第3章 長期保存対象となる資料の劣化状況調査−中間分析−
 本調査研究班は中間報告書の第1章で述べたように、1992(平成4)年8月、本協議会
加盟館が所蔵している資料のうち、長期保存対象となる資料の劣化状況を把握するために、
学術情報センターの目録所在情報データベースに劣化状況に関する情報の入力を依頼し、
そのデータ入力の締切り日を諸般の理由で平成6年11月とした。徒って、現時点で集計す
ることは早計ではあるが、最終報告書に何らかの集計数値を報告することが必要と考え、
1993(平成5)年11月末日までに人力されたデータを集計した。以下はその報告である。
 なお、データ集計に当たっては、プログラムの作成及びリスト出力について、多忙の析
り、学術情報センターのご理解と多大なご協力をいただいた。ここに深く感謝するととも
に、厚くお礼申し上げる次第である。

第1節 劣化状況調査の概要
1 調査の概要
 今回の調査は、今後、この種のプロジェクトヘの多面的なデータの活用を図る必要があ
ることと遡及入力の促進も兼ねて、学術情報センターの協力を得て、一般の書誌情報入力
と同じ方法でデータベースに登録することとした。
 調査対象資料は各大学で所蔵する資料のうち、半永久的に保存すべき資料と判断するも
ので、かつ、酸性紙による劣化が見られるものに限定した。そして半永久的に保存すべき
資料として考えられる範囲については、1貴重書2郷土資料3著名人の手稿本・書入れ本
4稀覯本5特定コレクション6発禁本7著名人の初版本8大学独自の出版物9自家出版10
タイプ・謄写版本等重要パンフレット類11学術雑誌12その他の12項目を参考例として挙げ
たが、あくまで大学の判断によるものとした。酸性紙の劣化を識別する目安としては、
「刊年による判断」と「目での判断」の二つを基に総合的に判断することとし、さらに、
劣化が進行中のもの(劣化度A)と劣化が著しいもの(劣化度B)との二区分を設けた。
なお、酸性紙による劣化の判断、劣化度の判断について、より統一性を求めるために、各
大学には酸性紙による劣化資料の状態を写したサンプル写真を参考資科として配付した。
  入力方法はデータベースの所蔵レコードにある入力項目「CPYNT(copy note)」に、識
別子として「ACID」の文字を先頭に付け、必要なデータを入力することにした。(中間報
告書第1章及ぴ巻末参考資科の調査要綱参照)

2 入力状況
 1989(平成元)年7月から9月にかけて九州大学附属図書館が実施した国立大学附属図
書館の劣化資料数量調査(中間報告第1章第2節及ぴ第4章第4節参照)では、一般図書、
雑誌等逐次刊行物、貴重書を含むコレクション類を対象に行ったもので、該当する劣化資
料の数量は一般図書が約 828千冊、コレクションが約 105千冊、雑誌等逐次刊行物が約27
千タイトルであった。
 今回の調査では、1994(平成5)年11月末日現在でデータベースに入力された数は図書
が10,488冊(和書3,663、洋書6,825)、雑誌が 237タイトル(和雑誌210 、洋雑誌27)で
ある。
 なお、データベースの入力項目「CPYNT」 に、識別子として使用した「ACID」の文字列
に誤入力があり、抽出できなかったデータも若干あった。従って、これらのデータは以下
の数値には集計されていない。また、同一大学内の学部等から入力された数値は一大学分
として集計した。結果は次のとおりである。

表1 国立大学のデータ入力状況

 前回の九州大学の調査と比較して大変低い数値となっている。これは今回の調査対象資
料を半永久的に保存すべき資料と限定したこと、データベースヘの書誌情報入力としたこ
とによる作業の増大、昨年度は和雑誌データ更新調査の時期と重なったこと、集計が入力
期間の締切り日以前であること等の理由が考えられる。
 地区別(本協議会が採用している地理的区分による。以下回じ。)の入力データ数を示
したものが図表1である。1つのNCID(書誌ナンバー)の中で劣化度が複数あるものは重
複して集計した。

図表1 地区別、劣化度別入力冊数



 大学の地区別入力データ数は、図書では東京地区が全体の約53%、東海地区が約17%、
九州地区が約15%となっている。雑誌では関東地区が約50%、近畿地区が約22%、東海地
区が約10%の順である。

第2節 集計結果の分析
1 保存すべき資料の酸性劣化状況
 入力されたデータの和書、洋書における劣化度状況は次のとおりである。なお、雑誌で
は同一タイトルの刊行年代によって劣化度が異なるものがあり、双方とも集計したため表
1の総数とは一致しない。

表2 劣化度状況

 中間集計のため判断は差し控えるべきであるが、その数値から見ると劣化度Bは洋書に
著しく多く、雑誌ではその逆になっている。
 今回は入力データを1冊毎に調査することは出来なかったが、出力リストを通観した限
りでは、「調査要領」で挙げた対象資料の12項目に沿ったものであった。和書では郷土史
関係資料・同目録、大学発行の蔵書目録、法学関係資料、帝国議会審議記録、政府・地方
自治体発行の出版物等で1900‐1950年代に刊行されたものが目立った。また、1920−1940
年代に朝鮮総督府、満州鉄道株式会社等から出版された調査ものが劣化していた。

2 重複所蔵資料による劣化度の相違
 北見工業大学や旭川医科大学がある北緯44度から、琉球大学の北緯26度にわたる、南北
に延びた日本の地理的な条件は、温度、湿度の点からも、図書館資料の劣化に大きな影響
を与えるものと予想される。この観点から、同一書誌で2大学以上から重複入力されてい
るデータを地区別に集計した結果が次の表3(和書)と表4(洋書)及び表5(雑誌)で
ある。

表3 地区別劣化状況(図書)
   図書[和]


表4 図書[洋]

表5 地区別劣化状況(雑誌)
   雑誌[和]


 緯度と劣化度の相関関係を想定したが、各大学における所蔵環境が異なること、1冊の
資料も多年の間には図書館内で移動が繰り返されていること、劣化度の判定に客観性が欠
けること、データ数が少ないこと等の理由で当然の結果ではあるが、明確な数値となって
表れていない。ただ、図書に関しては劣化度Bが幾分東京地区に多いことは読み取れる。

3 出版年代による劣化状況
 今回の調査においても、従来から指摘されてきた出版年による劣化状況の相違を劣化資
料判別の一つの目安として用いたが、実際に入力されたデータではどうなっているかを調
べた。
 「調査要領」の出版年による目安は、欧米ではおおよそ1865年−1900年としたが、国の
事情によって若干異なり、ドイツでは1917−1923、1940−1950、フランスでは1922−1930、
1947−1951の各年代に集中しているとした。また、日本では1889−1912、1940−1950の劣
化が著しいとした。
(1)図書
 データ数が多いことからサンプル調査とし、30冊につき1冊の割合で 348冊のデータを
抽出し、出版国、出版年年代によって集計した結果が図表2である。
 集計は年代を10年区切りとした。

図表2 国・年代別劣化状況(図書)

 この図表から、イギリス、ドイツ、フランス、日本等においては従来から指摘されてき
た出版年による相違がほぼ一致する。特にドイツ、日本の場合は顕著に表れている。ドイ
ツでは、全体の57%が1910年代から1950年代に集中している。また、日本では、1930年代
から1960年代に集中し、全体の72%を占めている。
 この図表に表示できなかった1840年代以前及びその他の国では次のようになっている。
出版年代ではイギリスで1650、1780年代にそれぞれ1冊、ドイツで1730から1810年代の間
に8冊、フランスで1690年代に2冊、1790、1830年代にそれぞれ1冊、アメリカで1790年
代に2冊、スイスで1770から1790年代の間に4冊、オランダで1720年代に1冊、日本で16
50、1710年代にそれぞれ1冊である。
 他の出版国では中国で1930、1940、1970年代にそれぞれ1冊、イタリアで1860、1890、
1910、1920年代にそれぞれ1冊、オーストラリアで1870、1880年代にそれぞれ1冊、チェ
コスロバキアで1860、1930年代でそれぞれ1冊、オーストリアで1920年代に1冊、デンマ
ークで1760年代に1冊がそれぞれ劣化資料として入力されている。
 これによると1840年代以前にも酸性紙以外の原因により劣化した資料がかなりあること
が判明する。
(2)雑誌
 洋雑誌の入力データは27タイトルあり、国別ではイギリス1、アメリカ4、ドイツ12、
フランス6、ロシア4である。国別、年代別に集計した結果が図表3である。
 集計は年代を10年区切りとし、一つのタイトルで数十年にまたがって劣化しているもの
はそれぞれの年代に集計した。
 入力データ数は少ないが、図書の場合とほぼ同じ傾向を読み取ることができる。

図表3 国・年代別劣化状況(洋雑誌)

 和雑誌 210タイトル、洋雑誌27タイトルを年代別、劣化度別に集計した結果が図表4で
ある。集計方法は図表3と同じであるが、一つのタイトルで劣化度がA、Bに別れている
ものは、それぞれに加算集計した。
 和雑誌は1930年代から1960年代に集中し、ほぼ全体の88%を占めている。また、劣化度
Bは1921−1959の間に17タイトルあった。

図表4 年代別劣化度(和雑誌・洋雑誌)

4 媒体変換済み劣化資料
  洋書のうち、既に媒体変換されている冊数は表6のとおりである。媒体はマイクロフ
 ィルムである。

表6 媒体変換済資料冊数(洋書)