参考資料 1
   ARL加盟図書館における最低限の保存努力のためのガイドライン
       [1984年10月25日、ARL会員によって承認された*]

 研究図書館の蔵書の物理的劣化は、われわれの特別の関心事であるので、ARL(研究
図書館協会)が1983年に採択した5カ年計画は、3番目の主要な目標として“蔵書保存プ
ログラムに携わる会員館の数を増やすこと”を掲げている。その文書は、個々の研究図書
館は北米の研究図書館全体の資源の一部として自館の蔵書を保存する責任を負う、という
ことを謳っている。この目標を達成するため、ARLは加盟図書館がこのローカルな責任
と向かい合うことを促すよう努力する。ARLはリーダーシップを発揮すべきであるし、
この重要な任務を促進するため、各々の研究図書館がめざすべき適切な最低限の保存努力
を示すガイドラインが必要とされているのである。
 「保存」という言葉は、ここでは将来の世代による利用のために蔵書を維持するさまざ
まな努力を広く含んでいる。われわれの世代の義務は研究図書館の蔵書の中に、今ある、
または加えられつつある資料を適切に保護し、継続的な利用を保証する一連の活動の中に
表現される必要がある。
 「最低限」という言葉は、ここではこの10年間合てのARL加盟図書館が追求すべき適
度な努力で望ましく、かつ、実際的なレベルを意味するものとして使われている。一旦達
成されると、それは長期間にわたって維持可能であるべきレベルである。それは最適レベ
ルをかなり下回り、実際、豊富な財政支援を得ている、より意欲的な図書館が達成できる
ことをはるかに下回るものである。この最低レベルは1988年までにARL会員の少なくと
も半数が達成、または超過達成でき、この10年間の終りまでに全てのARL加盟図書館が
達成、または超過達成しているであろうレベルであることが望ましい。
 最低限の努力の要素はさまざまである。研究図書館において資料の寿命に何らかの形で
影響を与えない活動ははとんどない。包括的な保存努力は資料が収納され、使われる空気
環境への注意を疑いなく含む。それは職員の資料取り扱い訓練方法、複写作業、蔵書票に
含まれる酸性物質、書架の棚材の品質、蛍光管の紫外線放出、さらには蔵書に加えるため
に選ばれた資料の性質そのものも含むであろう。(注:一組織により試みられた責任表明
については章末の参考資料2を見よ.)
 最低限の保存努力のためのガイドラインに含めることができるであろう条件は、ほとん
ど無限にあることは認識しているが、ARLは会員によって達成可能と思われる5つの側
面を選んだ。それらは一体となって最低限の努力の立派な基礎を成すべきである。
 1)ローカル・プログラムの表明:
  全ての図書館は保存活動の現状及び見通しを述べるとともに、保存の目標・目的を明
 確にした文書を作成すべきである。そのような文書は少なくとも当該図書館において現
 に行われている保存プログラムのさまざまな要素を記述すべきであり、また数年のうち
 に講じようとするそれらの概要を示すべきである。この文書はプログラムの明細を詳述
 するものではない。むしろプログラムの趣旨、図書館の管理者が意図する方向、及び力
 点や強調点をスタッフ、役職者や理事、及び他のARL会員に伝える全般的なブログラ
 ムの表明とするべきである。
 2)統計:
  年間の保存活動を言E録し、経年変化を示す一連の統計を定期的に編纂すべきである。
 そのようなデータには少なくとも次のものが含まれるべきである:
 − 保存活動を担当するフルタイム換算の職員数;
 − 保存経費;
 − 図書館の経常予算から支出される保存経費の比率;
 − 完全な保全処置(full conservation treatment )、適常の保全処置(routine
   conservation treatment)、及び保護容器(protective enclosures )を施した件
   数;
 − 委託製本(contract binding)の冊数;
 − 大量脱酸処理を施した冊数;
 − 作成した保存用マイクロフィルムのリール数及び保存用マイクロフィッシュのシー
   ト数;
 − 所蔵する保存用マイクロフィルムのリール数及び保存用マイクロフィッシュのシー
   ト数。

 (注:統計収集できるのはいくつかの保存活動のみである。正確にいって、どの統計が
収集でき、かつ収集すべきかについてはまだ分からない。上に掲げた統計は1985年6月28
日にARL加盟図書館に郵送された実験的な1984/85年度ARL保存統計調査票に見られ
るものである。この試行の結果に基づき、ARLはこれらのガイドラインの改訂版を予定
している。

 3)全国的参加:
  現在行われている保存目的のためのフィルム化、または他の方法による複製の全ての
 努力は、調整された全国的な努力の一部であり、そこには3つの相関的な活動がある。
 第一に、フィルム化を決定する前に、現存の複製可能な保管用の(archival)マスター
 ・ネガフィルムを注意して探すべきである。第二に、マスター・ネガフィルムを作成す
 る時はいつでも、その作成、貯蔵、利用における保管基準(archival standards)に固
 執すべきである。そして第三に、それらのマスター・ネガフィルムの記録はNational
  Union Catalogまたは同種の新聞総合目録に登録すべきであり、さらに保存用フィルム
 の書誌レコードをオンラインで利用できることを保証するため、少なくとも1つの主要
 な書誌ユーティリティーに登録すべきである。

 4)環境条件:
  図書館の全蔵書の中でユニークな資料、及び全国的に調整された収書努力の一部とし
 て一次的収書責任(primary collection responsibility )を負う資料は、空気が濾過
 され、極度の温度や湿度を和らげるよう空気調和される環境の中に収容すべきである。
 この最低基準は空調システムの設備を要請するものではないが、少なくとも冷房、除湿
 及び空気清浄機能を持つシステムを想定している。もちろん、最適条件及び保管基準を
 満たす条件は、閉架書庫、一定の資料への限られたアクセス及びその他の防護手段を必
 要とする厳格なものであろうが、これらは最低レベルで義務づけられるものではない。

 5)現行の予算上の努力:
  図書館は少なくとも資料購入費の10%、あるいは図書館の総経費の4%相当額を計量
 可能な保存活動に配分すべきである。総経費及び資料費は定期的なARL統計調査票の
 中で求められ、ARL Statistics に公表される。計量可能な保存活動とは、1984/85
 年度のARL保存統計調査票の中で統計収集の対象となった保存活動をいう。この調査
 票は給与・賃金、委託経費、及び保全処置・保護容器・委託製本・大量脱酸処理・保存
 用マイクロフィルム化等の諸活動に費やされた消耗品及び備品費のデータを求めている。
  いくつかの大学・研究図書館は上述の保存活動に、総経費の1%から21%に及ぶ額を
 費やしているが、終軽費の4%を超えるプログラムのみがほどほどに強力で成熟しつつ
 あるといえる。この4%という数字は主観的な判断であるが、比較的強力かつ精力的で、
 なお改善を要し、おそらく当該機関が幾分の追加勢力により達成できるよりは低めの水
 準を大ざっぱに特徴づけるサービス基準のようなものである。それぞれの機関では上に
 定義された保存のための費用の集計が容易でないことから、多くの図書館においてこの
 数字は近似値と考えるべきである。
  保存予算のさまざまな活動への正確な配分はローカルにのみ決められる事柄である。
 従って、上述の保存の定義において具体的な活動を例示する以外に、予算配分について
 は何も触れていない。

 (注:この4%はどの規模のプログラムが長期間にわたって、保存の進行と劣化の進行
 が平衡を達成するかについての推測である。実際、劣化の進行との均衡をとるために必
 要な保存努力の程度に関する経験の積み重ねは、最低基準として10%あるいはそれ以上
 が必要であることを示唆している。質の悪い紙に書かれた手稿、または最も劣悪な紙の
 時代に印刷された資料の比率が非常に高い研究図書館は、事実、平衡を達成しようとす
 ると、他の図書館からみれば常軌を逸したと思われる比率の運営資金を保存に費やさな
 ければならない。それゆえに、最適レベルの援助があってもよいわけであるが、それは
 個々の図書館では上述の最低レベルの数倍になるであろう。今日のARL加盟図書館の
 大多数が最低基準を超えていないとしても、それは驚くことではないし、経営上の批判
 を意味するものでもない。殊にお金が乏しい時には、達成てきることとできないことに
 対して、優先順位を設けなければならない。おそらくどの図書館も保存努力の不足への
 対処は不十分であると感じているのが真相であろう。)

 これらのガイドラインは1983年に寄せられた意見を考慮して作成された。統計の要素は
1985年の春に改定された。図書館資料の劣化の性質と進行度合についての技術的・科学的
知識及び安定・強化の方法は、まだ初歩的な段階であるので、何が長期間にわたる最低限
の保存努力、または最適の保存努力であるべきか、われわれの世代は確信を持って言うこ
とができない。従って、これらのガイドラインは3年毎にARLによって改定される。経
験によってこのトピックに新しい光が投じられる度に、追加と修正が施されることを期待
する。これらのガイドラインは、個々の努力に対する激励あるいは水準点(benchmark )
となることを意図するものであり、認定の目的に使われてはならない。保存の分野は厳格
なアプローチを保証するには、あまりにも不確定である。
 他方、劣化した蔵書の範囲は今や驚くべき大きさであるので、実際にわれわれが文字通
り不可能な仕事を後継者に残さないようにしようとすれば、われわれの世代は何らかの目
標を設定し、これらを達成するために大いに努力しなければならない。それに基づいて、
ARLはこれらの最低限の保存努力のためのガイドラインが正しい方向への一歩を用意す
るものと信じ、個々の適用はARL会員に委ねられる。われわれの努力の総和は何年後に
もわたって、われわれの図書館の研究に対する能力を強化するにちがいない。これは未来
の世代の学者に対するわれわれの義務である。

                 ARL研究図書館資料の保存に関する委員会

                     Harold W. Billings
                     Margaret S. Child(図書館振興財団)
                     John Laucus
                     Peter Sparks(米国議会図書館)
                     David H. Stam
                     David C.Weber
                     Margaret 0tto (議長)

 1985年7月改定


* ARLの会員は、保存統計の収集と報告によってさらに明確にされるであろうという
理解のもとに、このガイドラインを承認するための投票を行った。ARL統計委員会の援
助を得て、ARL研究図書館資料の保存に関する委員会は、このガイドラインの統計に関
する部分を改定し、この改定に基づき、実験的な1984/1985年度ARL保存統計調査票を
作成し配布した。