IV.資料電子化に伴う具体的な著作権処理について

1. はじめに
 新しく資料の「電子化」を計画している図書館が、まず、最初にしなければならないことは、対象資料の「電子化利用」に関わる著作権の問題をどう解決していくかの方針を決めることである。ここでいう「電子化」とは、ネットワークを介して提供することを前提として資料をデジタル化して蓄積すること、また、「電子化利用」とは電子化するために元資料を利用することと定義する。次に、その方針に基づいて許諾処理を進めていくことになるが、一度方針を決めて実行に移すと後戻りできなくなる場合があるので、方針決定は慎重に行わなければならないと考える。
 著作権の問題を解決する方法は色々あり、どのやり方がその図書館にとって最適な方法であるのかをまず検討する必要がある。そのためには、先行している館の著作権処理の実情を知り、それらを評価することにより、自らの採るべき道が見えてくるかも知れない。また、著作権処理の実際の手続きについて、先行している館の著作権処理の手法や様式等が具体化のために参考になると思われる。本資料は、実運用している電子図書館の資料電子化に伴う具体的な著作権処理について実例を交えて解説したものであり、著作権処理のために少しでも役立つことがあれば幸いである。

2. 著作権処理の必要性
 人間の知的な精神活動の所産に関する権利である知的所有権には、主に産業的創作を保護する工業所有権と文化的創作を保護する著作権がある。著作権は、著作者等に付与される期限付きの排他的・独占的な権利であり、財産権として譲渡可の狭義の著作権と人格権として譲渡不可の著作者人格権、並びに実演家等の権利である著作隣接権で構成される。
 電子化利用のためには、著作権者から許諾を得る等の権利処理を行うことが原則であるが、文化的所産である著作物の円滑な利用が妨げられることがないように、一定の場合に限り権利の制限を行い、著作権者に許諾を得ることなく著作物を利用できるようにしている。従って、図書館が電子化を行いたいと考えている資料(以下「電子化対象資料」という。)を
図1の「権利処理のプロセス」に照らし合わせ、著作権処理が必要であるかどうかを判定する必要がある。

(1)著作物か?
 著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法第2条1項1号(以下「著作権法」を省略))と定義されており、一般的に図書館等で扱う雑誌、図書、論文は言語の著作物(文書著作物)、ビデオは言語の著作物(演術著作物26))又は映画著作物である。また、講演・講義は言語の著作物(演術著作物)である。
 ただし、復刻版や写本等のように単に複製しただけのものや50音順電話帳等のように事実を列挙しただけで創作性が認められないものは著作物ではない。また、事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は著作物ではない(第10条第2項)と規定されている。
 よって、電子化対象資料が著作物でなければ許諾を得ることなく電子化利用が可能である。

(2) 保護対象か?
 保護を受ける著作物として以下のものが対象になる(第6条)。従って、これに該当しなければ自由に電子化利用ができる。また、著作物であっても著作権がないとされている法令・判決等(第13条)自由に電子化利用できるものもある。
  • 日本国民の著作物(国籍主義)
  • 最初に日本国内において発行された著作物(発行地主義)
  • 条約により我が国が保護の義務を負う著作物(台湾、アフガニスタン、イラン、シリア等13カ国は条約未加盟)
(3) 保護期間内か?
 原則として著作者の死後50年間(第51条)、団体著作物等は公表後50年間(第53条)は保護される。なお、外国の著作物等については保護期間への戦時加算が必要なものがあり注意を要する。期限が切れている場合は、著作者の人格を損なうことのない範囲内で自由に電子化利用ができる。

(4) 自由に利用できるか?
 権利の制限規定(第30条〜第50条)が適用できれば、自由に利用できる。権利の制限規定のうち電子図書館に関わるものとして第31条が上げられる。
 図書館等は、第31条により、その利用者の求めに応じて当該利用者の調査研究の用に供する場合や、図書館資料の保存のため必要がある場合等に限り、著作権者の許諾を得ずに著作物を複製することができる、と規定されている。
 しかし、権利の制限規定は著作権者の利益を不当に害するおそれが低くかつ公益性が高いものが対象であり、図書館資料保存のためのデジタル化による複製を許容する見解25)もあるが、一般的に電子図書館の実現のために必要な複製に適用することは困難であると考えられている。23)また、公衆送信権・伝達権については、図書館等での利用についての著作権の制限規定はない。

(5) どういう権利が関わってくるか?
 電子図書館を実現するためには以下の処理が最低限不可欠であり、これらの処理を行うためには著作物に対しそれぞれの権利が関係するとともに、これらの権利は著作権者が専有するものである。
  • 著作物の内容をデジタル化し、ハードディスク等の装置に蓄積すること(複製権:第21条)
  • 蓄積した情報をネットワークを経由して提供すること(公衆送信権:第23条。ただし、有線で同一構内の場合は権利は発生しない。第2条第1項7の2)(ネットワーク利用を前提としたサーバへのアップロード等の送信可能化権を含む。)
  • 蓄積した情報をダウンロード及びプリンターで印刷すること(複製権:第21条)
(6) 結論
 電子図書館の実現、すなわち、資料をデジタル化して蓄積し、ネットワークを介して提供することによって、多数の利用者が同時にその資料を印刷やダウンロードも含めて使用することが可能になる。著作権で保護されている資料をそのような形態で利用するためには、予め著作権者に著作物の利用許諾を得なければならない。また、必要である場合はその利用に当たって相応な対価を支払わなければならないと考えられる。

図1.権利処理のプロセス

3. 著作権処理の方法
 資料電子化に伴う著作権処理の方法について、事例と対比させるために一般的に考えられる方針・手順・許諾内容及び条件等を以下のとおり示した。

3.1 著作権処理の方針
(1) 自らが著作権者に電子化利用の許諾を得る(第63条)
 著作権者のところに直接出向くか依頼文書を郵送するか等の方法により電子化利用の許諾を得る方法であり、多くの場合はこの方法が採用されている。最終的に合意した証として許諾条件等を明文化したものを残しておく必要がある。

(2) 出版権の設定を受ける(第79-88条)
 著作権者と出版契約を結び、文化庁に登録した上で、排他的・独占的に出版する権限を得る方法である。ただし、「文書又は図画として出版すること」(第79条第1項)と規定されており、紙媒体に限定されているので、通常は電子図書館事業には適用できない。

(3) 著作権の譲渡を受ける(第61条)
 財産権である著作権を有償あるいは無償で譲渡してもらう方法である。学協会の場合はこの方法で権利処理をしていることが多い。1995年に行われた国内の科学技術関係132学協会170雑誌を対象とした投稿規定の調査では、著作権の記載があった128誌のうち108誌84%について「掲載された論文等の著作権(著作財産権,copyright)は原則として本会に帰属する」であったことが報告されている。1)

(4) 裁定による著作物の利用(第67-74条)
 相当な努力を払っても著作権者が不明である場合や著作権者はわかるがその連絡先が不明で交渉することができない場合に、著作物の利用方法等を記した申請書を提出し、文化庁長官の裁定を受け、補償金を供託することによって著作物を利用する方法である。後述する国立国会図書館での実例がある。

(5) 著作権管理団体による許諾
 著作権処理を集中的に行っている団体を通じて利用許諾を得る方法であり、著作権者が異なっていてもそれらをまとめた一括契約が可能となり、利用条件や許諾料等を統一し易くなると共に、著作権者を探し出したり交渉したりするのに必要なコストは不要になるので、許諾を受ける側としては都合がよい。後述する奈良先端科学技術大学院大学での実例がある。

(6) 著作権処理済みの電子化資料の購入
 電子化利用を前提として商品化されている資料、例えばエルゼビアサイエンスのサイエンス・ダイレクト・オンサイトやジェムコ・ビデオ・ライブラリVOD等の導入による利用が考えられる。

(7) 投稿規定に盛り込む
 紀要等の学内生産物の場合は、(3)の著作権の譲渡を受ける方法が望ましいが、それが実現出来ない場合は、二次利用として電子化利用を投稿規定に盛り込み、自動的に許諾を得る方法がある。

3.2 著作権処理の手順

3.2.1 個別・一括依頼方式
 著作権者個々にあるいは著作権管理団体を通じて一括で依頼し許諾を得る方法である。学内生産物及び学外生産物とも最も一般的な方法と考えられる。

(1) 意思決定機関の設置
 著作権処理を大学の意思で行っているということを明確にするために、図書館委員会やその下の部会等に著作権処理の方針策定のための意思決定の機能や機関を設置することが望ましい。

(2) 文書・様式の作成
 依頼文書・回答文書、許諾書等の様式を作成し、図書館委員会等でオーソライズする必要がある。

(3) 依頼文書の送付・交渉
 著作権者のところに直接出向いて面談交渉を行うか、あるいは、関係書類を郵送し、検討してもらい交渉する方法がある。後者については必要があれば電話・電子メール等で連絡する場合もある。
 許諾内容や条件についてはあらかじめ提示しておき、具体的な話し合いの中で許諾書の内容を調整しお互いに納得ができるものを確定していく方法や許諾内容や条件に選択肢を設けておき著作権者にチェックしてもらう方法等がある。

(4) 許諾書の受理
 著作権者から許諾書を受理する。なお、許諾が得られない場合はその理由説明を求め、方針や手順の改善のためにフィードバックする。

(5) 許諾料の支払い
 有償の場合は相応な許諾料を支払う。金額算定のための明確な基準はないが、日本複写権センターの使用料の算出方法や先行館の実績等が参考になると思われる。また、そのための予算をあらかじめ準備しておく必要がある。

3.2.2 登録申請方式
 主に学内生産物を対象として、著作権者から利用許諾の申請を待ち受ける方法である。筑波大学がこの方法を採用している。

3.2.3 必須書類抱合せ方式
 主に学内生産物を対象として、提出が義務づけられている書類、例えば学位審査請求等と抱合せて許諾書を提出してもらう方法である。奈良先端科学技術大学院大学で学位論文の電子化利用のために採用している。

3.3 許諾内容及び条件
 複製権や公衆送信権等個々の権利に関わる許諾内容及び条件については、必要なものは明文化し確認した後に、許諾書として提出してもらうか、あるいは、2部作成しお互いが保管しておくかする必要がある。

(1) データ作成の方法、蓄積媒体、蓄積・提供のためのデータの範囲
  • データの作成方法
    イメージスキャナでの入力やファイル変換等
  • 蓄積媒体
    サーバのハードディスク、磁気テープ、CD-R等
  • 蓄積・提供するデータの内容・範囲
    全文か要旨のみか。
    蓄積・提供フォーマットは何か。
    蓄積・提供するのはテキストかイメージかその両方か。
    テキストの種類(例:HTMLやSGML等)、イメージの種類(例えばTIFF,PNG,PDF,MPEG2等)解像度(例えば400dpi等)、階調(例えば2値,8ビット階調等)等
(2) 検索範囲
 書誌、目次、要旨、全文のどの範囲までを検索対象として利用するのか。

(3) データの送信範囲
 学内に限定するのか学内外に公開可能なのか。

(4) 遵守条件
  • 電子化資料が閲覧される際に著作者や著作物名を表示すること、著作物の内容を改変しないこと等著作者人格権の氏名表示権や同一性保持権に関わること。
  • 不正利用の防御策
  • 課金システムの構築
  • 利用状況の報告
  • 目的外利用の禁止
4. 事例(現状と課題)

4.1 学内生産物

4.1.1 筑波大学2) 3) 4)

4.1.1.1 対象資料
 研究紀要、学位論文、研究成果報告書、学事報告及びシラバスを対象としている。平成12年3月10日現在での統計では、登録申請数は全体で843件であり、学位論文が618件と最も多く、次いで研究成果報告が129件と多い。約100タイトルある研究紀要は24件であり、学事報告は28件、シラバスが44件となっている。

4.1.1.2 著作権処理の方針
 「著作権の譲渡」と「利用許諾」の2つの方法のうち、著作権者がほとんど学内の研究者に限られること、電子図書館システムが学習・研究を目的としたものであって営利目的ではないこと、及び学内で生産される研究成果の生産状況を図書館で把握できないことから、著作権処理は後者の著作権者に帰属したまま許諾要件に基づいて利用するという方法を採択している。

4.1.1.3 著作権処理の手順
 図書館が著作権者に許諾を依頼するのではなく、著作権者が利用許諾を前提に電子図書館に登録申請をするという形式で著作権処理の手続きを行っていたが、4.1.1.7(1)に記載されているように、「ただ、待っているだけでは誰も申請してくれない。」3) ということで、4.1.1.6に記載しているような「コンテンツ整備のためのアクションプラン」を実施し大幅な許諾率の向上を図っている。

4.1.1.4 許諾内容及び条件
(1) データの公開範囲
 「全文及び要旨」か「要旨のみ」のどちらかを選択

(2) データの送信範囲
 「学内及び学外」か「学内のみ」のどちらかを選択

(3) 電子化データのフォーマット
 著作権者から提供してもらうフォーマットはPDF、HTML、TeX、ワープロ文書等
 平成12年4月から公開フォーマットをGIFからPDFに変更

(4) 遵守条件
  • 情報の発生元を明示すること。
  • 著作物及びその標題の表現を改変しないこと。
  • 著作者名及び著作権の表示を行うこと。
  • 電子図書館の利用者によるデータの複製(プリントアウト、ダウンロード等)は、調査・研究・教育又は学習を目的とする場合に限定することを明示すること。
4.1.1.5 許諾依頼文書及び許諾書様式等
(1) 筑波大学電子図書館システムへの登録に関する実施要項
(2) 電子図書館登録申請の手引
(3) 電子図書館システム登録申請書(本学紀要等他3種)

4.1.1.6 許諾拡大の取組
(1) 紀要について
  • 各紀要の編集担当者に登録を依頼した。
  • バックナンバーについては執筆者に個々の論文の登録を依頼する予定
(2) 学位論文について
  • 学位申請書類一式に電子図書館システム登録申請書を含めることにした。
  • 各研究科長に依頼書を送付した。
  • 各事務区に依頼書及び登録申請書を配置した。
  • 本学が学位を授与した他大学に所属する教官に依頼書を送付した。
  • 学位授与式の日に、学位取得者に登録を呼びかけた。
(3) 研究成果について
  • 科学研究費成果報告書の研究代表者等に依頼書を送付した。
4.1.1.7 課題・問題点
(1) 図書館が積極的に働きかけないと許諾数が増えない。
(2) 申請者と著作権者が異なる場合の手続きを検討している。
(3) 学会誌の投稿規定には、収録された論文の著作権は学会に帰属するといったような記述があるのに、学会から許可を取らないまま電子図書館への登録申請がなされるといったことがあった。著作権に関する意識向上の啓発活動の必要性を感じている。
(4) 著作権保護を裏付ける技術の確立

4.1.2 奈良先端科学技術大学院大学8)
4.1.2.1 対象資料
 修士論文1,452冊、博士論文128冊、テクニカルレポート56冊が平成12年11月時点での対象数であり、許諾が得られているのは、各々1,349冊、96冊、56冊である。全体で92%程度の許諾率である。

4.1.2.2 著作権処理の方針
 著作権許諾のための手続きをルーチン化し、例えば、著作権者である院生等にとって必須である論文審査の申請手続きの中に組み込み、本人の意思で提出しない以外の提出漏れを防ぐことを基本としている。

4.1.2.3 著作権処理の手順
(1) 情報科学研究科、バイオサイエンス研究科、物質創成科学研究科各々で方針及び承諾書様式を決定
(2) 学位論文の場合は、学位審査請求時に論文審査願と同時に承諾書を各研究科に提出
(3) 承諾書と論文(ファイル、冊子体)をとりまとめ電子化を行う。

4.1.2.4 許諾内容及び条件
(1) データの公開範囲・時期
 情報科学研究科修士論文、博士論文は本文、時期は無条件
 バイオサイエンス研究科及び物質創成科学研究科修士論文は要旨は「無条件」、本文は「無条件」、「1年後」、「2年後」、「学術雑誌に受理後(但し2年後には公開)」から選択
 バイオサイエンス研究科博士論文は本文、1年後

(2) データの送信範囲
 情報科学研究科修士論文、博士論文は学内外
 バイオサイエンス研究科及び物質創成科学研究科修士論文は学内限定
 バイオサイエンス研究科博士論文は学内外

(3) 電子化データのフォーマット
 情報科学研究科はPostScriptファイル、他の研究科は冊子体での提出となっている。

(4) 遵守条件
 情報科学研究科の場合、条件として以下の記載がある。
  • 公開は、非営利の研究・教育目的に限る。
  • 著作者が保持する著作権を尊重すること。
  • 論文を引用する場合は通常の引用手続きに従い、論文の一部を流用する。
  • 電子ファイルの内容を改変しないこと。
4.1.2.5 諾関係書類の様式
(1) 修士論文、博士論文の公開について(お願い)[情報科学研究科]
(2) 承諾書[修士論文]バイオサイエンス研究科
(3) 承諾書[博士論文]バイオサイエンス研究科
(4) 承諾書[修士論文]物質創成科学研究科

4.1.2.6 課題・問題点
(1) 情報科学研究科については電子化ファイルでの提出が義務づけられており、現時点でPost Scriptファイルを活用しているが、その他の研究科については冊子体からの入力であり、元資料の電子ファイル化が望まれる。
(2) 平成11年度以降許諾処理がルーチン化されてからはあまり未提出は見受けられなくなったが、初期の頃は承諾書を取っていない時期もあり、その対応についてはまだ取りかかっていない。

4.1.3 「大学紀要類の電子化に係る著作権処理」について
 大学紀要類の電子化に係る著作権処理について、平成10年2月から3月にかけて全国の98国立大学附属図書館にアンケート調査を行った結果が報告されている。5)それによると、87大学から回答があり、事業ベースで行っている奈良先端科学技術大学院大学、筑波大学、京都大学を除いた84大学中、19大学で大学紀要類(その他の資料を含む)の電子化を行っていた。その内容は2頁にわたる表で紹介されている。その表を基に処理方法という観点から下記の表にまとめてみた。

対象資料の種類 処  理  方  法
許諾書 投稿規定 口頭承諾 委員会承認 著作権消滅 検討中 合計
紀要 2 3 4 3 1 13
図書館報 1 1
古文書類 1 1 2
博士論文(要旨) 1 1 1 3


4.2 学外生産物
4.2.1 神戸大学6) 7)
4.2.1.1 対象資料
 震災資料(図書、雑誌、レジュメ、パンフレット、抜刷、記者発表資料、地図、写真、スライド、CD、FD、ビデオ、録音テープ、点字資料、広報、新聞、チラシ、ポスター等)
 平成12年12月現在21,000件(月に約200件の増加)

4.2.1.2 著作権処理の方針
 著作権者の連絡先を調査した後、個別に無償での許諾依頼をしている。

4.2.1.3 著作権処理の手順
(1) キャプション作成依頼(写真資料のみ)
(2) 基本的なマニュアルがないので、「視覚障害者のために許諾作業を行うサービスマニュアル」
を参考に手順の検討を開始した。
(3) 許諾依頼の文書、許諾対象資料のリスト、回答文書(返信用葉書)の作成。なお、依頼文書の中に問い合わせ先として担当者の名前を記載し、連絡が取れるようにしている。
(4) 電話帳や人名録、会社年鑑等から連絡先の調査
(5) 著作権者に依頼文書(4.2.1.5 (1)(2)(3))を郵送、依頼相手によっては「震災文庫」のパンフレットを同封。写真資料については、キャプションの許諾及びその英訳を含めて依頼。
(6) 著作権者から電話等で資料内容の問い合わせに対して、FAXにて許諾対象資料コピーを送付
(7) 回答文書を受領し、著作権者からのコメント(遵守条件)を確認
(8) 数ヶ月返事がない場合はFAX番号を調べた上で督促
(9) 礼状の送付、資料のデジタル化を開始

4.2.1.4 許諾内容及び条件
(1) 許諾内容
一枚もの資料のデジタル撮影及びインターネットによる提供
「承諾します」「承諾しません」「一部分承諾しません」の3つの選択肢

(2) 遵守条件(著作権者からの付記条件に応じたもの)

4.2.1.5 許諾依頼文書及び許諾書様式等
(1) 「一枚もの資料」デジタル化に伴う著作権者の承諾について(お願い)
(2) *貴殿が著作権者である「一枚もの資料」リスト*
(3) [回答文書](返信用葉書)
(4) 礼状(葉書)

4.2.1.6 許諾拡大の取組
(1) 平成12年秋から、音声資料、動画資料及び全文データの許諾依頼を開始した。音声と動画については、提供方法の検討を著作権者と行っている。

4.2.1.7 課題・問題点
(1) 市販資料及び学術論文等の著作権許諾の困難さ
(2) 一般市民、ボランティア団体の連絡先調査の困難さ
(3) 防災資料利用促進のための、収集資料情報のネットワーク確立が不可欠

4.2.2 奈良先端科学技術大学院大学8)
4.2.2.1 対象資料
  図書館に配置されている雑誌・図書・ビデオ等の全蔵書のうち、利用度の高いものから優先順位を付け、特に優先度の高い学術雑誌を中心に段階的に許諾交渉を進めている。以下は平成12年10月末日現在の数字である。
 学術雑誌(964タイトル)のうち許諾数は214タイトル、許諾率は22.2%
 図書(29,544冊)のうち許諾数は430冊、許諾率は1.5%
 ビデオ(404本)のうち許諾数は83本、許諾率は20.5%、この中には撮影・録画した講演・講義内容のビデオが多く含まれている。

4.2.2.2 著作権処理の方針
 実際に許諾交渉に当たる前に著作者、著作権者、出版権者等について調査を行い、次いで第63条に基づき、著作権者本人に許諾依頼をしている。
 最近は、著作権管理団体の仲介による許諾を進めている。すなわち、平成12年3月から学協会誌のうち未許諾分については、学術著作権協会に依頼し、学術著作権協会から各学協会に申し入れがなされ、許諾が得られた分について、学術著作権協会との間で協定書を取り交わしている。
 なお、学術著作権協会と各学協会は代理委任契約書を取り交わしている。
 また、出版社等出版権者の場合は、出版社のみならず個々の著作者についても許諾を得る場合と、出版社の方で著作者との権利処理を完了した後出版社のみの許諾を得る場合がある。
 無償での許諾を基本としているが、平成8年度に許諾料が予算化されてからは、有償であっても応じられるようになった。

4.2.2.3 著作権処理の手順
(1) 許諾依頼は著作権者のもとに直接出向き説明するか、依頼文を郵送する等の方法によって行っている。面談交渉の説明時に使用する、あるいは依頼文に添付する資料としては次のものを上げている。
  • 雑誌・図書のデータベース化についてのお願い
  • 講演・講義内容のデータベース化についてのお願い
  • 「承諾書(案)」あるいは「著作物利用許諾協定書(案)」
  • 奈良先端科学技術大学院大学電子図書館概要
  • 電子図書館利用案内
  • NAIST教育研究スタッフ
(2) 許諾が得られた場合は、許諾内容及び条件の相互確認のために、承諾書を提出してもらうか、あるいは協定書を取り交わす。

(3) 許諾が得られず保留になった場合は、時間の経過によって著作権者の方針に変化が見られることがあるため、一定期間(1年程度)を置いて再度依頼する。

4.2.2.4 許諾内容及び条件
(1) 許諾内容
  • 資料の内容をデジタル化してハードディスク、磁気テープ等に蓄積し、データベースを作成すること。
  • 資料から検索情報(書誌、目次、全文)を作成し、データベースに蓄積すること。
  • データベースを検索すること。
  • 一次情報(本文)の閲覧・印刷あるいは視聴は、原則として学内利用者に限定する。
  • ただし、著作権者の許諾が得られれば、一次情報(本文)の閲覧・印刷あるいは視聴についても学外利用者に公開する。
  • 有償の場合、適正な許諾料を支払う。現在のところ「(購読料・本体価格)×所蔵数」を許諾料として支払っているものが多い。また、学協会出版物のうち学術著作権協会契約分については、電子化料は1ページ当たり10円を支払うことになっているが、利用者が印刷する場合の印刷料は今後協議して決めることとしている。
(2) 電子化データのフォーマット
 蓄積用フォーマットは一枚単位の400dpi、2値のTIFFか200dpi、256階調のPNGである。文字中心のページは前者で、絵や写真が含まれるページは後者で入力・蓄積している。
公開用フォーマットは記事・論文単位のPDFである。

(3) 遵守条件
  • 情報の発生元を表示すること
  • 許諾対象物の内容は変更しないこと
  • 検索・閲覧及び印刷は非営利に限定すること
  • 著作者の表示の削除または変更をしないこと
また、附属図書館利用規程で学内利用者に著作権法及び著作権者の許諾条件を遵守してもらうために「誓約書」の提出を義務付けている。

4.2.2.5 許諾依頼文書及び許諾書様式等
(1) 雑誌・図書のデータベース化についてのお願い
(2) 講演・講義内容のデータベース化についてのお願い
(3) 著作物利用許諾協定書
(4) 承諾書
(5) 誓約書

4.2.2.6 許諾拡大の取組
(1) 既に許諾を受けている出版社等を通じての拡充
 すでに許諾を得ている出版社の新刊等の未購入の雑誌・図書で必要なものは電子化許諾料も含めて購入するとしている。

(2) 著作権集中処理機関を通じての拡充
 学術著作権協会等の集中処理機関で著作権許諾一括処理ができるものについては、そのシステムを積極的に活用し許諾を増やすとしている。

(3) 国内雑誌バックナンバーを対象とした拡充
 学術雑誌については研究・教育のためにバックナンバーの整備も重要である。その一環として、国内雑誌について、数年で在庫がなくなるおそれがあるバックナンバーを対象に許諾交渉を進め、重点的に電子化し、教育研究に役立てるためのバックナンバーセンターとして機能することを目標にするとしている。

(4) コンソーシアムによる拡充
 京阪奈という地縁を生かし、将来的には共同利用を目標とした京阪奈の各企業等との連携により、当面は電子化利用の許諾交渉を行い、許諾率の大幅な改善をねらうとしている。

(5) 講演・講義内容の電子化許諾の拡充
 奈良先端科学技術大学院大学で行われた学内者・学外者による講演・講義の内容をデータベース化し、学内外に情報発信できるように電子化許諾の拡大に努めるとしている。

4.2.2.7 課題・問題点
以下の課題・問題点が上げられている。
(1) 電子化ファイルの商品化
 購読雑誌は理工系のコアジャーナルが中心であるので、外国雑誌についてはそのほとんどがオンラインジャーナルとしても発行されている。オンラインジャーナルの使用については、電子図書館を構築し、運用のためにかなりの設備投資をしているところでは、そのシステムを有効活用し教育研究に役立てるために、リモートで使うのではなく、電子化ファイルを購入しローカルサーバに蓄積しオンサイトで使うことが有効であると考えられる。引用文献リンク等の高度のサービスは提供できないかも知れないが、オンサイトで使うことによって外部のネットワークやシステムの障害による利用中断や遅滞を防ぐことができるし、契約中断や契約中止による
 バックナンバーの閲覧不可という問題を解決することができる。また、カレント分はリモートでバックナンバーはオンサイトで使うといった分散配置による使用により負荷分散も考慮できる。
 現在のところ外国雑誌について電子化ファイルを購入し、データベースに統合的に取り込み利用することが可能な出版社はエルゼビアとクルーワーのみである。他のいくつかの出版社については継続的に交渉しているが、電子化ファイルを切り売りするのは社のポリシーに反するということで拒否されている。
 しかしながら、ごく最近その状況が変わってきている。電子化ファイルの学内LANによる利用を快諾するところが前述の2社以外に出てきたからである。このような多角的な販売方法を実施する出版社が増えることが予想される。

(2) 著作権者と出版権者間の出版契約内容の見直し
 主に商業出版物を電子化利用する場合の大きな問題のひとつは、出版契約の条項にそのような二次利用のことが盛り込まれていないために、出版社にその解決を仰がなくてはならないことである。出版社側に積極的に取り組む姿勢がある場合は、出版契約に電子化利用についても権利が及ぶように条項を追加修正すれば、今後出版されるものについては適用されるようになるので、
 権利処理の一元化が図れることになり、電子図書館での利用を促進することができると思われる。

(3) 技術的保護手段
 著作権者・出版権者には電子化利用によりデータが流出して不正に使われることへの根強い不安感がある。それを解決する手段として電子透かしの埋め込みや暗号化、不正利用をネットワーク上で監視する仕組みの導入等があり、それらの技術の適用により元資料の保護を強化することができると共に権利者の不安感を取り除くことにもつながる。そのようなセキュリティ技術の実用化のために、早期の標準化が望まれる。

(4) 課金処理
 有償の場合は、権利者に適正な利用料を支払うためには、当該データがどのように使用されているのかを正確に把握することが必須である。そのためには、誰がいつどこで何をどのように使用したかというアクセス及び印刷のログ情報の取得並びに外部からの使用も想定した課金処理のシステムの構築が電子図書館の充実につながると考えられる。

(5) 権利者の要望の実現
 これまでの出版社等との交渉結果から、出版社等が電子図書館に要望することとして以下のようなことが上げられる。すぐには実現できない大きな問題を抱えた要望もあるが、実現に向けて前向きに検討していきたい。
  • 電子化したデータの商用利用
  • 検索等の付加価値を付けたデータの提供
  • 電子化した資料の詳細な利用統計の提供。例えば、ある論文の利用回数等。
  • 自社ホームページへのリンク
(6) 著作権集中処理システムの確立
 現時点では学協会出版物以外のものについて電子化利用するためには、著作権者と個別に交渉をしなければならない。著作物の複写に関しては、日本複写権センターが著作権者の委託を受け、契約・徴収・分配のシステムを構築し実運用している。従って、電子化利用にも適用できるようなシステムへの拡大あるいは新しいシステム構築の早期の実現が望まれる。

4.2.3 国立情報学研究所9) 10)
4.2.3.1 対象資料
 115学協会の344タイトル(平成12年10月現在)

4.2.3.2 著作権処理の方針
 学協会が刊行する学術雑誌を電子化するに当たって、各掲載論文の著作権を予め学協会が集中して管理するよう依頼し、それが実現した上で、個別に学協会との間で、コンテンツの電子化及びサービスの提供についての覚書を取り交わし、著作権処理を行っている。なお、著作権使用料の徴収事務については、各学協会は電気・電子情報学術振興財団に委託している。

4.2.3.3 著作権処理の手順
(1) 交渉窓口の一本化と交渉の迅速化のために学協会に著作権の集中を依頼
具体的な手続きとしては以下のようなパターンになるとしている。
  • 学協会誌掲載論文の著作権が学協会に帰属することを学協会誌の会告で一定期間告知し、異論のないことを確認
  • 学協会の総会で学協会誌掲載論文の著作権が学協会に帰属することについて承認を得る。
  • 学協会誌の投稿規定に著作権の帰属について明示
(2) 著作権使用料を課すかどうかについて学協会で決定

(3) 各学協会との間で覚書及び申合せを取り交わす。

4.2.3.4 許諾内容及び条件
(1) 提供される学術雑誌から作成するコンテンツの内容
  • 書誌情報(掲載記事の主題及び責任性を示す標題、著者、キーワード、抄録等)
  • 画像情報(学術雑誌等を構成するページの画像データ(表紙から裏表紙まで))
  • 本文(掲載記事の図、表、数式等を含む本文全体)
(2) 利用者の範囲
 国、公、私立の大学等の教職員、院生、学会の正会員、大学等と研究協力関係を有する民間企業の研究者等

(3) ネットワークを介して利用者に提供する主な機能
  • 画像情報の表示
  • 画像情報の印刷出力
  • 書誌的事項の検索及び表示
  • 本文の検索及び表示
(4) 公開時期
 いつの時点から公開して良いかを定めている。

(5) データの再利用
 協議の上、他機関に対し有償もしくは無償で再利用許諾を行うことができる、としている。

(6) 覚書廃止の際の取扱い
 廃止以前のコンテンツについては使用できる、としている。

(7) 電子化データのフォーマット
 高精細表示及び印刷用として400dpi、1ビット値及び簡略表示用として80dpi、1ビット値のTIFFデータ

(8) その他
  • 課金システム(雑誌ごとに記事の種別、発行時期、会員・非会員別、画面表示・印刷の4種類の組み合わせに応じた料金設定が可能)の構築運用
  • ダウンロード不可により、再利用等の著作権侵害に当たる行為を防御
  • 画面表示・印刷用ソフトウェアの継続的な維持管理
  • 学協会への利用統計の報告
4.2.3.5 許諾依頼文書及び許諾書様式等
(1) 国立情報学研究所電子図書館サービスに係る覚書
(2) 国立情報学研究所電子図書館サービスの運用に係る申合せ[無料の場合]
(3) 国立情報学研究所電子図書館サービスの運用に係る申合せ[有料の場合]
(4) 委託契約書

4.2.3.6 許諾拡大の取組
(1) 参加学会及び収録雑誌の拡大
(2) 国内学術雑誌以外のコンテンツ(レファレンス資料、辞書等)の導入検討

4.2.3.7 課題・問題点
(1) 利用者の拡大
(2) 現行の個人利用から機関等の組織利用による検討
(3) 他のデータベース、オンラインジャーナルシステム等と連携した統合化システムへの機能拡張

4.2.4 国立国会図書館
 所蔵明治期刊行物(全体で17万冊、3400万ページ)を当面の電子化対象としており、そのうち一部の児童図書及び絵雑誌について実績があるので、各々その実例を紹介する。

4.2.4.1 児童図書11) 13)
4.2.4.1.1 対象資料
 所蔵児童図書のうち昭和30年以前に刊行されたもの9,526冊
4.2.4.1.2 著作権処理の方針
 著作権者からの利用許諾は、著作権法第63条に基づき、著作権者本人への許諾依頼によって行っている。なお、著作者の権利が消滅しているものについては、そのまま利用するとしている。
 また、著作権者の連絡先が判明しなかったり、依頼したが回答が得られなかったもの等は「利用不可能」と判断している。

4.2.4.1.3 著作権処理の手順
(1) 著作物と著作者名の調査
 現物の奥付や目次等から著作物及び著作者名を洗い出している。なお、図書・雑誌に含まれる文章や挿絵、編集といった創作の各々を1件の著作物ととらえている。

(2) 依頼先の調査
 『著作権台帳』、『産経人物年鑑』、『現代日本人名録』、『現代日本執筆者大事典』、『児童文化人名事典』、『現代日本児童文学作家事典』、『日本児童文学大事典』、『昭和人名辞典』、等の資料によって、生年、没年、住所等の情報を取得している。これにより、全著作権者6,363名中の54.9%は連絡先が不明であり、また、権利が消滅している人数が6.3%あったことが判明している。

(3) 依頼文書・回答文書様式作成
 依頼文書は1枚目が事業趣旨の説明及び利用許諾を求める簡潔な文書、2枚目が著作権者別著作物リストで構成される。回答文書は著作物毎に選択回答可能な形式としている。

(4) 依頼文書の発送
 全著作権者中の38.8%である連絡先の判明した著作権者に依頼文書・回答文書のひな形及び切手を貼付した返信用封筒を同封し発送している。

(5) 回答の集計
 図書単位で集計すると全児童図書9,526冊のうち、2,282冊(約24%)が利用可能であり、7,244冊(約76%)が利用不可能という結果になっている。

4.2.4.1.4 許諾内容及び条件
(1) 許諾内容
 国際子ども図書館の電子図書館サービスにおけるデジタル化・インターネット提供のための複製権・公衆送信権の許諾としている。

(2) 遵守条件
 但し書きで条件を付したケースは、利用場所・利用期間の限定を希望するもの、出版社の許諾を前提とするもの、インターネット提供時の2次使用防止措置を必要とするもの、にまとめられるとしている。
 最初の条件のものについては個別に対応できないため「利用不可能」としている。2番目の条件のものについては、出版社自らが著作権者の場合は出版社に利用許諾を行ったが、それ以外は法的に見ても特段出版社から許諾を得る必要はないと判断したが、出版権存続中のもの等の場合は何らかの配慮の必要生も検討すべきかもしれないので、「保留扱い」にしている。最後の条件のものについては画像保護技術の確立を待ち「保留扱い」にしている。

4.2.4.1.5 諾関係書類の様式
(1) 国立国会図書館所蔵児童資料の複製及び電子図書館サービスによる提供について(依頼)
(2) 国立国会図書館所蔵児童資料の複製及び電子図書館サービスによる提供について(回答)

4.2.4.1.6 課題・問題点
(1) 利用不可の理由は、相応の著作権料の支払いを必要とするケースと電子図書館での利用を希望しないケースに大別される。利用不可のものについては、人格権の配慮から著作権が消滅しても著作権者の意向を尊重し電子化しないとしている。

4.2.4.2 絵雑誌12) 14) 15)

4.2.4.2.1 対象資料
 所蔵児童雑誌のうち「コドモノクニ」(大正11年1月〜昭和19年3月) 全287冊、
 「幼年画報」(明治39年1月〜大正元年12月) 明治期刊行分のみ89冊

4.2.4.2.2 著作権処理の方針
 著作権者からの利用許諾は、児童図書の場合と同様に、著作権者本人への許諾依頼によって行っている。無償での利用許諾を基本にしている。なお、著作者の権利が消滅しているものについての取り扱いも児童図書の場合と同様である。また、連絡先が判明しない著作権者については文化庁長官による裁定制度を活用している。

4.2.4.2.3 著作権処理の手順
(1) 著作物と著作者名の調査
 児童図書と同様の調査により16,400件の著作物を割り出している。団体著作物又は無名・変名の著作物で公表後50年を経過しているもの、並びに没後50年を経過しているものが5,600件34.1%であったことが判明している。

(2) 依頼先の調査
 全著作物中著作権が消滅しているものを除いた10,800件について、『著作権台帳』の調査や日本美術家連盟や文学館等の児童文学・美術に関係がある機関・団体への照会等により、連絡先等の情報を取得している。5,266件(1,901名)48.8%については、著作権者の連絡先がつかめなかった。連絡先が不明であった著作物についてホームページでの「著作権者探し」のキャンペーンを実施し、その結果、1,901名中49名(329件の著作物)2.6%の著作権者の連絡先が判明している。

(3) 依頼文書の発送及び裁定処理
 連絡先が判明した約5,500件の著作物を対象に依頼している。また、連絡先が最後まで判明しなかった著作権者1,852名(4,937件の著作物)については、文化庁長官に裁定手続の申請を行い、著作権審議会使用料部会において補償金の額について審議が行われ、一件当たり3円から295円合計金額437,053円を法務局に供託することで許諾が得られている。

(4) 回答の集計
 不正利用のおそれに対する不安等の理由から利用許諾の回答が得られなかった約500件を除く15,900件全体の97.0%について許諾を得ている。

4.2.4.3 許諾拡大の取組16)
 明治期刊行物を主な対象とし、これが完了した後は大正期、昭和前期と拡大していく方針であるが、とりわけ第二次世界大戦後の劣化の著しい資料については優先的に進めていきたいとしている。

4.2.4.4 課題・問題点16)
(1) 電子図書館を実現するための著作権処理事務にかかるコストは膨大なものになるので、著作物の公正利用について社会的合意が広く形成され新たなルールが構築されることが望まれるとしている。
(2) 権利者側の窓口を集約化し、権利情報も集中的に管理する仕組みの導入も一つの選択肢として考えられるとしている。
(3) 不法な利用行為を図書館サイドで制御し、適切な防止措置を図ることが求められるとしている。

5. まとめ

 以下の内容については、概ね平成13年1月頃までの情報を基にまとめたものである。従って、それ以降の著作権分科会等の動向や展開については残念ながら触れることができなかった。

5.1 学内生産物の許諾について
 学内資料の著作権許諾については、口頭や委員会承認等で済ますのではなく、著作権者等から文書の形で承諾を得る必要がある。そのための方法としては、学位論文等学生相手の場合は必須書類抱合せ方式の採用が望ましい。
 また、研究者の場合は大学や学部・研究科等に大学の成果を積極的に情報発信しようという姿勢があり強力な支援が得られれば、登録申請方式を採用しても差し支えないと思われる。

5.2 学外生産物の許諾について
(1) 著作権集中処理システムの確立
 文部省生涯学習局主催のコンピュータ、インターネット等を活用した著作物等の教育利用に関する調査研究協力者会議から「コンピュータ、インターネット等を活用した著作物等の教育利用について(報告)」が平成12年9月に報告書としてまとめられた。17)それによると「図書館における利用」において複製権、公衆送信権の権利制限の拡大が提言されている。また、「電子図書館」の構築・運営に関しては、それを実現するためには、各図書館が一定の「使用料」を支払うことを前提とした集中的な著作権契約システムが不可欠であり、当事者間の話し合いによる努力が望まれる、としている。
 従って、著作権者個々に許諾を得なくても著作権者の権利が損なわれないような集中処理ができる既存の著作権管理団体の権利処理内容の拡大あるいは新たなシステムやルールの構築が望まれる。これが実現することによって、著作権者調査や照会に要するトランザクション・コストを軽減することができる。
 このことに関しては、著作権等管理事業法が平成12年11月29日に公布され、平成13年10月1日から施行されることになっている。この法律は、近年の情報技術の進展に伴い著作物等の利用が広範、多様化している実態を踏まえて、著作権等の管理を行う事業者について、仲介業務法を根拠とするものに代わって新たな法的基盤を確立することを目的とするものである。その骨子は、許可制から登録制への変更、使用料についての裁定制度の導入、利用実態に即した適用範囲の拡大及び委託や使用料に関する事項についての規定の整備の4点が上げられている。電子化利用について適用できるかどうか、大いに期待できるところである。

(2) 出版社等への協力
 学術出版物の電子化、オンラインジャーナル化は急激に進んでいるが、外国の場合と比較すると、国内の出版社・学協会等については、電子化への対応やオンラインジャーナル化の立ち後れが目立つ。このような状況の中で国立情報学研究所ではオンライン・ジャーナル編集・出版システムを開発し、学協会等に提供するサービスを開始し、学協会等の電子化への支援を進めている。また、奈良先端科学技術大学院大学では紙媒体の雑誌のバックナンバーの電子化の協力要請に対して試験的な試みを行っている。
 従って、今後は、出版社等の電子出版に色々な面で協力することにより、出版社等との緊密な関係の中で電子化利用の許諾が得られ易くなるというような方向性も考えられる。その場合はもちろん出版社等は著作権者との間で権利処理を解決しておくということがその前提になる。

5.3 技術的保護手段の確立やセキュリティシステムの導入
 筑波大学、奈良先端科学技術大学院大学、国立情報学研究所及び国立国会図書館では技術的保護手段の確立やセキュリティシステムの導入を課題として上げている。これからは、著作権者との信頼関係を維持するためには、あらかじめ不正利用を防御する手立てを講じておくことが不可欠な条件になってくると思われる。
 そのための技術が標準化され、その技術を導入する経費が妥当な金額になることが望まれる。

5.4 著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキンググループの設置
 著作権審議会マルチメディア小委員会に図書館等における著作物等の利用に関するワーキンググループが平成12年8月に設置され、第1回が10月にフリートーキング方式で開催された。
 それによると委員からデジタル化に関する著作権処理のガイドライン作成に向けての議論を要望するという発言があった。27)第2回は平成13年1月に開催される予定であったが、省庁再編に伴い著作権審議会は平成13年1月6日に文化審議会著作権分科会に移行し、ワーキンググループのメンバーも再選定されることになり延期された。今後の検討内容が大いに注目される。

5.5 「電子図書館京都コミュニケ」の採択と発信18)
 平成12年11月13日から16日にかけて京都大学附属図書館で京都電子図書館国際会議が開催され、国内外から約200人が参加した。その中で著作権処理が大きな課題として取り上げられ、長尾真京都大学総長ら6カ国31名の連名で発表された「電子図書館京都コミュニケ」において、「世界の電子図書館の健全な発展のために、fair useを中心として著作権の権利制限範囲の拡大のアピールを各国著作権関係機関・団体、出版社に対して行う。」という内容が盛り込まれた。
 電子図書館の発展へ向けて権利制限の拡大について国際レベルでの普及啓蒙活動に期待したい。

6. 引用及び参考資料
1)甲斐靖幸"国内学協会誌の投稿規定調査報告(II)"『情報管理』38(4), 1995, pp.338-352
2)筑波大学附属図書館『筑波大学電子図書館システムにおける著作権処理について』筑波大学附属図書館, 1997.12
3)上原由紀、栗山正光"筑波大学電子図書館における著作権処理"『図書館雑誌』 94(2), 2000, pp.91-93
4)栗山正光"電子図書館と著作権処理"『情報の科学と技術』48(8), 1998, pp.435-439
5)甲斐重武"大学紀要類の電子化に係る著作権処理"『研究成果流通環境に関する総合的研究』平成8・9年度報告(科学研究費基盤研究(A)課題番号:08308043:研究代表者:内藤衛亮)学術情報センター,1998.3, pp.55-66
6)稲葉洋子"震災資料の保存と公開−神戸大学「震災文庫」を中心として−『大学図書館研究』55, 1999, pp.54-64
7)稲葉洋子"神戸大学「震災文庫」の電子化と著作権"『[京都電子図書館国際会議発表原稿]』2000.11.14
8)奈良先端科学技術大学院大学附属図書館"本学著作権処理の現状と課題"『NAIST電子図書館レポート2000』奈良先端科学技術大学院大学附属図書館, 2000, pp.58-67
9)『電子図書館における著作権講習会のQ&A』 学術情報センター事業部データベース課, 1999.3
10)酒井清彦"国立情報学研究所における著作権処理"『[京都電子図書館国際会議発表原稿]』2000.11.14
11)阿蘓品治夫"電子図書館サービスと著作権処理−国立国会図書館所蔵児童図書を例にして−"『情報の科学と技術』 48(8), 1998, pp. 440-447
12)神尾達夫"パネルディスカッション:データベースサービスにおける著作権処理の現状と問題点"『情報の科学と技術』 50(2), 2000, pp.94-96
13)国立国会図書館総務部国際子ども図書館準備室"国立国会図書館所蔵児童図書の著作権処理について"『国立国会図書館月報』 452, 1998, pp.19-22
14)国立国会図書館総務部国際子ども図書館準備室"書いたあなたを「さがしています」−国際子ども図書館「絵本ギャラリー」事業実施に伴う著作権者調査について−"『国立国会図書館月報』 455, 1998, p.25
15)国立国会図書館総務部国際子ども図書館準備室"『コドモノクニ』と『幼年画報』の著作権者探しの結果について−お礼とご報告−"『国立国会図書館月報』 459, 1999, pp.18-21
16)小寺正一"国立国会図書館の電子図書館へ向けた取り組み"『[京都電子図書館国際会議発表原稿]』2000.11.13
17)コンピュータ、インターネット等を活用した著作物等の教育利用に関する調査研究協力者会議『コンピュータ、インターネット等を活用した著作物等の教育利用について(報告)』[文部省], 2000.9
18)Kyoto Communique on Digital Libraries 電子図書館京都コミュニケ
<http://ddb.libnet.kulib.kyoto-u.ac.jp/communique.html>
19)[文化庁]"著作権テキスト 平成12年度" [文化庁, 2000]
20)三山裕三『著作権法詳説 全訂新版』東京布井出版, 2000
21)半田正夫『著作権法概説 第9版』一粒社, 1999
22)著作権法令研究会『著作権法ハンドブック 改訂新版』著作権情報センター, 2000
23)吉田大輔"電子図書館に関する著作権問題"『電子図書館』勁草書房, 1999, pp.91-113
24)加戸守行『著作権法逐条講義 三訂新版』著作権情報センター, 2000
25)田村善之『著作権法概説』有斐閣, 1998, p.199
26)「演述著作物」という表現は前掲21)p.91に記載がある。
27)著作権審議会マルチメディア小委員会図書館等における著作物等の利用に関するワーキング・グループ(第1回)議事要旨
<http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/12/chosaku/gijiroku/014/001001.htm>
28)作花文雄『詳解著作権法』ぎょうせい, 1999

7. 許諾依頼文書及び許諾書様式等

7.1 学内生産物

7.1.1 筑波大学2)
(1)筑波大学電子図書館システムへの登録に関する実施要項
<http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/pub/riyou_annai/DL/youkou.html>
(2)電子図書館登録申請の手引
<http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/pub/riyou_annai/DL/tebiki.pdf>
(3)電子図書館システム登録申請書(本学紀要等他3種)
<http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/pub/riyou_annai/DL/kiyo_new.pdf>
<http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/pub/riyou_annai/DL/gakui_new.pdf>
<http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/pub/riyou_annai/DL/kaken_new.pdf>
<http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/pub/riyou_annai/DL/gakuji_new.pdf>

7.1.2 奈良先端科学技術大学院大学
(1)修士論文、博士論文の公開について(お願い)[情報科学研究科]…別紙1
(2)承諾書[修士論文]バイオサイエンス研究科…別紙2
(3)承諾書[博士論文]バイオサイエンス研究科…別紙3
(4)承諾書[修士論文]物質創成科学研究科
<http://mswebs.aist-nara.ac.jp/ftp/densika.doc>

7.2 学外生産物

7.2.1 神戸大学
(1)「一枚もの資料」デジタル化に伴う著作権者の承諾について(お願い)…別紙4
(2)*貴殿が著作権者である「一枚もの資料」リスト*…別紙5
(3)[回答文書](返信用葉書)…別紙6
(4)礼状(葉書)…別紙6

7.2.2 奈良先端科学技術大学院大学
<http://dlw3.aist-nara.ac.jp/dl-lab/kyodaku.pdf>
(1)雑誌・図書のデータベース化についてのお願い
(2)講演・講義内容のデータベース化についてのお願い
(3)著作物利用許諾協定書
(4)承諾書
(5)誓約書

7.2.3 国立情報学研究所
(1)国立情報学研究所電子図書館サービスに係る覚書…別紙7
(2)国立情報学研究所電子図書館サービスの運用に係る申合せ[無料の場合]…別紙8
(3)国立情報学研究所電子図書館サービスの運用に係る申合せ[有料の場合]…別紙9

7.2.4 国立国会図書館
(1)国立国会図書館所蔵児童資料の複製及び電子図書館サービスによる提供について(依頼)…別紙10
(2)国立国会図書館所蔵児童資料の複製及び電子図書館サービスによる提供について(回答)…別紙11


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