大学図書館における身体障害者サービスの実態身体障害者サービスに関する調査研究班報告書第Ⅰ部: II. 実態調査３．身体障害者サービスに関する学識者の意見

３．身体障害者サービスに関する学識者の意見

１）身体障害者への対応方針

　大学図書館を利用する身体障害者のなかには、学習・研究を遂行するために必要な情報
を充分に収集することが困難である場合が少なくない。大学図書館の主目的は、学術資料
を中心とする情報の蓄積・提供によって、大学における教育・研究を支援することにあり、
身体障害者に他の利用者に与えられているのと同じ条件を提供し、大学図書館においてい
わゆるノーマライゼイションの理念を実現することが期待されている。
　1983から1992年までの「国連障害者の10年」をきっかけにして、身体障害者に関わる社
会環境改善運動が、ノーマライゼイションを合言葉に推進されてきた。1993年には、国連
決議「障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則」が採択されており、この機運の
中で、大学図書館における身体障害者サービスについて調査研究を行うことの意義の重要
性を指摘し、この成果を今後の図書館サービスの実践に活かすことを期待する意見が多か
った。

１）－１　対応方針の成文化

　図書館が提供できる身体障害者サービスの内容を成文化し、日常の図書館業務として確
立することは、安定したサービスを継続するうえで有効である。図書館における身体障害
者サービスでは、通常の場合、利用者の要請を受けてその利用者が必要としている支援サ
ービスを行うこととなる。このため、図書館は利用者にその身体障害者サービスの内容を、
あらかじめ示しておかなければならない。成文化された対応方針があれば、利用者は図書
館の身体障害者サービスについて理解しやすい。また、サービス提供側てある図書館にお
いても、館内に身体障害者サービスについての共通理解を形成するために役立つとの指摘
があった。
　一方、身体障害者への対応方針の成文化がサービスの硬直化を招かないよう、弾力的な
運用を行うことが重要であるとの意見もあった。

２）施設・設備

２）－１　大学図書館建築施設上の設備整備

　平成６年に「高齢者，身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関す
る法律」（いわゆる「ハートビル法」）が制定されて以来、「東京都福祉のまちづくり条
例－施設整備マニュアル」（東京都、1996）のような出版物が多数出されている。身体障
害者専用駐車場やスロープの設置等、身体障害者が建築物を円滑に利用できるようにする
ための措置に関する情報が、具体的に詳しく示されており、身体障害者の図書館利用につ
いて、物理的な対応は容易になってきた。しかし、身体能力の低下の状況は各々の障害者
で異なり、このすべてに対応できる設備をあらかじめ用意することは困難である。図書館
の設備としては共通性の高いものだけを用意し、可能な範囲で個別な要求に応えればよい
との意見が多かった。
　身体障害者の図書館へのアクセスを確保することの必要性が特に強調された。まず、物
理的なアクセスの確保として、図書館への通路及び館内の通路の障害物を除き、利用者の
動線を明確にすることが求められた。次に、オンラインによる情報アクセスの確保につい
て、新しい図書館へのアクセス手段として重要度を増しているとの指摘があった。また、
連絡用の館内電話やインターホンが設置されていれば、支援サービスを利用しやすいとの
意見があった。
　身体障害者が図書館を安全に利用するためには、図書館の施設・設備を充実させるだけ
では充分とはいえず、人的な支援が重要である。図書館職員ばかりでなく、館内にいる利
用者の協力を得て、身体障害者とともに学習・研究を行おうとする雰囲気を醸成すること
が不可欠である。障害者の心理的負担を考えると、特別な配慮を強調するのではなく、誰
もが利用しやすい環境を作ることが大切であるとの指摘があった。

　［視覚障害者］

　　照明を明るくして暗がりをなくし、階段に手すりを付け、触覚（点字表示・点字ブロ
　ック等）又は聴覚（誘導鈴・エレベータの音声案内等）による誘導や案内をすることが
　必要である。とくに、階段の注意を促す点字ブロックは重要であるとの指摘があった。
　また、視覚障害者が図書館を活用するためには、自動点訳・音声合成・ＯＣＲ等の機能
　が付いたパソコンや、対面朗読室、拡大読書器、点字プリンター、（アナログ又はデジ
　タルの）録音設備、オプタコン、点字複写機等の設備が必要でおる。また、これらの視
　覚障害者に配慮した設備は、盲導犬や白杖等の手段があるものの、視覚障害者の歩行に
　は相当な困難があるため、視覚障害者が利用しやすい位置に集中して配置すると効果的
　であるとの指摘があった。
　　触覚で読み取れる館内配置図を、点字案内板として図書館の入口近くに設置すると、
　館内の資料や施設の配置を把握するために役立つとの指摘があった。また、配架位置の
　変更が頻繁に行われると、弱視者は配架位置を記憶して資料を探素している場合が多い
　ので、健常者以上に利用の障害となるとの指摘があった。

　［聴覚障害者］

　　施設利用上の問題は少ないが、視覚による情報取得を容易にするため、案内表示やマ
　ニュアル等を図やイラストを使った視覚的な構成とし、わかりやすくする必要がある。
　また、館内放送は、音として感じても内容が聞き取れない聴覚障害者が多いので、特に
　聴覚障害者を対象とした内容でなくても、電光掲示板などに表示して、同じ情報を共有
　できるようにするとよいとの指摘があった。
　　補聴器は、遠距離からの音に有効でないため、貸出カウンターやレファレンスデスク
　等で、利用者に遠くから呼びかける状況がある場所には、補聴器用磁気ループの設置を
　望む意見があった。また、聴覚障害者の呼出し用に、ワイヤレス式の振動呼出し器をカ
　ウンターに用意するとよいとの指摘や、カウンターの照明が暗いと口話が困難なので、
　顔が明るくみえるよう照明に配慮してもらいタいとの指摘があった。

　［肢体不自由者］

　　車椅子でのアクセスを確保するためには、身体障害者専用駐車場・スロープ・自動ド
　ア・身体障害者に配慮したエレベータやトイレ等の設備が必要である。通路に車椅子の
　回転スペースを確保し、書架間に車椅子が通行できるスペースがあれば、図書館を利用
　しやすい。
　　また、車椅子利用者は高い位置に配架された図書が取れないので、書架の高さを制限
　することが望ましいが、図書館のスペース上困難な場合には、人的な支援体制を整える
　必要があるとの指摘があった。館外では車椅子を利用していない場合も、館内では車椅
　子を利用したいことがあるので、館内用の車椅子の設置が必要であるとの指摘があった。
　閲覧机については、利用状況の多様性に対応できるよう、高めのものや広めのものの設
　置を求める意見があった。一方、相当特殊なものが必要な場合以外は、健常者と同じ場
　所で同じものを利用するほうが、周囲の利用者の援助が期待できるのでよいとの意見も
　あった。
　　図書館内のカウンターのうち、利用者が立ったままで利用するカウンターは、ハイカ
　ウンターが用いられていることが多いが、車椅子利用者には高すぎて利用しにくい。ハ
　イカウンターの一部分をローカウンターにできないかとの指摘があった。

２）－２　読書支援用の施設・設備・機器

　現在、図書館の電子化促進により、従来からの書誌的情報や索引情報ばかりでなく、本
文の電子的な文字情報（以下、電子テキスト）が蓄積され始めている。また、学内ＬＡＮ
等の情報流通基盤の整備が進み、図書館に来館することが困難な身体障害者は、自宅や研
究室からネットワークを通じて、図書館を利用できる環境が整ってきている。情報処理技
術の進展が、身体障害者の情報収集能力を高めており、これが「まず図書館から情報収集
におけるノーマライゼイションが始まる」という期待に繋がっている。
　電子テキストの蓄積が進めば、拡大文字表示や点字出カ、音声出力等の手段を使って、
視覚障害者が健常者と同じ条件で利用できる資料が増えることになる。また、上肢機能障
害のためべージめくりの動作が困難な肢体不自由者にとっても、電子テキストはキーボー
ド操作だけで読むことが可能なので大変有効である。しかし、現在は、電子媒体で出版さ
れる情報は限られている。また、身体障害者向けであっても、著作権者の許諾なくしては
一般出版物を電子テキスト化することができないため、自動点訳や音声合成等の情報関連
技術の開発が急速に進む一方で、電子テキストの蓄積は遅れている。身体障害者の情報収
集手段の確保の観点から、社会的な環境整備の必要性が指摘された。
　一方、図書館資料の大部分を占める、紙とインクを媒体とした一般出版物を、電子的な
手段を用いて視覚障害者自身が利用できるようにするための機器の開発も進んでいる。図
書館内に、ＯＣＲと読み上げソフトが入ったパソコンがあれぱ、健常者の場合の複写機と
同様、視覚障害者が必要な部分だけを自ら電子テキストとして複写することができるので、
図書館内に設備するとよいとの意見があった。

３）資料

　［視覚障害者］

　　点字図書・録音図書・拡大図書等の視覚障害者向けの資料形態だけでは、大学におけ
　る学習・研究に充分な資料を確保することは困難であり、むしろ、健常者と同じ資料を
　同じ条件で利用するための、対面朗読等の読書支援サービスや、読書支援機器の設置が
　望ましい。また、視覚障害者が視聴覚資料を利用する場合には、画面の解説などの人的
　支援が必要であり、読書支援サービスに加えるとよいとの指摘があった。このように、
　大学図書館のサービスとしては、一般資料の利用支援で充分とする意見が多い一方で、
　点字図書・録音図書・拡大図書の収集及び目録の相互公開、相互利用を期待する意見も
　あった。
　　また、視覚障害者の学習・研究に欠かせない資料については、担当教官やボランティ
　ア等の努力で電子テキストが制作されている。こうして作られた電子テキストは個人使
　用や授業関連の使用など、著作権法上許される範囲内で利用されている。貴重な電子テ
　キストを複数の視覚障害者が共同利用できるよう、環境整備を進めることはできないか
　との意見があった。

　［聴覚障害者］

　　聴覚障害者の情報収集手段として重要なのは、視覚情報である。ビデオ等の視聴覚資
　料に字幕があれば、聴覚障害者による視聴覚資料の利用に有効なので、字幕入りの視聴
　覚資料を優先して収集してほしいとの意見があった。

４）サービス内容

　電話によるレファレンスサービスや、学内ＬＡＮを利用した相互利用申込等、一般向け
に考えられているサービスの中には、身体障害者の図書館利用にとって重要なサービスで
あるものが多い。通常受けられるサービス及び身体障害者が特別に受けられるサービスを
明らかにし、定期的に障害の種類別にオリエンテーションを開催する必要がある。新しい
サービスが迫加された場合等にも、まず、学内広報誌や掲示等、一般的な手段で広報した
うえで、把握できる範囲の身体障害者に個別に知らせる等の工夫が必要であるとの意見が
あった。一方、視覚障害者向けに点字版・録音版・拡大活字版の利用案内を作成する等、
広報手段に配慮が必要との意見があった。また、身体障害者の図書館利用についてのメー
ルサーバを立ち上げ、日常的に図書館と利用者が情報交換を行うとよいとの意見があった。
　一般に身体障害者は身体機能障害のために情報収集において不利がある場合が多く、健
常者以上に広い意味での情報リテラシーにおける熟達を必要としているが、氾濫する情報
の中から必要とする情報を、漏れなくより高い適合率で検素することには、相当の習練を
要する。大学図書館におけるレファレンスサービスの専門家から、資料収集の方法につい
て必要な知教を得ることができれば、身体に障害のある学生にとって、学習・研究活動を
支える重要な要素となりうるとの指摘があった。

４）－１　読書支援サービス

　読書支援サービスを図書館利用の場面毎に挙げれば、①文献検索代行（必要な資料の存
在を知る）、②蔵書検索代行（必要な資料の所蔵の有無を知る）、③資料検索代行（必要
な資料を書架から取り出し館内にいる利用者の手元に届ける）、④文献複写代行、⑤資料
配送サービス（必要な資料を所蔵館外にいる利用者の手元に届ける）、⑥相互利用申込書
記入代行等である。図書館利用のあらゆる場面で、身体障害者への支援サービスが必要と
される可能性があり、どこまで対応できるかは、各図書館で事情が異なるので、可能な範
囲を明確にしたうえで、利用者の要求に弾力的に対応すればよいとの指摘があった。

　［視覚障害者］

　　図書館資料の中には、新着雑誌や参考図書等、禁帯出となっている資料があり、館外
　貸出しを受けなくても、図書館内で朗読サービスを受けられれば視覚障害者の図書館利
　用が拡大されるので、対面朗読サービスは不可欠であるとの指摘があった。対面朗読サ
　ービスの予約方法については、一定期間継続して予約できるレギュラー型と一回毎のス
　ポット型の両方が利用できるとよいとの意見があった。また、予約申込み等、図書館へ
　の連絡を電話で行えると利用しやすいという指摘があった。
　　利用者の求めに応じて図書館資料の録音や点訳を行うサービスについては、大学図書
　館として取り組むことが必要だとする意見があったが、大学図書館に期待される図書館
　サービスの範囲外であるとする意見もあった。

４）－２　情報検索支援サービス

　きめ細かく対応するためには、代行検素等の人的な支援が不可欠であるとの指摘があっ
た。また、健常者と同じ条件で、身体障害者自らが情報検素を行なえるよう、ソフトや八
ードの環境を整えることが重要であるとの意見もあった。

　［聴覚障害者］

　　マニュアル等は、図等を活用した視覚的な構成にすると聴覚障害者が利用しやすくな
　る。また、聴覚障害者には濁点の誤用が多いので、濁点の入カミスが検素上で許容され
　ていると使いやすいとの指摘があった。

４）－３　介助的支援サービス

　車椅子介助・視覚障害者へのガイドヘルプ等の介助的支援サービスがあれぱ、単独で図
書館を利用できる身体障害者が拡大する。職員によるの対応が困難な場合には、ボランテ
ィアの活用が有効であるとの指摘があった。

５）接遇等

５）－１　カウンター対応等

　身体障害者が援助を求めやすい環境と、申し出に対応する体制があれぱ十分であるとの
意見が多かった。何度聞き直してもコミュニケーションがとりにくい場合など、障害者へ
の対応が不十分になるケースが考えられるが、利用者と図書館の双方がコミュニケーショ
ンの手段を工夫し対応に努力すれば、身体障害者の図書館利用の拡大に繋がるとの指摘が
あった。特別なサービスを必要としている身体障害者のなかには、一見したところ分から
ない場合もあるので、カウンター担当者は、常に、利用者の二ーズに注意を払う姿勢が必
要である。このような姿勢があり、図書館に信頼できるスタッフがいれぱ、特別なサービ
スを必要としている潜在的な利用者も、援助を求めやすくなるとの指摘があった。
　身体に障害のある利用者からの要求は身体機能障害の状況により多様であることから、
すべての要求に対してあらかじめ対応の準備をすることは困難である。このため、実際の
身体障害者サービスにおいては、通常の図書館サービス以上に、利用者の求めに柔軟に対
応する姿勢が必要となる。身体障害者がスムーズに的確な図書館サービスを受けるために
は、各図書館サービスの担当者とは別に、身体障害者サービスを統括し、調整することが
できるコーディネーターを配置することが必要であるとの指摘があった。

　［聴覚障害者］

　込み入った内容の意志の疎通には手話通訳が有効であり、手話ができる職員が図書館
にいれば理想的であるが、筆談で丁寧に対応する体制があれば、図書館利用に困らない
ので、筆談を申し出やすい雰囲気作りに配慮してもらいたいとの指摘があった。筆談に
応じる旨の表示をしたり、筆記貝や筆記用紙、ホワイトボード等をカウンターに常備し
たりしてあると、筆談を申し出やすいとの意見があった。
　話し手の口の動きを確認するので、正面を向いて大きな声でゆっくり、はっきりと話
すと聴き取りやすい。メモを渡して内容を確認することも有効であるとの指摘があった。
また、手話ができるカウンター担当者がいる場合には、対応時間帯を表示したり、「手
話バッチ」等を着用したりすれば、聴覚障害者が手話を活用しやすいとの意見があった。

５）－２　職員研修

　図書館の職員は、図書館員としての専門的な知識や技能があれぱ、身体障害者の図書館
利用においても信頼できるスタッフであり、必要に応じて、身体障害者の特別な要求に応
える姿勢があれば充分であるという意見があった。
　一方、身体障害者サービスの特殊性に注目し、的確なサービスを継続的に行うためには、
身体障害者サービスについて訓練を受けた専門の図書館職員が身体障害者サービスを担当
するほうがよいという意見や、身体障害者サービスは図書館の基本機能であるので、図書
館職員の全員が身体障害者サービスに習熟しておく必要があるという意見、図書館に障害
者教育の専門家を配置するとよいという意見もあった。職員研修の内容としては、車椅子
介助の方法や視覚障害者のガイドヘルプの方法等、身体障害者への介助の具体的な方法、手
話や点字の習得が挙げられた。

５）－３　災害時の対応

　災害時に身体障害者を避難・誘導するためには、個別に対応する必要があり、夜間等の
時間外開館時には、対応に充分な人手が見込まれないので、避難・誘導体制を綿密に検討
する必要があるとの指摘があった。

　［視覚障害者］

　　全盲の場合には単独で図書館内にいることは少ないので介助者が避難・誘導できる。
　また、弱視者は、照明が暗くなった場合には、視覚による状況把握が困難になるので、
　非常口の位置から音声によって位置を知らせる案内があると、方向感覚を確認すること
　ができて避難しやすいとの指摘があった。

　［聴覚障害者］

　　緊急時にフラッシュやライトの点滅で異常を知らせる設備や、プラカード等で緊急放
　送の内容を知らせる配慮があれぱ有効であるとの指摘があった。また、聴覚障害者は周
　囲の状況が把握できれば団体行動をとれるので、問題は少ないとのことであった。

　［肢体不自由者］

　　周囲の状況は把握できるが、移動に困難があるので、周囲の授助が期待されるものの
　集団から取り残される危険性があり、図書館側で見回って残留者の有無を確認すること
　が必要であるとの指摘があった。災害時にはエレベーターを利用できないため、車椅子
　利用者は背負って降ろして欲しいとのことであった。

６）　図書館外との連携

６）－１　大学内の協力

　障害者サポートセンター等、学内で連携して身体障害者を支援する体制があれば、身体
障害者の二ーズに合わせた多角的な支援サービスが期待できるが、現状では、学内でまと
まった対応をするには至っていない。まず、学内の図書館間の連携体制を整えることから
始めてはどうかとの意見があった。

６）－２　図書館間の協力

　視覚障害者情報提供施設（点字図書館）や聴覚障害者情報提供施設等からのサービスは
身体障害者が個人で受けられるため、大学図書館として相互利用サービスを行う必要はな
く、むしろ、通常の相互利用サービスを受けるに際し、視覚障害や上肢機能障害等により
筆記が困難な場合には、申込書記入の代行サービスがあると利用しやすいとの指摘があっ
た。一方、大学図書館における学習・研究支援という観点からは、海外の障害者支援団体
との連携やサービス内容の紹介が必要となることがあり、身体障害者向けに情報支援を行
っている国内外の関係機関の利用案内や、特殊資料の目録情報の収集に努め、幅広く学術
情報の収集を行う利用者の要望に応えることができるようにしておく必要があるとの意見
があった。
　大規模な大学で、多数の身体障害者を受入れている場合には、身体障害者に対する図書
館サービスを継続して安定的に提供しやすいが、小規模の大学では困難な場合が多い。身
体障害者サービスの経験を、大学間で共有できる体制が整備されれば、大学図書館全体の
サービスの向上を図ることができるとの意見があった。具体的には、必要に応じて各大学
図書館に身体障害者サービスについて助言したり、海外から特殊資料を取り寄せる等の高
度な身体障害者サービスを行ったりする、「身体障害者サービス支援センター」を特定の
大学図書館内に、全国のブロック毎に一か所程度設けるとよいとの提案があった。

６）－３　福祉関係機関等との協力

　身体障害者の支援を行うために、市民ボランティアが活発に活動を行っているが、大学
における学習・研究に対応できる専門書の朗読ボランティアや、専門的な内容の手話通訳
ができるボランティアは不足している。海外では、視覚障害者のために、著者が自著の朗
読をして録音資料を作成したり、研究者が朗読の訓練を受けたうえで専門分野の朗読ボラ
ンティアを行う例がある。大学図書館としては、福祉関係機関等に市民ボランティアの派
遣を求める以外に、ボランティアの養成段階から連携・協カを行うことが必要であるとの
指捕があった。

６）－４　ボランティアとの協力

　施設・設備の充実が図られても、図書館の利用において身体障害者が必要としている支
援サービスには、人手に頼る内容が多いため、各図書館の事情により、利用者の要求に充
分に対応することが困難な場合が多いことが考えられる。学外のボランティアとの協力の
他に、学内の点訳サークルや手話サークルとの連携の必要性の指摘もあった。また、ボラ
ンティアであっても何らかの謝礼が必要との意見があった。

７）その他

　歩行やコミュニケーションに困難がある身体障害者にとっては、人と情報が集まる大学
図書館は、健常者以上に学習・研究の拠り所となっており、身体障害者からの要求には、
最善を尽くして対応してほしい。対応が困難な場合には、その旨を伝えるだけでなく、目
的達成に必要な条件を示したり、問題解決に役立つ情報を提供することにより、利用者が
図書館の利用に熟達できるよう配慮してほしいとの意見があった。
　また、身体障害者に配慮した施設・設備及び資料の充実も重要ではあるが、身体障害者
のためにも、一般の所蔵資料及び図書館サービスを充実させることによって図書館機能を
全般的に向上させ、図書館をより魅力あるものとすることが、基本的に重要であるとの指
摘もあった。

ご協力いただいた専門家

中田　英雄　　筑波大学心身障害学系助教授（視覚障害）
河内　晴彦　　　　〃　　　〃　　　助教授（　〃　　）
吉野　公喜　　　　〃　　　〃　　　教授　（聴覚障害）
四日市　章　　　　〃　　　〃　　　助教授（　〃　　）
柳本　雄次　　　　〃　　　〃　　　教授　（肢体不自由）
名川　勝　　　　　〃　　　〃　　　講師　（　　〃　　）

佐久間　宏　　宇都宮大学教育学部心身障害学講座教授
池本　喜代正　　　〃　　教育学部心身障害教育学講座助教授

伊藤　誠　　　千葉大学名誉教授（元工学部建築学科教授）

坂村　健　　　東京大学総合研究博物館教授

荒尾　禎秀　　東京学芸大学教育学部教授
上野　一彦　　　　〃　　　心理学科教育心理研究室教授
堅田　明義　　　　〃　　　障害児教育学科障害児教育研究室教授
高橋　智　　　　　〃　　　　　〃　　　　　　　〃　　　　助教授
澤　降史　　　　　〃　　　　　〃　　　　　　　〃　　　　講師

佐藤　浩史　　お茶の水女子大学　理学部情報科学課教授
永川　祐三　　　　〃　　　　　　保健管理センター所長

松延　秀一　　京都大学化学研究所総務課図書掛

鈴木　昌和　　九州大学大学院数理学研究科教授

原　俊介　　　筑波技術短期大学視覚部一般教育教授
大武　信之　　　　　〃　　　　　〃　教育方法開発センター助教授

石川　准　　　静岡県立大学国際関係学部教授

小島　純郎　　社会福祉法人「全国盲ろう者協会」理事長、千葉大学名誉教授

河村　宏　　　(財)日本障害者リハビりテーション協会企画研究部次長

３．身体障害者サービスに関する学識者の意見

１）身体障害者への対応方針

１）－１ 対応方針の成文化

２）施設・設備

２）－１ 大学図書館建築施設上の設備整備

［視覚障害者］

［聴覚障害者］

［肢体不自由者］

２）－２ 読書支援用の施設・設備・機器

３）資料

［視覚障害者］

［聴覚障害者］

４）サービス内容

４）－１ 読書支援サービス

［視覚障害者］

４）－２ 情報検索支援サービス

［聴覚障害者］

４）－３ 介助的支援サービス

５）接遇等

５）－１ カウンター対応等

［聴覚障害者］

５）－２ 職員研修

５）－３ 災害時の対応

［視覚障害者］

［聴覚障害者］

［肢体不自由者］

６） 図書館外との連携

６）－１ 大学内の協力

６）－２ 図書館間の協力

６）－３ 福祉関係機関等との協力

６）－４ ボランティアとの協力

７）その他

ご協力いただいた専門家

１）－１　対応方針の成文化

２）－１　大学図書館建築施設上の設備整備

　［視覚障害者］

　［聴覚障害者］

　［肢体不自由者］

２）－２　読書支援用の施設・設備・機器

　［視覚障害者］

　［聴覚障害者］

４）－１　読書支援サービス

　［視覚障害者］

４）－２　情報検索支援サービス

　［聴覚障害者］

４）－３　介助的支援サービス

５）－１　カウンター対応等

　［聴覚障害者］

５）－２　職員研修

５）－３　災害時の対応

　［視覚障害者］

　［聴覚障害者］

　［肢体不自由者］

６）　図書館外との連携

６）－１　大学内の協力

６）－２　図書館間の協力

６）－３　福祉関係機関等との協力

６）－４　ボランティアとの協力