第1章 国立大学図書館施設の現状と課題

 大学図書館は、大学における学術研究及び教育と直接に係わり、これを支える施設とし
て、学術研究及び教育の変化進展と相まって、様々な曲折を経ながら、現在の図書館とし
て発展してきた。
 しかし、今日の大学図書館は、目覚ましいまでに進展を続ける科学技術及び技術革新、
さらには、これらを背景とした情報化社会への移行などの社会環境の変化と、これらに呼
応した、大学における学術研究及び教育の高度で多様な展開などという、図書館をとりま
く環境の大幅な変化を踏まえて、その役割と機能において、このような変化に対して積極
的に対応していくことが要請されてきている。
 このような変化の要請に対して、大学図書館においては、学術情報システムへの積極的
な取組みやCD−ROMをはじめとする新しいメディアの導入などによって、その役割と
機能について、革新的ともいえる変革を遂げつつあるところである。
 このように変革しつつある大学図書館が、大学における学術研究と教育に対して、効果
的にこれを支える施設として機能していくためには、図書館の施設が、その役割と機能に
対して適切な規模である必要があることはいうまでもない。
 現在の大学図書館施設の規模を決定づけている面積基準は、昭和43年に設定されその
後一部修正されたものであり、新しい図書館の役割と機能に十分に対応することは極めて
困難な状況となっていると考えられるので、新しい大学図書館の役割と機能に沿った、新
しい建築基準についての検討が重要な課題となっている。

 第1節 現行面積基準の成立とその後の大学図書館の機能の変化

 1 現行面積基準成立の背景

 我が国の高等教育は、昭和24年に公布施行された国立大学設置法によって、その基盤
が確立され現在に至っているものであるが、新学制の施行に伴って、昭和27年に大学基
準協会によって示された「大学図書館基準」は、大学図書館における施設、組織及運営等
についての整備の基準を明らかにしており、新学制による大学の重要な機能としての大学
図書館の整備指針の一つとして位置づけられていた。また、文部省では、国立大学図書館
改善研究委員会を組織して、新学制下における大学図書館のあり方についての検討を行い、
昭和27年に「国立大学図書館改善要項」をとりまとめ、公表したが、これも「大学図書
館基準」と併せて、大学図書館の整備に重要な役割を果たした。
 さらに、文部省管理局教育施設部は、昭和35年官公庁施設審議会の答申を受けて、
「国立大学建物の基準坪数」を設定し、大学本部、図書館及びその他の施設についての基
準を示したが、これが最初の建築面積基準であったと考えることができる。
 しかしながら、新学制施行から10年を経過してもなお、大学図書館は近代化という点
においては、欧米先進国に比べ、著しく立ち遅れている状況にあり、これを憂慮した日本
学術会議は、内閣総理大臣に対して、昭和36年反ぴ39年の2回にわたり大学図書館の
整備拡充及ぴ近代化についての勧告を行い、その実現について積極的な施策を要請してい
る。
 また、昭和29年に発足した国立大学図書館長会議は、昭和33年に大学図書館の施設
の充実について、議題として取上け、さらに、昭和37年には、大学図書館の近代化につ
いて問題提起を行っている。
 このような状況を踏まえて、文部省は、大学図書館視察委員による実地視察を行い、大
学図書館の実情を把握するとともに、大学図書館の近代化と整備の推進について、積極的
な施策の検討を行うに至った。

 2 「大学図書館施設計画要項」及ぴ「基準面積」の成立

 昭和38年、文部大臣は「大学図書館施設の整備改善の方策」について検討するため、
学校施設基準規格調査会(昭和40年、大学図書館施設研究会議に改称)を組織し、大学
図書館施設について重点的な検討を重ねて、昭和41年3月に「大学図書館施設計画要
項」(以下「要項」という。)をとりまとめた。
 この要項は、大学図書館の機構、機能を定義付けるとともに、欧米先進国の実例を踏ま
えて施設計画を検討する際の基本原則を示し、面積算出の基礎としての閲覧座席数の積算
について具体的な解説を加えているが、図書の収蔵や保存関係については具体的な解説を
加えていない。しかし、この要項は、昭和35年に設定された「国立大学建物の基準坪
数」の改定に対して、大きな理論的要因としての役割を果したものとしても評価できる。
 先に設定された「国立大学建物の基準坪数」は、その後メートル法の実施に伴い単位の
読替えを行ったのち、「必要面積一覧表」として実態調査等の利用に供していたが、前記
の要項がとりまとめられたことによって、「必要面積一覧表」の理論的意味付けを行うと
ともに、建設省が示した「官庁建物面積」に基づいて、別途加算すべき単位面積を加える
などの見直し補正を行い、昭和43年に「基準面積」として再編改定された。その後、こ
の「基準面積」は一部修正され今日に至っている。

 3 面積基準についての動向等

 (1) 社会の変化と面積基準についての認識
 大学図書館をとりまく諸環境の変化、特に、技術革新及ぴ情報化の進展などや大学にお
ける学術研究及ぴ教育の高度で多様な展開が、大学図書館の役割と機能にとって、重大な
影響を与えるものであり、また、大学図書館はこれらの変化に対して、主体的に、かつ積
極的な対応をしなけれぱならないことはいうまでもない。
 大学図書館のこのような変化への対応について国立大学協会では、昭和45年反ぴ50
年に「大学の研究・教育に対する図書館の在り方とその改革について」の報告書をとりま
とめている。この報告書では、大学図書館のあり方及ぴ施設のあり方についても言及して
おり、また、第24回(昭和52年度)総会で配布された「国立大学図書館改善要項改定
のための試案」においても、大学図書館施設の見直しを提言している。これらの報告書等
が契機となって、面積基準の数値についての一応の理論的根拠が、第25回(昭和53年
度)国立大学図書館協議会総会(以下「総会」という。)において明らかにされた。
 このような総会活動などによって、大学図書館が社会の変化などに対応して、その役割
及び機能の改革について、主体的かつ積極的に対応しようとする場合、現行面積基準にお
いては、十分な対応はきわめて困難であることが、大学図書館関係者の間において一般的
な認識となり、面積基準に対する問題意識がより一層高まっていった。

 (2) 面積基準の見直しに向かって
 昭和55年1月、学術審議会は「今後における学術情報システムの在り方について」の
答申を文部大臣に対して行ったが、この答申を受けて、学術情報システムの整備促進が具
体化されていった。具体的には、学術情報センターの設置及び学術情報システムの推進と
これに伴う大学図書館への電子計算機システムの導入の推進などであった。
 また、大学図書館においては、学術情報システムの推進とこれに伴う電子計算機システ
ムの導入をはじめとするニューメディアヘの対応や学術資料の増大などのために、大学図
書館施設の狭隘化がさらに進み、新しい大学図書館のあり方を踏まえた面積基準の改定が
重要な課題となってきていた。
 さらに時を同じくして、建設省においても、官庁における事務量の増大あるいはOA機
器の導入などによって、官庁施設等の利用形態が変わってきたとする、「今後の官庁施設
の整備のための方策に関する答申」(昭和58年、建設審議会答申)を受けて、面積基準
の見直し検討を行う状況になっている。
 このような状況を踏まえて、国立大学図書館協議会では、第34回(昭和62年度)総
会において、大学図書館施設の整備充実について検討され、文部大臣等への要望事項とし
て取り上げられることとなり、続く第35回(昭和63年度)総会においては、大学図書
館の面積基準のあり方について、東北地区から協議題として提案され、面積基準見直しに
ついての端緒が開かれることとなった。なお、国立大学図書館協議会(総括理事会)から、
面積基準の具体的な検討を依頼された東北大学は、平成元年5月に検討事項をとりまとめ、
「国立大学図書館の必要面積基準改訂試案」を理事会に報告した。
 この試案においては、特に算式は従来どおりとしながらも、雑誌スペース、新しいメデ
ィア・スペース、情報機器配置スペースなど、現行面積基準に取り入れられていない事項
や医学(部)図書館固有の要素についても、検討の対象として取り上げられていたが、さ
らに幅広く、将来を展望した面積基準を検討する必要があるとして、面積基準の見直し検
討を組織的に進めるため、第36回(平成元年度)総会において、「図書館建築基準に関
する特別委員会」が設置され、組織的で本格的な見直し検討が進められることとなった。