著作権使用に係る文献複写の実態調査報告書

　　　著作権使用に係る文献複写の実態調査

　　　　　　　　　　報告書

　　　　　　　　平成５年12月15日

　　　　　　　国立大学図書館協議会

　　　　文献複写に係る著作権問題特別委員会

１．はじめに
　日本複写権センターの発足に伴う複写と著作権に関する情勢の急速な進展に対処する
ために、国立大学図書館協議会文献複写に係る著作権問題特別委員会（以下、「本委員
会」という。）は、平成３年11月27日に複写実態調査を提言し、内部にワーキンググル
ープを設けてその実施計画の検討を開始した。また、国立大学協会学術情報特別委員会
も、平成４年２月18日付の「国立大学における複写に関する著作権の問題について」に
おいて、この種の実態調査の緊要性を強調した。しかしながら日本複写権センターとの
話し合いが休止状況となり、経費等の問題が打開できないまま、しばらくこの調査は保
留となっていた。平成５年３月に至り、懸案であった調査経費について目処が立ったこ
とを契機にして本委員会ワーキンググループによる検討が再開され、急ぎ調査実施要領
等が作成された。まとめられた実施要領案が平成５年５月26日に開催された本委員会に
付議され成案となり、同日行われた国立大学図書館協議会理事会の承認を経て、調査は
実施に移された。以下に、本調査について概要とともに集計結果を報告する。

２．調査の目的
　本調査の目的は、国立大学附属図書館で行われる文献複写の実態を把握し、文献複写
の基礎的なデータを収集することである。従来の各種の統計調査では、事務用等の複写
数が混ざるなど文献複写の実態を正確に反映していない部分があった。今回の調査では、
その点に留意し文献複写とそれ以外の複写を厳に区分して、それぞれの複写枚数及び件
数を改めて調査することとし、また調査日における複写１件１件に関し複写資料等を調
査した。
　また、複写のための手続きや複写の方式などについても、これに併せて調査した。

３．調査の方法
　調査は二つの観点から実施した。第一は文献複写が年間どのくらい行われているか、
実施された文献複写サービスの量を把握すること、第二はどのような資料がどのような
目的でどのくらいの量複写されているか、複写１件ごとにその内容をおさえることであ
る。このため次の２種類の調査（（１）文献複写実施状況調査（２）文献複写利用実態
調査）を用意し、平成５年６月に実施した。
　なお、調査対象とした図書館、並びに複写機は以下の通りである。
（１）調査対象図書館
　全国の国立大学附属図書館の中央館、分館、及びそれに準ずる、係組織が存在する部
局図書室（以下、「調査館」という。）
（２）調査対象複写機
　調査館の管理下にある文献複写に使用されるすべての電子式複写機（以下、「調査機」
という。）また文献複写サービス専用に使用される複写機の他、文献複写サービスと事
務用や教育用など文献複写サービス以外の用途にも併用して使用される複写機も調査対
象とした。今回の調査では電子式複写方式のみに限定しており、マイクロフィルム複製
及びリーダプリンタによる複写などは調査対象としていない。
（３）調査対象となる複写
　調査機で行われたあらゆる複写。したがって文献以外の資料を複写した場合も調査対
象とし、調査機が併用機の場合は、事務用などの目的で行った複写を含んだ。

３．１　文献複写実施状況調査
　調査館における平成４年度の複写を対象に、複写枚数、件数を数量的に把握するとと
もに、複写の手続き等複写サービスの態様、また著作権に関する表示の有無を把握する
ための調査である。
（１）調査項目
　　ａ．複写機設置状況
　　ｂ．複写方式
　　ｃ．複写手続き
　　ｄ．著作権上の注意表示の内容、及び表示個所
　　ｅ．複写枚数、件数
（２）方法
　別紙書式１「文献複写実施状況調査票」（以下、「状況票」という。）による複写業
務担当者に対するアンケート調査。
　記入は原則として複写機１台ごとに調査票１枚とした。しかし同一の複写態様（上記
ａ～ｃが同一）の複写機が複数ある場合はまとめての記入も可とした。

３．２　文献複写利用実態調査
　調査期間中に調査機で行われたすべての複写について、利用者の所属、複写の目的、
複写資料の種類等、複写の内容を把握するための調査である。
　個々の複写の内容を調査するための利用者に対する個別調査と、調査期間中の全複写
枚数、個別調査票の回収枚数等についての複写業務担当者に対する総括調査からなる。
　調査期間は、平成５年６月１日～15日の間の同一週の２日間の各午後４時間を合わせ
た８時間とし、調査館が都合の良い調査日を選んで調査を実施した。
３．２．１　個別調査
（１）調査項目
　　ａ．利用者の所属
　　ｂ．複写の目的
　　ｃ．資料の種類（文献、その他）
　　ｄ．資料の所有者
　　ｅ．複写の範囲
　　ｆ．複写部数
　　ｇ．発行年月
　　ｈ．複写枚数
　　ｉ．支払種別
（２）方法
　別紙書式２「文献複写利用実態調査票（利用者用）」（以下、「個別票」という。）
による利用者に対するアンケート調査。
　複写１件ごとに利用者に個別票の記入を依頼した。特に複写資料が文献資料の場合は、
文献単位に個別票１枚に記入してもらった。たとえば１冊の雑誌から複数の論文を複写
した場合は、論文別に個別票１枚の記入を依頼した。
　利用者が直接調査票に記入するため、個別票の調査項目は分かりやすく簡略なものに
した。しかし調査にあたっては利用者が記入に迷ったり、記入を避けることも予想され
たため、回収が確保されるよう調査館の協力をお願いした。
３．２．２　総括調査
（１）調査項目
　　ａ．複写機設置状況
　　ｂ．複写方式
　　ｃ．複写手続き
　　ｄ．調査票回収枚数
　　ｅ．調査期間の複写枚数
（２）方法
　別紙書式３「文献複写利用実態調査総括票（職員用）」（以下、「総括票」という。）
による複写業務担当者に対するアンケート調査。
　調査機１台につき総括票１枚を記入してもらった。
　総括調査では、調査機の累積カウンターを各調査日の調査開始時と終了時に確認し調
査期間の複写枚数を算出してもらった。これは個別票の回収状況を判断するためである。
併せて複写機設置状況、複写方式、複写手続きについて調査を行った。

４．調査結果
４．１　「文献複写実施状況調査票」（状況票）の集計結果
　文献複写実施状況調査では、調査対象となる複写機が設置されていない三つの大学を
除く95大学、235調査館から342枚の状況票が回収された。
　以下に集計結果について項目別に述べる。なお集計結果は基本的には調査機台数の単
位で示し、必要に応じ調査館数単位の集計を併記する。また状況票の調査項目中、「２．
複写方式」から「５．著作権上の注意表示の内容」は複数回答の可能な項目のため、回
答数の合計が全調査機数 502台より大きな値となっている。
（１）複写機設置状況
　平成４年度に調査館に設置されていた文献複写用複写機は全部で 502台である。この
うちの約３分の２は文献複写以外の用途にも用いられる併用機である。全調査館 235館
のうち併用機のみ設置している館は 142館、文献複写専用機のみ設置している館は48館、
併用機、専用機両方を設置している館は45館である。図書館に設置されている複写機で
行われる複写は必ずしも文献複写のみではない。

表１　複写機設置状況

文献複写サービス専用 190台 37.8％

事務用・文献複写サービス用併用 312台 62.2％

（２）複写方式
　この項目は校費、私費別に調査を行った。
　図１は各々の回答を単純に集計した結果である。しかし実際は各複写機においていく
つもの複写方式で運用している。複写方式の種類数によりとりまとめた集計結果が図２
である。図書館・室単位では、校費・私費両方扱っているもの 177館、校費のみ51館、
私費のみ３館となっている。
　ａ．校費の場合の複写方式
　校費の回答数の延べ数は 557件であり（図１）、校費の複写サービスを行っている複
写機は、全調査機502台のうちの434台、サービスを行っていない複写機は56台、不明が
12台である。
　サービスを行っている複写機のうち「IDカードによるセルフサービス」（以下、「ID
方式」という。）を用いているものが多く、次いで「図書館職員が複写」（以下、「職
員方式」という。）、「キーカウンターによるセルフサービス」（以下、「キーカウン
ター方式」という。）、「伝票・台帳によるセルフサービス」（以下、「台帳方式」と
いう。）の順である。
　図２に示すように、４分の３の複写機は１種類の方式のみで運用されている。中でも
利用者に作業を委ねている方式の複写機が 275台に上る（以後、ID方式、キーカウンタ
ー方式、台帳方式、「コイン・プリペイドカードによるセルフサービス」方式の四つを
合わせて「セルフ方式」と総称する。）。また２以上の複写方式を回答した複写機は約
４分の１であり、その大半が職員方式とセルフ方式の両用である。
　ｂ．私費
　私費の回答数の延べ数は 404件であり、複写サービスを行っている複写機は全調査機
(502台）のうちの354台、サービスを行っていない複写機は135台、不明が13台である。
私費払いによる複写サービスをしない複写機が多い。
　サービスを行っている複写機のうち職員方式を用いているものが多く、次いで「コイ
ン・プリペイドカードによるセルフサービス」（以下、「コイン方式」という。）、ID
方式、キーカウンター方式の順である。
　図２の集計にみるように、１種類の複写方式で運用されている複写機が約85％あり、
職員方式が多い。２以上の種類方式を回答した複写機は約15％である。この場合は校費
と同様に職員方式とセルフ方式の併用が多い。
　私費では複数方式の場合を含めると職員方式が 354台中の約半数となる。
　ｃ．校費、私費の比較
　校費では複数方式を含めてセルフサービス方式を用いている複写機の率が高く、なか
でもID方式が多い。使用者が特定少数という条件を反映しているのであろう。一方私費
では複写サービスをしていない複写機は校費に比べ 2.4倍も多い。複写方式としては、
職員方式が最も多く、一部セルフ方式もあって、その内訳はコイン方式、ID方式である。
（３）複写手続き
　集計結果を図３に示す。
　適切に複写手続きをしている調査館数は 207館である。用いられている手続きの種類
は「校費、私費の両方とも申込書に記入」39％、「私費の場合のみ申込書に記入」28％、
「枚数等のみ台帳に記入」16％、「その他」の方法が18％である。
　また複写手続きのない調査館が28館あったが、おおむね部局図書室であった。
（４）著作権上の注意表示及び内容
　集計結果を図４に示す。
　全調査機502台のうち、著作権の注意事項を表示しているもの390台、表示をしていな
いもの 107台、不明５台である。
　表示している個所については、「申込書に」が全体の44.5％と最も多く、次いで「複
写機・カウンター等に」が19.7％、「利用案内」が16.8％である。表示されている内容
は「利用者の責任と図書館の免責」が圧倒的に多く47.4％であり、次いで著作権法の
「第31条制限事項」が25.1％、「一般的注意事項」16.2％となっている（図４参照）。
（５）平成４年度の複写実績
　平成４年度の複写実績の集計を複写機１台ごとに依頼した。その全体集計が表２であ
る。全複写枚数の内訳は、「校費」45.9％、「私費」26.7％、「その他」20.8％、「IL
L」6.7％である。全複写枚数の５分の１は文献以外の複写である。また文献複写枚数を
分母とするその8.4％がILLのための複写となっている。
　実際に複写した枚数、件数について正確な値（実績値）が把握できない場合、全枚数
以外のデータは推定による値（推定値）を記入してもらった。数値の記入にあたっては、
記入した値が実績値、推定値のいずれであるかを記入してもらった。実績値と推定値に
よる回答数に割合を項目別に表３に示す。複写枚数、複写件数ともに「校費」、「その
他」の推定値による回答率が高い。これは「ILL 」と「私費」の二つは、文献サービス
と会計的な処理などが連動しており、複写作業の記録が安定しているためと思われる。

４．２　「文献複写利用実態調査総括票（職員用）」（総括票）の集計結果
　調査の正確さを期すため、調査期間中に回収された個別票の枚数及び全複写枚数の総
括票への記入を、複写業務担当者に依頼した。特に全複写枚数については、各調査日の
調査開始時と終了時に調査機の枚数累積カウンターを確認し算出して、実際に使用され
た複写枚数を調査した。また併せて複写機設置状況、複写方式、複写手続き、及び調査
機の平成４年度の全複写枚数を調査した。
　文献複写利用実態調査は96大学、236調査館、485調査機で行われ、485 枚の総括票が
回収された。総括票の集計結果を表４、図５、６に示す。
　複写機設置状況、複写方式、複写手続きの三つの設問は状況票と同一である。状況票
の集計結果である表１、図１、３と総括票の集計結果である表４、図５、６を比較して
みると、三つの項目の状況は今回の調査時点と平成４年度とで大きな異動がないことが
分かる。
　なお回収された個別票は18,179枚、調査期間中に行われた複写枚数の合計は 164,844
枚であった。

４．３　「文献複写利用実態調査票（利用者用）」（個別票）の集計結果
　個別票の回収枚数は18,179枚であった。個別票の複写枚数欄を集計した複写全体枚数
は 147,060枚であり、この枚数は総括票で正確に把握された調査期間中の複写枚数合計
164,844 枚の89％に当たる。複写枚数から判断すると今回の調査期間の個別票の回収率
は89％であった。
　集計は複写枚数及び件数の二つの単位で行ったが、枚数単位を基本に集計結果につい
て述べる。
　なお、「（６）資料の所有者」から「（11）複写部数」は、複写対象資料が文献の場
合のみ調査対象となる項目である。
（１）所属等
　複写資料（文献資料とその他）別に所属等を集計した結果が図７である。
　学内者が88.1％、学外者が11.4％、不明 0.5％である。全複写枚数のうち、学内者の
中では大学院生が26.4％、職員・技官が22.8％、教員が20.9％、次いで学生が12.5％の
順に複写枚数が多い。また学外者の中では民間企業勤務者が最も多く全複写枚数の 4.9
％を占めている。
　文献以外の資料の複写が多いのは、いずれも学内者の職員・技官、教官、院生、学生
である。特に職員・技官の場合には、複写枚数の約40％が文献以外の複写である。
（２）複写の目的
　複写の目的について複写資料別に集計した結果が図８である。
　複写の目的では「個人の調査・研究・学習のため」が58.5％と多く、次いで「講義・
演習・ゼミ等の教材として」12.0％、「ILL サービス」10.4％である。「勤務先での調
査・研究開発のため」の複写は 5.1％である。
　「ILL サービス」としての複写は、状況票の集計結果の平成４年度実績では全複写枚
数の 6.7％であるのに対し、今回の調査では10.4％である。 ILLサービスは、年度の早
い時期に多く行われていると推定される。
　文献以外の複写が多いのは、「大学行政（事務）のため」、「講義・演習・ゼミ等の
教材として」、「個人の調査・研究・学習のため」の三つである。特に「大学行政（事
務）のため」はほとんどが文献以外の資料の複写である。また同様に「講義・演習・ゼ
ミ等の教材として」の場合は、40％が文献以外の資料の複写である。
（３）資料
　複写対象資料が「文献資料（図書、雑誌等）」かそれ以外かを調査した項目である。
集計結果は表５である。
　複写対象資料のうち文献資料は、件数16,505件、複写枚数 117,739枚であり、件数の
90.8％、枚数の80.1％を占める。「所属等」、「複写の目的」の項目でふれたように、
文献以外の資料の複写は職員・技官が行うことが多く、また目的は、「大学行政（事務）
のため」、「講義・演習・ゼミ等の教材として」、「個人の調査・研究・学習のため」
が多い。
　その他の資料としては、会議資料、自作の原稿、講義ノート等が挙げられている。
（４）枚数
　１件の複写で複写した枚数を調査した項目である。
　複写枚数の合計は 147,060枚であり、全件数が18,179件であるから、１件当たりの平
均は 8.1枚となる。また文献資料に限定すると、複写枚数 117,739枚、件数16,505件で
あり、１件当たりの平均は 7.1枚となる。文献以外のその他の資料の場合は、複写枚数
29,321枚、件数 1,674件であり１件当たり17.5枚と大きな値となる。
（５）支払種別
　複写に要する費用の支払費目の種別を調査した項目である。支払種別を複写対象資料
別に集計した結果が図９である。
　支払種別は校費が65.5％、私費が33.3％であり、他の支払種別は少ない。しかしなが
ら調査時期が６月であるため、予算配分がまだ行われていない費目もあり、年間を通し
て変動するような支払種別の実態についてこの調査だけで把握することはできない。
　文献資料以外の資料の複写の86.9％は校費によるもので、校費で行われる複写の26.6
％を占める。
（６）資料の所有者
　複写対象資料がどこの蔵書であるか調査した項目である。
　資料の所有者は、大学の蔵書が89.6％、研究室の蔵書 5.8％、個人の蔵書 2.9％であ
る。また件数集計では大学の蔵書の率が93.9％と高くなる。大学の蔵書と研究室の蔵書
を合わせると枚数集計で95.4％、件数集計で97.5％となる。
（７）種類
　複写対象資料が「図書」、「雑誌記事・論文」、「その他」のいずれであるか調査し
た項目である。
　枚数集計では雑誌記事・論文の複写が76.2％、図書の複写が21.4％を占める。件数集
計では雑誌の率が高くなり84.4％、図書13.7％である。１件当たりの平均複写枚数は雑
誌 6.4枚、図書11.1枚となる。
（８）出版国
　複写対象資料が国内または外国の出版物か調査した項目である。出版国を文献資料の
種類別に集計した結果を図10に示す。
　全体の複写枚数のうち外国出版物が３分の２、国内出版物が３分の１である。外国出
版物が国内出版物の２倍複写されている。また文献資料の種類別では、外国雑誌の複写
が最も多く国内雑誌の３倍複写されている。図書は国内出版物が多く外国出版物の 1.7
倍複写されている。
　なお、外国出版物の国別の調査については、今回は見送った。
（９）複写の範囲
　複写対象資料のどのくらいの分量を複写したか「図書、雑誌記事・論文の全ページ複
写」（以下、「全ページ複写」という。）と「部分ページ複写」の２段階に分けて調査
した項目である。全ページ複写に該当するのは、図書の場合、１冊全部を複写したとき
だが、雑誌の場合は１論文全部を複写したときである。複写の範囲の集計結果が図11で
ある。
　全ページ複写が53.2％、部分ページ複写が41.8％、不明 5.0％である。全ページ複写
の中では外国雑誌が多く文献複写枚数の37.4％、次いで国内雑誌の10.6％である。また
図書については雑誌に比べ少なく国内、外国とも２、３％の間である。
　ただしこの複写範囲については、他の項目と比較し不明のものが高い値を示している
だけでなく誤った記入が多かった。設問項目の「図書、雑誌記事・論文の全ページ複写」、
「部分ページ複写」の説明等を個別票に付記しなかったため、利用者に理解しずらく、
記入にあたって判断に迷った項目と推定される。図書の複写で複写枚数が数ページにも
かかわらず、全ページ複写と回答しているものなどが散見された。
（10）発行年・月
　複写対象資料の出版年・月を調査した項目である。集計結果結果が図12である。1990
～1993年に出版された文献の複写が43.7％を占める。さらに1980～1989年に出版された
文献の複写を加えると全体で72.9％となる。
（11）複写部数
　１回の複写で同じものを何部複写したか調査した項目である。集計結果が図13である。
　枚数集計では複写部数１部が87.5％、２部以上が 7.2％、不明等 4.7％である。また
件数集計では１部94.7％、２部以上 1.9％、不明等 3.5％である。枚数集計、件数集計
とも不明等の割合が高い。複写の範囲とともに、利用者に正しく理解してもらえなかっ
た項目と考えられる。不明等の中には明らかに複写枚数＝複写部数と間違えて記入した
調査票約 2,500枚の数値が含まれている。

５．著作権法との関連
　図書館における複写サービスに対する著作権の制限は法31条に規定されている。同条
ではどのような条件の下に行われた複写に著作権の制限が適用されるか定めている。そ
こで以下に法31条に定められている条件に照らして今回の調査結果について考えてみる。
なお図書館の管理下にある複写機には文献複写以外の事務用、教育用、行政目的などの
用途にも併用されるものがあり、法30条の「私的使用のための複製」、法35条「学校そ
の他教育機関における複製」、及び法42条「裁判手続きにおける複製」の条件について
も併せてふれる。
（１）複写機の管理状況
　複写機の設置状況や複写方式、複写手続きの個々の調査結果については４．１で述べ
た通りである。全体としては大方適正に管理されているが、複写手続きなしの調査館が
28館あった。これらはおおむね部局図書室で、複写方式はIDカードによる校費払いのみ
としているものが多い。特定少数者の利用とはいえ、若干慎重さに欠けるケースとして、
これら手続きのない調査館については本委員会として改善を図るよう国立大学図書館協
議会に対して強く要求した。また著作権上の注意書きの表示についても、的確な対応が
一部の図書館には望まれる。
（２）複写の目的
　複写の目的について法31条では「利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するた
めに」と定められている。今回の調査では複写の目的の内容を詳しく把握するため六つ
の選択肢を用意した。法31条の「図書館における複製」に関して「個人の調査・研究・
学習のため」、及び「図書館の ILLサービスのため」を設けた。さらに、現在、研究活
動の形態として共同研究が多くなっていることを考慮し、「プロジェクト的な大型研究
で科研費等や委託による研究等のため」を設けた。法35条に関する教育的な用途として
「講義・演習・ゼミ等の教材として配布するため」を、法42条に関する行政的な用途と
して「大学行政（評議会、教授会、委員会、事務等）のため」を設けた。また学外の利
用者については「勤務先（大学以外）での調査・研究開発のため」を設け調査した。
　複写の目的についての調査結果は４．３．（２）で述べたとおりであるが、今回の調
査では法31条に関した複写が全体の約70％、法35条に関した複写が約12％、法42条に関
した複写が約８％をしめしている。また、大学行政のための複写はその97％が文献以外
の資料の複写であった。これらは図書館に設置され複写機の用途が必ずしも文献複写の
みでないことを示している。
（３）複写の範囲
　複写の範囲について法31条では「公表された著作物の一部分（発行後相当期間を経過
した定期刊行物に掲載された個々の著作にあっては、その全部）」と定められている。
３．３（９）で述べたようにこの設問については利用者の誤解に基づく回答が少なくな
かった。また集計結果では全ページ複写枚数が一見多いようであるが、ほとんどが雑誌
論文であった。雑誌論文については、最新号かどうかだけが問題であるが、その場合発
行年・月と併せて、複写した文献資料の刊行頻度、例えば週刊誌なのか月刊誌あるいは
年報なのか等によって、法31条の適用範囲か否か判断が分かれるところであり、今回の
調査項目のみでは適正な結果を得ることができなかった。

６．おわりに
　大学図書館における文献複写は、著作権法のもとにおおむね適正に行われていると判
断できる結果であったといえる。しかし ILLのように図書館界が法31条の適正範囲とと
らえているものを、範囲外であるとする考えがあるように、解釈が揺れている部分に該
当するものがあることも事実である。著作権法の目的は著作権者の権利を保護するとと
もに、公正な利用に留意しつつ著作物の円滑な利用を促進し、よって文化の発展に寄与
することである。法31条は、まさにこの目的に沿って定められたものである。大学図書
館にはこの著作権法の趣旨を大切にし、守っていくことが求められている。そのために
著作権法で明解に規定されている条件については、今後もこれを遵守していく必要があ
る。

名　　簿
Ⅰ．文献複写に係る著作権問題特別委員会委員館
　東北大学　　　　　　　電気通信大学
　筑波大学　　　　　　　一橋大学
　埼玉大学　　　　　　　名古屋大学
　東京大学　　　　　　　京都大学
　東京工業大学　　　　　大阪大学

Ⅱ．文献複写に係る著作権問題特別委員会ワーキング・グループ
　石井　啓豊　　　　図書館情報大学　助教授
　松浦　　正　　　　筑波大学　図書館部長
　　　　　　　　　　　（平成５年３月31日まで）
　高橋　清夫　　　　筑波大学　情報システム課長
　　　　　　　　　　　（平成５年４月１日から）
○浅野　次郎　　　　東京大学　事務部長
＊永田　治樹　　　　東京大学　情報サービス課長
　　　　　　　　　　　（平成５年４月１日から）
＊北村　明久　　　　東京大学　情報サービス課専門員
　　　　　　　　　　　（平成５年４月１日から）
　門田　泰典　　　　東京工業大学　情報サービス課長
　袴田　次雄　　　　一橋大学　情報サービス課長
　甲斐　重武　　　　学術情報センター　専門・電子情報係長
（○印　主査　；　＊印　事務局）

文献複写サービス専用	190台	37.8％
事務用・文献複写サービス用併用	312台	62.2％