第2部 図書館職員の確保・研修・処遇のあり方について

A 提言

 平成11年1月に実施した、大学図書館における組織・機構の改善等に関するアンケート調査の集計結果及び当特別委員会における審議を踏まえ、当特別委員会としては、次の提言を行うものである。
 なお、提言のうち、1〜4については、平成11年11月に開催された国立大学図書館協議会理事会に提案し、承認を得、既にその実現に向けて活動を始めたものもある。
  1.  インターネットやSCSを利用した研修の実現を図る。
     加盟館の協力を得て、インターネットやSCSを利用して電子図書館に関する研修を実施する。

  2.  学術情報センターに対し、図書館職員対象の研修の充実拡大を要望する。
     その一環として、インターネットを利用したNACSIS−ILL、NACSIS−CATの遠隔研修の実施を要望する。

  3.  図書館の新任管理職を対象にした研修の実現を図る。
     研修の実現を目標として、簡便なテキストを国立大学図書館協議会にワーキンググループを設置して作成する。

  4.  大都市圏以外の地域の大学においても、図書館学U種合格者の採用が容易になるような具体的方策を実施する。

  5.  各大学図書館において図書館情報学資料を充実させるとともに、学生に対し図書館学U種試験の広報を行うなど、職業としての大学図書館職員への関心を高め、地域での受験を喚起する。

  6.  講師派遣による研修など、所属大学にいながらにして受講できるような研修について関係機関に働きかけるとともに、加盟館の協力により具体化を図る。

  7.  大学図書館間の人事交流について加盟館の協力体制を強化するとともに、庶務・会計等学内の他の事務職員との交流について、各加盟館が職場の活性化に役立つと考える範囲において、当該大学の人事担当部門と協議しつつその具体化を図る。

B 分析

1 採用等について

 (1−1)平成8年度から10年度までの3か年の欠員及び補充の状況を調査したところ、補充できなかったのは平成8年度の2名のみであった。補充の方法(新規採用、学内他部局からの配置換、学外からの転任)としては、年度によってかなりばらつきがあり、一定の傾向性は見られなかった。
 図書館学U種合格者からの新規採用は、補充数の4分の1程度であり、一般職員による補充が補充数の3分の1程度を占めている。なお、自由記述の回答の中には、地方大学では図書館学U種合格者の採用がむずかしいという意見もあった。
 なお、図書館学U種の合格者数は平成7年度46人、8年度78人、9年度29人であり、そのうちそれぞれ24人(52%)、37人(47%)、26人(90%)の合格者が国立大学図書館に採用されたことが分かった。

2 図書館職員に求められる知識及び技術について

 (2−1)大学図書館をめぐる環境が著しく変化している時代にあって図書館職員に求められる知識及び技術の必要度と充足度を質問したところ、多くの項目は必要度はあるが、充足度が「イ 一部充足できている」という回答が多かった。このことから、必要としている知識、技術を有する職員が必ずしも十分には得られていないことが窺われる。
 必要度の「ア 非常に必要としている」が高得点だった項目は「Bコンピュータ・ネットワークを活用して情報を収集・発信する知識及び技術」、「C利用指導に関する知識及び技術」、「E資料・データベースの利用(事典、辞書、その他二次資料・データベースによる検索法等)に関する知識及び技術」であり、高度の知識及び技術による利用者サービスの拡充が特に要求されていることが明らかとなった。また必要度が「ア」で高いが充足度が「ア ほぼ充足できている」であるものは「@ソフトウェアを駆使して業務システムを構築・改善する知識及び技術」で5.1%、「Aハードウェアの導入・維持・管理に必要な知識及び技術」で8.1%、「I国書、漢籍、古文書等資料の取扱い、整 理法等に関する知識及び技術」で2.0%などで、高度に専門的な知識及び技術を持つ職員については充足度が低く、職員の異動もままならない様子を窺うことができる。
 また自由記述の回答の中には、単に図書館サービスに関する知識及び技術だけではなく、学問の動向や大学行政等についての関心と知識に基づく企画力・マネジメント能力を期待する意見が多かったことが特徴的であった。
 (2−2)必要度はあるが充足度が不十分とする理由の第一位は「現有職員の中での養成が難しい(38.7%)」という回答であったことは、対応策の難しさを痛感させられるものであった。
 しかしながら一方で(2−3)新しい時代に対応しうる図書館職員を確保・育成するために必要な施策としては91大学が研修の充実を選んでおり、高度な知識及び技術を習得させる適切な研修を充実するための具体的な施策への強い期待が窺われる。研修の充実に次いで多かったのが、大学の図書館学教育の改善に対する希望であったことが注目される。
 (2−4)英語検定試験、情報処理技術者試験等により図書館業務に関連した資格をとることについては、「ア 大いに奨励すべきである(37.4%)」と「イ 賛成であるが、職員の自主性にまかせるべきである(59.6%)」で97% を占めた。社会的に認定された資格をとることへの強い関心が窺われる。
 (2−5)図書館職員の中の大学院修了者は、修士課程が61人、博士課程が2人と、予想以上に多く、専攻分野も図書館学を始め哲学、国文学、経済学、数学、生物学等々と多彩であることが判明した。今後、図書館職員の処遇改善を検討する際の一つの参考データとなった。

3 研修について

 (3−1)最近3年間に図書館業務に関する館内研修を実施したかどうか聞いたところ、実施したという回答が96件あった。テーマ、レベルとも様々であるが、電子メール、インターネット、ホームページに関連する研修は全体の11.6% に達している。
 (3−2)学外で行われるものでは、最近3年間に82種類の研修に延べ2000人を越える職員が参加している。参加者数が多いのは、目録システム地域講習会(322人)、図書館等職員著作権実務講習会(216人)、NACSIS−IR地域講習会(207人)、国立大学図書館協議会シンポジウム(205人)、ILLシステム地域講習会(178人)、大学図書館職員講習会(157人)である。
 (3−3)学外の研修についての希望は13件あったが、学術情報センターの情報ネットワーク担当職員研修の参加者数を増やしてほしい希望が3件あった。絶対数として多いとは言えないものの、コンピュータ・ネットワークを活用して情報を収集・発信する知識及び技術が強く求められているという調査結果を考え合わせると、情報ネットワークに関する研修に対する需要度の高さが表われているものと見ることができよう。
 (3−4)今後どのような企画の研修を希望するか、という質問には69件の回答があったが、コンピュータとネットワークに関連する研修の希望が34件(49%)を数えた。(3−3)と併せて学術情報センターへの要望項目として検討が必要と思われる。
 (3−5)また、研修会の実施方法についての希望は61件あったが、ビデオ、e−mail、SCS等を活用した研修や講師派遣の研修など、所属大学にいながらにして受講できるような方式の希望が31件もあった。逆に、先進的な大学図書館等へ一定期間職員を派遣して行う実務研修の希望も12件あった。
 (3−6)職員に研修を受講させる上での問題としては「ア 職員が少ないため、業務が停滞もしくは停止してしまう(71大学)」、「イ 旅費が少ないため参加させにくい(66大学)」のいずれも多く、所属大学にいながらにして受講できるような方式に対する希望が出てくる背景を物語っている。

4 処遇について

 (4−1)大学の職員組織の中で図書館職員はどのように処遇すべきかという質問に対しては72件の回答があったが、明確に専門職としての俸給体系を設けて処遇改善を図るべきであるとするものが28件、現状のままで処遇の改善を図るべきであるとするものが24件であった。将来的には専門職としての俸給体系を設けることができるとよいが、専門職制度が確立していない日本の現状ではむずかしいので、当面現状の体系の 中で処遇改善を図ることが望ましい、という趣旨の回答も二三見ることができた。全体としてもこのような理想論と現実論が分散したものと解釈することができよう。
 (4−2)現状の体系の中で図書館職員の処遇を改善する方策としては圧倒的多数の72大学が「図書館専門員のポストの増」を挙げている。

5 人事交流について

 (5−1)図書館職員同士の大学間の交流人事を積極的に進めることについては88大学が「賛成」、1大学が「不賛成」、10大学が「どちらともいえない」と回答している。
 (5−2)すでに大学間交流人事を行っている館から49件の問題が挙げられた。問題は、調整手当、年齢構成、研修参加機会にアンバランスが生じるといった処遇に関すること、もどりポストの確保がむずかしい、特定地域内では限界がある、といった人事配置に関することに分けられる。
 (5−3)庶務、会計等、他職種での経験を積ませることについては59大学が「賛成」、5大学が「不賛成」、34大学が「どちらともいえない」であった。
 (5−4)「賛成」とした館が適当な部署として選んだ(複数回答可)のは、「会計系(50)」、「情報処理系(48)」、「庶務系(34)」、「国際交流系(27)」、「研究協力系(24)」、「学生系(17)」の順であった。
 (5−5)具体的な方法についての質問には60件の回答があったが、ほとんどが20代ないし30代のうちに2〜3年学内他部局での経験を積ませるのが望ましい、としている。ほかに新規採用職員を1か月程度庶務、会計で研修させる、係長等職員を2か月程度学内他部局で研修させる、といった案もあった。
 (5−6)逆に「不賛成」、「どちらともいえない」とした館に理由を聞いたところ、職員が少なくてそれだけの余裕がない、という趣旨のものがほとんどであった。代替措置として、会計的知識についての短期の研修に参加させる、図書館の総務係を経験させる、などの意見が見られた。
 (5−1)から(5−6)については、具体化する場合どのような手順で進めるのがよいか検討する必要がある。

6 図書館職員採用のための試験制度について

 (6−1)現行の試験制度について意見を求めたところ32件の回答があった。
 試験区分の名称を「図書館学」から「図書館情報学」に改めることに賛成するとしたものが8大学あった。それに関連して、情報処理に関する問題を増やすべきである、語学力(英会話)も判定項目に加えるべきである、とする意見があった。また地方大学では試験合格者の採用がむずかしいので、合格者数を増やしてほしい、地区毎に採用できるような方式をとってほしい、などの意見があった。地方大学でも試験合格者の採用が 容易になるような方策を検討する必要がある。
 (6−2)「図書館情報学」を国家公務員採用T種試験に加えることについては「必要である(20大学)」、「必要でない(13大学)」、「どちらともいえない(58大学)」と意見が分かれた。「どちらともいえない」と回答した館の中には「T種試験のあり方そのものが問われている」と指摘するものもあった。
 (6−3)T種試験に加えることが必要であると回答した館にT種試験合格者の採用後の処遇のあり方についてたずねたところ、大学図書館において経営にたずさわる要員として処遇し、場合によっては館長に昇任できる途を開くべきだ、といった趣旨の意見と、本省において大学図書館行政にたずさわる幹部職員として処遇すべきだ、といった趣旨の意見があった。
 一方、人事院は平成11年3月19日付で「U種・V種等採用職員の幹部職員への登用の推進に関する指針」を各省庁に通知するとともに、T種技術系試験区分については見直しを行い平成13年度試験から現行25区分を10区分に再編(大括り化)することを発表しており、T種試験の区分を増やすことは現状では極めて困難な状況である。

7 管理職の研修について

 (7−1)図書館業務の経験しか持たない新任管理職に人事、予算等に関する知識を、一方、図書館業務の経験を持たない新任管理職に図書館業務の内容に関する知識を研修を通じて与えることについて聞いたところ、「必要である」とする大学が83と圧倒的に多かったので、その具体化について検討する必要がある。
 関連して、館長にも類似の研修が必要である、とする意見があった。

8 その他

 その他の自由意見は21件あった。内容は様々であるが、他の項目には見られなかった意見としては「女性職員の能力を生かす職場環境にする必要がある」、「小学校、中学校、高等学校、大学のカリキュラムの中に図書館学の授業を導入する」などという意見が注目される。


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