第6章 価格協議をめぐる諸問題

 通常の外国新刊図書を購入する際の価格は大学側の積算をもとに書店と協議してそ
の購入換算レートを決定し、予定価格の積算内訳の内容としてきた。基本的な内容及
び問題点については、第一次報告書において紹介したとおりである。ところが、その
第一次報告書作成と平行するように、公正取引委員会では輸入価格の調査の一環とし
て、外国図書の購入価格、及びその決まり方について実態調査を行い、書店側がまと
まって価格を決めてきたことについて価格カルテル防止の観点からの見解を明らかに
した。
 指摘事実については一部の大学に特定された問題ともいえるので、国立大学にとっ
て普遍的なことと断定することもできない。それにもかかわらす、この問題がその後
の価格協議に対し波及してきた効果を考えるとき、価格形成の重要な要因をなすこと
ともあわせ、本報告書において紹介すべきことと考える。

1.従来の価格協議の方式に対する公正取引委員会の見解
 昭和63年6月、公正取引委員会はこれまで大学が購入価格を決めるにあたり、団
体で協議を実施してきたことについて、書店側に対して次のような見解を通告するこ
ととなった。
 a.三者(東京大学、東京工業大学、関東ブロツクの大学)等の大学との価格協議
   にあたり、書店が団体で行っていることは独禁法における価格カルテルに抵触
   するおそれがあるので、査ちに中止すること
 b.今後、大学から従来どおり団体を前提に協議の申し入れがあってもこれに応じ
   ないこと
 c.なお、大学側が団体で書店と協議に臨むことは買い手としての立場から、いっ
   こうに差しつかえはない
 この見鮮は公正取引委員会としての正式な勧告とはなっていないが、指摘のあった
事態について改善されない場合には新たな調査に移ることになるという厳しい内容を
持つ。

2.大学側の対応
 具体的に指摘の対象となった三者においては、これまでの団体による統一協議の方
式を改めることとし、次のような対応をとることとなった。
 a.大学側の組織(三者)は従来通り継続させる。
 b.価格の決定にあたっての書店との協議は継続する。
 c.協議の方式は見解の内容にもとづき個々の書店との個別に協議を行う。
 d.協議対象書店の決定(選択)は大学側の判断による。
 e.当面は大学側も従来の窓口担当が協議にあたり、協議の進行具合によっては三
   者全体が集まる。

3.協議方式の変更に伴う効果
 書店側の協議への参加が個々にしか対応できなくなったことに伴い、協議の実施に
係る手続きの面、協議の性格、あるいは実質的内容などにおいて変化を生ずることと
なり、価格決定をめぐっては新たな状況が生み出された。
 第1の特徴は、書店の協議への参加が代表の立場から個別の社の立場に変化したこ
とである。これまでの団体協議では各書店は、書店側の代表的立場で参加してきた。
そして窓口を担当する書店が書店側の事実上の代表としての機能も果たすことで協議
がまとめられてきた。しかし、公取委が書店側の団体による参加を全面的に否定した
ことから、代表機能は喪失した。協議に参加する書店はあくまで一書店としてのみの
立場に限定されることとなった。
 第2の特徴は、協議の対象となる書店は専ら大学側が選択することとなり、協議の
都度参加書店が変わりうることとなったことである。これは協議内容をできる限り大
学にとって有利なものにするためには有効なことといえる。
 第3の特徴は、協議の成立の仕方の変化である。協議は団体で行われた場合と異な
り、協議参加のいずれかの書店との間での合意が成立した時点において協議は成立と
なる。一定の競争性の発揮と言える特徴である。
 第4の特徴としては、購入価格の周知の方法において変更を生じたことがあげられ
る。従来は価格協議に参加の書店が代表としての機能を兼ね備えていたことから、協
議結果は書店側内部で周知される結果となっていた。書店側に代表機能がなくなった
ことから、大学が決定した価格は大学が周知することとなった。会計的には当然のこ
とが、協議方式の変更により改めて確認されたということは、言い換えれば、従来の
協議方式が大学としての価格決定および周知に関し、原則的立場を曖昧にしてきた面
があったことも否定できない。
 価格協議で書店と関わるべき内容と、価格決定という会計事務との区別を再確認す
ることにより、大学側は今後、協議の過程においても立場を明確にすることができる
こととなるわけである。
 そして、最後に協議内客の改善があげられる。協議方式が集団から個別へ移行した
ことによって協議内容に大きな改善効果をもたらすこととなった。それは個別協議へ
の移行が協議の際の書店側の高価格維持の機能を打破し、個々の書店との間で協議さ
れたうちの最低値によって価格を決定できるという決定メカニズムが確立されてきた
ことである。売り手としての書店の集団化は価格面での下支えの機能を発揮する必然
性を持っていた。公正取引委員会から指摘のあったポイントは価格カルテルにつなが
るこの機能の改善にあるといえる。
 個別協議への移行は書店の集団化を切り崩し、書店間の競争を生み出した。大学側
の提示価格に対し、1社でも合意が成立すれぱ基本的には価格決定の条件が整う。こ
の結果、価格水準においてこれまでと違った実績をあげてきている。

4.今後の検討課題
 以上述べたとおり、昭和63年6月以降、協議方式をめぐり様々な状況変化が発生
した。その変化は大学にとっては基本的に改善措置として機能しているといえる。
 最も重要なことは大学側にいくつかのメリットを生み出したことである。しかし、
大学側にとって問題点がないわけではない。協議と称してきた行為がいわゆる話し合
いなのか、あるいはいわゆる交渉行為なのか。とりわけ一社毎の対応となった場合は
交渉の性格が前面に出るようになる。そのことによる大学側の対応の仕方、すなわち
予定価格の内訳(価格の設定内容〉が従来と同様でよいのかという点に問題が生ずる。
 また、大学側がまとまって価格協議を実施してきた三者などの場合には、従来は一
度に書店全体と対応ができ、協議に全体として参加することが可能であったが、個別
方式に移行したことで、事実上は窓口(幹事)大学がほとんどの対応をすることとな
り、協議のまとめ方等において担当大学(館)の役割(あるいは権限)に様々な変化
が生ずるおそれすらあるといえる。