ＩＬＬシステム専門委員会最終報告: 本文

はじめに

　当専門委員会は、平成５年度に発足以来５年目を迎えた。上部委員会である図書館情報システム特別委員会の設置期間が５か年となっているので、当専門委員会も今年が最終年度ということになる。
　当専門委員会では、これまで与えられた課題について調査・検討した結果を報告書としてとりまとめてきた。すなわち、平成６年に第１次報告、平成８年に第２次報告、そして平成９年に第３次報告をとりまとめた。今回の報告は最終報告となる。
　第３次報告において、残された検討課題として、１．海外とのＩＬＬにおける料金決済、２．現物貸借に関わる料金決済、３．ＩＬＬ基準の調査、４．国立大学図書館間における諸形態のＩＬＬを包括する規約の制定、５．今後予想される情報資源の共有のかたちと図書館の対応のあり方について、の５つをあげ、そのうち５．については時間的制約もあり、今回は検討をとりやめる旨記した。したがって、この最終報告においては４つの課題について報告する。ただし、この中で２．現物貸借に関わる料金決済については、検討を行ったが現状においては実施がきわめて困難であるとの認識に基づき、実質的な調査は行わなかった。
最終年度にあたり、当専門委員会としては与えられた課題の調査・検討につき、できるだけの努力はしたつもりではあるが、打開策が見いだせなかったり、内容的に不十分との誹りを受けるものがあるかと思われる。その点ご寛恕いただきたい。また、過去５か年にわたって、アンケート調査その他で各館から多大のご協力をいただいたことについて感謝申し上げたい。

　　　　　平成１０年４月
図書館情報システム特別委員会
ＩＬＬシステム専門委員会

Ｉ．検討の事項と結果

１．国立大学図書館間における諸形態のＩＬＬを包括する規約の制定

（１）実施要項等の見直し及び改正試案の策定について: 　国立大学図書館協議会では、これまで加盟館間および加盟館と類縁機関との間において相互協力を前提とした学術情報の共有（共同利用）に関わる協定を結び、その実施のための実施要項等を整備してきた。これらの実施要項等は必要に応じて順次整備されてきたもので、学術情報の流通、有効利用の面では大きな役割を果たしてきた。
　しかし、実施要項等の制定後における状況の変化もあり、当専門委員会の設置にあたり検討項目の中に「ＩＬＬ基準に関する事項」が盛り込まれた。このことに基づき当専門委員会ではこれまで、検討の参考に供するため、国内、国外におけるＩＬＬに関わる規約類を収集してきた。
当専門委員会の設置期間の最終年度を迎え、これまで収集した資料も参考としつつ、関連の実施要項等の見直しを行い改正試案を策定した。
　なお、この改正試案は、当専門委員会で作成した原案に対し協議会加盟各館から寄せられた意見に基づき修正を行ったものである。
（２）見直しの対象とした実施要項等（『第４４回国立大学図書館協議会総会資料』資料編pp.11-20所収） ①国立大学図書館間相互利用実施要項 ②　　同　　　　　　　　　実施細則 ③国立大学図書館と大学共同利用機関等との相互利用実施要項 ④　　同　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　実施細則 ⑤現物貸借申し合わせ ⑥ファクシミリによる文献複写業務申し合わせ ⑦国立大学図書館におけるＮＡＣＳＩＳ－ＩＬＬシステム利用指針
（３）改正試案策定に当たっての考え方
　
① 各実施要項等の関連付けと位置づけ（体系化）を行う。具体的には、相互貸借（ＩＬＬ）と訪問利用（現在の実施要項では「相互利用」）の実施要項を「相互利用規約」の下に位置づける形で策定する（「相互利用」の語義を転換する）。現在の「国立大学図書館におけるＮＡＣＳＩＳ－ＩＬＬシステム利用指針」は、「相互貸借」の実施要項の下に位置づける（別図参照）。　
② 大学図書館間相互利用は、今や図書館サービスにとって必須のものとなっており、それは国立大学図書館間という狭い枠組みをとりはずしていかなければいけない時代になりつつある。その意味で、今後公立や私立の大学図書館をはじめ海外の大学図書館との相互利用規約を目指す姿勢を鮮明にする。　
③ 現在ある現物貸借に関わる申し合わせを、文献複写による相互貸借も含めた包括的な規約とし、その内容については米国等における規約類を参照し、できるだけ国際的なルールに沿ったものとする。このことは、将来外国の学術機関とのＩＬＬを実施するための地ならしになると考えるからである。　
④ 訪問利用については、平成７年の国立大学図書館協議会総会において、学生証または身分証明書の提示で認める方向で各大学図書館が努力するという申し合わせがされたので、その趣旨により改正する。ただし、共通閲覧証を直ちに廃止すると支障が生じるので、これを学生証または身分証明書に代わるものとして残す。（教職員、大学院学生に準じる者には、名誉教授や非常勤講師等が含まれている例が多い。）
また、実施細則については、その内容を実施要項に含めることで廃止する。なお、学部学生の訪問利用については検討の余地があるが、この案には含めなかった。　
⑤ 大学共同利用機関等との訪問利用については、上記のような申し合わせはないが、大学共同利用機関等の一部に所属する大学院学生は、総合研究大学院大学の学生でもあるので、この実施要項を国立大学間の実施要項に合わせて改正する。また、実施細則については、④と同様その内容を実施要項に含めることで廃止する。なお、実施要項の改正については、大学共同利用機関等との協議が必要である。　
⑥ 現在ほとんど有名無実化している規約は廃止する。（「ファクシミリによる文献複写業務申し合わせ」）

                                                          

　　　　　　　　国立大学図書館相互利用規約（試案）



　（趣旨）

１．この規約は、国立大学図書館協議会加盟館（以下「国立大学図書館」という。）間に

　おける相互利用を推進することにより、国立大学における教育・研究および学習活動に

　資することを目的とする。

　　国立大学図書館は、わが国における主要な学術図書館として学術情報の収集、蓄積提

　供において重要な役割を担っており、所蔵する学術情報はそれを必要とする人々の共有

　の資源として活用されることが求められている。その意味で今後この規約が、単に国立

　大学図書館間だけでなく、公立、私立の大学図書館との間にも適用され、さらに国境を

　越えて海外の大学図書館との相互利用の実現にもつながる基礎となることを期待するも

　のである。



　（相互利用の意義）

２．相互利用は、館種や規模の大小に関わらず図書館サ－ビスにとって欠くことのできな

　いものである。これによって図書館は、他館の所蔵資料を含めた広い範囲の資料を提供

　することができる。また、利用者は、所属する大学の枠を越え、利用可能な資料の範囲

　を大幅に拡大することができる。

　　相互利用によるサ－ビスは、資源共有の理念と図書館間協力の発展とが相俟って、今

　や自館の所蔵資料を補う副次的なサ－ビスとしてではなく、図書館の基本的なサ－ビス

　となっており、またこのことは国立大学図書館の利用者の要求にもかなうものであり、

　今後更に促進されなければならない。



　（相互利用の種別）

３．この規約における相互利用は次のとおりとする。

　（１）相互貸借

　（２）訪問利用



　（相互貸借）

４．この規約における相互貸借とは、各国立大学図書館が利用者の求めに応じ、自館が所

　蔵しない資料の現物貸与または複写物の提供を他館に依頼すること、及び他館からの同

　様の依頼を受け付けてこれに応じる業務をいい、その実施については、「国立大学図書

　館間相互貸借実施要項」に定めるところによる。



　（訪問利用）

５．この規約における訪問利用とは、教職員、大学院学生及びこれに準ずる者が他の国立

　大学図書館に出むいてその所蔵資料を直接利用することをいい、その実施については、

　「国立大学図書館間訪問利用実施要項」に定めるところによる。



　（その他）

６．この規約の改廃は、総会で決定する。



　附則

　この規約は、平成　　年　　月　　日から適用する。











　　　　　　　　　　国立大学図書館間相互貸借実施要項（試案）



　（趣旨）

１．この要項は、国立大学図書館協議会加盟館（以下「図書館」という。）間における相

　互貸借を円滑化することにより、国立大学における教育、研究及び学習活動に資するた

　め、その運用について必要な事項を定めることを目的とする



　（相互貸借の定義）

２．この要項にいう相互貸借とは、各図書館が利用者の求めに応じ、自館が所蔵しない資

　料の現物貸与または複写物の提供を他館に依頼すること、及び他館からの同様の依頼を

　受け付けてこれに応じる業務をいう。



　（相互貸借の基本原則）

３．相互貸借は、各図書館間における相互の協力関係の下で成立するものであり、いずれ

　の図書館にあっても、互恵互助の精神に基づき資料を提供しなければならない。

　　相互貸借においては、資料の形態その他の要素如何に関わらず他館に依頼することが

　できるが、依頼された資料を提供するかどうかは、受付館の判断による。



　（依頼館の責務）

４．依頼館の責務は次の各号のとおりとする。

　（１）利用者のための相互貸借の方針を定め、その方針により運用すること。

　（２）依頼の処理は迅速に行うこととし、その処理は原則としてＮＡＣＳＩＳ－ＩＬＬ

　　　システムで行うものとする。その処理に関し必要なことは、「国立大学図書館にお

　　　けるＮＡＣＳＩＳ－ＩＬＬシステム利用指針」（平成９年５月２９日　国立大学図

　　　書館協議会理事会採択）に定める。

　（３）依頼に先立って、受付館の相互貸借方針を確認すること。また、受付館から正規

　　　に請求された費用の支払いについては責任を負うこと。

　（４）依頼する資料については、標準的な書誌事項記入方式に従って、正確に記述する

　　　こと。その資料の所在が正確に確認できない場合には、参照した情報源に関する情

　　　報とともに、”未確認”という表示をすること。

　（５）依頼を特定の図書館に集中させないこと。

　（６）依頼に当たっては著作権法を遵守すること。

　（７）借用資料の保全については、受付館からその資料が離れた時から受付館がそれを

　　　受け取るまで依頼館側が責任をもつこと。損傷や紛失が生じた場合には、依頼館は

　　　受付館の申し出どおり、修理や弁償に要する全経費を負担すること。

　（８）借用資料については、返却期限を遵守し、受付館が課した利用条件を履行するこ

　　　と。

　（９）借用資料の返却期限の延長を申し出る場合は、特別な事情がある場合に限ること。

　　　延長の申込みは、返却期限内に受付館に到着するよう行うこと。受付館から回答が

　　　ない場合には，延長が認められたものとみなす。

（１０）借用資料は返却期限内であっても、受付館から返却の要求があった場合は速やか

　　　に返却すること。

（１１）借用資料の返却に際しては、依頼館は資料の損傷がないよう梱包には十分留意す

　　　ること。また、受付館が提示した指示に従うこと。

（１２）この要項に定める条項に従うこと。この要項に従わなかった場合は、相互貸借サ

　　　－ビスを停止されることがある。



　（受付館の責務）

５．受付館の責務は次の各号のとおりとする。

　（１）相互貸借の方針を定め、その方針により運用すること。他の図書館からの依頼に

　　　応えられるよう体制を整えておくこと。

　（２）受付の処理は迅速に行うこととし、その処理は原則としてＮＡＣＳＩＳ－ＩＬＬ

　　　システムで行うものとする。その処理に関し必要なことは、４．（２）と同様「国

　　　立大学図書館におけるＮＡＣＳＩＳ－ＩＬＬシステム利用指針」に定める。依頼に

　　　応じることができない場合、受付館はその明確な理由を依頼館に速やかに通知する

　　　こと。

　（３）資料の送付に際しては、依頼館が、それがどの依頼の資料であるか特定できる情

　　　報を付しておくこと。

　（４）資料の貸出に際しては、資料の利用条件を提示すること。また、特に必要な場合

　　　には返却時の資料の梱包及び返送方法も指示すること。

　（５）資料の貸出期間は２０日間、貸出期間の延長を認める場合には１０日間とするこ

　　　とを原則とする。

　　　ただし、資料の貸出後、受付館において特別の事情が生じた場合、貸出期間内であ

　　　っても、返却を求めることができるものとする。貸出期間とは、受付館から特別の

　　　指示を出さないかぎり、資料の受付館からの発送日から受付館への到着日までをい

　　　う。

　（６）資料の送付の際、損傷することがないように資料を梱包すること。

　（７）依頼館から借用資料の返却期限の延長の申込みがあった場合には迅速に回答する

　　　こと。これに回答しない場合は、延長を認めたものとみなされる。



　　　附則

１．この実施要項は、平成　年　月　　日から適用する。

２．現物貸借申し合わせ（平成元年６月　国立大学図書館協議会採択）は廃止する。










　　　　　　　国立大学図書館間訪問利用実施要項（試案）




　（趣旨）

１．この要項は、国立大学図書館協議会加盟館（以下「図書館」という。）における教職

　員、大学院学生等の訪問利用を円滑化することにより、教育、研究活動に資するため、

　その利用について必要な事項を定めることを目的とする。



　（訪問利用の対象となる図書館等）

２．この要項において、訪問利用の対象となる図書館等は、各図書館の中央館（または本

　館）、分館、分室及び部局図書館（室）等とする。ただし、訪問利用の対象となる図書

　館（室）のうち、受入大学の事情により一部図書館（室）の利用を制限することができ

　るものとする。



　（サ－ビス内容）

３．訪問利用に対するサ－ビス内容は、館内における資料の閲覧を原則とし、その他のサ

　－ビスについては各図書館の定めるところによる。各図書館はそのサービス内容につい

　て周知に努めるものとする。



　（手続き）

４．各図書館は、訪問利用者が所属する大学の発行する身分証明書または学生証を提示し

　た場合、原則として利用を認めるものとする。このことは従来より実施中の他の方式を

　排除するものではない。



　（国立大学図書館間共通閲覧証の交付）

５．

（１）各図書館は、当該大学に所属する教職員、大学院学生およびこれに準ずる者のうち

　　特に申請した者に対し「国立大学図書館間共通閲覧証」（以下「共通閲覧証」という。）

　　を交付する。この共通閲覧証は、訪問利用に際して身分証明書または学生証と同等の

　　効力をもつものとする。なお、教職員、大学院学生に準ずる者とは、その者が所属す

　　る大学の附属図書館長が認める者をいう。

（２）共通閲覧証の発行は、次の各号により行う。

　（ア）様式は別紙のとおりとする。

　（イ）有効期間は発行の年度内とする。

　（ウ）交付に際し利用上の注意事項の周知に努める。



　（訪問利用の制限）

６．訪問利用の受入館は、当該大学に所属する利用者の利用が著しく妨げられると判断し

　た場合には、訪問利用を制限することができる。





　　附則

１．この実施要項は、平成　　年　　月　　日から適用する。

２．国立大学図書館間相互利用実施要項（昭和５６．６．２３　第２８回国立大学図書館

　協議会総会決定）は廃止する。










          国立大学図書館と大学共同利用機関等との訪問利用実施要項（試案）



　（趣旨）

１．この要項は、国立大学図書館協議会加盟館（以下「国立大学図書館」という。）と大

　学共同利用機関及び文部省所管の研究所等のうち国立大学図書館協議会が適当と認めた

　機関（以下「大学共同利用機関等」という。）との間における訪問利用の円滑化を図る

　ことによって、それぞれに所属する教職員、大学院学生及びこれに準ずる者の教育・研

　究活動に資するため、その利用について必要な事項を定めることを目的とする。



　（訪問利用の申請）

２．国立大学図書館との訪問利用を希望する大学共同利用機関等は、国立大学図書館協議

　会会長に訪問利用の申請を行うものとする。



　（訪問利用の対象となる図書館等）

３．この要項において訪問利用の対象となる図書館等は、国立大学図書館においては、各

　大学において附属図書館を構成する中央館（本館）、分館、分室、部局図書館（室）を

　いい、大学共同利用機関等においては、図書館（室）およびそれに準ずる資料室をいう。

　訪問利用の対象となる図書館（室）のうち、受入大学または機関の事情により一部図書

　館（室）の利用を制限することができるものとする。



　（サ－ビス内容）

４．訪問利用に対するサ－ビス内容は、館内における資料の閲覧を原則とし、その他のサ

　－ビスについては各国立大学図書館及び各大学共同利用機関等の定めるところによる。

　各図書館及び大学共同利用機関等はそのサービス内容について周知に努めるものとする。



　（手続き）

５．各国立大学図書館及び各大学共同利用機関等は、この要項でいう訪問利用者が、本人

　が所属する機関等の身分証明書または学生証を提示した場合、原則として利用を認める

　ものとする。このことは従来より実施中の他の方式を排除するものではない。



　（共通閲覧証の交付）

６．

（１）各国立大学図書館または各大学共同利用機関等は、当該の大学または大学共同利用

　　機関等に所属する教職員、大学院学生及びこれに準ずる者のうち、特に申請した者に

　　対し「共通閲覧証」を交付する。この共通閲覧証は、訪問利用に際して身分証明書ま

　　たは学生証と同等の効力をもつものとする。なお、教職員、大学院学生に準ずる者と

　　は、その者が所属する大学の附属図書館長または機関等の長が認める者をいう。

（２）共通閲覧証の発行は、次の各号により行う。

　（ア）様式は別紙のとおりとする。

　（イ）有効期間は発行の年度内とする。

　（ウ）交付に際し利用上の注意事項の周知に努める。



　（訪問利用の制限）

７．訪問利用の受入館は、当該の大学または大学共同利用機関等に所属する利用者の利用

　が著しく妨げられると判断した場合には、訪問利用を制限することができる。



　　附則

１．この実施要項は、平成　年　　月　　日から適用する。

２．国立大学図書館と大学共同利用機関等との相互利用実施要項（平成２年６月２８日　

　第３７回国立大学図書館協議会総会決定）は廃止する。

２. ILL基準の調査

（１）今年度の調査活動

　今年度入手できた海外のＩＬＬ規約は、Canadian Library Association (CLA カナダ図書館協会)の "Interlibrary Loan Code, revised 1995 / Code du pret entrebibliotheques, revise en 1995" とＩＦＬＡの "The IFLA Fax Guidelines" である。
　Fax Guideline は、前回の報告書に触れていたものである。The IFLA Section on Document Delivery and Interlending (ＩＦＬＡのドキュメントデリバリーと相互貸借部門)は、相互貸借における依頼をファクシミリを使って行うに当たっての、国際的なガイドラインが必要と考え、IFLA Office for International Lending がいくつかの大きな図書館や国立の機関のファクシミリ取り扱い方針を調査して原案をまとめた。これには、さまざまな所から寄せられた注記もともに記載れている。
内容は、３つの項目から成り、付録として依頼のフォーマットを例としてつけている。　もう一方のカナダ図書館協会の規約についても、前回の報告書で紹介し、入手中であることを報告したものである。
　これは、１９８０年のＩＬＬ規約を、カナダ国立図書館の Carrol Lunau さんほかが構成するＣＬＡの Resource Sharing Committee (資源共有委員会)が、Association pour l'avancement des sciences et des techniques de la documentation (ASTED 情報科学技術振興協会) を代表する　Danielle Langlois さんの協力を得て、１９９５年に改訂したものである。
　この規約の下に、前回紹介した National Guidelines for Document Delivery がある。すなわちこの Interlibrary Loan Code が、カナダに於いて国内の図書館間相互貸借を総括的に規定するナショナル・コードである。
　実際の原案作成は、前述の資源共有委員会の構成員である Naomi Krym さん(Canada Institute for Scientific and Technical Information)と Bruce Grainger さん(McGill University)によるものである。他の委員は両人が作成したドラフトに対し、コメントを述べることで協力している。さらに協会の月刊機関誌 "Feliciter" の１９９５年３月号に素案を掲載し、協会メンバーの意見を広く聞いて最終案をまとめ上げている。
　アメリカとカナダの図書館の協力関係を反映して、すでに紹介したＡＬＡ (アメリカ図書館協会) の "National Interlibrary Loan Code for the United States, 1993" について言及し、両国のＩＬＬ規約が互換性を持つようにするため、これにならった同じ様な内容としている。

（２）ＡＬＡ及びＣＬＡのＩＬＬ規約の内容

　ここで、世界的に代表されるＡＬＡのＩＬＬ規約とＣＬＡのそれとを比較しながら、両者の内容を紹介したい。
　ともに序文(Introduction)を持つが、ＣＬＡはその前に前書き(Preface)を置き、ＡＬＡの規約との関係などを述べている。
　序文では、両者ともほぼ同じ記述であり、それぞれの国において、図書館間で資料を貸借すること（ＩＬＬ）は、図書館サービスの拡大のために重要であり、これの促進は公共の利益にそうものと信じて、この規約を制定するとしている。さらに、ＩＬＬはすべての図書館の基盤となるものであり、より多くの資料をこれでもって利用者に提供できるとしている。
　そして、ＩＬＬは蔵書構築に替わるものではなく、これを補助するものであると以前はしていたが、この十年間のさまざまな変化は資料利用の可能性を拡大してき、図書館間で資料を借りだすことは、すべての図書館の蔵書を発展させる上で、副次的ではなく、重要な要素となっているという転回を行っている。すなわち、以前は、自館の蔵書を充実することなく他館の蔵書をあてにするという行為に対抗して、自館の蔵書の発展を行った上で、収集方針にそぐわない資料などをＩＬＬでもって利用させるという方針であった。
しかし、すでに、各図書館に於いて収集しなければならない資料でも購入できない状況にある。そのため、ＩＬＬで補完されてはじめて各館の蔵書構成が完成するのであり、ＩＬＬはそのような意味で重要となってきた。
　この国家的資源共有システムは、依頼と提供が相互に公平でなければならないとし、他館から借りるためには貸すことをしなければならないとし、流れが一方的になって業務の過偏重が生じることを防ごうとしている。
　さらに、この規約は図書館間貸借関係を整序づける（regulate ＣＬＡではguide）ことを意図しており、その他の意図はないことをいい、さらにこれは図書館間での資料の依頼と提供に関する一般的ガイドラインを示すのであり、個々の詳細なガイドラインは別に規定する。
　このようなことが、序文で述べられている。
　以下本文について述べると、ＩＬＬの定義の後、この規約で定義するＩＬＬの目的は、図書館利用者の要求に応じて、個々の図書館で所蔵していない資料を提供することとしている。
　また、提供する資料の範囲を、各館は自らが資料の利用依頼を行うのと同じほど自由に、資料を提供するよう努力しなければならないと前置きした上で、どのような資料も他館から依頼されるのであり、貸出館はそれに応じるかどうか決めることができるとしている。　このような総則のもと、依頼館の責務を１３項目、受付館（貸出館）の責務として１０項目（カナダは１１項目）揚げている。そのつぎに読むべきマニュアル等の文献リストをあげている。
　詳細についての説明は避けるが、アメリカとカナダの違いに触れておく。
　団体名などの固有名詞が異なるのは自明であるが、その他の相違点は、つぎのようであり、すべてカナダの規約に於いて追加されているものである。
　依頼館受付館それぞれの責務として、迅速な処理を促している項目で、カナダでは先述のガイドラインにおいてターンアラウンドの時間を定めていると案内していること。（４．２）（５．２）
　所蔵していることと、提供しうるであろう図書館を選定するという依頼館の義務を定めた項目で、カナダ国立図書館 (National Library of Canada) とカナダ科学技術情報研究所 (Canada Institute for Scientific and Technical Information (CISTI)) で資料の所在情報を提供してくれること。（４．３）
　さらに次項で、「所在未確認」のまま所蔵しているであろう図書館に依頼することは、この両館（NLCとCISTI）による所蔵調査で確認できないときに限るとしている。（４．４）すなわち、ＡＬＡでは無規定であるが、ＣＬＡでは、規約に盛り込んで、この二館による所蔵調査を推奨している。
　依頼の電子的フォーマットについて述べている項目で、カナダでは Envoy 100 による依頼既述が多く使われていることと、電子的書式がないときには、ＡＬＡのみならず、ＩＦＬＡの書式を使用することとしている。（４．６）
　最後に、国境を越えた搬送について触れ、税関手続きを手早く終えさせるよう、また免税であることを明確に知らせるべきであることをあげている。（４．１２）（５．１１）
　以上のみがＣＬＡに追加された相違点であり、その他の項目については一言一句といって良いほど同じである。基本的考え方については、全く同一といって良い。
　二国間における図書館協力に基づく図書館間相互貸借の規定は、さまざまな検討の後、このようなよく似た規定を作成するに至った。細かい規定などを同一とすることで、はじめて二国間の図書館協力が成り立つと結論されたといって差し支えない。

（３）結語

　長期にわたり海外の状況を調査してきた結果、差し迫る国際化に対応するための相互貸借規約のありようは、この二国間の協力関係の上にたった規約に集約的に見ることができよう。それぞれの国での規定はそれぞれの国に於いて適用されるものであるが、その内容にお互い共通部分を多く持つことで、両国間の業務をスムースにすることができるという考えである。
　ＩＦＬＡの国際的なＩＬＬの規約においては、このような場合の一大原則を定めているのである。それに従うことだけでも、各国の規約はある程度の共通性を持つが、さらにこの精神に基づき、各国の規定を参照し、できるだけ共通性を持たせながら自国の規定を定めることは、国際化を課題としている図書館員の責務といえる。逆にこれを行うことで、さらに国際化に対する新たな規定も必要であるという考えがあり得なくなることは明白である。
　ＩＦＬＡの親規定のもと、各国の共通化された規定を整備することで、国際間のＩＬＬ業務がスムースに処理され、学術情報の流通が国際的に発展することとなる。料金決済などさまざまな課題を多く抱えているものの、これらの課題は制度的に整えることが困難であっても、解決できない課題ではないといえるし、このような中、規約を整備することが持つ意味の大きさは計り知れない。
　以上が、国立大学図書館協議会の相互貸借規定の整備のために、海外の諸規程を調査し、考察してきた結論であり、報告である。

３．海外とのＩＬＬにおける料金決済

（１）海外とのＩＬＬをめぐる状況と検討の経緯

　大学図書館を取り巻く状況の変化は、学術審議会の建議及び報告書の中でも取り上げられているように、情報化への対応ならびに国際化への対応が求められ、文献複写サービスに関する機能は、１．大学図書館の連携協力、２．国際的連携協力、３．料金処理方法の簡便化、４．電子的手段による外国からの情報提供体制の整備、等について整備することが強く望まれていた。
　ＩＬＬシステム専門委員会では、その中でも特に海外における大学図書館及び学術研究機関とのＩＬＬに関する諸課題について一昨年から検討を重ねてきた。
　第３次報告では、海外機関との料金決済として考えられるいくつかの方法を取り上げ、国の会計制度との整合性について調査し、その結果を報告した。
　今年度は、英国図書館文献提供センター（ＢＬＤＳＣ）が行っている料金決済方式を参考にして、学術情報セン夕－（ＮＡＣＳＩＳ）を中心とした料金決済方式のモデルをつくり、「文献複写サ－ビス推進のための改善方策」としてまとめ、文部省学術情報課に助言を求めつつ協議してきた。
　一方、平成９年５月に日米文化教育交流会議（ＣＵＬＣＯＮ）の中の情報アクセス・ワーキング・グル－プから「日米間のドキュメント・デリバリ－の改善」についての提言がなされたが、この中で日本からの情報発信体制の整備が強く求められた。
　このような状況のもとで、料金の合理的決済方式の実現が望まれ、今後さらにこの問題について検討を重ね、幾つかの改善方策と会計規則等との整合性も含め、関係機関との継続的協議が必要である。

（２）海外機関からの文献複写依頼状況調査

　当専門委員会では、海外機関とのＩＬＬに関わる料金決済の問題を検討する基礎資料とするために、海外の大学や研究機関から日本の国立大学図書館に対し、どれだけ文献複写依頼があり、それがどのように処理されているか調査することとし、国立大学図書館協議会の全加盟館にデータ提出を依頼した。調査期間は、平成９年の１月から１２月までの１年間とし、前半と後半に分けてデータの回収を行った。
　その結果は、資料３のとおりである。依頼件数については、これ以外に学部や学科の図書室または資料室等が行っていて洩れているものもあるかと思われ、今後検証が必要かと思われるが、おおよその状況が把握できたことは成果であったと考えている。また、依頼機関及びその所属国が把握できたことも検討する際の参考になるものと考えている。

４．現物貸借に関わる料金決済

　この課題については、郵便料金の相殺についての強い要望や手数料の徴収についての提案等があったことから、第４年次において次の４点について検討を行ったところである。

①郵送料金の国庫納入について
②郵送料金の予算振替による相殺システム
③現物貸借に関わる手数料の徴収について
④郵送料金の校費支弁

　検討の結果については、第３次報告（平成９年６月）の１０～１３頁に記したとおり、いづれも会計制度の関係で早急の実現はきわめて困難なものばかりである。昭和６３年の「相互貸借の推進方策調査研究班報告」以来９年の歳月を経てなお有効な解決策は見い出せなかった。第３次報告において検討を継続することとしたが他の課題もあり、今年度は実質的な調査は行わなかった。
　現状においては、ＩＬＬシステムの弾力的運用の可能性を模索すること、あるいは、現物に標題紙等の複写物を添付することで文献複写の相殺制度を利用できないかとの意見もあったが、そのことは今後の努力にゆだねることとして、当専門委員会としては第３次報告をもって最終報告にかえたい。

Ⅱ．その他

１．公共図書館等に対する徴収猶予許可番号について

（１）公私立大学等に対する許可番号統一の実現

　文献複写料金徴収猶予制度における「許可番号」の統一については、これまで当専門委員会で改善方策の検討をおこない、文部省の助言も得、国立大学図書館協議会事務局とも連絡調整を行い、平成９年４月から公私立大学等に対してＪＩＳの大学・高等専門学校コードを統一許可番号として使用することとした。
このことにより、依頼館側の公私立大学等はもとより受付館側の国立大学双方の業務の省力化、効率化に資するとともに、学術情報センターのＩＬＬシステム利用に際して自動転送機能を活用できるなどの利点も得られた。

（２）公共図書館等に対する許可番号の統一

　一方、公共図書館等の機関についてはＪＩＳでコード化されていないため、当面各国立大学が独自に許可番号を与えることとした（ＪＩＳコードで使用していない９０００番代を利用）。しかし、公私立大学等に比べＩＬＬシステムの効率的な運用上問題があった。　このため、国立大学図書館協議会では学術情報センターに対し、これらの機関についても機関コードを統一して付与・管理するよう依頼をおこない、平成１０年４月から学術情報センターで統一機関番号を付与することとなり、各国立大学ではこれを許可番号として使用することとした。






　　　　　　　　　　付．図書館情報システム特別委員会

　　　　　　　　　　ＩＬＬシステム専門委員会設置要項












　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　平成 ５年 ７月１５日

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　図書館情報システム特別委員会





　　　　１．目　的

　　　　　　　図書館情報システム特別委員会に、大学図書館における情報資源の

　　　　　　共有を推進するために、相互貸借（以下「ＩＬＬ」という。）に関わ

　　　　　　る諸問題を検討することを目的として、実務担当者によるＩＬＬシス

　　　　　　テム専門委員会（以下「専門委員会」という。）を設置する。



　　　　２．検討事項

　　　　　　　国立大学図書館間並びに公私立大学その他の機関とのＩＬＬに関わ

　　　　　　る次の事項を検討する。

　　　　　(1) ＩＬＬ基準に関する事項

　　　　　(2) ＩＬＬの手続きに関する事項

　　　　　(3) ＮＡＣＳＩＳ－ＩＬＬシステムに関する事項

　　　　　(4) その他、ＩＬＬに関わる事項



　　　　３．専門委員会の構成

　　　　　　　専門委員会は近畿地区が担当する。委員は、近畿地区の図書館情報シ

　　　　　　ステム特別委員館が選考する。



　　　　４．その他

　　　　　　　専門委員会は原則として年１回検討結果をまとめ、図書館情報システ

　　　　　　ム特別委員会に報告するものとする。







　　　　　　　　　　　　図書館情報システム特別委員会

　　　　　　　　　　　　　　ＩＬＬシステム専門委員会

　　　　　　　　　　　　　　　委　員　会　名　簿

　　　　　　　　　　　　　（平成５年度～平成９年度）





　　主査館　　　大阪大学附属図書館



　　委　員

　　　　　平成５年度

　　　　　　主　査　　三浦　勝利（大阪大学・医学情報課長）

　　　　　　副主査　　由良　信道（滋賀医科大学・図書課長）

　　　　　　委　員　　水野　孝夫（京都大学・情報サ－ビス課相互利用掛長）

　　　　　　　　　　　宮岸　朝子（大阪大学・医学情報課専門員）

　　　　　　　　　　　岸本　晴広（大阪外国語大学・図書館専門員）

　　　　　　　　　　　吉田　秀紀（神戸大学・情報サ－ビス課長）

　　　　　　　　　　　小川　仁美（神戸大学・情報サ－ビス課情報サ－ビス第二掛長）





　　　　　平成６年度

　　　　　　主　査　　田村　潤二（大阪大学・情報サ－ビス課長）

　　　　　　副主査　　京藤　　貫（滋賀医科大学・図書課長）

　　　　　　委　員　　岡野　拓也（京都大学・情報サ－ビス課相互利用掛長）

　　　　　　　　　　　宮岸　朝子（大阪大学・医学情報課専門員）

　　　　　　　　　　　吉田　秀紀（神戸大学・情報サ－ビス課長）

　　　　　　　　　　　小川　仁美（神戸大学・情報サ－ビス課情報サ－ビス第二掛長）

　　　　　　　　　　　由良　信道（横浜国立大学・情報サ－ビス課長）

　　　　　　特別委員　故選　義浩（国立民族学博物館・情報システム課長）





　　　　　平成７年度

　　　　　　主　査　　山中　康行（大阪大学・医学情報課長）

　　　　　　副主査　　京藤　　貫（滋賀医科大学・教務部図書課長）

　　　　　　委　員　　長坂　みどり（京都大学・情報サ－ビス課相互利用掛長）

　　　　　　　　　　　宮岸　朝子（大阪大学・医学情報課専門員）

　　　　　　　　　　　故選　義浩（神戸大学・情報サ－ビス課長）

　　　　　　　　　　　池川　　敏（神戸大学・情報サ－ビス課情報サ－ビス第一掛長）

　　　　　　　　　　　由良　信道（横浜国立大学・情報サ－ビス課長）







　　　　　平成８年度

            主　査　　山中　康行（大阪大学・医学情報課長）

            副主査　　松藤　典生（滋賀医科大学・教務部図書課長）

            委　員　　伊藤　祐三（東京大学・情報サービス課長）

                      長坂　みどり（京都大学・情報サ－ビス課相互利用掛長）

                      宮岸　朝子（大阪大学・医学情報課専門員）

                      山崎　隆史（大阪大学・情報サービス課専門員）

                      故選　義浩（神戸大学・情報サ－ビス課長）

                      後藤　登　（神戸大学・情報サ－ビス課情報サービス第一掛長）

            オブザーバー 笹川　郁夫（学術情報センタ-事業部目録情報課長）

                      相原　雪乃（学術情報センタ-事業部目録情報課相互協力係長）





　　　　　平成９年度

            主　査　　山中　康行（大阪大学・医学情報課長）

            副主査　　松藤　典生（滋賀医科大学・教務部図書課長）

            委　員　　笹川　郁夫（東京大学・情報サービス課長）

                      長坂　みどり（京都大学・情報サ－ビス課相互利用掛長）

                      山崎　隆史（大阪大学・情報サービス課専門員）

                      伊藤　彰　（大阪大学・医学情報課専門員）

                      故選　義浩（神戸大学・情報サ－ビス課長）

                      後藤　登　（神戸大学・情報サ－ビス課情報サービス第一掛長）

            オブザーバー 牧村　正史（学術情報センタ-事業部目録情報課長）

                      相原　雪乃（学術情報センタ-事業部目録情報課相互協力係長）

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