保存図書館に関する調査研究報告書: 第II章　構想編

第Ⅱ章　構想編

第１節　共同保存図書館の試案

１．はじめに

　国立学校が保有する建物面積は、平成５年５月現在、2,002 万㎡であり、そのうち通常
改修等が必要とされる経年20年以上の建物面積は、982 万㎡で全体の49.0％を占め、総体
的に老朽化が進んでいる。今後の文教施設整備は、既存建物の老朽化対策が重要な施策の
一つとなることが予想される。しかしながら、図書館施設は、”情報資源の共有”を強カ
に推進するとともに、”資料の保存”を保証するという基本理念を実現するための根幹と
もなるものとしてその整備が重要な課題となる。ここでは図書館資料の保存を保証する有
効な手段としての共同保存図書館を構想するものとして、ひとつのモデル案を提示するも
のとする。

２．立地の条件

　共同保存図書館が果たすぺき役割の中には、現物貸借及び文献複写サービスをはじめと
する利用者に対する種々のサービス提供が含まれ、これらのサービスは迅速な対応が求め
られる。このため立地条件としては、
　・交通の便がよいこと
　・施設の拡張も必要となってくるため敷地にゆとりがあること
　・人的資源が得やすいこと
　・災害等の恐れが少なく、有効な防護手段が講じやすいところ
などが挙げられる。
　これらの条件を総合的に勘案すると、共同保存図書館を設置する場所は、多くの都市機
能が存在する都市に比較的近い地域での設置が望ましいと考えられる。

３．施設の設置形態

　共同利用の保存図書館を設置する場合、いくつかの設置形態が考えられる。現段階では、
先ず、それぞれの大学図書館が有する保存図書館機能を点検・整備することが必要であろ
う。このことによって、学内各部局間の図書館資料の重複が明らかとなり、これを調整す
ることにより収蔵スペースの有効利用を図ることができる。また、その結果、利用が少な
い資料や重複等で必ずしも個々の大学で保存する必要がなく一括して保存し、共同利用に
委ねてもよいものが、保存図書館の対象資料として区別されてこよう。
　複数の大学による共同利用の形態としては、先ず、現在の外国雑誌センターと同様に特
定の附属図書館を指定してそこに併置することが考えられる（図、Ａタイプ）。このタイ
プでは、特定の大学から施設スペースの提供と人的支援を受けて運用される。ここでは、
各大学から保存図書館に提供される重複資料の調整・廃棄等が主な仕事となろう。また、
保存図書館に指定された大学の所蔵資料も共同利用して併せて活用でき、より有効な図書
館サービスが期待できる。

　次に、保存資料の増加に伴い、特定の大学に付設して、地域別あるいは主題別に共同保
存図書館をいくつか設置していくことが考えられる（図、Ｂタイプ）。この場合、既設の
大学図書館から、施設・機能を組織的にも分離することによって、保存図書館が参加館に
よる共同経営としてより機能的に運用できるとともに、このような保存図書館を複数設置
することにより、万一の災書から資料を保護する効果もある。この場合、資料の種別や配
送の便等を考え、先ず地域別による分担保存・収集が優先されよう。また、このような分
担保存・収集資料の主題等を専門主題別にすることによって、対象となる保存資料の明確
化及びその収蔵効率を一層高める効果もでてこよう。
　さて、最終段階としては、全国の大学図書館が相当多数参加して、大規模でしかも国家
的レベルでの共同保存・共同収集の機能を持った独立機関が考えられよう（図、Ｃタイ
プ）。共同利用機能を一元化することによって運営経費の節減が図られ、また、参加館の
分担金等は、資料の保存経費等に回すことによって、官庁刊行物を含む多数の貴重な学術
文献を収集するとともに未来へ確実に保存することができ、また、劣化資料の修復・保存
等の事業も全国的なレベルで一層充実して行うことが期待できる。

４．施設の規模と設備

　全国立大学図書館が年間に受入れる図書の数は、平均約200 万冊であり、これに対応す
る図書館施設の必要面積は約２万㎡である。すなわち、全国の国立大学が、規模の差こそ
あれ、毎年新たに生ずる必要な空間を確保しなければならないということである。
　今回行ったアンケート調査の結果から、共同保存図書館が設置された場合に、図書を
「直ちに移したい」、あるいは「近い将来移したい」と答えた大学の数は全体の半数を越
えている。また、移す図書や雑誌の数量については、質問の数量に幅があり確定すること
は困難であるが、各々の上限値で試算した結果、重複も含んで約350 万冊と推計出来る。
さらに、「いずれかの時期に移したい」と答えた大学も、全体の約40％ある。一方、共同
保存図書館ほ当初、国立大学を対象としながらも、順次、公立、私立大学も対象に拡大し
ていくことも勘案しておがねばならない。それらのことを給合して、全国的レヘルの独立
した共同保存図書館の施設の規模は、概ね、収蔵冊数 500万冊、施設面積は収納効率を高
め１万㎡と試算した。
　共同保存図書館は図書館機能のうち、保存機能に力点が置かれた施設である。したがっ
て、施設は書庫スペースが中心となり、管理的スペース及び必要最小限の閲覧スペースを
加えたもので構成されることになる。
　図書や雑誌を効率的かつ経済的に収蔵できるように書架の形式および収納の方式につい
ては、書庫内には自動書庫（図３）を中心に集密書架等を導入し、コンピュータと連動し
たオートメーション化を行い、さらに、安全性を持たせると同時に極力無人化して人件費
のコストを抑制する。この方式は、米国のカリフォルニア州立大学・ノースリッジ校図書
館で既に実用化されている。
　保存対象とする図書館資料のうち、マイクロ資料、視聴覚資料、電子化資料などのいわ
ゆる非図書資料や劣化資料については、各資料が持つ様々な性質を的確に把握の上、これ
ら資料にとって最適な保存環境設備を設ける。例えば、個別の室ごとに空調を行い最適な
温湿度の環境とし、資料の素材によってはさらに耐火構造の保管庫に収容するなどし、ま
た、塵埃や有害な紫外線などの劣化要因からも防止するよう配慮する。
　収集した図書館資料の収納・保管については、従来の分類順などの配架方法にとらわれ
ない方法とする。そのためには、資料への個々の分類や請求記号等の付与を省略し、バー
コードなどによる一連番号によって管理し、貸出及び返却・収納の処理を行うことが考え
られる。書架への返却・収納は、書架上のアドレスを予め指定せず、コンピュータによっ
て返却の都度アドレスを記憶させて行う方式が有効と考えられる。また、配架に関する情
報は常にＯＰＡＣ（オンライン目録）上に反映させるものとする。
　その他、不測の事態が生じた場合に被害を最小限に食い止める構造にすることなど、施
設の設計上の配慮も必要である。

図　３．　施設内の概念図（自動書庫システム）

第２節　共同保存図書館の事業

１．情報提供サービス

　集中保存された資料は学術研究のために有効に活用するため、以下の情報提供サービス
を行うとともに将来にわたって保存する。
　①　大学図書館へのサービス
　・ＮＡＣＳＩＳ－ＣＡＴによる所蔵情報の提供
　・ＩＬＬサービス（文献複写、現物貸出）
　・所蔵資料に関する参考業務。
　②　来館者へのサービス
　・ＯＰＡＣ（オンライン目録）検索
　・文献複写
　・館内閲覧、館外貸出
　・所蔵資料に関する参考業務
　③　大学図書館相互の資料移管の仲介サービス
　共同保存図書館システムは、各大学図書館と共同保存図書館間相互のシステムであると
同時に、大学図書館間相互で所有する学術資源を有効に移管できるよう共同保存図書館が
その企面、連絡調整の役割を果たす。各大学図書館はその欠落補充や相互間の移管をシス
テム上でリアルタイムに処理する。
　④　学術資源のリサイクルサービス
　共同保存図書館で必要とする部数を越える図書館資料や、各大学図書館に寄贈などで送
付されながら受入れられなかった新刊図書、新刊雑誌などの資料を集め、内外の諸機関に
対する資料提供をはじめとして有効に活用する。
　平成４年10月に開催された第５回日米大学図書館会議において、米国側から出された「
日本研究コレクション」充実のための資料提供に資することも可能であろう。

　大学図書館への現物の貸出は、郵送によるほか宅配業者など外部委託により行い、迅速
で合理的なドキュメント・デリパリー・サービスを行う。また、文献複写については、電
子複写を原則とするが、マイクロフィルムによる複製を希望する場合は、マイクロフィル
ムで提供し、また、電子複写に耐えられない資料はマイクロフィルムに撮影のうえ、焼き
付けによって提供することとする。これらの業務は外部委託によって行い、事務処理の合
理化を図る。

２．集中保存する資料の種類と形態

　大学図書館にとって必要な図書館資料は、単行書、雑誌、マイクロ資料、視聴覚資料、
電子化資料などである。共同保存図書館では、いずれをも対象にすべきであるが、一挙に
行うのは困離を伴うことも考えられるので、当初の段階では単行書、雑誌を集中保存する
ことから始め、順次対象資料を拡大することが望ましい。
　①　単行書
　共同保存図書館が集中保存対象とする単行書は学術情報センターの目録所在情報データ
　ベース（ＮＡＣＳｌＳ－ＣＡＴ）に登録されているものがその範囲となる。したがって
、小冊子類でもデータベースに登録されているものは集中保存の対象となる。最近、いわ
ゆる灰色文献の収集が課題となっているが、これらの資料を共同保存図書館が一元的に集
中保存することも考えられる。外国の学位論文や科学研究費による報告書なども対象とな
ろう。保存する部数は、永久保存用のほか、各大学図書館からの利用要求によって館外貸
出しを行い、また共同保存図書館に直接来館する利用者の閲覧にも供するために最低限必
要な部数となる。これを越える部数については、後述の国際交換用など学術資源のリサイ
クル用として有効に活用する。
　②　雑誌
　雑誌は館外への貸出は行わず、電子複写によって提供することを原則とする。保存する
部数は１部を原則とするが、複写による破損や資料の劣化も考慮してその際の移管による
補充についても留意しておかなければならない。
　学術情報センターのｌＬＬシステムによる文献複写依頼の状況を見ると、学術雑誌への
需要は刊行後10数年分に集中しており、30年以上を経た学術雑誌の需要は極端に低下して
いる。このことから各大学図書館では最近の雑誌を保有し、利用頻度の低下したバックナ
ンバーを共同保存図書館に集中的に移管すれば効果的であろう。なお、大学の紀要類につ
いても集中して保存することも考えられる。

　③　酸性紙等劣化資科
　共同保存図書館は、各大学図書館所蔵のうち酸性紙等により劣化しつつある学術資料保
存のための研究開発とその保存事業などを一元的に行う。また、各大学における劣化対策
に対し適宜相談に応じるなどの協カを行う。なお、大学図書館から劣化資料を移管し、マ
イクロ資料や電子媒体等に変換して保存し、変換媒体による利用者への提供も行い、オり
ジナル資料は適正な保存環境の保管設備に収容することによって現物の延命借置を講じる
。これらの具体的な方法等については、今後の検討が必要である。
　④　マイクロ資料
　初期段階では集中保存の対象外とするが、重複により移管を希望するマイクロ資料およ
ぴ各大学で書庫の室温、湿度など良好な保管環境、施設が得られないことにより移管を希
望するものは寄託等により共同保存図書館に保管し、利用に供する。
　⑤視聴覚資料
　この種の資料も初期段階は対象外とする。将来は、映像資科、音声資料などの学術的な
視聴覚資料も保存の必要がある。いずれはフィルムライブラリーや映像ライブラリーを保
存図書館の機能の一つに加えることも有意義である。
　⑥　電子化資料
　初期段階では集中保存対象外としているが、最近、雑誌等一次資料がＣＤ－ＲＯＭ化さ
れる例が増えており、今後更に進展することを勘案すれば、早い時期に、共同保存図書館
に移管される電子化資科は増加するものと思われる。また、周辺機器の進歩に対応した、
新しい媒体への変換事業も一元的に行うことも必要であろう。

第３節　共同保存図書館の運営

１．運営の方法

　共同保存図書館は以下に配慮して連営することとする。
　・要員の確保が困難なことから、業務は出来るだけ外部委託方式とする。
　　（文献複写、電子計算機管理、資料のマイクロ化・電子化、搬送などの業務）
　・資料の移管にあたっては、効率的な処理システムを構築する。
　・資料の収納にあたっては、効率的、合理的な方式とする。
　　（自動書庫・集密書庫等の設備、資料の配架方式――資料の分類を省略し、一連番
　　　号のバーコード等による在庫管理、貸出・返却処理――など）
　・保存図書館の利用に要する経費は原則として受益者負担とする。
　　（文献複写、現物貸借、資料の移管に要する運送費などの経費）

２．資料の集中保存の方法

　①　移管による集中保存
　共同保存図書館への資料の集中保存は、学術情報システムに参加する諸機関を収集源と
し、移管等による方法を中心に蔵書を構築する。
　共同保存図書館への資料の移管方法は、国立大学からの物品の管理換等にあっては、従
来、行われてきた手続きにとらわれない全く新しい発想で、迅速、簡便で効率的な手順で
実行されなければならない。それには大学図書館が協同して、学術情報システム上でオン
ライン処理によりリアルタイムで行う資料の移管システムが考えられる（図４）。この流
れの中で各大学内での除籍に至る手続きの簡素化も図られるべきである。また、前述のよ
うに、特に、設置者を異にする場合の図書館資料の移管に際しての法規上の問題を解決し
なければならない。
　資料保存システムは大学図書館のための共同のシステムであることから、共同保存図書
館に移管する資料の事務処理は全面的に大学図書館において行うことを原則とし、共同保
存図書館では主として集中保存された資料に対する受入データの入力などの事務処理を行
うなど省カ化し、資料が到着次第速やかに利用に供される方式が望ましい。
　なお、大学図書館においてデータの入力されていない資料や、寄贈されながら受入れら
れなかった新刊の図書などの資料を共同保存図書館に移管する場合には、所定のフォーマ
ソトによる書誌データを現物に添付して移送するなど、共同保存図書館における業務処理
の省カ化に協力することも必要である。
　なお、共同保存図書館においてすでに必要な部数を所蔵しているものや更に追加して部
数が必要な資料について、各大学図書館が共同保存図書館の目録所在情報データベース上
で判別出来るようメッセージを表示するなどの方式も効果的であろう。

図４．資料移管システムの概念図

　②　寄託による保管
　特に、特殊資料や特定のコレクション、或いはマイクロ資料などで個々の大学機開で収
蔵施設・設備が不十分であるといった理由で共同保存図書館に保管の希望がある場合は、
寄託という方法で預かる。これらの資料は特定の大学に置かれているよりも共同保存図書
館に置かれた方がより効果的に利用され得るものもあるであろう。寄託図書の所有者はそ
の寄託者側にあるが、寄託されている間は他の移管された図書館資科と全く同様に共同利
用に供される。寄託する側にとっては、学術資源の有効な利用が図れるとともに収蔵スペ
ース面の確保も得られることになる。
　③　購入による収集と蔵書の構築
　共同保存図書館が集中保存する資料は、大学図書館から移送される資料を中心に集積さ
れるが、集積された資料を有効に再利用に供するためにはその蔵書について常に分析、評
価を加え、適正な蔵書の構築につとめなければならない。そのためには、例えば、欠本・
欠号で参加館から入手できないものや、学術資料として共同保存図書館に所有する必要が
あるものは購入によって補充するなどの借置も必要であろう。
　④規程類の整備
　共同保存図書館に資料を移管、寄託、収集するに際しては、業務が円滑に遂行されるよ
う資料の受入れ基準、受入れ手続要領、寄託手続要領などの各種の規程類を整備するもの
とする。

３．内外の関係組織との協力

　共同保存図書館は、国立国会図書館、大学図書館・資料保存機関等、国外の大学の共同
保存図書館及び日本研究機関・図書館等などの関連組織と密接な連絡をとりつつ運営を行
う必要がある。

第Ⅱ章 構想編

第Ⅱ章　構想編