第5章 円建てものと並行輸入の促進に関する諸問題

1.円建てものの現状
 外国出版物の中には、外貨定価を明示することなく書店等によって円定価のもとに
販売されているものが多々見受けられる。図書館関係者の間では、これらを円建ても
のと通称しているが、この円建てものの多くは、外国出版元等と書店との間で国内販
売に係る代理契約すなわち独占的販売権に係る契約を結んでいる輸入代理店(総代理
店)制度によるものである。その結果、これらの円建てものの価格が実際より高くな
っている傾向は否めない。近年、国立大学図書館で購入している外国出版物、特に雑
誌について円建て雑誌の占める割合は高くなっており、第一次報告書で紹介した当調
査研究班の実施による「外国雑誌通貨別購入額調べ(昭和62年9月)」における調
査報告を再掲すると下表の通りである。

表3 円建て雑誌占有率等
 購入額  タイトル数 平均単価   備考
 円建雑誌 1,868(29%) 33,892 (23%) 55,000 円建雑誌の
単価は外貨
建雑誌の
 
1.34倍
 一般雑誌 4,544(71%) 110,652 (77%) 41,000
   合計 6,412百万円 144,544タイトル 44,360円

 これによると全国立大学で購入している外国雑誌のうち円建て雑誌の占める割合は
タイトル数で23.5%、購入額で29%に達している。また、タイトル数に比べて
金額の占める割合の方が高く、1タイトル当りの単価は外貨建雑誌に比べて1.34
倍となっている。
 他方図書についても、リプリントもの、セットもの等で代理店方式による円定価外
国図書が増加している事実は周知のところである。
 これら円建てものによる不当価格の販売の横行を防ぐためには、同一銘柄物品を適
正な、より廉価な価格で国内に購入するための具体的方法の普及が必要である。それ
を実現するための有効な方法として並行輸入による購入を以下に紹介する。

2.並行輸入の考え方
 輸入総代理店制度は、継続的(あるいは系列的)輸入取引における取引慣行の一つ
であり、外国事業者が一国内事業者に特定商品の輸入販売権を独占的に付与するもの
である。代理店契約は、外国事業者にとって商習慣等の異なるわが国の市場への進出
を容易とする。また、総代理店にとっては契約対象商品の安定供給を受けることによ
って、組織的・合理的な販売活動が可能となる。しかしその反面、総代理店に独占的
販売権を与えることによってその流通を支配し、販売数量の調整、価格操作等を招く
危険性もある。このため、公正取引委員会ではかねてから独占禁止法に基づき、輸入
総代理店契約を規制するほか、競争を不当に阻害する行為を監視してきたところであ
る。それは、公正取引委員会が公表している「輸入総代理店契約等における不公正な
取引方法に関する認定基準」;「輸入総代理店等に対する監視・規制の強化について」
(昭和47年11月21日)等各種の資料によって明らかである。(参考資料1,2参照)
 一方、代理店契約はその独占的販売権を背景に為替の変動に対して価格の硬直性を
示すといわれている。そこで、代理店契約の当事者以外の第三者が当該契約対象商品
を別ルートで輸入するいわゆる並行輸入によって同一商品がより安く市場に供給され
る方法も普及することとなる。
 公正取引委員会は、公正かつ自由な競争を維持し、円高差益の消費者への還元を図
る観点から、昭和62年4月、並行輸入を不当に阻害し、独占禁上法上問題となるお
それのある行為を防ぐため、「並行輸入の不当阻害に関する独占禁止法の考え方」を
策定、公表した。
 このガイドラインによると輸入総代理店制度が機能するため必要最小限の制約を並
行輸入業者に与えるが、輸入総代理店が外国事業者以外の海外流通業者あるいは国内
卸売業者等との間で、並行輸入を制限する行為は禁止されている。(図、参照)
 外国出版物をめぐっては、外国雑誌をはじめとしていわゆる円建てもの価格により、
円高差益が還元されないという、批判が各方面から出されており、並行輸入による価
格の引き下げは、特に外資系企業の参入によってかなりの割合で実現されてきた。
今後の動向が注目されるところといえよう。

<図・並行輸入の流通形態>


(注2)総代理店契約において------部分を制限することは、通常は独禁法上の問題
    とはならない

(注3)実線部分のうち、並行輸入業者に係る部分を総代理店が妨害することは独禁
    法違反となる


3.並行輸入による購入価格の事例
 並行輸入によって購入した事例については、第2章に紹介した外資系企業の参入に
より購入した「雑誌」について、また第4章に紹介した直接購入の試みによって「図
書」について、それぞれ若干の件数が実現されているので、次に実例をあげておく。
ここにあげた数例をもってすべての円建てものを断定することはできないが、概ね1.
22倍から1.75倍の比率で高額な円建て定価であることが明らかである。

<並行輸入による雑誌の購入価格>


<並行輸入による図書の購入価格>






(参考資料1)
      輸入総代理店等に対する監視・規制の強化について
               (昭和47年11月21日、公正取引委員会)

1.輸入品の中でも消費物資は輸入総代理店制をとる場合が多いこともあって、
 近時、輸入品価格問題にからんで輸入総代理店問題が各方面においてとり上げ
 られている。 輸入総代理店制については、(1)外国企業がある商品をわが
 国で販売していこうとする場合に、商習慣等が異なることによって起こる種々
 の問題を比較的容易に解決することができ、わが国市場への進出が容易となる
 こと、(2)輸入総代理店契約の対象となっている商品が特定の代理店だけに
 供給されることが保証される結果、その商品の広告宣伝を活発に行うなど組織
 的・合理的な販売活動が可能となること、等の機能が考えられる。
  このような機能は、販売競争を促進する効果を持つ点で競争政策の観点から
 もメリットとしてとらえられる。
  しかし、同時に、輸入総代理店制は、特定の代理店が独占的販売権を持つこ
 とによりその流通を支配し、また、販売数量の調整・価格の操作等を行うこと
 が容易になるといった問題があり、実態としては、必ずしも競争の促進あるい
 は流通の合理化に役立っていない面も見受けられる。
2.当委員会としては以上のような輸入総代理店制に伴って生ずる弊害について
 つぎのような措置を講ずることとする。
(1)輸入総代理店契約等を締結している契約当事者が契約対象商品およびこれ
  と同種の商品についてわが国市場において支配的地位を有している場合にそ
  の地位を濫用して不当な取引拒絶・取引数量制限・価格操作・競合製品の輸
  入阻害等を行うときは、私的独占(独占禁止法第3条前段)または不公正な
  取引方法(同第19条)に該当するおそれが大きいと考えられるところから
  、輸入品価格の追跡調査等その流通の実態の把握に努め、地位の濫用による
  弊害が生じないよう厳重に監視することとする。
(2)輸入総代理店契約等は独占禁止法第6条第2項により公正取引委員会への
  届出の必要な国際契約に該当すると考えられるが届出られた契約については
  別紙のような基準に基づいて、不公正な取引方法に該当することのないよう
  厳正な審査を行い、公正かつ自由な競争の促進を図ることとする。





(参考資料2)(参考資料1の「別紙」)

   輸入総代理店契約等における不公正な取引方法に関する認定基準
1.輸入総代理店契約を含む継続的輸入販売契約において、不公正な取引方法に
該当するおそれのある事項のうち主要なものは次に掲げるものとする。
(1)契約対象商品の再販売価格を制限すること。
(2)契約対象商品の再販売先を制限すること。
(3)契約対象商品の部品等を外国当事者または外国当事者が指定する者から購
  入する義務を課すこと。
   ただし、補修部品等について需要者の要望に国内当事者が適宜応じるため
  等合理的な理由により外国当事者が国内当事者に対し、一定量の物品等を保
  有させることはこれに該当しない。
(4)契約対象商品の並行輸入を不当に阻害すること。
(5)不当に不利益な解約条件を付すこと。
(6)競争品の取扱いを制限すること。但し、国内当事者に独占的販売権を許諾
  する場合であって、国内当事者がすでに取り扱っている商品の取扱いを制限
  しないときを除く。
2.輸入総代理店契約の両当事者が契約対象商品およびこれと同種の商品につい
て競争関係にある場合において国内当事者が当該契約により契約対象商品および
これと同種の商品の国内市場において25%以上の、または第一位の占拠率を有
することとなるときは、当該契約は不公正な取引方法に該当するおそれがあるも
のとする。ただし、次のような当該業界の競争の状況並びに契約および契約対象
商品に関する経済的諸条件を考慮し、公正な競争を阻害するおそれがないと認め
られる場合はこの限りではない。
(1)当事者及び競争事業者の事業能力
(2)関連商品の流通に関する状況
(3)新規事業者参入の状況およびその難易
(4)代替品との競争関係
  なお、この項において、当事者にはその関係会社すなわちその当事者がその
 経営を実質的に支配している会社(子会社・孫会社等)ならびにその当事者の
 経営を実質的に支配している会社(親会社等)および親会社等が経営を実質的
 に支配している他の会社(兄弟会社等)を含むものとする。
3.国内事業者と外国事業者との間において販売の委託または媒介を行うことを
目的とする契約については、その実態に応じて適宜、前2項の規定を準用する。