おわりに
 昨年の徳島における本協議会総会に提出した中間報告書ならびに今回の最終報告書をも
って、本調査研究班に与えられた課題は、不完全ではあるが、ほぼ終えたと考える。ただ、
次のような問題が残されている。即ち、第一は国内外における分担協力について、第二は
資料保存のガイドライン、あるいはプログラム案の作成について、第三は学術情報センタ
ーに入力された劣化資料に関するデータの最終的な集計とそれに基づく対応策について、
第四は酸性紙以外の資料に関する劣化状況の調査及び保存対策について、の4点である。
 第一については、中間報告書においても「劣化資料の冊数等の数値、書誌データが収集
され、それらに基づく具体的な保存対策が、国内あるいは諸外国との間で検討され始めた
段階で調査・研究されることが望ましく、現時点での論議は理想論に陥る」と述べたが、
この考えは今でも変わっていない。
 第二については、時間的制約もあって、本調査研究班はガイドラインあるいはプログラ
ムの雛形を作成することができなかった。しかし、「全ての図書館に当てはまる一つのガ
イドラインがあるわけでもない。資料保存プログラムは多様であり、個々の図書館が持つ
コレクションの状況や資料の収蔵状況によって異なってくる」と先に述べたように、それ
は個々の図書館が考えねばならないことである。従って、今回の報告書では、日本及びア
メリカにおけるガイドラインやプログラムの例を詳しく紹介した。これらによって、各大
学図書館はその大学の実情にあったものを作成する際の基本的な知識が得られるであろう
と考える。
 第三については、今回の本調査研究班の任期とデータ入力締切り日が異なったことによ
り、不完全な中間集計となった。今後、各大学が精力的にデータ入力に取り組まれ、締切
り日の平成6年11月末日までに1件でも多くのデータが登録されればと願うところである。
劣化資料に関する、より充実したデータベースが完成すれば、本協議会が、さらに国内す
べての大学図書館における資料保存の具体的対策をも立案し得るであろうと確信し、期待
するものである。
 日本の大学図書館には、「古文書・古典籍」という日本特有の貴重な資料が多数所蔵さ
れているが、その多くが虫や黴のため、危機的な状況にあるのではないかと推測される。
これらの貴重な資料に対する保存対策は、本調査研究班が取り組めなかった第四の問題で
ある。これは気の遠くなるような大規模の事業となると予想される。
 さて、資料の保存、劣化対策は、加盟各館から寄せられた意見にもあったように、基本
的には個々の大学図書館が取り組むべき問題であると認識されながら、それができない理
由として現在の大学図書館の予算的、人員的不足が挙げられている。これに対しても何ら
かの支援、特に予算的措置が早急に期待されるところである。一方、この問題の規模の大
きさからくる莫大な予算と多大な労力を考えれば、より的確、かつ効率のよい解決を図る
ためには、組織レベルの取り組みと、センター的役割を担う機関(例えば保存図書館)の
設置が不可欠であり、さらに全国的規模での集中的・一元的調整を行うことが必要である
との意見が多く寄せられている。
 これらを考えると、この資料保存対策は、研究図書館としての大学図書館にとって重要
な課題であり、今回の調査研究班の不完全な報告で終わらせず、残された問題について今
後も継続して検討される必要がある。特に、劣化資料に関する貴重なデータに基づく対応
策の検討は重要な課題である。中間報告の最後に、「まとめに代えて一つの提案」として、
本協議会に「資料の保存」に関する特別委員会の設置を提案し、その委員会が今後取り組
むべき課題を記したとおりであるが、再度、その実現を切に要請する次第である。