外国出版物の購入価格問題に関する調査研究:第４章　外国図書の直接購入

第４章　外国図書の直接購入

　図書館が外国図書を購入する際に採用している最も一般的な方法は、図書の輸入代
理業務を行っている国内の書店から購入する方法である。その場合、国内の書店は、
外国の出版社あるいは書籍取次業者から外国図書を輸入した上で自社の商品として大
学に納入している。
　そのため、この方法によって購入した図書については、図書の輸入に際し国内書店
の手を経由することから生じる諸経費の考え方、並びに予定価格の積算方法に種々の
問題が生じ、外国図書の適正な価格の判断を困難なものにしている。
　そこで、外国図書の輸入に際し、国内の書店の手を経ずに大学が直接外国の出版社
や書籍取次業者から購入をする（以下外国図書の直接購入という）場合と、国内の書
店を通して購入する場合とでは、どのくらいの価格の差異が見られるかを計測し、ま
た、今後の外国出版物購入業務の改善の参考を得ることを目的として、Ｈ大学でこの
試みを実施した。以下にその方法の概要と問題点を述べる。

１．直接購入の対象資料
　Ｈ大学附属図書館は、中央館であり、全学の図書購入の手続きを集中して行ってい
る。そこで、Ｈ大学の教官・学生から購入希望のあった教育研究用単行書のうち外国
で出版されたものを直接購入の対象とした。

２．直接購入業務の実施経過
　まず昭和６２年１０月、海外出版社３４社、書籍取次業者１３社に取引照会と販売
目録の取り寄せを行った。この取引照会に回答のあったものは２３社である。翌１１
月に、その中から書籍取次業者２社、イギリスに本社を置くＢ社と、オランダのＧ社
を選出し、イギリスとアメリカで出版された図書を９０冊、その他ヨーロッパ各国で
出版された図書を５１冊発注した。発注に際しては、あらかじめ図書購入指示書(CON
DITIONS OF PURCHASE OF BOOKS)(別紙参照）を送付した。その主な内容は、以下の項
目の通りであり、これらの条件に同意を求め署名して返送させた。

　　　　　１　支払方法は図書到着後に支払をする後払いであること
　　　　　２　未着図書については支払いを行わないこと
　　　　　３　インボイスは３通用意すること
　　　　　４　一回のインボイスによる発注は５０万円以下で行いたいこと
　　　（なお、直接購入の実施にあたっては、実際に直接購入を行っている国立国会
　　　　図書館、上智大学図書館等の方法を参考にした。）

　こうして発注した図書のうち、６２年度中にＢ社分６８冊、Ｇ社分４２冊が到着し
た。輸送方法はＳＡＬ（Surface Air Lift）によっているので、速いものでは発注後
２週間で到着した。その一方で入手不可能の図書についても逐一その旨の報告を送っ
てきた。また残りの図書についても６３年度に入ってからも、入手できしだい送付し
てきた。
　その間、図書の現物輸送とインボイスに関連して、いくつかのトラブルが発生した。
例えば、Ｂ社分で、インボイスは到着したが現品が直ちに到着しなかったものが１件
あった。Ｂ社に問い合わせたところ、現品が郵送されてくる間に他の郵便物と紛れて
遅れる事が時々あるとのことであった。結局１ヵ月半後には現品が到着した。また、
Ｇ社分のうち現品は到着したがインボイスのなかったものが１件、インボイスが１通
しか届かなかったものが１件、Ｂ社分のうち現品は到着したがインボイスのなかった
ものが１件あった。インボイスの総件数は３０件強である。その他、発注番号の不明
確なものや、英語版と独語版の取り違い、送金内容の問い合わせ等が数件あった。
　現品が到着したものについて、３通のインボイスを各々見積書、納品書、請求書と
みなして、支出負担行為事務及び支出事務を行った。その際インボイスには署名がな
いので、取引先代表者の署名のある図書購入指示書を必ず添付するようにした。支出
負担行為額及び支出額は、支出官事務規程第２１条による外国貨幣換算率を定める大
蔵省告示によって円換算した。

３．直接購入事務の分析
（１）購入価格について
　今回の直接購入によって得られた価格を、仮に国内の通常の換算レートで購入する
場合の価格と比較してみると表１の通りとなる。その結果から分析すると、国内業者
から購入する場合と比べると、直接購入の場合、当該書籍取次業者の本国の出版物に
ついては、Ｈ大学における国内購入の際の通常の購入価格レート（昭和６３年１月現
在）と直接購入の際の直接購入レート（いわゆる支出官レート、昭和６３年１月現在）
との差額分が、当該書籍取次業者に係る諸経費（輸送料、手数料等）を無視すれば、
次の通り割安になる。

　　通常購入価格レート　１ポンド　 = 320.40 円：１　ギルダー　 =　 93.45　円
　　　　直接購入レート　１ポンド　 = 231.00 円：１　ギルダー　 =　 71.00　円
　　　　　　差額　　　　１ポンド当り　89.40 円：１　ギルダー当り　 22.45　円

　ところが当該書籍取次業者の本国以外の出版物の場合には、その差額分は殆ど無く
なってしまい、むしろ日本国内での通常購入価格より高くなる壌合もある。特にアメ
リカの出版物は当時急速に進行したドル安のため軒並み通常購入価格より高くなって
いる。これは書籍取次業者にとって他国の図書を扱うための輸入業務が加わることに
なり、割高になるためと思われる。

＜表１＞直接購入外国図書価格分析表
＊出版元定価は、アメリカ- Books in print、ドイツ- Verzeichnis Lieferbarer
　Buecher、イギリス- British books in print、その他図書のジャケットによる。
＊直接購入価格はインボイス価格×支出官レート
　　　　　　　　　（１ギルダー=71.00円；１ポンド=231.00円）
＊購入予想価格は出版元定価×本学換算レート
　　　　　　　　　（１ギルダー=93.45円；１ポンド=320.40円
　　　　　　　　　　１マルク =102.35円；１ドル　=176.00円；１フラン=31.15円）
＊国内Ｃ．Ｐ．価格は、国内書店のカタログ・アナウンスの価格である。
＊差額は、「購入予想価格」－「直接購入価格」である。
＊割合は、「直接購入価格」÷「購入予想価格」である。

（２）直接購入に係る諸経費について
　上記の通常購入価格レートには図書の輸入原価（直接購入レートに等しいとみなす）
の他に国内業者に係る諸経費（いわゆるマークアップ額）が含まれており、差額分が
それに当たると思われる。そこで直接購入事務の際、特別に必要となると思われる業
務について（１）消耗品費（海外封筒等）、（２）雑費（送料等）、（３）人件費の
３点の諸経費を試算してみた（表２参照）。それによると発注図書１４１冊、取引業
者２社の場合の諸経費率は９．１％となった。国内業者に係る諸経費には他に、営業
費、宣伝費、利益等があるが、今回の試みではそれらは分析しえなかった。

＜表２＞直接購入事務諸経費積算　　　（時給１，２３０円）（注）

　注）時給算出では国家公務員給与等実態調査の公務員の平均給与月額（昭和62年
　　分）によった。それによると行政職俸給表（一）５級相当以下の職員（平均年
　　齢37.01歳）の平均基準内給与月額は、216,530 円である。従って、
　　　２１６，５３０÷４週÷４４時間＝１，２３０円を時給とした。
　＊経費の合計は、3,960円+13,100円+47,970円=65,030円であった。従って発注図書
　　141冊、購入図書110冊（購入金額718,300円）の場合の諸経費率は、
　　　６５，０３０円÷７１８，３００円＝９．１％　となった。
　＊購入金額のうち海外業者の手数料は、64,200円であり、海外業者手数料率は、
　　６４，２００円÷（７１８，３００円－６４，２００円）＝９。８％　となった。

（３）直接購入に置ける予定価格の算出
　海外書籍取次業者自体の営業費、宣伝費、利益等は、購入対象図書が当該書籍取次
業者の本国の出版物であれば、その出版物の定価（外貨）に含まれていると考えられ
る。また、海外書籍取次業者自体の手数料率は、表２のとおり今回の場合９．８％と
なったが、この手数料は輸送料、梱包料等が主であり、一回の輸送の冊数及び重量に
よって１０％弱から３０％強の違いがある。極端な場合、少額の図書を一冊直接購入
した場合手数料の方が図書価格より高くなる可能性もある。従ってこの手数料は発注
図書の価格に対する率ではなく、輸送回数に係る固定額と考えるべきである。また特
定の出版元については５％～２０％のディスカウントがあり、直接購入対象図書の選
定の際には考慮すべきであろう。
　以上のことから直接購入の場合の予定価格の構成は以下のように考えられる。

予定価格＝ＣＩＦ価格［外貨×（１－出版元ディスカウント）＋（保険料十輸送料）
　　　　　×輸送回数］×支出官レート

（４）購入事務について
　２．「直接購入事務の実施経過」の項でも述べたように、当該書籍取次業者の本国
の出版物については、速いもので２～３週間以内に到着するものがあるが、第三国の
出版物では１月以上かかった。今回の試みでは３０件強のインボイスを扱ったが、そ
の２割のものについてなんらかの事務連絡通信文を書かなければならなかった。外国
図書の直接購入にはこうした煩雑なクレーム業務が多くつきまとう。しかし、必ずし
も手に負えない業務ではない。外国図書は全世界に流通し、それぞれの国で市場価格
の異なる商品である。そうした外国図書の特性を踏まえ、適正な選書と適正な業者選
定を行い、有効な直接購入の方法を確立すれば、外国図書を割安に購入し、また迅速
に納入することは可能であるといえるであろう。

４．直接購入の問題点
（１）契約方式の問題
　今回の直接購入の契約方式は、随意契約によった。その根拠法令としては、会計法
２９条の３第４項及び予決令１０２条の４第３項の緊急の必要による場合と、会計法
２９条の３第５項及び予決令９９条第３項の小額契約の場合によった。緊急でなくま
た多額の契約を必要とする場合の具体的方法については、なお検討を要する。

（２）支払方法の問題
　今回の直接購入に当たっては、実施に先立って、海外出版者３４社、海外書籍取次
業者１３社に料金後払いの可否を問うた。その結果、大学図書館との購入契約であれ
ば海外の企業であっても、書籍については後払いをしているものが多数であることが
わかった。しかし、ドイツの出版社等では前払いの支払方法を原則としている業者が
あるので、契約の取り交わしの際には注意が必要である。前払いを原則とする海外業
者との間での直接購入の有効な方法は今回見出しえなかった。

（３）未着図書の問題
　今回の直接購入事務では、インボイスは発送されたが現品が到着しないといういわ
ゆる未着図書は実際には生じなかったが、未着図書は現実には生じうることであり、
その対策を講じておく必要がある。今回の場合は、未着の図書は支払わない旨を最初
の図書購入指示書で明記し、また輸送図書には保険を掛けるよう指示しているが、未
着であることを証明するのは困難であるかもしれない。ちなみに、郵便事故の場合、
郵便物取調請求によって行方不明の郵便物を探すという手続きがある。
　また、現実に未着図書に関して係争が起こった場合の対処の仕方（損害賠償等）も
検討しておく必要があるであろう。

５．直接購入の課題
（１）契約基準の整備
　図書の購入に際して、国内の業者に対しては文部省発注工事請負等契約規則を遵守
する旨の契約を行っているが、直接購入の場合は文部省発注工事請負等契約規則第２
８条第２項により、物品供給契約基準に定めるもののほか、必要な事項を加えた上で
契約寸る必要がある。今回は別紙１の図書購入指示書によってこれにかえたが、全国
の国立大学が直接購入を行いえるためには、欧文による銃一された物品供給契約基準
を作成する必要があるであろう。

（２）通知書の検討
　国際商取引では通知書といえるものはインボイスだけである場合が多く、見積書・
納品書・請求書を揃えるのは容易ではない。今回は、文部省発注工事請負等契約規則
第３１条ただし書きによりインボイス３通でこれにかえた。今後、外国図書の直接購
入の普及を考えると国際商取引の際における見積書・納品書・講求書の取り扱いにつ
いての検討を期待したい。

（３）職員の養成
　外国図書の直接購入事務は一種の国際商取引を行うのであり、事務連絡のための手
紙の遣り取りも頻繁に行わなければならない。従って、国際商慣習にある程度習熟し、
相応の外国語能力を備えた職員を養成する必要があるであろう。

（４）消費税について
　平成元年４月から「消費税法」が適用されるが、同時に「輸入品に対すろ内国消費
税の徴収等に関する法律」も改正され、同法第１４条（免税等）の改正により関税定
率法第１４条４号に定める「記録文書その他の書類」については消責税が免除される
ことになった。これに伴って直接購入の図書についても消費税は免除される。

（別紙　）　　　　　図書購入指示書

To 　　　取引相手会社
　　　　　　　　　　CONDITIONS OF PURCHASE OF BOOKS
I. INVOICE
1. 　　　取引相手会社 shall prepare one original invoice and three
duplicate copies of it. The invoice shall specify:
　1) the address of the receiver (H UNIVERSITY)
　2) 　　　取引相手会社's full name and address
　3) the date and invoice number
　4) the order number which is shown on the order slip
　5) the author and the title of the book
　6) the price in 当該通貨
　7) postage and handling charge in 当該通貨
　8) total sum of the books and charge in 当該通貨

2. The total amount of one invoice shall not exceed 一定額通貨 inclusive
of handling charge, postage, etc.

3. 　　　取引相手会社 shall send the original invoice in advance by air
mail to the address:
　　H UNIVERSITY LIBRARY
　　............
　　............
　　Tokyo ... JAPAN

4. The three duplicate copies of the original invoice shall be enclosed
in the package.

II. DISPATCH AND SHIPMENT
1. 　　　取引相手会社 shall package the books in such a manner to prevent
water and other damages that might occur in the course of shipment.

2. The package shall be dispatched by SAL to the address given in I.3.

III. INSURANCE
The package shall be insured for a reasonable sum.

IV. NON-ARRIVAL
1. In case of non-arrival of the package(s), H University will not be
responsible for it(them) and will not pay for missing or lost package(s).

2. In case of non-arrival of the package(s), after the lapse of a
reasonable period from the receipt of an original invoice, H University
will make the best efforts to trace it(them) inquiring Post Office. In
case non-arrival is decisive, H University will notify the fact to
　　　取引相手会社 immediately asking for the best solution.

V. PAYMENT
1. H University will pay for the received books after the inspection of
them.

2. H University will not pay for the defective of dameged copy and in
this case will request replacement. Payment shall be made after H
University's receipt of the replacement.

3. Payment shall be made by air mail transfer to the bank of
　　　取引相手会社 as follows:
　　　Bank name ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　　Branch name ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　　Address ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　　Account no. ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

4. H University shall pay handling commission charged by the forwarding
bank in Japan. However, it shall not pay similar commission which may
be charged by the bank in which 　　　取引相手会社 keeps its account.

　　 Above conditions are approved by:
　　　Signature ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　　Name in print ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　　Title ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　　Division ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　　Company name ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　　Address ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　　　　　　＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　　Date ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

　　　　取引相手会社　宛て
　　　　　　　　　　輸入図書についての条件（和訳）
Ⅰ．送り状
１．　　　取引相手会社は、正送り状１通と副送り状３通を用意する。送り状に
は以下のことがらを明記する。
　　１）受け取り人住所（Ｈ大学）
　　２）　　　　　取引相手会社の正式名称と住所
　　３）日付と送り状番号
　　４）発注票に記された発注番号
　　５）図書の著者と書名
　　６）当該通貨による価格
　　７）当該通貨による送料及び出荷手数料
　　８）当該通貨による図書及び手数料の合計金額
２．１通の送り状の合計金額は送料及び手数料込みで一定額通貨を超えることの
ないよう発注者が留意する。
３．　　　取引相手会社は正送り状を前もって航空便で以下の住所宛てに送る。

　　　東京都　　．．．
　　　Ｈ大学　図書館
　　　情報管理課

４．正送り状の写し３通は、パッケージに同封して送ること。

Ⅱ．出荷と輸送
１．　　　取引相手会社は、輸送の途中で起こりそうな水漏れやその他の破損を
防ぐような方法で図書を梱包すること。
２．パッケージはＳＡＬ(Surface Air Lift)によってⅠ．３で示された住所宛て
に送る。

Ⅲ．保険
パッケージには適当な額の保険をかけること。

Ⅳ．未着
１．パッケージが届かない場合、Ｈ大学はそれに対して責任を負わず、行方不明
あるいは紛失のパッケージに対して支払をしない。
２．正送り状の到着から適当な時間が経過した後にパッケージが届かない場合、
Ｈ大学は中央郵便局に問い合わせるなどして追跡調査に最善を尽くす。不着が明
らかになった場合は　　　取引相手会社にその旨を伝え解決策を求める。

Ⅴ．支払
１．Ｈ大学は検収の後にその図書の代金を支払う。
２．Ｈ大学は落丁・乱丁図書に対しては支払をせず交換を求める。
３．支払は、航空便により　　　取引相手会社の銀行口座に振り込むことによっ
てなされるものとする。　　　取引相手会社の銀行名とその住所及び口座番号は
以下の通りである。
　　　　銀行名　＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　　　支社名　＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　　　住所　　＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　　口座番号　＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

４．Ｈ大学は日本の送金銀行から請求される手数料を支払う。しかしながら
　　　　　取引相手会社が口座を持つ銀行の同様の手数料は支払わない。

以上の条件に同意する。
　　　　署名　　＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　　　姓名（活字体）＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　　　役職名　＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　　　部局名　＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　　　会社名　＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　　　住所　　＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　　　　　　　＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　　　日付　　＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿