防災と災害時緊急対策調査研究班調査報告: ＩＩ．大学図書館の防災及び緊急時対策の調査５．他施設の防災及び緊急時対策の現状調査

５．他施設の防災及び緊急時対策の現状調査

１）デパートの防災対策

　集客施設のなかでも、デパートは大学図書館と類似するところが少なくない。その主た
る類似点は次のとおりである。
　①　多量の可燃性物品を展示・陳列していること。
　②　不特定多数の顧客を収容し、その大部分は内部事情に不案内なこと。
　③　職員の半数以上が女性であること。
　デパートをはじめ、集客施設ではそれぞれの特性に応じた防災対策を講じている。その
規範となるものが消防法（昭和23年）で、火災のみならず、地震その他の災害から被害を
防止することを目的としている。これに基づき、各施設は消防署の指導を得ながら、固有
の消防計画を策定することが求められている。その要点は次のとおりである。
　①　建物あるいは職場ごとに消防計画を策定すること。
　②　各種災害に対する予防管理体制を確立すること。
　③　被害を防止する活動体制の確立と組織的自主的な防火管理を行うこと。
　本調査研究では、デパートのプロトタイプの消防計画から、大学図書館が防災対策を講
ずる場合の一般的な指針を確認することとした。消防計画に必要な観点と主要な事項は、
次のとおりである。

(1) 防災計画の観点

　①　収容人員の管理と避難誘導体制の確立
　②　避難口と避難階段に直通する通路の有効幅員の確保
　③　災害発生時のパニックを防止する非常放送技術の確立
　④　係員に対する任務内容の明確化
　⑤　各種教育訓練の実施

(2) 防災計画の主要事項

　①　総則（目的、防火管理者の権限と計画の適用範囲、防火管理委員会、防火管理者へ
　　　の連絡事項）
　②　予防管理対策（予防管理組織、火災予防措置、建物等の自主検査、消防用設備等の
　　　点検）
　③　自衛消防活動対策（自衛消防組織、自衛消防活動）
　④　震災対策（震災予防措置、震災時の活動）
　⑤　防災教育及び訓練
　なお、上記の事項のうち、デパートに固有のものを除いた詳細については、本調査報告
書の付録に収載した。

２）集客施設の防災の特徴

　デパートのみならず、ホテル、銀行といった規模の大きな集客施設一般の防災対策で注
目される点は、次のとおりである。
　①　防災計画が周到に策定され、環境の変化に応じて常に改定されていること。
　②　防災訓練が計画的定期的に高いレベルで実施されていること。
　③　日常業務のなかに防災対策が組み込まれていること。
　④　マニュアル、チェックリストが整備され、常に職員の点検がなされていること。
　したがって、これらの集客施設においては、管理者はもとより、職員一人一人の防災意
識がきわめて高く、さらに、頻繁な訓練によって、災害時の身体行動が自然にとれるとい
うことが特徴である。人命の尊重があらゆる場面で徹底されており、特に顧客の避難誘導
には万全の対策が講じられている。先の阪神・淡路大震災でも、月２回の防災訓練を実施
していたホテルでは、客室に閉じ込められていた者の救出も含め、１時間ほどで240人の
宿泊客の避難誘導を完了したという事例も報告されている。

３）大学図書館の防災との異質性

　デパートも大学図書館も、その基本となる防災対策はほとんど共通している。しかしな
がら、大学図書館にはいくつかの異なる条件がある。
　①　施設面積に比して職員が少ないこと。
　②　各階要所に職員を常時配置できないこと。
　③　職員が不在（夜間・休日開館時）となる場合があること。
　④　館内に書架や機器などによる死角が多いこと。
　⑤　利用者用出入口が１箇所である場合が多いこと。
　⑥　物品（書架、資料）の配置密度が高いこと。
　⑦　利用者の来館は単独である場合が多いこと。
　⑧　利用者の行動が複雑なこと。
　⑨　日本語に不得手な外国人教官、留学生がいること。
　大学図書館が防災を考える場合、以上の条件も勘案しながら、防災対策を策定しなけれ
ぱならないであろう。