図書館建築基準に関する報告:第２章　第２節　特別に考慮すべきスペースについての考え方及び積算例

　第２節　特別に考慮すべきスペースについての考え方及び積算例

　大学図書館機能の多様な展開を考えたとき、図書館の面積に以下のような新しい機能な
どに伴う必要面積を反映させることは、本委員会の責務であると考える。
　しかしながら、これらの新しい機能のなかには、定量化が極めて困難なものや、その取
扱いが大学の規模構成などによって異なるため、面積基準として算出式を一元的に取扱う
ことが困難なものが多い。
　そこで、本委員会としては、面積基準において特別に考慮すべき事項については、「積
み上げ計算ないしは特別に面積を要求する必要がある。」として、報告書をとりまとめて
いるところであるが、大学における面積計算の実務を考えたとき、できるだけ統一的な取
扱いができるよう「積み上げ」計算等の基本的な考え方及び積み上げの標準となる面積積
算方法等を明らかにした。

　１　インテリジェント化、ニューメディア関連スペース
（１）基本的な考え方
　学術情報システムの進展やＣＤ－ＲＯＭの利用の普及等、大学図書館におけるインテリ
ジェント化、ニューメディア関連の機能の拡大は、大学図書館の利用形態や施設のあり方
にも影響を及ぼしつつある。今後は、目録や貸出等、図書館業務における電子機器の普及
にとどまらず、所蔵資料のオンライン検索、各種データベースの検索、文字・画像・映像
・音声またはマルチ・メディアの情報の利用等、利用スペースにも電子機器が広範に導入
されていくものと思われる。また、現在整備されつつある学術情報ネットワークやキャン
パス情報ネットワーク（学内ＬＡＮ）の完成は、各研究室や実験・実習室等からの図書館
利用も可能にするであろう。
　本報告書においては、これらの中核となる情報管理室については、その標準的なものを
掲記しているところであるが、利用者用および業務用の各種端末装置の設置については、
各大学図書館によって、その対応は必ずしも一様ではなく、現時点では定量化は困難であ
る。
　そのため、これらの面積の算出に当っては、各大学図書館の規模等に応じて、設置また
は導入を予定する数量等によって、今回提案した算式とは別に、積み上げ計算によって必
要面積を算出し、加算していく方法が最も適切な対応であると考える。

（２）面積積算の方法
　一般的に、キャレル式の閲覧机に電子機器を設置すると考えて、各大学図書館において
予定された設置台数に、次の一装置当り標準面積を乗じて得た数値を、積み上げ算式で得
た面積として加算する。その場合の装置一台当り面積は、端末機や机・椅子などの平均的
な面積を基準としたものであり、おおよそ、カッコ内に示すような方形で確保される必要
があると考える。
　　１人用装置の場合　＝　設置予定台数　×　約3.22㎡：（縦1.65×横1.95(m))
　　２人用装置の場合　＝　設置予定台数　×　　4.95㎡：（縦1.65×横3.00(m))
　参考として、最近の米国の文献にみられる推奨値を、利用スペース、業務スペースの各
々について掲げる。
　a.利用スペース
　①キャレル形式の閲覧机に電子機器（視聴覚・マイクロ機器を含む）を備える場合
　　　一座席当り　35平方フィート（ 3.25㎡）（表１：Boss及びKaser）
　②目録（ＯＰＡＣ）検索端末
　　　一台当り　　25平方フィート（ 2.32㎡）（ Metcalf,2nd ed.）
　③情報検索端末
　　　目録検索端末に準ずる
　b.業務スペース
　①目録端末
　　　「a」の目録検索端末に準ずる
　②貸出端末
　　　１台当り　　25平方フィート（ 2.32㎡）（ Metcalf,2nd ed.）
　③ファクシミリ
　　　１台当り　　35平方フィート（ 3.25㎡）（表１：Boss）
　なお、メディアの多様化にともない、非図書資料の所蔵も急速に増加しているところか
ら、これらの資料の所蔵に必要なスペースの算定のため、表１、２の米国の例を参考にす
るなどして、非図書資料の冊数への換算表を定め、現行の蔵書数に加えることも必要であ
ると考える。

　２　国際化と増加する留学生への対応
（１）基本的な考え方
　大学における国際化の推進は、研究教育の高度化を目指すためにも、当面する最大の関
心事のひとつであるといえる。特に、外国人留学生の受入れについては、２１世紀初頭に
10万人を達成しようとする政策が推進されており、昭和５８年度以降年平均16 ％を越える
増加率を示している。
　このような留学生の受入れについて、国立大学では、平成元年５月現在で約11,000 人を
受け入れているが、その受入れ目標数35,000人を達成するためには、現在の約3.18 倍の留
学生を受け入れていかなければならない。
　仮に、現在の受入れ数を基準として比例増加するものと考えた場合、現在1,500 人の留
学生を受け入れている大学においては、２１世紀初頭には4,770 人となり、また、500 人
の留学生を受け入れている大学においては、同じく1,590 人の留学生を受入れしなければ
ならない計算となる。
　このような留学生の受入れ数は、多い大学では国内学生数に対して20％を越える状態と
もなり、学生を同時多数に利用者として受け入れる大学図書館においては、閲覧座席数を
みても留学生の受入れ数の多い大規模大学ほど決定的な不足を生ずることとなる。
　留学生数が大学図書館の面積基準に反映されていない状況と、留学生の図書館依存率の
高さを考え合わせると、これは緊急に対応すべき課題である。
　留学生の受入れにともなう図書館施設としては、閲覧座席数のほか、留学生用の新聞・
雑誌を配架したスペース、留学生と日本人学生あるいは留学生同士の交流の場となるよう
なスペースも確保する必要があると考える。

（２）面積積算の方法
　留学生の図書館依存率が極めて高いことを考えたとき、図書館の面積基準についても、
留学生数を加味したものとする必要がある。面積積算においては、大学の受入れ目標数
（最終）を基礎として、学部留学生については学部学生（Ｕ）に、大学院留学生について
は大学院生（Ｇ）に留学生数を置き換え、[1.8Ｕ＋3.5Ｇ]で計算し、これを積み上げ算
式で得た面積として加算する。
　また、外国人研究者等の増加への対応について、その必要性は理解できるものであるが、
現時点においては、留学生対策の方が緊急の課題であると判断されるため、今回の検討対
象とはしないこととする。

　３　定員以外の学生数及び教官数（病院職員を含む）の面積積算方法
（１）基本的な考え方
　ア．学生
　面積基準に反映される学生数は、学部及び大学院の学生定員であり、これには聴講生や
研究生等は含まれていない。また、近年の臨時増募による学生数も恒常的な定員増ではな
いため、対象となっていない。
　これらの学生については、図書館の利用者としてとらえると、他の一般学生と何ら変わ
らない。しかしながら、聴講生及び研究生についてはその数が少ないこと、また、臨時増
募による学生については、その数が今後漸減しながら、一部は恒常的定員に繰り入れられ
つつあることなどを考えた場合、今回の検討対象からは、むしろ除外すべきであると考え
られる。
　イ．研究所及び附属病院等の教官
　現行の面積基準においては、学部等の教官数（定員）については、教官比率として学生
数に換算されて、面積基準に反映されているが、研究所や附属病院等の教官数については
対象とされていない。
　研究所や附属病院の教官については、大学において果たすべき役割などについても、ま
た、附属図書館の利用者としても、学部等教官と何ら区別すべき理由はなく、特に、研究
所教官については研究者として図書館への依存率も高く、さらに、附属病院教官について
も、臨床医師として図書館への依存率は極めて高い。したがって、これらの教官について
も面積基準に反映させるべきであると考える。
　ウ．非常勤講師
　現行の面積基準では、非常勤講師の数は算定の対象とされていない。これは、非常勤講
師の勤務形態等が多様であり、日常的な図書館の利用者とは考えにくい等の理由によるも
のである。今回の検討においても、このような考え方に基づき、当面は検討対象から除外
することとした。
　エ．医員及び研修医
　現行基準では、医・歯学部の図書館面積は医・歯学部の学部学生定員及び大学院生定員
に基づき算出される。一方、医・歯学部附属病院は、学生定員の何倍もの附属病院教官、
医員、研修医及び医療技術職員で構成されている。しかしながら、これらの附属病院構成
員は、医・歯学部図書館の面積基準には全く反映されていない。
　医員及び研修医は、非常勤職員としての身分ではあるが、その人数もほぼ恒常的であり、
勤務形態も附属病院教官と同様である。また、医員及び研修医は、若手研究者として図書
館への依存率は極めて高い。
　附属病院の面積基準の算出基礎として、医員及び研修医の数は、他の診療科数や病床数
とともに、面積基準の要素として反映されている。したがって、大学図書館の面積基準に
おいても、医員及び研修医について図書館面積に反映させるべきであると考える。
　オ．医療技術職員
　附属病院における医療技術職員の占める割合は、全体の50％から60％台に及んでいる。
これらの医療技術職員は、現行の面積基準では、算定の対象とされていないが、附属病院
の診療活動において、独立した重要な役割を分担しているため、その職務遂行のうえから
図書館依存率は高い。
　したがって、これらの医療技術職員については、何らかの調整を加えたうえで、図書館
面積に反映させる必要があると考える。

（２）面積積算の方法
　ア．学生
　特別に考慮しない。
　イ．研究所や附属病院等の教官
　研究所や附属病院等の教官は、他部局の教官と同様と考えられるが、附属図書館の直接
的な利用の実態を勘案して、教官数をＧに置き換え［3.5 Ｇ］で計算して得た数値を、積
み上げ算式による面積として加算する。
　ウ．非常勤講師
　特別に考慮しない。
　エ．医員及び研修医
　医員及び研修医については、その勤務形態などから判断し、大学院学生に近似であると
考えられるため、医員及び研修医の数を大学院生定員（Ｇ）に置き換えて[3.5Ｇ］で計算
し、これを積み上げ算式による面積として加算する。
　オ．医療技術職員
　医療技術職員については、図書館への依存率は高いが、勤務形態等が不規則であるため、
現在の大学設置基準における学生の最低座席率を参考に座席率を 5/100とし、前項「エ」
に準じ[1.8Ｕ×5/100]で計算して得た数値を、積み上げ算式による面積として加算する。

　４　「ゆとり」への対応
（１）基本的な考え方
　近年、大学図書館は情報の発信源としての役割を果たしつつ、国際化や生涯学習への対
応など多様な機能が要求されている。また、大学図書館は、単に情報の収集と学習の場と
しての役割だけでなく、地域社会に開かれた施設として、大学と地域社会との交流の場と
しての役割を果たすことが要請されつつある。
　このような状況を考えたとき、大学図書館の機能や役割にも居住性や文化的な側面を配
慮し、大学のシンボル的な共用空間として「ゆとり」の空間が必要であると考える。
　さらに、大学図書館が多様で高度なサービスを提供し、利用しやすい図書館とするため
にも、書架の間隔や高さ等への配慮が必要である。
　具体的には、エントランス・ホール、ロビー、階段、通路等の共通部分や、各種のイヴ
ェントの開催可能なオープン・スペース等が必要であると考えられる。

（２）面積積算の方法
　面積積算の方法としては、標準的な計算例を示すことは難しいと考えられる。しかし、
図書館建築の際に、「ゆとり」を考慮した設計をすることは重要である。例えば、エント
ランス・ホール、階段、通路等の設計については、「ゆとり」を充分考慮することが必要
である。

　５　生涯学習への対応
（１）基本的な考え方
　近年、生涯学習の重要性が認識され、大学における教育も多様な展開が要請されている。
例えば、公開講座の大幅な拡大、講演会の実施、さらに昼夜開講制（夜間主コース）の開
設、夜間大学院などである。大学図書館においても、これらの活動に即したサービスを行
うことはもちろん、在野の研究者や専門家、地域の住民や勤労者等の社会人に対しても、
公共図書館では提供しきれない学術情報について、開かれた図書館としての機能を充実し
ていくことが必要である。
　大学図書館が開かれた図書館としての機能を果たしていくとき、大学関係者の利用と社
会人の利用の競合も生ずることが予想されるが、反面、大学関係者と社会人とのあいだの
コミュニケーションの場が広がる可能性もある。
　このように、生涯学習に対応した大学図書館の機能を充実していくためには、社会人を
受け入れるに充分な閲覧室の確保が必要であることはいうまでもない。また、可能であれ
ば大学関係者と社会人との交流を深めるためのコミュニティー・センター的なスペースに
ついても確保されることが望ましい。
　なお、国立大学では、昭和６１年、「大学図書館の公開に関する調査研究班」がとりま
とめた公開に関する方策に基づき、図書館資料の利用について各大学が独自に対応を進め
ていることは、周知のとおりである。

（２）面積積算の方法
　大学図書館の社会人の利用は、地域によっても差異があり、標準的に積算例を示すこと
は困難であるが、将来の利用増をも含めて充分な数の個席の確保ができる面積を積算する
必要があると考えられ、これにオンライン端末装置等のスペースを加えたものを積み上げ
算式による面積として、これを基準面積に加算する。
　なお、大学図書館の社会人への開放が進んでいる米国の文献によれば、社会人の閲覧座
席数として、社会人利用者数(User Population)の３％という基準を示しているところも
ある。（表2:Metcalf ）

表１

表２