第2章 大学図書館に関する審議会答申

1. 答申と施策

 個々の大学図書館は、その属する大学の設置目的と使命に応じて、所属する教官、学生の教育研究に必要な学術情報と利用環境を提供するために、図書館としてどのような方策が必要かを模索し、具体的に実現を図っている。
 それではわが国全体の大学図書館に関する整備は、どのようにして方向が定められ、それを具体化していくのだろうか。
 学術審議会や大学審議会のように、わが国の学術情報の流通に関係する審議会が文部大臣の諮問を受け、検討を重ねた結果を答申の中でいくつかの提言という形でまとめる。これを受けて文部省は、法律の改正や事業を開始するための予算措置等を行い、答申で示された提言を具体的な施策として実現する。
 例えば、現在、外国雑誌を分野別に分担し、体系的、網羅的収集を行うとともに、全国の国公私立大学の研究者に文献複写による情報提供サービスを行っている外国雑誌センター館は、昭和48年の学術審議会答申「学術振興に関する当面の基本的な施策について」の中で、内外の出版物の収集、利用のために図書館間の分担・協力のネットワークを樹立する、という提言を受け、文部省が国立大学附属図書館をセンターとして指定し、予算等の措置を講じながら整備していったものである。
 また、わが国の学術情報流通システムの整備に中心的役割を果たしている学術情報センターは、学術審議会が昭和55年に答申した「今後における学術情報システムの在り方について」の中の、学術情報システムの中枢機関の設立という提言を受けて、文部省が昭和61年に設立したものである。
 このように、わが国の大学図書館を含む学術情報の流通体制の整備は、審議会等による答申を受け、文部省が施策として具体化し、提言の内容を実現していく、という手順を経ている。
 以下にいくつかの審議会答申等の内容を簡単に要約する。

2. 審議会の答申、報告

(1)「大学図書館機能の強化・高度化の推進について」
(平成5年12月16日 学術審議会学術情報資料分科会学術情報部会報告)

 この報告において、全国的な学術研究情報ネットワークやキャンパス情報ネットワーク(学内LAN)などの大学における情報基盤の整備が急速に進展している状況や大学の国際化や生涯学習の進展など新たな状況のもとで、これからの大学図書館の充実のために取り組むべき様々な課題を提示している。
 課題には、行政的対応が必要なもの、各大学が個々に取り組むべきもの、各大学図書館が対処すべきものがあるが、特に、図書館資料の形態や利用方法の多様化に対応できる基盤整備と、高度なサービスを実現するための機能強化が緊急課題であり、重点的に推進することが必要であると述べている。
 大学図書館が、学術情報システムの主要な構成機関として、広範な情報資源の有効利用を進めるためには、「大学図書館と学内及び学外との連携協力」、「ネットワークと電子化情報の活用」、「新しいニーズへの対応」の3つの視点のもとに、機能を強化・高度化していく必要が強調されている。

1) 学術研究情報ネットワークを活用した大学図書館機能の充実と大学間協力等の促進

 大学図書館は、自館の情報資源だけでなく学内の他の情報資源の効率的な利用のための拠点としての役割を担うことが期待されており、学内LANを積極的に活用して、機能の高度化やサービスの充実を図ることが求められている。
 また、学内LANやILLシステムの活用により、利用者の要求に迅速に応えることや、大学における情報資源の効果的な蓄積・利用の拡充のために情報処理センター等と協力すること、共同分担目録システムやILLシステムへの参加による大学図書館間の連携協力を図ること、大学以外の学術研究機関との連携協力を進めること、外国からの情報提供の要望に応えうる体制を整備すること、などが必要とされている。
 さらに、情報処理技術の発達により、情報流通の形態の変化や図書館資料の電子化が進む中で、大学図書館は従来の図書・雑誌の整備に加えて、電子媒体資料の収集・利用に積極的に取り組み、電子図書館的機能の整備充実を図ることが求められている。

2) 図書館資料の計画的収集と重点的収集

 図書館資料の収集に当たっては、大学全体としての財政的支援体制を確立するともに、大学全体の計画的な収集体制を確立し、大学内での図書館資料の不必要な重複や脱漏を極力防ぐ必要が強調されている。
 また、個々の大学図書館による十分なコレクション形成が不可能になっていることから、主題分野別や地域別等による分担収集体制の整備の必要性について指摘している。
 さらに、各大学図書館が大学の沿革、地域性などを反映した特色あるコレクションを形成するために、コレクション形成方針を明確化するとともに、組織的な選書体制を構築することが望まれている。
 これらの図書館資料の計画的収集や重点的収集を効果的な学術情報流通として機能させるためには、各大学図書館が相互協力の理念の下に、図書館間相互貸借を迅速かつ的確に行うことが重要であると指摘している。

3) 図書館資料の効果的な保存と利用

 増え続ける図書館資料のための保存スペースの確保は重要な課題であり、必要な資料を基準に従って確実に保存するとともに、適切な廃棄を行うことにより、スペースの効率的利用や資料の有効利用を図ることの重要性が強調されている。
 そのために、各大学図書館の相互の連絡・調整の下に、全国的観点から貴重資料が不用意に廃棄されることがないようなシステムの確立を図りながら、利用の便宜や資料形態等を総合的に判断して資料の適切な保存と廃棄を行うことが必要であると述べている。
 各大学内で資料の配置と保存及び利用の役割を明確にした図書館システムの構築を図るとともに、地域や分野別の大学群での分担保存を考えることが必要であると指摘している。当面は、地域や分野における中核的役割を果たし得る大学図書館がその機能を担うことが望まれているが、将来的には全国的規模の共同保存図書館の設置についても言及している。

4) 学習活動の場としての図書館機能の強化

 大学図書館の主要な機能の一つに学習図書館機能があり、学生がその関心や能力に応じて、学内外の学術情報に容易にアクセスできるようにすることが求められている。
 そのためには、利用者教育やオリエンテーションの積極的な実施、カリキュラムに対応した資料の充実、情報化に対応した教材の作成支援、学習・研究スペースの確保や電子媒体資料等を有効活用するための施設・設備の整備等が必要とされている。
 また、留学生のために日本語学習資料の収集・提供や母国の新聞・雑誌等の提供を行うこと、社会人学生のために学習スペースの確保や開館時間の延長や土曜・休日開館の実施などの重要性があげられている。
 さらに、大学の地域社会への協力や生涯学習活動への支援のために、地域の教育・研究・文化の中心としての大学図書館の機能充実を図るとともに、社会人の円滑な受入れとサービス充実につながる施設・設備の整備についても言及している。

5) 大学図書館員の育成・確保と自己点検・評価

 大学図書館における情報資源の有効活用のための基盤的条件の一つとして、大学図書館員の育成・確保が重要であることを指摘するとともに、大学図書館職員に必要とされる知識、技能、資質については、情報化の進展や新しいニーズの高まりにより、変化が生じていると述べている。
 新しい分野についての知識や技術、資質をもつ人材の育成・確保のために、大学図書館の専門的職員として必要な高度な知識・技能を修得するシステムの整備の必要性に触れている。
 また、必要に応じて司書以外の専門分野の人材の導入を図ることや、大学図書館員の研究・開発能力の育成と同時に研究者とのより密接な連携についても言及している。 さらに大学図書館はその所属する大学の進むべき方向と理念を見定め、従来の運営方針との調整を図りながら、新たな改革への具体的指針を得るため、自己点検・評価を実施し、その結果を大学図書館の運営計画の見直しに反映させ、図書館活動全般の改善に役立て、大学全体の理解を得ることが必要であると指摘している。

(2)「大学図書館における電子図書館的機能の充実・強化について」
(平成8年7月29日 学術審議会建議)

 情報技術の進歩や学術情報システムの進展、世界的な情報ネットワークの出現・普及により、研究者等が必要とする学術情報を的確・迅速に提供し、研究成果を国内外に広く発信するための体制を整備・充実することが、学術研究の基盤に係わる重要な課題である。
 大学図書館は学術研究情報の主要な生産拠点である大学の活動を支える基盤的施設であり、学術情報の集積機能と発信機能双方においてその果たすべき役割が極めて大きい。
 また、学術情報ネットワークの高度化や学内LANの整備などの情報通信基盤が急速に整備される中で、大学図書館は単に大学の学術研究や教育活動に対するサービス機関としてだけでなく、広く人類全体の知的営為に貢献するものとしての機能を期待されている。
 このような状況において、整備された学術情報ネットワークの結節点としての各大学図書館がもつ機能の飛躍的向上が、重要なものとなってくる。
 この建議では、大学図書館に電子図書館的機能を整備していくことが急務の課題として、その整備に当たっての基本的考え方と必要な方策等についての提言を行っている。

1) 大学図書館における電子図書館的機能の整備の必要性

 大学が学術研究と教育という本来の機能の充実強化のほかに生涯学習や地域に対する支援という新たな使命を担うことにより、情報ニーズが増大し多様化している状況に触れている。
 一方で、パッケージ型の情報資料やネットワーク型の情報資料など、数多くの電子的情報資料が出現し、一層普及していくことが予想されるとしている。
 また、貴重資料や利用頻度の高い資料の保存機能を向上させるための対応策として電子化が極めて有効な方法であると同時に、それらをネットワークを介して利用者に提供することは、資料の有効利用という点で効果的かつ効率的であることも指摘している。
 さらに、インターネットに代表されるネットワーク上の情報量の急増に伴い、必要なものを効率的に検索するための情報検索支援機能を強化する必要性に触れている。
 研究者自ら研究成果を電子媒体により公刊する機会が増えるとともに、学内の諸組織において教育研究情報を経常的に電子化することが進むと予想している。
 これらの状況に大学図書館が対応していくためには、「電子的情報資料を収集・作成・整理・保存し、ネットワークを介して提供するとともに、外部の情報資源へのアクセスを可能とする機能をもつ」電子図書館の機能を備える必要があることを指摘している。

2) 電子図書館的機能の整備の基本的考え方

 電子図書館的機能を整備するに当たっては、

  1. 各大学の特色やニーズに応じて適切なビジョンを策定すること
  2. 学内の情報処理関連施設や教育関連組織との連携を図ること
  3. 大学図書館間の連携・協力を強化し各システム間のネットワーク化を推進すること
  4. 大学の教育活動に即した機能を整備すること
  5. 著作権の保護やシステムのセキュリティの確保
  6. 利用者のプライバシーの保護に十分留意すること
などが重要であると指摘している。
 なお、電子図書館的機能を整備する際には、従来から収集・蓄積してきた紙媒体資料の収集・保存・提供は、大学図書館の基本的な機能として今後とも継続・向上し、総体的な機能強化を目指すことの必要性を強調している。

3) 電子図書館的機能の整備の方策

 具体的な整備の方策として、資料の電子化の推進については、目録所在情報の遡及入力の促進、所蔵資料の段階的・継続的な電子化、資料電子化の効率的な実施、研究成果等の電子出版化への支援、などをあげている。
 また、電子図書館的機能を充実するためには、高性能なコンピュータシステムや資料を電子化・入力するシステム、大容量の蓄積システム、高機能な検索システムなどの設備の整備が不可欠であると指摘するとともに、図書館利用者向けのネットワークに接続されたパソコン等の情報機器を相当数配置することにも触れている。
 一方、資料の効率的な電子化や良好な利用者インターフェイスなど、最適なシステムの構成を検討するために研究開発を推進するとともに、その体制は研究者や図書館職員、情報処理関連施設の職員などの協力により形成することの重要性について述べている。
 図書館職員は従来の図書館業務にとどまらず、新たな電子図書館的機能に即した業務にも対応することが求められるため、図書館職員に対する研修事業を充実させる必要性について指摘している。
 さらに、学生向けの利用者教育は情報リテラシー教育の一環として大学図書館の協力の下に全学的に取り組めるよう、教育体制の整備が必要であると述べている。
 最後に、電子図書館的機能の整備における著作物の利用については、各大学図書館が著作権者との間で個別に適切な処理を行う必要があるが、将来は著作権の集中的処理を行うことについて検討することが望ましいとしている。

4) 電子図書館プロジェクトの推進

 学術情報センターでの電子図書館システムの研究開発と事業化計画、奈良先端科学技術大学院大学でのモデル的電子図書館の構築などについて、これらの取り組みを継続して推進するとともに、各大学の特色を活かした先導的なプロジェクトを積極的に奨励・支援することを文部省に求めている。

(3)「科学技術創造立国を目指す我が国の学術研究の総合的推進について−
「知的存在感のある国」を目指して−」(平成11年6月29日 学術審議会答申)
1) 学術研究の意義と目指すべき方向

 この答申においては、学術研究が知的創造活動であり、人類共通の知的資産を形成するとともに諸活動・制度の基盤となるものであるとしている。また、人間の精神生活の重要な構成要素を形成し、文化の発展や文明の構築に大きく貢献することが期待されるものであり、国が中心になってその振興に努めるべきであるとしている。
 そのような意義をもつ学術研究だが、「20世紀型科学技術」がもたらす負の面が目立つようになってきており、新たな発展のためのフロンティアを切り開く先導的・独創的な学術・科学技術、いわゆる「21世紀型科学技術」の役割が一層重要になってきていることを指摘している。
 そこで我が国が今こそそのような学術研究推進により新たな文明の構築に貢献し、「知的存在感のある国」を目指すべきだと提言している。
 そのための学術研究の目指す方向としては、世界最高水準の研究の推進、21世紀の新しい学問の創造と研究遂行体制の刷新、社会への貢献をあげている。

2) 学術研究の振興に当たっての具体的施策

 学術研究を取り巻く環境変化には著しいものがあり、この変化を踏まえていくつかの具体的な施策をあげている。
 まず、優れた研究者の養成・確保であるが、そのためには、

  1. 大学院における教育・研究指導の改善・充実
  2. 博士課程在学者・修了者に対する施策
  3. 若手研究者のプロジェクト研究への参加の促進
  4. 若手研究者の適切な経歴形成と研究者全般の流動化の促進
  5. 養成・確保のための国際的連携
  6. 女性研究者の活動の機会の拡大
などをあげている。
 次に、新しい研究領域や分野を開拓し、新しい学問を創造していくためには、COE(Center of Excellence:卓越した研究拠点)形成に留意しつつ、多様な学問の動向に応じて、効果的な研究組織・体制を柔軟に編成するとともに、流動化を促進する必要があるとしている。
 また、競争と評価を通じて適切な資源配分が行われることが必要であるとし、そのためには研究資金の配分システムの整備と競争的資金の拡充・制度改善をあげている。
 さらに研究施設・設備、研究支援体制、学術情報基盤・学術資料の整備の立ち後れによって、研究費の拡充に見合った研究成果が上がらなくなる可能性があり、基礎的条件である研究基盤を世界水準にまで改善・充実することの重要性を指摘している。
 具体的な整備事項として、政府支出の学術研究関係経費の拡充、研究施設・設備の整備、研究支援体制の整備とならんで、学術情報基盤・学術資料の整備に触れている。

3) 学術情報基盤・学術資料の整備

 図書館を含む学術情報基盤、学術資料は、それ自身研究開発的側面があるだけでなく、これらを整備することが学術研究全体の進展を支える上で極めて重要であるとしている。
 しかし、学術情報基盤、学術資料は、インフラであるためにその整備の効果が見えにくく各種施策の中での優先順位が下がりがちであるが、競争原理などに委ねられない分野であるために、一定規模の資本投下の継続を強調している。
 情報ネットワークについては、情報通信技術が数年で急速に変化することを考慮し、当面は学術情報ネットワーク(SINET)を充実するとともに、学内LANの高機能化を計画的に行い、地域的あるいはグローバルなインターネット利用も考慮した情報ネットワーク構築が必要であるとしている。
 大学図書館については、資料価格の高騰、予算の実質的漸減傾向にあることを指摘し、資料購入費の確保と大学図書館間の分担収集、現物貸借や文献複写サービスなどの機動的相互利用の促進の必要性をあげている。その前提としての目録所在情報の遡及入力を緊急に対応すべき課題としている。
 また、電子的図書館機能の整備・充実とともに、紙媒体資料に加えて画像資料、音声資料の収集・充実を図ることとしている。
 さらに、資料の保存スペース不足に触れ、迅速なドキュメントデリバリー機能を備えた保存図書館(集中文献管理センター)の設置を具体的に検討する必要があるとしている。

(4)その他の答申等

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