I.検討の事項と結果



1.ILL基準に関する事項



 「国立大学図書館におけるNACSIS−ILLシステム利用指針(案)」を検討する
ために、平成6年10月20日開催の専門委員会で、さまざまな図書館の団体などが定め
ている協定などを参考にすることとした。
 これから作成していく指針をどの様な枠組みのなかで検討していかなければならないの
かを明確にする必要があるからである。そのために、関連法規及び、マニュアル等の収
集、また外国のILL規約の収集を行うこととした。


(1) 基準などの収集

 国内のものの入手については容易であるが、海外のものについてはALA(American
Library Association)などの大きな団体のものしか情報がなく、情報収集の方法から考え
出さねばならない状況であった。文献による調査では限界があり、比較するのに十分な収
集ができなかったのである。
 そこで海外の図書館員に直接問いかけることとした。近年急速に普及したインターネッ
トを使い、世界(主に米国・カナダなどの英語圏)の図書館員の目に触れやすい形で、情
報の提供を依頼することとした。インターネット上での各種サービスの内で利用したもの
はネットニュースとメーリングリストのシステムである。さらに最近ではWWWサーバー
にアクセスすることで情報を得ることが出来た。
 ネットニュースとメーリングリストに、日本においてこのような活動をし、参考のため
に収集している旨訴えて協力を依頼したところ、さまざまな人々、おもに米国の図書館員
からの申し出があった。これら図書館員から郵送されたものがその多くを占めている。ま
た教示された情報からWWWサーバーにアクセスし、さらに最新の情報を得た。
 収集したILL基準関連の資料の一覧は別紙の通りである。なお、国内についてはリス
トの他に、日本医学図書館協会のものがあるが、平成7年末において、改訂中であるため
ここではあげていない。


(2) 米国におけるILL基準の推移

 前記のとおり収集した資料のうち今回は米国の資料を中心に考察した。
 ボストン公共図書館が他の図書館に図書を貸し出したのが1890年代といわれてい
る。その時に採用された方式がのちのちの基準の一部を構成するものとなる。そのひとつ
に、ある図書館がその役割として利用者に提供しなければならない基本的資料をILLで
他館に依頼することはできないとする制限条項がある。たとえば、医学図書館において
は、医学関係の図書資料をILLで他の館に貸借依頼などをすべきではないとする考えで
ある。
 1917年にALAが定めた基準は公式に定められた最初の基準といわれている。この
基準の特徴は、サービス対象の拡大であり、修士以上に限定されていたILL利用者を学
部学生へ拡大すべきである旨うたわれている。しかし、当時としては、これが認められた
後でも、大きな貸出館はそれぞれ独自の明文化されない基準を設けているような状態であ
った。
 1940年に改定された基準は、大学や研究所の図書館員により作成され、ALA評議
会により承認を得るにいたったものである。しかしこれも、この基準の作成に携わった館
相互のILL、あるいはこれらの館とその他の館との間のILLに適用されるのみであっ
た。
 より自由で範囲が拡大された改定が1952年にあった後、1968年に改定されたも
のはナショナルコードとなり、ALAのなかの、のち(1972年)に参考調査成人奉仕
部門になる参考調査部門によって承認された。この部門は現在もナショナルコードの作成
に携わっている。
 1980年頃には、図書館のさまざまな協会やグループが乱立してきた。1980年に
改定された基準は、これらの協会などを越えてやりとりされるILLを整序づけるという
目的をもつものとなった。
 各地区のコードと全国的なALAのナショナルコード、そしてIFLA(International
Federation of Library Associations and Institutions)の国際コードのされぞれの役割
分担については、以下のようになる。ナショナルコードはILL業務を整序づけるために
あるものであって、各地区やグループのあり方などに言及するものではない。しかし、そ
れらの地区やグループの基準を発展させるためのモデルとなる。そして、国のナショナル
コードはその国において適用されるものであり、国を越えて行われるILLについては、
IFLAの国際コードが適用される。
 他の多くの基準に影響を与えている1980年の基準は、1993年に更に改定され
た。この両者の違いの特徴についてここで記述する。
 1980年頃の考えは、補完主義とよばれるものが支配的であった。蔵書を構築する上
で自館で揃えるべきものについては自助努力で整備する必要があるし、ILLは蔵書構築
に代替するものでなく補完的業務でしかないというものである。
 しかし、それぞれの図書館が、自館の利用者の要求を十分に満足させることができない
ほどに情報量が溢れているという認識が高まってきた。即ち、全ての館で自給自足的に運
営することはできないという認識である。
 そのような状況にあって、1993年版では、その図書館やその地域では応じられない
資料を利用したいという要求に対し、それに応えて資料を用意することは図書館の義務で
あるとした。さらに、ILLは蔵書構築上副次的選択ではなく、主要な要素であるとして
いる。この基本的考えが基準全体を貫いている。たとえば、5項目からできていた制限条
項を廃止しており、本来の利用者の利用という目的を取りやめて、資源の共有を蔵書構築
の目的としている。
 さらに国家的な資源の共有は、各図書館の資源を公平に提供し、依頼の集中をなくすよ
うにする努力により効力が発揮できるものであり、借りるためには貸さねばならないと
し、相互協力を推進するよう訴えている。
 しかし、借りる側からみれば、これは権利でなく特典であるとされ、この基準に対する
継続しての違反はその特典を失うこととなるとしている。
 以上が、米国における基準の変遷の概略を追ったものである。