資料の保存に関する調査研究
−資料の保存に関するデータ処理専門委員会報告−
平成7年5月
国立大学図書館協議会「資料の保存に関するデータ処理専門委員会」
目 次
「資料の保存に関する調査研究班」最終報告第3章の追加分:
長期保存の対象となる資料の劣化状況調査−未処理データの分析−
1. 未処理データ集計の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
2. 入力状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
3. 集計結果の分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
1)保存すべき資料の酸性劣化状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
2)重複所蔵資料の書誌NCID ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
3)出版年代による劣化状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
4)媒体変換済み劣化資料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
4. 媒体変換にかかる経費の最終試算 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
1)計算の根拠 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
2)ページ数等の集計結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
3)試算結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
参考資料
重複入力データNCID ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
長期保存対象となる資料の劣化状況調査
−未処理データの集計・分析−
1.未処理データ集計の概要
資料の保存に関する調査研究班では、すでに平成5年の中間報告、平成6年の最終報告
を行った。一連のデータ集計の概要については、平成6年5月に出された資料の保存に関
する調査研究−「資料の保存に関する調査研究班」最終報告−をご参照いただきたい。
なお、同最終報告で述べているように、本協議会加盟館が所蔵している資料のうち、長
期保存対象となる資料の劣化状況を把握するために、学術情報センターの目録所在情報デ
ータベースに劣化状況に関する情報の入力を依頼し、そのデータ入力の締切り日を、各国
立大学の意向を踏まえ平成6年11月末としたため、平成6年5月の同最終報告の集計数
値の報告は、平成5年11月末日までに入力されたデータを集計したものとなった。従っ
て、今回の報告は、未処理として残った平成5年12月から平成6年11月末日までの入
力データの集計結果である。報告内容については、資料の保存に関するデータ処理専門委
員会で検討した結果、表及び図表等は基本的には前回の集計を踏襲したが、若干の見直し
を行い、一部簡略化を行った。
データ集計に当たっては、今回もリスト出力等について、今年は特に多忙の折りにも拘
わらず、学術情報センターのご理解と多大なご協力をいただいた。ここに深く感謝申し上
げます。
2.入力状況
前回集計結果は表1のとおりである。今回の集計対象となった入力データである平成5
年12月から平成6年11月末までの入力状況を示したものが表2である。前回同様、同
一大学内の学部等から入力された数値は一大学分として集計している。入力大学数では、
2年間通して入力した大学又は前・後の1年間のみ入力した大学があると思われる。結果
として、図書・和雑誌については前回集計時とほぼ同数の大学が入力しているが、洋雑誌
については前回集計時の6大学から今回は12大学と倍増している。2年余りの入力期間
の内、前回集計結果(図書10,488冊、雑誌237タイトル)に比べて、今回の1年
間の入力件数(図書12,599冊、雑誌1,236タイトル)の方が伸びており、特に
雑誌の伸びが大きかったことが特徴的である。
2年余りの入力期間の集計総計は表3のとおりである。
表1.国立大学のデータ入力状況(平成4年10月〜平成5年11月末日分)
|
和書 |
洋書 |
和雑誌 |
洋雑誌 |
大学数 |
27 |
32 |
8 |
6 |
入力件数 |
3,663 |
6,825 |
210 |
27 |
表2.国立大学のデータ入力状況(平成5年12月〜平成6年11月末日分)
|
和書 |
洋書 |
和雑誌 |
洋雑誌 |
大学数 |
28 |
32 |
9 |
12 |
入力件数 |
5,909 |
6,690 |
971 |
265 |
表3.国立大学のデータ入力状況(平成4年10月〜平成6年11末日分)
|
和書 |
洋書 |
和雑誌 |
洋雑誌 |
大学数 |
55 |
64 |
17 |
18 |
入力件数 |
9,572 |
13,515 |
1,181 |
292 |
3.集計結果の分析
1)保存すべき資料の酸性劣化状況
未処理データ集計の結果、和書・洋書における劣化状況は表4のとおりである。
なお、雑誌では、前回同様、同一タイトルのなかでも刊行年代によって、劣化度が異なる
ものがあり、双方とも集計したため、表2の総数とは一致しない。
表4.劣化度状況(平成5年12月〜平成6年11月末日分)
|
図 書
(冊 数) |
雑 誌
(タイトル数) |
和
書 |
劣化度A |
4,785 |
38% |
961 |
77.1% |
劣化度B |
1,124 |
8.9% |
19 |
1.5% |
洋
書 |
劣化度A |
6,140 |
48.7% |
253 |
20.3% |
劣化度B |
550 |
4.4% |
14 |
1.1% |
計 |
12,599 |
100% |
1,247 |
100% |
前回の集計では、劣化度Bは洋書に多く、雑誌ではその逆になっていたが、今回は、劣
化度Bは和書に多く、雑誌では和・洋の大差はない。全体像を見るために、データ入力期
間に学術情報センターに入力された図書・雑誌の総計の劣化状況を示したものが表5であ
る。
表5.劣化度状況(平成4年10月〜平成6年11月末日分)
|
図 書
(冊 数) |
雑 誌
(タイトル) |
和
書 |
劣化度A |
8,300 |
36% |
1,166 |
77.9% |
劣化度B |
1,272 |
5.5% |
36 |
2.4% |
小計 |
9,572 |
41.5% |
1,202 |
80.3% |
洋
書 |
劣化度A |
11,751 |
50.9% |
279 |
18.6% |
劣化度B |
1,764 |
7.6% |
16 |
1.1% |
小計 |
13,515 |
58.5% |
295 |
19.7% |
合 計 |
23,087 |
100% |
1,497 |
100% |
この総計表では、図書の和・洋の入力比率は、和書は41.5%、洋書は58.5%である。又、
和書の劣化度A・Bの比率を計算すると、劣化度Aは86%台、劣化度Bは13%台であり、洋
書においても同じ比率である。和・洋ともに劣化資料の13%位は劣化が著しいものと各大
学が判断しているという結果がでている。
雑誌では、入力比率は和雑誌の方が圧倒的に高く80.3%である。又、劣化度Bは和雑誌
で2.9%、洋雑誌で5.5%となっている。従って、この表の数値からは図書の方が劣化が進行
している傾向がでている。
2)重複所蔵資料の書誌NCID(平成4年10月〜平成6年11月末日分)
前回の集計で日本国土内の地理的条件の違いによって、そこにおかれた資料の劣化度の
違いについて傾向を見いだすことを想定したが、各大学における所蔵環境の相違等、地理
的要素と必ずしも結びつかない諸要素があるため、明確な数値となって表れないことが分
かった。従って、今回は参考のために複数の機関で重複入力があったNCIDを参考資料
として添付することとした。
3)出版年代による劣化状況
前回の集計では、従来から指摘されてきた出版年代による劣化状況の相違を、実際に入
力されたデータではどうなっているかを調べた。その結果を図表にしてみると、「調査要
領」の目安として示した出版年代とほぼ一致する傾向がみられた。又、図書・雑誌とも同
じ傾向にあることも伺えた。
今回の集計結果を図表に示すに当たって、再度、「調査要領」の目安として示した出版
年代を示すと、欧米では総括的に1865〜1900年としたが、国の事情によって若干異なり、
ドイツでは1917〜1923、1940〜1950、フランスでは1922〜1930、1947〜1951の各年代に集
中しているとした。又、日本では1889〜1912、1940〜1950年代の劣化が著しいとした。
今回は図書についてのみの出版年代別集計であるが、前回同様、30冊につき1冊の割
合で380冊余のデータを抽出した。年代区切りも前回同様、10年区切りとした。
図表1 国・年代別劣化状況(図書:平成5年12月〜平成6年11月末日分)
この図表から、前回同様、今回の集計結果もイギリス、ドイツ、フランス、日本等にお
いては指摘されてきた出版年とほぼ一致する。ただ、ドイツについては、今回の集計では
1880年代に出版された資料も劣化している状況が伺える。又、日本では、1930年
代から1960年代で全体の77%を占めている。日本では、前回のこの年代が72%で
あったことから、劣化資料の調査入力期間の2年間に学術情報センターに入力されたデー
タ全体の75%位は1930年代から1960年代に集中しているということが推測され
る。この図表に表示できなかった1840年以前及びその他の出版国では次のようになっ
ている。
イギリスで1700、1750、1790、1810年代に各1冊、ドイツで1720、1770、1800、1820年
代に各1冊、フランスで1790年代に2冊、オランダで1740、1890年代に各1冊、1930から
1960年代に4冊、中国で1920年代に3冊、1930年代に1冊、韓国で1930年代に1冊、イタ
リアで1820から1950年代に16冊、その内1890年代に5冊、オーストリアで1870、1950年代
に各1冊、チェコスロバキアで1900から1940年代に6冊、その内1930年代に3冊、スペイ
ンで1910年代に1冊、インドで1880年代に1冊、アイルランドで1940年代に1冊、ポーラ
ンドで1840年代に1冊が劣化資料として入力されている。
2年余りの入力期間の抽出データ総計を国・年代別劣化状況として表したのが図表2で
ある。この図表によるとドイツ、フランス、日本の劣化状況の特徴が、より明確に表れて
いる。
図表2 国・年代別劣化状況(図書:平成4年10月〜平成6年11月末日分)
4)媒体変換済み劣化資料
今回の調査において、既に媒体変換されている資料はなかった。
4.媒体変換にかかる経費の最終試算
媒体変換にかかる経費の最終試算に当たっては、「資料の保存に関する調査研究班最終
報告」で述べているものと同じく、マイクロフィルムに媒体変換するものとして計算した。
従って、計算の根拠となる資料の劣化状態に係る要件、資料の形態に係る要件及びマイ
クロフィルムの仕様については前回と同じとした。要点のみを記述すると次のとおりであ
る。
1)計算の根拠
ア.資料の劣化状態に係る要件
劣化状態(A:劣化が進行中、B:劣化が著しいの2つの区分)によりマイクロフィ
ルム撮影作業における手数が異なる。
(z@)1コマ2ページで計算する。
(zA)ページ数は劣化度A、Bに分けて集計する。ページ数が入力されていない資料につ
いては、冊数を集計し、ページ数が入力されている資料の平均ページ数により算出
する。
(zB)撮影作業についての経費試算の基準を次のように設定する。
・劣化度Bは4人(主たる作業者1人、補助者3人)が1日当たり約2,000ページ(1,
000コマ)を撮影するものとする。
・賃金は、主たる作業者1人1日30,000円、補助者1人1日18,000円とする。従って、
2,000ページにつき84,000円であるから、1ページ当たり42円となる。
・劣化度Aは劣化度Bの2倍の効率で撮影作業ができるものとし、1ページ当たり21
円となる。
イ.資料の形態に係る要件
資料の形態により撮影のための前処理及び後処理についての経費が加算されることに
なるが、次のように条件設定する。
(z@)データでは綴りの状態については不明なため、前後の処理にかかる経費を無視する。
(zA)形状及び大きさについて個々に算出することは困難なため、A4判のものを1コマ
当たり2ページで撮影する。
ウ.マイクロフィルムの仕様
マイクロフィルムの仕様としては、検索の容易なカートリッジ入り16mmロールフィ
ルムを採用している。従って、検索作業に必要なターゲット及び索引簿の作成経費も
算出する。
(z@)ターゲット作成に係る経費
・資料1冊当たり約10枚のターゲットを作成することとする。
・カートリッジ1リール当たりに約5冊の資料を媒体変換するとして、特別なターゲッ
ト作成料金は、1枚当たり5,000円強となる。
・1冊当たりのターゲット作成料金は、特別なターゲット2枚の作成経費にその他の諸
経費が吸収されると考え10,000円強とする。
(zA)索引簿作成に係る経費
・索引簿作成には、資料の詳細な書誌情報が必要であるが、学術情報センターから業者
へデータ渡しが可能であれば、約1万冊の資料につき、約1千万円と見積もられるの
で、1冊当たりの索引簿作成料金は1,000円とする。
2)ページ数等の集計結果
撮影コマ数に関係するページ数等の集計結果は次のとおりである。ただし、ページ数は
図書のみで雑誌は含まれていない。
表6.ページ数等の集計結果(平成5年12月〜平成6年11月末日分)
ア.ページ数を抽出できたデータ
|
冊数 |
ページ数 |
平均ページ数 |
劣化状態A |
8,593 |
2,469,685 |
287 |
劣化状態B |
1,184 |
290,645 |
245 |
計 |
9,777 |
2,760,330 |
|
イ.ページ数を抽出できなかったデータ
|
冊数 |
ページ数 |
備 考 |
劣化状態A |
2,332 |
669,284 |
上記 ア.の平均
ページ数より算出
|
劣化状態B |
490 |
120,050 |
計 |
2,822 |
789,334 |
ウ.集計した資料データの総冊数・ページ数
|
冊数 |
ページ数 |
劣化状態A |
10,925 |
3,138,969 |
劣化状態B |
1,674 |
410,695 |
計 |
12,599 |
3,549,664 |
以上の結果を元にして、前回集計したものと合計した最終的な結果は次の表のとおりで
ある。
表7.ページ数等の集計結果(平成4年10月〜平成6年11月末日分)
|
冊数 |
ページ数 |
劣化状態A |
20,051 |
5,823,940 |
劣化状態B |
3,036 |
843,136 |
計 |
23,087 |
6,667,076 |
3) 試算結果
ア.撮影に係る経費
劣化状態Aのもの 21円× 5,823,940 ページ= 122,302,740 円
劣化状態Bのもの 42円× 843,136 ページ= 35,411,712 円
計 157,714,452 円
イ.ターゲット作成についての経費試算(冊数に基づく)
10,000円× 23,087 冊= 230,870,000 円
ウ.索引簿作成についての経費試算(冊数に基づく)
1,000円× 23,087 冊= 23,087,000 円
エ.総合計 411,671,452 円
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
試算した金額は以上の結果となり、1冊平均では約17,831円である。また、マイクロフィ
ルム撮影に直接かかる費用が全体の38.3%、利用の便宜を考慮して作成するターゲット・
索引簿作成に関わる経費が61.7%となる。
参考資料
資料の保存に関するデータ処理
専門委員会設置要項
平成6.6.23
第 41回 総会
1.目的
国立大学図書館競技会では、平成3年第38回総会において「資料の保存に関する調査研究班」
を設置し、九州地区を委員館として調査研究をし、平成6年第41回総会において調査研究を終
了した。その内容は報告書に公表されたところであるが、当初計画した酸性紙による劣化資料デ
ータの学術情報センターへの入力データに未処理の部分が残った。そのため、国立大学図書館協
議会理事会のもとに標記委員会を設置し、残ったデータを分析し、「資料の保存に関する調査研
究班」の調査研究を完全なものにすることを目的とする。
2.調査研究事項
1)酸性紙劣化資料データの未処理の収集、集計
2)1)の分析
3)その他
3.構 成
1)専門委員会は「資料の保存に関する調査研究班」委員の中から理事会が指名する若干名。
2)専門委員会の主査は委員の互選とする。
4.平成7年1月から3月までとする。
資料の保存に関するデータ処理専門委員会委員
松 本 連 蔵 九州大学 情報サービス課長
栗 山 平 九州芸術工科大学 運用係長
多々良 實 佐賀大学 事務長
矢 野 正 博 熊本大学 情報サービス課長
浦 秀 人 大分大学 資料係長
(平成7年3月1日現在)