防災と災害時緊急対策調査研究班調査報告: ＩＩＩ．大学図書館の防災・安全管理と緊急時対策への提言２．個々の大学図書館の防災・安全管理

２．個々の大学図書館の防災・安全管理

１）平常時の防災・安全管理体制

(1) 組織・体制を早急に整備しておくこと

　災害は時と所を選ばずに突然襲ってくる現象である。そのための科学的な予知研究が進
められているものの、現在の段階では特定の時刻と場所を予知できるまでには至っていな
い。それだけに、災害に即応できる組織・体制の整備を早急に行うべきである。そのため
の基本となるものは、次の２点である。
　①　防災・安全管理に対する責任及び分担を明確にすること。
　②　その責任及ぴ分担を職員に周知徹底すること。
　すでに消防法の定めるところにより、自衛消防隊の設置が義務づけられているが、さら
にこれを防災全般にも資するものとして再認識するとともに、場合によっては、それに応
じた再編成を行うことも必要となろう。安全管理についても、法規に定めてあるところと
整合させながら、恒常的に活動する安全管理委員会の設置を考慮する必要がある。

(2) 防災・避難設備を定期的に点検すること

　防災装置や避難設備等については、これらの設置不備あるいは整備不良によって被害を
拡大させることも多い。感知・警報装置、非常放送設備といったものは、消防法等により
専門業者が定期点検を行うことになっているが、それだけにとどまらず、職員自身も次の
ように関与することが望まれる。
　①　専門業者によらないものは、定期的に点検整備を行うこと。
　②　専門業者によるものでも、外観からのチェックを定期的に行うこと。
　③　職員に対して設置場所、操作方法の周知を図ること。
　④　操作方法が本体に直接掲示されていること。

(3) 避難ルートを確保しておくこと

　避難ルートの確保は、職員の日常の点検活動により容易に維持が可能である。利用者ス
ペースには、機器や図書館家具の設置変更がたびたび起こるので、避難の動線を定期的に
確認するとともに、これによるサインの更新を行うことは、大学図書館の責務であろう。
そのために考慮すべき点は、次のとおりである。
　①　非常口を防犯及び無断入館防止のために施錠している場合、鍵の所在が職員すべて
　　に周知され、速やかに解錠できるようになっていること。
　②　非常口及び非常階段に進路を妨げる物品等が置かれていないこと。
　③　身体障害者の避難ルートには特に配慮すること。

(4) 非常用物品を常備しておくこと

　携帯電話、携帯ラジオ、懐中電灯、救急医薬品（特に外傷用）といった非常用物品は、
常時使用しているわけではないので、電池などの消耗品のストックとともに、いつでも使
用可能な状態になっていることが重要である。そのためには定期点検を欠かさずに実施す
ると同時に、配置場所と使用方法を職員に周知しておかなければならない。

(5)　防災教育・訓練を積極的に実施すること

　防災教育・訓練の目的は、災害時に人命と図書館資料を保護し、被害の拡大と二次災害
の発生を防止するために、自らの安全を図りながら、迅速的確な行動を身につけさせるこ
とにある。そのためには、図書館固有の条件を勘案した教育・訓練が、日常活動に結びつ
いた形で生きたものとなっている必要がある。図書館の建物には特有の空間があり、これ
に応ずる緊急連絡、避難誘導、被害拡大防止といった初期行動は、最大の効果を目指した
ものでなければならない。このためには、次のような点に考慮することが望まれる。
　①　大学全体の防災訓練に参加することはもとより、大学図書館独自の防災訓練を定期
　　的に実施すること。
　②　大学図書館としての具体的な目的、評価の観点を定めること。
　③　利用者の参加をできるだけ求めること。
　④　個室や書庫の在館者の確認を効率的に行うこと。
　⑤　避難誘導を小人数で迅速に行うこと。
　⑥　身体障害者の避難、負傷者の救助を訓練内容に加えること。
　⑦　非常放送あるいは口頭伝達の方法を文例も含め工夫すること。
　⑧　防災門違の研修や疑似体験できる場に職員をできるだけ参加させること。
　⑨　新任・転任者への教育は早期に必ず行うこと。
　⑩　防災週間をはじめ、機会を捉えて恒常的に職員の意識の啓蒙を図ること。

(6) 設備・備品の安全措置を講じておくこと

　特に書架、図書館家具については、地震に際し、転倒、倒壊あるいは傾斜の事例が数多
く報告されている。これらの被害は災害のたびに起きており、図書館の特殊性をよく示す
ものであるが、本調査研究では、集密書架をはじめ、これらの防災・安全管理の技術的な
側面については、専門家の提案を待つこととした。もちろん、そうであっても、今できる
対策を講じることは避けてはならない。そのために注意すべき点は、次のとおりである。
　①　書架の固定など現行の耐震措置をできるだけ講ずること。
　②　書架等が転倒しても人を直撃しないように、閲覧スペースとの配置関係を工夫する
　　こと。
　③　書架等が転倒あるいは傾斜しても、照明や吊り下げサインなどを直撃しないように、
　　固定物品の配置を適切にすること。
　④　固定が困難な書架については、できるだけ低書架とすること。
　⑤　図書館家具や什器類の上には物品を積み重ねないこと。
　⑥　鍵がついている什器類は、使用していない間はできる限り施錠すること。
　⑦　ブックトラック等の可動物品は、利用者スペースに配置しないこと。
　⑧　展示ケース等のガラス製品の周囲には、落下・転倒のおそれがある物品を置かない
　　こと。

(7) 施設及びその周辺を適切に管理しておくこと

　屋内消火栓、防火扉、防火シャッターといった防災設備の周辺を整理整頓し、施設全体
の止水栓、配電盤といった管理設備の位置と操作を確認しておくことは、災害時の被害拡
大を防止するうえできわめて重要である。それとともに、人身事故につながる床面の段差
や各種配線の露出なども、日常の安全管理のなかで除去しなけれぱならないことであろう。
消防車や救急車といった緊急車両の進入経路、駐車場所の確保なども同様である。こうし
たことのためには、次の点に考慮することが必要である。
　①　施設全体の図面を常備し、その配置場所を職員全体に周知すること。
　②　施設面の不都合を日常業務や利用者の声から常に拾い上げること。

(8) コンピュータのデータ保全に万全を期すること

　地震被災においては、転倒あるいは外的な要因によるコンピュータ資源の被害は、比較
的小さなものにとどまっている。しかしながら、建物の損壊あるいは水害（水による二次
災害を含む）によって、ハードウェアとソフトウェア、とりわけデータに悪影響の及んだ
事例が少なからずあった。大学図書館としては、情報を失うことは資料を失うことと同義
であるだけに、データの管理に細心の注意を払う必要がある。このために望まれる点は、
次のとおりである。
　①　データのバックアップを日常的に自動化すること。
　②　磁気テープやフロッピーディスクは、被害の受けにくい場所に保管すること。
　③　データの消失につながる不用意な操作を避ける手立てを講じておくこと。

２）緊急時の対応

　不幸にして被災した場合の対応過程には、災害発生時の緊急対策と被災後の復旧対策と
がある。災害は予見しにくいとはいえ、事態が起きてから対策を講ずるのでは手遅れであ
る。防災・安全管理計画の一部として、プロトタイプの対応計画は、マニュアルとして平
常時から策定・整備しておくことが必要である。

(1) 発生時の対応

　災害発生時には、その時、その場に居合わせた職員が、どのような初期行動をとれるか
にすべてがかかってくる。そのためには、緊急時における指示者の順位を平常時から明確
にしておき、事に臨んで、その指示者が具体的な行動目標を明確かつ即座に提示し、緊急
時の意思決定のプロセスを職員へ周知徹底することが絶対要件となる。その指示のもとに、
それぞれの職員が臨機応変に事に処するということが重要である。こうした初期行動の良
杏が、被害の拡大や二次災害の発生を最小限度にくいとめることになる。緊急時に職員が
自らの安全に留意しながら対応すべき事項には、以下のものが考えられる。これらは同時
並行的に行われるので、職員の役割分担が特に大切となる。
　①　緊急事態の把握及び職員への緊急連絡
　②　大学本部、関係官署への通報
　③　利用者への情報伝達、避難誘導及び確認
　④　負傷者等の救助活動
　⑤　被害原因の除去
　⑥　二次災害防止への行動
　⑦　非常持ち出し物品の搬出
　⑧　被災現場の保存と記録
　⑨　被災情報の収集・発信

(2) 復旧時の対応

　復旧作業のポイントは、早期開館を実現するための体制をいかに整えるかにあり、学内
外の協力を得ながら、そのための人的、物的、予算的な措置を速やかに講ずることである。
大学図書館が対応すべき事項としては、以下のことが考えられる。
　①　復旧体制の組織化
　②　被災状況の調査と点検・確認
　③　復旧計画の策定
　④　復旧経費の要求
　⑤　復旧支援受入体制の準備
　⑥　復旧情報の収集・発信

３）図書館資料の保全

　大学図書館としては、すべての所蔵資料を最良の状態で保全することを望むものである
が、その実現が困難であることは明らかである。各大学の特徴を生かした資料保存のあり
方が間われる所以であるが、その際に、資料劣化の観点とは別に、災害から資料を守ると
いう視点も忘れてはならない。
　資料は火と水に対して非常に弱いが、図書館の出火率がきわめて低いことからすれば、
給排水施設の水から資料をいかに守るかが課題となる。そのための基本となるのは、これ
らの施設の日常的な点検整備を徹底することによって、被害を最小限にくいとめることで
あろう。
　そうした資料の修復対策については、次のことに留意する必要がある。
　①　水による被害を受けた資料は、時間の経過に伴って、損傷状況は悪化の一途をたど
　　るので、その重要度と損傷度に応じて、修復の可否を早急に判断すること。
　②　被害を受けた資料のうち、どうしても修復しなけれぱならないものには、貴重書、
　　当該大学刊行物、分担保存及び寄託の資料などがあり、これに対応できる施設を備え
　　た専門業者あるいは公共施設で迅速に処理すること。
　③　資料修復の知識と技術を平常時から蓄積するとともに、防災・安全管理対策の一環
　　として、資料の修復対策を具体的に検討しておくこと。

４）大学図書館の防災・安全点検項目表

　大学図書館を利用する人々の安全と資料の保全を図ることは、図書館職員に課せられた
責務である。この責務を果たすため、それぞれの大学図書館の防災計画に沿って、個々の
職員が防災意識をもち、訓練を行い、施設・設備を点検整備して、いつでも機能する総合
的な体制の維持に努めることが求められている。
　図書館管理者はこのために、地についた防災計画を策定するとともに、職員の防災意識
を喚起し、教育・訓練を積極的に実施し、施設・設備の日常的な点検整備を指示すること
によって、その重大な責任を果たさなけれぱならない。
　本調査研究班では、これらの検討と実践のために、大学図書館に共通的なチェックリス
トを案出した。次に掲げたのがそれである。積極的に活用されるよう期待するとともに、
この項目表に触れられていない事項についても、それぞれの大学図書館の実状に応じて追
加されるよう望むものである。