3.改善すべき事項について

 3.1 遡及入力の促進について

  3.1.1 遡及入力の現状と問題点

     アンケートによれば、回答のあった275図書館(室)中、106図書館(室)で遡
    及入力を実施し、74図書館(室)で計画中である。その実施態様は、それぞれの
    大学において予算、入力目標数や方法などに応じて様々である。以下に特徴的な
    事項について述べる。
   (1)予算措置について
      特別の予算措置を講じている図書館(室)は26あり、そのうち23の図書館
      (室)が学内経費をもって遡及入力を実施又は計画している。他の154図書館
      (室)は、ルーティン作業に組み込む形で遡及入力を実施又は計画している
      ことになる。
   (2)入力順位について
      入力順位は、学習活動に必要でかつ利用の多い開架図書、次いで出版年の新
      しい資料からとなっている。
      一方、特殊コレクションや郷土資料等の特色ある資料を入力対象としている
      図書館(室)は少ない。
   (3)目録データ入力の目録情報源について
      目録データ入力は、資料現物を目録情報源とする方法が多かった。このこと
      は、NACSIS-CATの目録基準に照らして、新規に書誌解析を行っていることを
      示していると考えられる。
      また、目録カードなど既存の目録情報により入力を行った場合は、必要とす
      る目録情報が十分に得られず、品質の高い目録データの作成が困難になるケ
      ースが多くなるものと考えられる。
   (4)自動登録システムについて
      自動登録システムを導入している図書館は少数であり、適用結果の意見も少
      なかった。
      しかし、自動登録システムを新規受入図書の目録データ入力に使用し、日常
      業務を効率的に行うことで、遡及入力に人員を当てるという有効使用をして
      いる大学があった。
   (5)外部委託について
      外部委託(人材派遣を含む)で遡及入力を行った場合、コストに対して作成
      されたデータの品質に満足感をあまり得ていない。
      図書館が、目録データ入力のため提供する目録情報の内容や方法などに、問
      題もあるようだが、受注する業者の習熟の度合い、経験の度合いによって作
      成されたデータの品質にばらつきがあるという意見が多かった。


  3.1.2 新規書誌レコード作成の現状と問題点

     開架図書の遡及入力に関しては、書誌レコードの作成を伴わない場合が多い。
     実際、本専門委員会委員の所属するある図書館の最近のケースでは、入力対象
    となった欧文の開架図書でさえ、その8割は既に書誌レコードが作成されており、
    所蔵レコードを登録するだけで所期の目的を達成している。
     すなわち、開架図書の遡及入力に必要な書誌レコードは概ねデータベース化さ
    れているものと判断できる。
     したがって、各大学における開架図書の遡及入力作業は比較的容易に達成でき
    るものと考えられる。
     一方、研究活動に必要な図書の目録データ入力は、前述の開架図書の入力と比
    べて新規書誌レコードを作成する場合が多く、外国語読解能力や書誌解析能力を
    備えた人材の確保や養成が必要となっている。
     また、新規書誌レコード作成の効率を高めるため出版年の古い資料や英語以外
    の外国語の資料の書誌参照ファイルが必要という意見もあった。
     学術情報センターの参照ファイル(US-MARC、UK-MARC、GPO-MARC)は、いずれ
    も主として英語の資料を対象としている。
     これらの参照ファイルに収録されている主要な外国語比率は、英語65%、ドイツ
    語18%、フランス語9%、ロシア語3.5%であり、大きく英語に偏っている。
     このことは、ドイツ語やフランス語の資料の新規書誌レコード作成を困難にさ
    せる一因となっている。
     また、遡及入力の情報源として過去に作成された参照ファイルの中には、目録
    基準整備段階で作成されている書誌レコードが多い。
     これらのデータは所在情報としての利用価値は高いが、書誌レコードは現在の
    目録基準による記述内容との違いが大きく、現物との同定すら難しいというケー
    スがあり、参照ファイルとして扱えないものも少なくない。
     よって、前述のように書誌参照ファイルの充実を望む意見が多く出されること
    になっている。


  3.1.3 学術情報の遡及入力促進のために

     本専門委員会の検討とアンケートの意見から、研究活動に必要な図書等の遡及
    入力促進のためには、前述の開架図書の遡及入力は、各大学の責任において完了
    させることを前提とし、次の3点を改善・要望事項としてあげる。
   (1)参照ファイルの充実について
      学術情報センターに、非英語外国語資料参照ファイルを充実することが必要
      である。
   (2)大型コレクション等の遡及入力促進について
      各大学は、大型コレクション、特殊コレクション、大学が刊行した資料や郷
      土資料など、大学が所蔵する特徴ある資料群の、遡及入力を促進する必要が
      あると考える。
      またそのために、語学力と書誌解析能力を併せもつ人材を養成する必要があ
      ると考える。
   (3)遡及入力推進予算の措置について
      遡及入力は、それぞれの大学や図書館で行うものであり、予算措置も大学や
      図書館で行われている。今後も図書館はそれぞれの図書館の事情や大学の教
      育・研究環境をふまえ、遡及入力について適切な予算措置をする努力を重ね
      る必要がある。
      一方、遡及入力を全国的な事業として効率的に展開するためには、大量に蔵
      書を所蔵する大学と、学術分野に特色ある蔵書を構成している大学へ、重点
      的に遡及入力予算が措置されることも必要と考える。
      更には、いくつかの大学で試みられている文部省科学研究費による遡及入力
      についても、各図書館が、蔵書構成の特色を生かした申請が行えるかどうか、
      検討すべき課題であると考える。


 3.2 中国語資料の入力について

     アンケートによれば、回答があった297図書館(室)のうち112の図書館(室)が
    中国語資料を所蔵しているが、所蔵の有無や受入数の多少により、問題認識に差
    異が存在している。


  3.2.1 NACSIS-CATへの入力状況

     中国語資料のNACSIS-CATへの入力は、所蔵する図書館の半数以上が「全く入力
    していない」という状況である。
     入力しない理由は、資料が少ないという理由が最も多く、次に、目録基準が明
    示されていない。文字セットがない、さらに、書誌の解析が困難なため等をあげ
    ている。


  3.2.2 目録入力の基準について

     「入力しない理由」の第2位に挙げられた目録入力基準は、回答館(室)のほ
    とんどがその必要性を挙げているが、明文化された基準は一部の大学を除いて有
    していない。
     一方では、中国語資料を中心にして蔵書を構成する特殊な機関は、その機関独
    自の方式で整理が進んでいる現状もあり、専門家集団による早急な検討とその結
    果の提示が必要であると考える。
     学術情報センターの総合目録小委員会の下に、「中国語資料データベース化検
    討ワーキンググループ」が平成7年度に設置され検討が進められている。アンケ
    ートの意見や検討内容が可能なかぎりその中に反映されることを期待するもので
    ある。


  3.2.3 文字セットについて

     NACSIS-CATの文字セットでは、現在の中華人民共和国(以下中国)で使われて
    いる簡体字は外字としてしか扱えず、そのままの形では入力も表示もできないこ
    とが最も大きな問題である。
     新NACSIS-CAT以降の開発では、国際規格である「ISO/IEC 10646-1-1993」を翻
    訳し、変更することなく作成した日本工業規格「JIS X0221-1995」(以下「X022
    1」という。)を採用することを決定している。
     この文字セットは、簡体字を含め、漢字を20,902字収録しており、現在の文字
    セットの問題に一定の解決をみることが期待される。しかし、これまでに比べ、
    文字を厳密に使いわけることができるため、より正確な書誌登録が可能となる反
    面、新たな問題として、日本の漢字と異なる中国漢字の知識や解析能力が求めら
    れることになる。
     さらに、目録業務用端末で、これらの文字セットが自由で簡便な操作で入力で
    きることが前提となる。


  3.2.4 参照MARCについて

     「X0221」が導入されれば、次の段階として中国語資料に関するMARCの導入が検
    討されるべきであると考える。
     現在のNACSIS-CATにおいて、US-MARCをはじめとする各種の参照MARCが果たして
    いる役割の大きさを考えれば、中国MARCの導入によって、均質な書誌を利用する
    ことができ、入力が大いに促進されることが期待できる。
     中国および台湾のMARCについては、新NACSIS-CATの参照ファイルとしての導入
    の可否を先の「中国語資料データベース化検討ワーキンググループ」で検討され
    ることを期待する。
     なお、これらのMARCは、主に新刊の図書(新学書)が対象となっていると考え
    られるので、いわゆる「漢籍」については、大量所蔵機関に資料を先行して入力
    するか、あるいはそのような機関ですでにデータベース化しているデータを、参
    照ファイルとして利用することも、併せて検討することを要望する。


  3.2.5 教育・研修について

     中国語資料は外国語資料として扱うべきであると考える。さらに、目録データ
    入力に際しては発音表記(ピンイン等)の付与など、ヨーロッパ系言語にはない
    特殊な扱いも必要である。このため、中国語資料を入力する要員を養成するにあ
    たって、入力するデータの記述を統一するために、教育・研修が必要である。


  3.2.6 中国語資料の入力促進のために

     本専門委員会の検討とアンケートの意見から、中国語資料の入力促進のために
    学術情報センターに対し次の4点を検討することを要望する。
   (1)目録情報の基準の策定について
      新学書・漢籍の目録規則と入力基準を策定する必要がある。
   (2)文字セットについて
      目録業務用端末及び検索用端末で、「X0221」の文字セットが利用できるよう、
      各メーカーに対して情報の提供を行う必要がある。
      また、既存のワークステーションやパーソナルコンピュータでの対応策につ
      いても、同様に情報の提供を行うことも必要である。
   (3)中国MARCの導入について
      中国MARCを新NACSIS-CATの参照ファイルとして導入するための検討を行うこ
      とが必要である。
   (4)中国語資料の研修について
      入力基準確定後、中国語資料の入力のための研修を、現在の研修カリキュラ
      ムの中に加えることが必要である。


 3.3 目録システム地域講習会の開催の在り方について

  3.3.1 目録システム地域講習会の現状と問題点

     アンケートの結果から、下記のような種々の実態・問題点を指摘することがで
     きる。
   (1)開催機関及び開催地域について
      NACSIS-CAT参加機関は、すでに私立大学が国立大学の2倍を上回り、私立大
      学から目録システム地域講習会(以下「地域講習会」という。)への受講者
      も年々増加している。
      平成7年度地域講習会にあっては、地域講習会の開催を希望した19大学のう
      ち、私立大学は1校(受講者10名)で、全受講者(250名)に対して4%である。
      また、NACSIS-CAT参加機関数の地域格差によって受講希望者と開催機関の数
      にばらつきがある。
      平成7年度の地方別開催機関数及び受講者数は、北海道1校(24名)、東北
      1校(14名)、関東4校(45名)、中部3校(31名)、関西4校(67名)、
      中国2校(32名)、九州4校(46名)であり、結果として西日本に偏る結果
      になっている。
   (2)開催機関の施設、設備及び運営について
      開催機関には、講習会専用の施設はなく、開催ごとに会場の設営をしている
      例が多く見られる。
      地域講習会用の端末は学内措置を行ったり、日常業務用の端末を転用するな
      どして8学部以上の大学が平均14台、2〜7学部の大学では平均7台を使用
      している。
      したがって、各開催機関では、日常業務への影響が発生するが、これらの影
      響を最小限にとどめる工夫を行いながら実施している。
   (3)講師有資格者について
      地域講習会の講師団は、学術情報センターからの講師と大学に所属する講師
      有資格者によって構成されている。
      講師有資格者の数は大学規模によってかなりのばらつきがあり、特に2〜4
      学部の大学では有資格者が少なく(平均1.3名/大学)、単独で地域講習会を
      開催するための要員確保が十分にできない状態にある。
      また、実習で大きな役割を果たす講師補助者も講師有資格者であることが望
      ましいが、8学部以上の大学(平均6.7名/大学)であっても、1機関で十分
      な講師有資格者を確保することが困難である。
      さらに、NACSIS-CATは、コーディングマニュアルの項目追加、目録基準適応
      範囲の明示など年を経るごとに発展をとげ続けており、目録業務に従事して
      いない場合、講習会前に、これらの進展を理解する作業が別途必要となる。
      実際、5学部以上の大学では、講師有資格者の6割が現在目録業務に従事し
      ていないという状況がある。
      一方では、地域講習会を開催する機会が稀な単科大学には、総数で35名もの
      講師有資格者が所属している。
      講師確保のため、実務的な調整を計り、近隣大学の講師有資格者を活用する
      方法も考えられる。
   (4)受講者について
      NACSIS-CAT参加機関が増加するにつれ、受講者の基礎知識や目録システムへ
      の習熟度も開きが大きくなりつつある。
      従来のように同一の課題、カリキュラムで初心者と初級以上の者を同時に教
      えるシステムを見直し、たとえば、中級者レベルとして、解決困難な事例検
      討を中心としたカリキュラムなど、クラス別レベル別講習会を開催すること
      が必要と考える。
      また、開催機関と受講者所属大学の導入機種の違いからくる端末操作の違い
      や、各大学図書館が導入した図書館業務システム(以下「ローカルシステム」
      という。)の構造上の違いが地域講習会の実習効率を阻害している点がある。
      さらには、学術情報センターにおいても、新旧NACSIS-CATの混在や、参加機
      関が導入する機種・ローカルシステムはますます多様化してくると予想され、
      対処が必要と考える。


  3.3.2 学内研修・ローカルシステムマニュアルの現状と問題点

     目録業務を円滑に遂行するには、地域講習会受講前及び受講後の継続的な学内
    研修がますます必要となってくる。
     しかし、現状においては目録規則やローカルシステムについての研修体制・マ
    ニュアルは不備であると言わざるを得ない。
     98大学のうち半数以上の大学は、目録規則研修を必要としているが、実施して
    いる大学は2割にも満たない。
     ローカルシステム研修に関しても必要性は認めているが、2割の大学が実施し
    ているにすぎない。
     目録規則に関するマニュアルは、7割弱の大学が必要としているが、整備して
    いる大学は全体の2割である。
     ローカルシステム操作マニュアルは、8学部以上の大学では7割以上が作成し
    ているが、7学部以下の大学では、整備状況は4割に満たないという状況である。
     学内研修の実施や学内業務マニュアルの整備は、業務の効率化、目録データの
    品質維持・向上のために各大学での積極的な取り組みが必要と考える。
     とりわけ、地域講習会講師と同様に大学間における調整を行い、同一地区内で
    の目録規則に精通した職員の派遣を望む意見もあった。


  3.3.3 地域講習会の効果的開催のために

    本専門委員会の検討とアンケート調査の結果から、地域講習会の効果的開催の
   ために次の5点を改善・要望事項として掲げる。
  (1)地域講習会の開催機関及び開催地域について
     学術情報センターは、NACSIS-CAT参加機関数と交通の利便を考慮し、全国を
     適切な規模のブロックに分割したりするなど、地域講習会の開催数を増加す
     る方向で調整をはかる必要があると考える。
     また、私立大学はその設立母体が異なるので、開催が難しいとは思われるが、
     講習会開催を促進するための方策を検討する必要もあると考える。
  (2)講師団の組織及び派遣について
     学術情報センター及び図書館は講師養成・再養成を行うとともに講師有資格
     者のブロック別の講師団を組織し、地域講習会へ講師及び講師補助者を派遣
     することも必要であると考える。
     また、派遣する講師数は受講者数に応じた規模にする必要があると考える。
  (3)学内研修体制の整備について
     学内の研修体制・マニュアルを同一ブロック、同一機種間で調整整備し、目
     録システム講習会受講予定者は極力、事前に学内で研修を終了することが望
     ましい。
     また、目録規則を実務において適応させる能力や書誌調整能力をもつ人材を
     図書館は養成する必要があると考える。
  (4)実習用目録端末機について
     地域講習会用の実習用目録端末機は、開催機関で措置するのが困難な場合も
     あるので、学術情報センターで措置することも必要と考える。
  (5)システム研修用ソフトについて
     NACSIS-CAT参加機関が増加し、使用環境の異なるシステムが混在することか
     ら、学内研修・自己学習のためのビデオテープ又はCAIソフト等による研修シ
     ステムを開発・作成することも必要と考える。