図書館情報システム特別委員会ＩＬＬシステム専門委員会第２次報告: ３．ＮＡＣＳＩＳ

３．ＮＡＣＳＩＳ－ＩＬＬシステムに関する事項

　当専門委員会は、平成６年６月の「第１次報告」を受けて、「ＮＡＣＳＩＳ－ＩＬＬシ
ステム利用指針（案）」を作成するための参考データを得るとともに、国立大学図書館・
室レベルにおけるＩＬＬサービスに係る実情を把握するために、「平成６年度ＩＬＬシス
テムに係るアンケート調査」を実施した。また、以前に実施された「学術情報センターの
実施したアンケート結果」、「同アンケート結果に関する懇談会」、「国立大学図書館協
議会シンポジウム（東・西地区）（テーマ：ＮＡＣＳＩＳ－ＩＬＬサービスの現状と課
題）におけるアンケート」等について検討を行った。その結果明らかになった問題点の大
要、及び当専門委員会の見解は次の通りである。

(1) ＩＬＬサービスに係る問題点

①　運用上の問題点
　ＩＬＬシステム稼働後３年が経過し、各館における運用形態はほぼ固定化したと考えら
れる。しかし、標準的な運用形態が提示されていないため、各館の運用の仕方に不統一が
生じている。基本的な処理がなされていなかったり、処理の誤りや不正確が問題になって
いる。その結果、各館担当者の間には、お互いに相手方の事情を忖度する一方で不信感が
生じていることは否定できない。

②　特定館集中の問題
　大規模図書館等の特定館への依頼が増大し、当該受付館での業務処理に影響を及ぼす結
果となっている。これは一括大量依頼をすることによる郵送料の軽減、受付館の処理の速
さ、所蔵資料の豊富さ、高い所蔵入力率等、種々の要因がある。

③　所蔵情報の問題
　学術情報センター総合目録データベースはＩＬＬシステムを支える重要な基盤である
が、登録量、登録頻度ともいまだ充分とは言えない。国立大学全体が所蔵する図書に比べ
入力されている図書の割合はきわめて低い。また、雑誌データの更新は半数以上の館が学
術雑誌総合目録の調査時にしか行っていないのが現状である。

④　学内体制の問題
　受付館と所蔵箇所の不一致に顕著に現れているように、各館の蔵書全てが、必ずしも、
ＩＬＬサービスを前提とした管理、提供体制に置かれていない。直接ＩＬＬの受付を行わ
ず他の館・室を通じている場合や、研究室に備え付けられている資料が少なからず存在す
る。これらは自館・室が所蔵する場合に比べて、発送までの時間、労力を格段に必要と
し、謝絶の主要な理由となっている。
　各館の業務量は、ＩＬＬシステム稼働当初に比べ伸び率は低下しているものの、依然上
昇傾向にあり、現状の体制での対応の困難を訴えている館が少なからずある。

⑤　その他
　上記の他、主要な問題として、ファクシミリ送信の問題と著作権問題がある。ファクシ
ミリ送信依頼に対してもっと迅速に対応して欲しいという要望が依頼側に強い反面、受付
側には、ファクシミリを優先すると他の依頼の処理が遅れるというジレンマが生じてい
る。また、著作権に関して、雑誌の最新号、全頁複写、複数部コピー等著作権を無視した
依頼があることが指摘されている。

(2) 対策及び見解

①　運用の問題について
　各館における運用形態は各館個別のＩＬＬ業務にとって最適であるとしても、ＩＬＬシ
ステム全体にとって最適であるとな言えない。運用に関する明示された指針が無いまま、
各館の運用形態が固定化することは、ＩＬＬシステムの円滑な運用を図る上で望ましいこ
とではない。全面的な標準化は困難であるが、当面、必要最小限遵守すべき基本的事項、
役割分担、処理のタイミング等について、取り決める必要がある。

②　特定館集中の問題について
　対策として、近隣館優先を義務づけたり、それをシステムでコントロールすることが考
えられ、そのような意見がアンケートにも見られる。しかし、近隣館優先をシステムでコ
ントロールした場合はネットワークの広がりそのものが利点となるＩＬＬの活動を否定す
る面がある。なお、各図書館は日常の経験を通じてＩＬＬの依頼について賢い選択をして
いることがアンケートに窺える。このことから、システムによってコントロールを加える
ことが有効な対策であるとは言いがたいので、当面様子を見守るべきである。むしろ、参
加館の拡大、各大学における遡及入力の促進等によって、特定館に集中することなく自然
に分散が図れることが望ましい。

③　所蔵情報の問題
　ＩＬＬシステムが各館の所蔵に応じて適正に運用されるためには、所蔵の実態がデータ
ベースに正確に反映されていなければならない。すなわち、提供できる全ての資料につい
て、その所蔵情報が公開され、かつ、常に最新の状態に保たれていることがＩＬＬシステ
ムの基本的要件である。所蔵の公開の程度に差があり、更新頻度に遅速があるかぎり
ＩＬＬシステムの適正な運用は期待されない。遡及入力を一層促進するとともに、所蔵の
変更情報の入力をできるだけ速やかに行うべきである。

④　学内体制の問題について
　業務量の伸びから見ても、すでに、単館単位での図書館サービスが困難であり、
ＩＬＬサービスが図書館にとって必須の機能となっていることは明らかである。資源共有
を促進するためには、今後資料の集中管理、受付窓口の増加等を促進することにより、学
内の業務体制を相互協力型へと転換し、ＩＬＬシステムを支える基盤自体を整備して行く
必要がある。
　業務増に対しては、学術情報システムの整備・進行に伴い目録業務が比較的軽減されて
いる状況を踏まえ、業務の均等配分を考慮した要員の再配置を行うことが当面の現実的対
策として考えられる。

⑤　その他について
　ファクシミリ送信問題については、依頼館、受付館の間で、意見が相反しており、妥当
な目安を設けることは難しい。著作権法との関連も含めて、引続き検討の余地がある。少
なくとも、利用者サービスの観点から言えば、ファクシミリによる緊急の複写依頼に応じ
得る体制の整備が必要であるという認識に達した。
　ファクシミリによる送信については、有線送信権という問題があるということを指摘し
たい。

(3) 利用指針（案）

　上記の諸問題の内、各館が共通理解をもって運用することによって一定の解決が期待で
きるものについて、「国立大学図書館におけるＮＡＣＳＩＳ－ＩＬＬシステム利用指針
（案）」として取りまとめ、Ⅱ．に掲げた。

　この指針（案）は次の性格を持つものである。

①　当面は、国立大学図書館がＮＡＣＳＩＳ－ＩＬＬシステムを利用してＩＬＬサービス
を行う際に適用されるが、将来的には、ＮＡＣＳＩＳ－ＩＬＬシステムの全参加館に適用
されることを想定している。

②　ＩＬＬサービスを円滑に遂行するための業務上の運用ルールを中心とするが、
ＩＬＬに係る必要最小限の原則的事項についても、これを共通に確認するために、言及し
ている。

③　ＩＬＬサービスを効率よく実施するためには、資料管理体制、提供体制を含めた業務
体制全般を、ＩＬＬシステムを前提としたものに転換していく必要があると言う認識に立
ち、そのことを提示している。

④　当専門委員会における検討の過程で、ＩＬＬは図書館にとって、補完的サービスのみ
とは言いがたい、主要なサービスとなってきているとの認識で一致した。この指針（案）
もその考え方に立つものであるが、理念それ自体については明示されていない。現行の
「現物貸借申し合わせ」の基盤をなす考え方に踏み込むことになり、その改廃が必要とな
るからである。

⑤　従って、この指針（案）は、将来、新しい理念を含んだ包括的な規約が作成された際
にはその一部を構成することになるものであり、その意味で暫定的である。