防災と災害時緊急対策調査研究班調査報告: ＩＩＩ．大学図書館の防災・安全管理と緊急時対策への提言１．防災・安全管理の基本となる視点

ＩＩＩ．大学図書館の防災・安全管理と緊急時対策への提言

１．防災・安全管理の基本となる視点

　本調査研究の主たる目的は、被災した場合に次の４つの課題をどのように達成するかに
ある。
　①　利用者及び職員の安全確保を図ること。
　②　人類の知的共有財産である学術資料を守ること。
　③　大学図書館機能を可能な限り維持すること。
　④　失われた機能を迅速に復すること。
　これらの課題は大学図書館に限らず、あらゆる館種の図書館においても適用されるもの
であるが、その基本となる考え方は、およそ集客施設一般に当てはまるものであろう。し
かしながら、大学図書館がこれらの課題を達成するためには、さらに固有の対応を求めら
れる場合が多い。
　したがって、防災・安全管理においては、図書館職員は一般的な防災の観点とともに、
図書館固有の防災の観点を併せもつ必要がある。そのうえで、非常時においては、迅速的
確な状況判断により、自主的かつ協調的な行動が即座にとれるということが重要である。
そのためには、具体的な計画、それに基づく日常の点検と訓練が必要であるとともに、危
機に臨んで一致協力が可能となるように、平生の職場の協調関係が前提となるであろう。
　防災・安全管理の体制を時系列で捉えると、次の3つの局面が考えられる。
　①　平常時の安全管理体制
　②　災害時の即応体制
　③　被災後の復旧体制
　これらの局面は互いに分離しているのではなく、一連の流れとして想定していなければ
ならないものである。したがって、防災・安全管理の体制は、すべて事前の平常時におい
て策定されるものということになる。
　阪神・淡路大震災をはじめ、過去の多くの災害から大学図書館が学ぶぺきことは、日常
の防災・安全管理体制を整備することの重要性である。災害に遭遇したら、それはそれで
仕方がないのかもしれないが、それでは集客施設の運営に従事する者として、あまりに無
責任とのそしりは免れないであろう。いつでも機能する体制づくりの重要性は、消防や防
災関係機関の聞き取り調査においても、繰り返し強調されているところである。
　いつでも機能する防災・安全管理体制のためには、次の要件を満たすことが求められる
であろう。
　①　平常業務の規範として規程等を明文化しておくこと。
　②　環境の変化に即応できるように組織と施設・設備を日常的に点検すること。
　③　職員への計画的継続的な教育・訓練を実施し防災・安全管理意識を喚起すること。
　これらに基づいて、防災・安全管理の個々の具体的な行動が、職員すべてにルーチンワ
ークとして認識され、実際に通常業務のなかで実践されてこそ、防災・安全管理体制は実
効あるものとなる。この意味で、防災・安全管理を最終的に決するのは職員であり、その
能力、責任感、努力によるところがきわめて大きいと言えよう。
　このような防災・安全管理を進めるうえでは、施設・設備への対策に予算措置を必要と
するが、これは一朝一夕に解決される問題ではない。しかしながら、予算措置は可能なと
ころから要求しつつ、今できることを着実に積み重ねることが重要であろう。このことは
また、技術的な動向への対応についても同様である。