第1章 大学図書館の法的根拠

1.国立学校設置法

 国立大学における図書館の設置は、「国立学校設置法」(昭和24年5月31日法律第150号)第6条に「国立大学に、附属図書館を置く。」と法的に定められている。国立大学の図書館がすべて「附属図書館」という名称を持つのは、この法律を根拠としている。

(1) 図書館長

 「国立学校設置法施行規則」(昭和39年4月1日文部省令第11号)では第12条において、「国立大学の附属図書館に館長」を置くことが定められている。館長には「その大学の教授をもって充てる」とされているが、「必要がある場合には、事務職員をもって充てる」ことができることになっている。しかし実際には、各大学の学内規程やその他の事情により、国立大学の附属図書館長に事務職員がなった例は近年においては見られない。

(2) 分館

 国立学校設置法施行規則第13条で、「附属図書館に、文部大臣が別に定めるところにより、分館を置く」とされている。分館は「国立大学の附属図書館に置く分館を定める訓令」(昭和39年4月1日文部省訓令)に、大学名と分館名が表として掲げられている。このことは、国立大学の附属図書館が分館を置く場合には訓令によることが必要であることを意味しており、学部や研究所に属するいわゆる「部局図書館」とは法的背景が異なる。

(3) 事務組織

 附属図書館の事務組織については、国立学校設置法施行規則第29条で「国立大学の・・・附属図書館及びその分館・・・に、その事務を処理させるため、規模に応じて、それぞれ事務部又は事務室を置くことができる」と定め、「事務部、事務室、課及び室に、それぞれ事務長(前項の規定により課又は室を置く事務部にあっては、事務部長とする。)、事務主任、課長及び室長を置き、事務職員をもって充てる」とされている。
 また、附属図書館の事務組織の部課制については、「国立大学及び国立短期大学の事務局等の部及び課に関する訓令」(昭和42年5月31日文部省訓令第20号)の別表1と別表3によって、事務部及び課の名称が定められている。
 なお、国立大学で働く職員の種類については、国立学校設置法施行規則の第1条で「学長、教授、助教授、講師、助手、事務職員、技術職員、教務職員」があげられている。

(4) 文部省

 大学図書館に関する事項を所管する文部省の部局については、「文部省組織令」(昭和59年6月28日政令第227号)第11条で「学術国際局においては、次の事務をつかさどる」とし、「(10)学術に関する情報資料を収集し、及び保存し、並びに教育機関及び研究機関に対し、これらの情報を提供する等の便宜を与えること」が挙げられている。
 さらに第53条では「学術情報課においては、次の事務をつかさどる」として、「(1)学術に関する情報処理の体制の整備に関し、企画し、及び援助と助言を与えること」、「(2)学術に関する資料の収集、保存及び活用に関すること」、「(6)国立大学の附属図書館、国立大学の学部に附属する研究施設等における学術に関する情報資料の収集、保存及び活用に関すること」、「(7)大学又は研究機関の附属図書館その他の学術に関する図書施設に対し、学術の振興のための援助と助言を与えること」、「(8)大学の附属図書館に関する基準を設定し、並びにその組織及び運営に関し、援助と助言を与えること」、と具体的に触れている。

2.大学設置基準

 国立大学以外の公私立大学における図書館の設置については、公立大学の場合は地方自治体の条例の中で規定されていることが多い。これに対して私立大学の場合は、「学校教育法施行規則」(昭和22年5月23日文部省令第11号)第1条の「学校には、その学校の目的を実現するために・・・図書館又は図書室・・・を設けなければならない」と「大学設置基準」(昭和31年10月22日文部省令第28号)が法的根拠となっている。
 大学設置基準はもちろん私立大学だけでなく国公立大学にも適用されるが、国立大学は前述の国立学校設置法によって直接的に図書館の設置が規定されている。
 大学設置基準は、単に大学設置に必要な基準を定めるだけではなく、それらの基準は「大学を設置するのに必要な最低の基準」(第1条第2項)であり、「その水準の向上を図る」(第1条第3項)ことを明確に求めている。
 また同基準は、「教育研究水準の向上を図り、当該大学の目的及び社会的使命を達成するため、・・・自ら点検及び評価を行う」(第2条)ことを要請している。

(1) 図書館

 大学設置基準は、第36条において「大学は、その組織及び規模に応じ、少なくとも次に掲げる施設を備えた校舎を有するもの」と規定し、「図書館、医務室、学生自習室、学生控室」(第36条第1項第3号)をあげている。
 このように、大学図書館は大学にとって必要不可欠なものとして位置づけられているが、それは単に建物・施設としての図書館を意味しているのではない。大学図書館がその使命を発揮するために、機能としての図書館についても言及している。
 第38条では、「学部の種類、規模等に応じ、図書、学術雑誌、視聴覚資料その他の教育研究上必要な資料を、図書館を中心に系統的に備える」こととしている。資料の収集や提供についても「資料の収集、整理及び提供を行うほか、情報の処理及び提供のシステムを整備して学術情報の提供に努める」(第38条第2項)だけでなく、そのために「他の大学図書館等との協力」の必要性にも触れている。
 さらに図書館が「その機能を十分に発揮」するためには図書館員が必要なことを認め、「専門的職員その他の専任の職員を置く」(第38条第3項)と定めている。
 設備については、「適当な規模の閲覧室、レファレンス・ルーム、整理室、書庫等」(第38条第4項)を備え、「学生の学習及び教員の教育研究のために十分な数の座席」(第38条第5項)を有することが求められている。

(2) 大学設置基準の大綱化

 「大学設置基準の一部を改正する省令」(平成3年文部省令第24号)が平成3年6月に公布された。この改正の趣旨については、「大学設置基準の一部を改正する省令の施行等について」(平成3年6月24日文高大第184号)の中で、「個々の大学が、その教育理念・目的に基づき、学術の進展や社会の要請に適切に対応しつつ、特色ある教育研究を展開し得るよう、大学設置基準の大綱化により制度の弾力化を図る」と述べられている。
 図書館に関していえば、平成3年の大学設置基準の大綱化以前は、座席数や図書・学術雑誌の冊数・種類数について具体的に量的な規定をしていた。しかし、量的な基準は最低基準として規定されているにもかかわらず、実際にはその基準をクリアーすればよいと考えられがちであった。また、量的基準は質的な要素を伴わなければ意味がない。
 そこで平成3年の大綱化においては、質的な面にも留意するよう、図書・学術雑誌の冊数・種類数についての規定を廃止し、学部の種類や規模などに応じて必要な資料を系統的に備えるように規定された。座席数についても、学生総数の5%を最低としていたが、学習・教育研究のために十分な数という表現に改正された。
 また大綱化にあたっては、図書館が図書等の資料を提供するだけでなく、学術情報を提供するためにシステムを整備すること、資料の提供や設備の整備だけでなく、図書館機能を発揮させるものとして必要な専門的職員を配置すること、教育研究を促進するために図書館に必要な施設を備えること、が明記された。

3.大学図書館に関する指針

 国立学校設置法のように法的な拘束力はないものの、大学図書館に関する指針として「大学図書館施設計画要項」(文部省管理局教育施設部)、「国立大学図書館改善要項及びその解説」(国立大学図書館改善研究委員会)、「大学図書館基準」(大学基準協会)が参考になる。ただし、いずれも策定された時期が古く、内容も必ずしも現在の大学図書館の状況にそぐわない点がある。

(1) 大学図書館施設計画要項

 大学図書館施設計画要項は、昭和38年11月に大学図書館施設の整備改善の方策について検討を着手し、昭和41年3月に文部省が発表したもので、大学図書館施設に留まらず、組織・運営のあり方にまで及んでいる。

1) 基本要項

 大学図書館を機構上から中央図書館、分館、部局図書館さらに「これに準ずるもの」に分け、それぞれの役割や条件について述べている。さらにこれらを機能上から学習図書館、研究図書館、総合図書館、保存図書館の4種類に分け、そのあるべき機能とサービス、施設等に言及している。
 また大学図書館の具体的な任務や、資料の集中管理方式、分散管理方式について述べている。
 資料の配置や冊数の基準、大学図書館の具体的な設備、閲覧座席数についても触れている。

2) 全体計画立案に関する指針

 大学図書館の施設計画を作成する際の基本方針を解説し、中央図書館と総合図書館、集中管理方式と分散管理方式、保存図書館などについて、どのような条件のもとに計画を立てるべきかについて述べている。
 また、図書館と学部施設との配置の関係についても触れている。

3) 施設の計画

 施設の計画にあたって考慮しなければならない原則を指摘し、接架方式やモデュラープランニング、閲覧者のチェックの方法について述べている。
 さらに、利用関係施設、収蔵関係施設、業務関係施設などについて具体的に注意すべき点を挙げている。
 また、図書館の必要面積について表があげられている。(必要面積一覧表は、平成11年度から改定された。)

(2) 国立大学図書館改善要項及びその解説

 新学制に切り替わったことに伴い、大学図書館が新学制における使命に応じてその機能を発揮することができるように整備改善されることを目的に、昭和27年11月に文部省の国立大学図書館改善研究委員会が作成したものである。
 内容としては、大学図書館の使命、機構と運営、職員組織、学生に対する運営の改善、教官に対する運営の改善、施設の充実、蔵書の基準、職員数、経理及び予算などについてしている。別表として組織機構図、参考として事務分掌事項が付けられている。
 さらに、「解説」において「改善要項」の内容について補足するとともに、図書館用語を説明している。

(3) 大学図書館基準

 昭和27年6月に大学図書館の向上基準を定めることを目的に、大学基準協会が決定したもので、昭和57年に改正されている。
 内容は、図書館の機能と業務、職員、施設・設備、組織および管理運営、予算、相互協力などについて触れられている。


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