第3節 媒体変換にかかる経費の中間試算
 資料保存の対応策として、基礎的な資料の取り扱いや所蔵環境の整備等の対策を講じる
としても、劣化した資料については最終的には脱酸処理、あるいは媒体変換を施さねばな
らない。そこで今回入力されたデータを基に媒体変換処理に要する経費を試算した。
 媒体変換の媒体としては、前章のアンケート調査でも明らかなように現在ではマイクロ
フィルムを採用することが大勢を占めている。従って、今回はマイクロフィルムに変換す
る方法を採用した。算出するに当たってはいろいろな条件設定が必要であり、それには過
去にマイクロフィルム化の経験を有する富士フィルムKK、丸善等の意見を参考にさせて
いただいた。

1 計算の根拠
 マイクロフィルム化する経費を試算する前提条件として、次のような種々の要件を考え
た。
(1)資料の劣化状態に係る要件
 劣化状態(A:劣化が進行中、B:劣化が著しいの2つの区分)によってマイクロフィ
ルム撮影作業にかかる手数が異なり、これが経費に反映する。
 (i)撮影作業の経費算出の基礎数を撮影するフィルムのコマ数とし、標準的な資料で
   1コマ2ページと計算する。
 (ii)ページ数は入力されたデータから、劣化度A、Bに分けて集計する。多巻物等で
   ページ数が入力されていない資料については、可能な限り冊数を集計し、入力され
   ているデータの1冊の平均的ページ数をもとに計算する。
 (iii)撮影作業についての標準的な経費の基準は次のように設定する。
   ・劣化度Bについては4人(主たる作業者1人、補助者3人)が1日当たり約2,00
    0 ページ(1,000 コマ)を撮影するものとする。
   ・賃金は、主たる作業者は1人1日30,000円、補助者1人1日18,000円とする。従
    って劣化度Bは1ページ当たり42円となる。
   ・劣化度Aは劣化度Bの2倍の効率で撮影作業ができるものとして、1ページ当た
    り21円となる。
(2)資料の形態に係る要件
 資料が冊子体である場合、撮影のためにページを開いた状態に置かねばならない。もし、
資料がページを開いて平面にすることができない場合は綴りを解かなければならない問題
が生じる。つまり、撮影のための前処理と、あとの修復処理についての経費が加算される
ことになる。資料の形状、大きさ等についても、それぞれ問題が生じる。従って次のよう
な条件設定とする。
 (i)入力データからは綴りの状態が不明であるため、前後の処理に係わる経費は無視
   する。
 (ii)形状及び大きさについては、個々に特定して計算することは困難なため、A3判
   までのものを1コマ当たり2ページで撮影する。
(3)マイクロフィルムの仕様
 マイクロフィルムとしてはロールフィルム、フィッシュフィルムおよびアパーチュアカ
ードの三つに大別できる。劣化資料の媒体としては、例えば、国立国会図書館は明治期刊
行図書のマイクロフィルム化においてカートリッジ入り16ミリロールフィルムを採用してい
る。この媒体は35ミりロールフィルムより保存スペースが節約できる利点だけでなく、パー
ソナルコンピュータと連動させることによって、フィルム上に撮影されている資料の検索
を容易にすることができるという特徴がある。検索のキーとなるマイクロフィルム上のタ
ーゲットに記された検索コードをキメ細かくすれば、さらに小単位の文献の検索も可能と
なる。検索は別に作成する索引簿により、書誌事項、フィルムナンバー、コマナシバー等
で構成される検索コード類を参照して行う。媒体変換後の利用を考えると、このカートリ
ッジ入り16ミりロールフィルムに変換することが最良と思われるので、それを採用する。
従って、フィルム撮影に係る費用以外に、検索のためのターゲットを作成する料金および、
そのターゲットを参照するための索引簿を作成する費用が必要となる。
 (i)ターゲット作成に係る標準的な経費算出の基準
  ・ターゲット作成経費は資料のページ数には関係なく、1冊につきどのようなターゲ
   ットを何枚作成するかによって決まる。一般には1冊につきl0枚のターゲットを作
   成する。この場合、2枚は検索コード等を記す特別な可変的ターゲット、残りの8
   枚は当該資科の普遍的なターゲット(例えばコレクション名、始まりと終わり等)
   である。
  ・ターゲット作成経費については、可変的ターゲット作成に必要な経費が1枚当たり
   約5,000 円で、これには普遍的なターゲット作成経費が含まれる。従って、1冊当
   たりのターゲット作成経費を10,000円とする。
 (ii)索引簿作成に係る標準的な経費算出の基準
   索引簿作成にはその資料の詳細な書誌情報が必要となる。しかし、これらの書誌情
  報は学術情報センターに登録されていることから、磁気テープ等による機械可読なデ
  ータとして活用できることを想定して10,000冊につき、約1千万円と見積もられる。
  従って、これより1冊当たりの索引簿作成料金を1,000 円とする。

2 ページ数等の集計結果
 撮影コマ数に関係するページ数等の集計結果は次のとおりである。ただし、ページ数は
 図書のみで雑誌は含まれていない。

表7 ページ数等の集計結果

3 試算結果
 (1)撮影に係る経費
   劣化伏態Aのもの  21 円× 2,684,971 ページ=  56,384,391 円
   劣化状態Bのもの  42 円×  432,441 ページ=  18,162,522 円
                        計    74,546,913 円
 (2)ターゲット作成に係る経費
           10,000 円×   10,488   冊=  104,880,000 円
 (3)索引薄作成に係る経費
            1,000 円×   10,488   冊=  10,488,000 円
 (4)総合計                      189,914,913 円
                             ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 今回入力されたデータを基に試算した金額は以上の結果となり、1冊平均では約18,107
円である。また、マイクロフィルム撮影に直接かかる費用が全体の39.2%、利用の便宜を
考慮して作成するターゲット・索引簿作成に係わる経費が60.7%となる。