保存に関する調査研究班」を設置し酸性紙の劣化に重点を置いた調査研究を行い,劣化資料のタイトルを学術情報センターの目録情報により識別することにし,平成6年11月末までの入力期間を設定した。平成6年5月に最終報告「資料の保存に関する調査研究」を出している。
今回のアンケート調査でも保存機能の重要な問題として何らかの対応を期待する回答が見られた。学術資料の劣化問題は酸性紙の劣化に限らず多様な情報メディアの保存についても考慮する必要性がますます重要な課題となり,科学の進展により左右される面もあるため,多角的な検討が必要である。