第3章 代替保存の現状
 代替保存とは、劣化などのために保存し続けることが困難な資料について、その知的内
容を他のメディア(媒体)へ変換し、永久的に保存、利用していくことである。このため、
代替保存を行うメディアについて、次のような要件が求められる。1)
 (i)保存性が高いこと。
 (ii)検索速度が早いこと。
 (iii)記録密度が極めて高いこと。
 (iv)経済的な価格で記録できること。
 (v)文字も画像も容易に記録できること。
 (vi)頻度の高い利用にも効率的に作動すること。

1 マイクロフィルムと光ディスク
 マイクロフィルムとは、フィルム上に画像を縮小して記録したものをさし、特定の用途
別にいろいろな型のものがある。ここでは幅が35mmか16mmで長さが30.5m(100 フィート)
のロールフィルムと、縦横が105 mm×148 mmのシート状のマイクロフィッシュをマイクロ
フィルムとしている。
 また、光ディスクの種類としては、次のようなものがある。2)


  種   類  名 称 な ど   備   考




レーザーディスク


 
CAV アクセスが早い
CLV
(含むLDシングル)
情報量が多い
 
コンパクトディスク





 
CD−ROM 互換性が無い
CD−I 互換性が有る
CD−V 画像情報が持てる
透過光型 画面再生が容易
O−ROM 追記型の一種


DRAWシステム
(Direct Read
  After Write)
金属型 テルル合金材料
色素型 有機系色素材料


光磁気型 OD コンピュータメモリー
相変化型 研究段階
その他 研究段階


 代替保存に利用する光ディスクは、その目的からいって、再生専用または追記型のもの
を考慮すれば良いと考えられる。
 次の表は、マイクロフィルム及び光ディスクについて、上記の代替保存を行うメディア
に求められる要件の比較を行ったものである。


要件     マイクロフィルム   光 デ ィ ス ク


  約 500年〜 900年
  (最適保存条件の下で)
    *前章「技術の開発状況(非図
  約 20年
  (最適保存条件の下で)
書資料)参照
検索
速度
  10〜15秒    6〜10秒



縮率(24倍〜56倍)によるが
・ロールフィルム:3,000〜25,600p.
 (100フィート)
・フィッシュフィルム:98〜470p.
 (1枚)
解像力とタイプによるが
  10,000〜110,000p.






・ロールフィルム(100フィート)
 3,000p.として
 16mm :0.54円/p. 35mm :1.07円/p.
・フィッシュフィルム
 98p. として0.92円/1p.
   *材料費1ケ単位で試算(撮影料
 10,000p. として
 3.13〜4.38円/p.



などは含まない)
文字
画像

記録
可 能 可 能
                           *p. = ページ


(1)保存性
 最適保存条件の下という条件付であるが、マイクロフィルムは、条件さえ整えば約
1,000 年に近い寿命である。マスターフィルムからのコピーによる内容の移し替えを行え
ば、永久的な保存も可能といわれている。
 一方、光ディスクは、現状では、寿命についての確定的な数値は見当たらない。JIS
原案作成の審議を行っている(財)光産業技術振興協会の光ディスク標準化委員会での研
究によると、変換型光ディスクでも10年以上の寿命を確認しているということである。10
年から20年というのが、一般的な光ディスクの寿命であるようである。しかし、内容の移
し替えを行えば、半永久的な保存ができると考えられる。

(2)検索速度
 検索速度について、光ディスクはマイクロフィルムの半分に近い速度でアクセスが可能
である。マイクロフィルムのこの課題を改善するため、従来からマイクロフィルムとコン
ピュータとを組合せた検索方式などが考えられている。CAR/ADSTAR(Computer Asisted
Retrieval/Automatic Document Storage and Retrieval System)方式、16mmロールフィル
ムを 300個のカセット内に24分の1に縮小した約 120万ページのデータを蓄積し検索する
Ragen Model 95などである。
 また、光ディスクについては、まだ磁気ディスク・パックのように何枚も積み重ねるこ
とができないため、ジュークボックスのようなオートチェンジャが必要で、読み出しにや
や時間がかかったり、機械的な部分の故障が生じるという難点がある。しかし、アクセス
タイムの早いコンピュータの磁気ディスクにキーワードのデータを組み込み、光ディスク
の画像データと連動させるなど、の開発が検討され実用化に向かっており、いずれのメデ
ィアにおいても、今後は更に検索速度の向上が図られると予想される。
(3)記録密度
 光ディスクは、読み取りヘッドの小型化が困難であったり、前項に述べたように何枚も
積み重ねることができないため、大容量のデータになりにくかった。しかし、近年、ヘッ
ドの小型化や光磁気ディスクを何枚か積み重ねて大きな容量を持つ装置が開発されている。
高記録密度を持ち、コンパクトな収納ができるなど、光ディスクは利点が多い。
(4)経済性
 経済性は、材料単価だけではなく、撮影料などの入力費用、再生装置の価格など、メデ
ィアを取り巻くすべての要素を加味して計算しなければならない。
 しかし、コストパフォーマンス的には、マイクロフィルムが一番優れているようである。
(5)記録方法
 光ディスクへのデータ入力については、原資料からスキャナ等により行う方法や、すで
にマイクロ化されたものから光ディスクへ入力する方法などがある。
 記録されたデータの法的能力については、文書や画像のアナログ情報に限られていて、
ディジタルデータについては、現在のところ認められていないが、光ディスクの歴史は浅
く、今後の実績、利用の拡大によっては、認定の方向へ向かうと思われる。
(6)再生装置
 メディアそのものの問題以外に留意しなければならないこととして、再生装置の装置寿
命の問題がある。代替保存を行うにあたっては、代替保存を行う各メディアの再生装置が、
永久的に維持続けられる保証がなければならない。
 特に、代替保存のメディアとして有望な、光ディスク規格についての標準化が強く望ま
れる。

2 影印、翻刻
 図書資料を他のメディアへ変換する方法以外に、図書資料を原本にできるだけ忠実に再
現する、影印、翻刻などの方法も従来から行われている。日常の利用にはこれを宛て、原
本を保存専用にできるなどの利点が有り有効である。しかし、これも中性紙を使用した影
印、翻刻でなければ原本より先に劣化することもあり得る。

 現在、一般に、マイクロフィルム化が、代替保存の方法として代表的である。光ディス
ク化は、保存性の問題など、未だ不明確の部分があるため、アメリカにおいても情報保存
媒体として公認されていないのが現状である。しかし、光ディスクについては、これから
の技術の発展しだいでは、有力な代替保存のメディアとなると考えられる。代替保存の例
ではないが、国文学研究資料館、群馬大学、アメリカ議会図書館(LC)等において、資
料を光ディスクにデータ入力し利用に役立てる試みも行われ、マイクロフィルムと光ディ
スクを組み合わせたシステムも実用化していることから、今後は、マイクロフィルム、光
ディスクというようなメディア分けされた代替保存を考慮するのではなく、各メディアそ
れぞれの特徴を取り入れた複合的なシステムにより、代替保存を検討していくことが必要
であると考える。