第1部 大学図書館の組織・機構及び業務の改善について

A 検討結果のまとめ

〈はじめに〉

 第45回(平成10年度)総会における本特別委員会の設置に当たって付託された検討事項のうち、「大学図書館の組織・機構」に関わる事項は次のとおりである。

(1)図書館の組織及び機構の改善についての具体的方策
(2)学内類縁機関を含めた新しい図書館組織のあり方
 その後、第46回(平成11年度)総会及び総括理事会において、新たに次の検討事項が付託された。
(3)図書館業務の外部委託(人材派遣を含む)と図書館職員の専門性について
 以上3つの事項について、先に実施したアンケート調査の結果とその後の状況を踏まえて検討した結果は以下のとおりである。
 この検討結果を取りまとめるに当たっては、各大学の規模、学部構成等が異なる上、さまざまな特殊事情を抱える100の図書館に対し、画一的な改善方策を提案することは困難かつ不適切であることを考慮し、アンケート調査の回答に現れた各図書館のさまざまな改善試みの中から、注目すべき動向や事例を特徴づけるにとどめたことをあらかじめお断りしておきたい。
 なお、検討事項(1)「図書館の組織及び機構の改善についての具体的方策」を検討するに当たっては、これに関連する「業務の改善方策」と切り離して論ずることは適切でないとの見地に立って、以下の検討結果のまとめにおいては、検討事項(1)の表題を「大学図書館の組織・機構及び業務の具体的な改善方策について」とした。

1 図書館の組織・機構及び業務の具体的な改善方策について

  1.  大中規模大学を中心として、中央図書館、分館、部局図書室等からなる全学的な図書館組織体制のあり方を見直す気運が高まっている。より適正な定員配置と効率的な業務処理を図るため、分館、部局図書室等の統合再編や中央図書館への業務、定員等の集約化、一元化を目指す方向が顕著になりつつある。
  2.  多くの大学において、定員削減や学内の事務一元化、電子図書館的機能の強化等への対応策として、図書館事務部(課)内における係(掛)の統合・再編成が進められている。これまでのところでは、こうした統合・再編成の動きは既存の係(掛)数を維持する形で進められているが、近い将来において定員削減がさらに進行した場合、従来の係(掛)組織を維持することが困難になることも予想される。今後は、従来の係長に代わる専門職員の設置についても積極的に検討する必要があると思われる。
  3.  学内の事務一元化の結果として、多くの大学では契約事務等の事務局一元化が進められているが、図書・雑誌等の図書館資料の契約については、引き続き図書館で扱うとされている場合がほとんどである。今後さらに図書館の定員削減が進行した場合、図書館資料の契約事務を引き続き図書館で扱うことが適切かどうかを検討する必要が生じることも予想される。
  4.  学内の事務一元化への対応策として、いくつかの大学では、図書館事務部を事務局の内部組織に一元化する構想が検討されている。このような組織形態は、新構想大学では既に実現しており、学内における共通部局としての図書館の立場をより強化する上で有力な手段となる可能性があることから、今後さらに積極的な検討を進める必要があると思われる。
  5.  電子図書館的機能の強化等に関連して、図書館における研究開発機能を強化する必要性が指摘されているが、これまで大規模大学に限られていた研究開発室の設置が、近年、中規模大学にも徐々に拡大しつつあることは注目すべき動向といえる。
     研究開発室の運営に当たっては、専任教官の配置と財源の確保が今後の課題として残されている。
  6.  定員削減等への対応策として、各大学で業務の効率化・省力化のためのさまざな努力が行われている。このためには、必ずしも専門的な知識・技術を必要としない単純作業をできるだけ自動化(機械化)することが肝要である。また、場合によっては特定のサービスを利用者のセルフサービスに委ねることも検討する必要がある。
     この点から、自動貸出(返却)システムの導入によって顕著な省力化の効果を上げている大学の例が注目される。
  7.  極めて厳しい定員事情の下で図書館サービスをさらに拡充していくためには、特定の図書館機能の遂行のために一般市民のボランティアや学生のティーチング・アシスタント(TA)等に協力を求めることも検討する必要がある。ボランティアやTAの導入に当たっては、図書館職員の業務とボランティアやTAに依頼する活動を適切に切り分けることが最も重要である。
2 学内類縁機関を含めた新しい図書館組織のあり方について
  1.  図書館は、総合情報処理センター、大型計算機センター等の学内情報関連組織と機能的・組織的な連携を強化することにより、電子図書館的機能や研究開発機能の拡充・強化を図るとともに、大学全体の情報基盤を整備・強化することが求められている。
  2.  大規模大学では、大型計算機センター、教育用計算機センター等と図書館組織の一部を統合して、「情報基盤センター」を設置する動きが始まっている。「情報基盤センター構想」は、図書館が今後、電子図書館的機能や研究開発機能を強化していく上で大きな可能性を有しているが、一方この構想では、図書館機能の中核を構成する電子図書館部門や研究開発部門が附属図書館組織の外に出てしまうことから、図書館としての一体的で円滑な意思決定プロセスがどのように確保されるかということが今後の課題として残されている。
  3.  中規模大学では、図書館と総合情報処理センター等との組織的な統合はまだ実現していないが、少数の大学では既に検討が進められている。その際、教育研究組織としての総合情報処理センター等だけでなく、事務局の情報処理部門を含めた大学全体の情報基盤施設を設立する可能性や、各種の情報関連組織の事務部門を横断的に統合する「情報事業部」を設置する可能性が検討されているのが注目される。
  4.  単科大学等では、もともと情報処理センター等の事務を図書館が所掌しているケースもあり、今後の組織的連携の可能性はかえって大きいとも考えられる。
  5.  近年、いくつかの中小規模大学において、図書館の新築または増改築に当たって、図書館と総合情報処理センター等との複合施設が建設される例が増加しつつあるのは注目すべき動向である。複合施設の建設に当たっては、図書館と総合情報処理センター等との間で、今後、両者の機能的・組織的な連携をどのように進めていくかを十分に検討しておく必要がある。
3 図書館業務の外部委託(人材派遣を含む)と図書館職員の専門性について
  1.  定員削減への対応策として、組織・機構の見直しや業務の自動化等による合理化・省力化と並んで、図書館業務の外部委託(人材派遣を含む)が広がりつつある。特に近年注目されるのは、もともと図書館職員がこれまであまり従事していなかった周辺業務(館内清掃、警備、学内配送、製本等)や臨時的業務(遡及入力、時間外開館等)から、これまでは図書館業務の中核と見なされていた業務(通常の目録、閲覧業務等)にまで、業務委託の範囲が徐々に拡大していく傾向が見られることである。
  2.  大幅な定員削減が今後も続くことが予想される状況の下では、この傾向はある程度まで避けられないことである。今後の図書館運営に当たっては、業務改善のさまざまな方法を検討する際、業務の外部委託を選択肢の一つとしてこれまでよりも積極的に考慮せざるを得ないだろう。
  3.  他方において、図書館業務の中で図書館職員の専門的業務として外部委託になじまない業務が依然として少なくないことについても十分に留意する必要がある。
     特に近年、電子図書館的機能の充実・強化をはじめとして、情報リテラシー教育への支援機能など新たな大学図書館機能(サービス)の一層の強化・高度化が求められている状況の下では、図書館職員の専門的業務の範囲は従来にない新たな広がりを獲得しつつあるといえる。
  4.  今後特に重要性を増すと考えられる図書館職員の専門的業務として、従来の参考調査業務等のほか、図書館運営のための企画立案業務、選書業務、情報リテラシー教育への支援業務、電子情報サービスに係る評価・案内業務などを強調する必要がある。
  5.  図書館業務の外部委託と図書館職員の専門性の問題に関連して、今後、今日的な視点に立って図書館業務の全体的な分析を進め、外部委託の対象として検討可能な業務と、図書館職員の専門的業務として維持すべき業務をさらに明確にしていく必要がある。
  6.  なお、業務の外部委託を円滑かつ効果的に進めるためには、現行業務の作業手順などが詳細かつ明確にマニュアル化されていることが重要な前提条件になることを十分に留意する必要がある。
〈おわりに〉

 以上の検討結果のまとめにおいては、国立大学の独立行政法人化の動向等についてはまだ考慮されていない。独立行政法人化が実施される場合には、まったく違った諸前提の下にこの問題を検討し直すことが必要になると思われる。その意味で、今回の検討結果は極めて暫定的な性格を免れないことを付記しておく必要がある。


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