I.調査研究の目指すところ


1.災害、防災とは何か

 災害ということばは、さまざまな局面で多様に使用されている。災害関係法令を包括す
る災害対策基本法(昭和36年)によれば、災害を「暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、
津波、噴火、その他の異常な自然現象または大規模な火事もしくは爆発、その他」と例示
している。すなわち、原因が自然的あるいは人為的であるかの別を問わず、人間にとって
被害となる現象を災害とするものである。
 防災ということばもまた、『防災情報総覧』によれば、災害の予防、応急及び復旧の対
策を含むものとして、幅広く理解するとしている。その意味で、防災には平生の安全管理
が前提になっていると考えられ、したがって、これは何か特別の付加的な業務ではなく、
通常業務の一つとして日常的に実施されるものということになる。

2.大学図書館の防災体制の位置づけ

 災害対策基本法では、国、都道府県、市町村、指定公共機関、住民のそれぞれが、固有
の責任を果たすことによって、等しく防災に寄与するよう規定している。この趣旨から、
各職域においても、その実情に即した防災対策をとることが求められ、大学もその基本単
位として位置づけられるものとなる。
 大学図書館も大学全体の防災体制のなかで部分として機能することになるが、実験施設
や病院など、大学の構成要素である各部局には、それぞれに固有の環境や条件がある。大
学図書館においても、大学全体の防災計画と連携しながら、たとえば、大量の書架と資料
が所在するという一事からも、独自の防災対策が求められている。

3.調査研究の目的

 本調査研究の直接的な動機は、阪神・淡路大震災における未曾有の災禍にある。その目
的は、大規模地震への対応だけにとどまらず、大学図書館の防災全般にわたる現状をさま
ざまな角度から点検することにより、個々の大学図書館が防災体制を早急に確立するため
の基本的事項を明らかにすることである。
 大学図書館の現状の枠組みのなかで、実務的立場に拠る調査研究であるから、もとより
完璧なものは目指し得ないが、意図するところは、少しでも役立ち得る知見を早期に形あ
るものとして報告することにある。したがって、大学図書館が共通にとるべき基本的な対
策を提示し、それ以外の事項については、それぞれの大学図書館での実状に即した検討に
委ねることとした。